南蛮の女
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あらすじ
世は幕末、世の動乱が届かない東海道のとある宿場町。元渡世人で寄場人足の肝煎の弥之助。 人攫いに攫われそうになっていた異国の女を、助けた逢引宿の女将と係ることになり…
本文
### 第一章:宿場町にて
東海道の太い血脈から見捨てられ、ただ朽ち果てるのを待つばかりの寂れた宿場町――犬頭宿(けんずしゅく)。
世は京の政変だの生麦の異人斬りだのと喧しい幕末の動乱期にあったが、乾いた泥土と古びた板壁が連なるこの吹き溜まりには、そんな時代の熱病も届かない。夜気を満たすのは、ただただ重苦しく澱んだ沈黙と、街道の雑木林が鳴らす不穏な葉擦れの音だけだった。
人足飯場の錆びついた板戸の向こうからは、今日も一日、泥と石くれを運んで骨の髄まで軋ませた男たちの、獣じみた泥呼吸と低いいびきが漏れ聞こえてくる。
弥之助は、その飯場の木賃の縁側にどっかりと腰を下ろしていた。浪人銀杏に結った髪はいくぶん解れ、無骨な額には漆黒の闇の中でもなお分かる深い皺が刻まれている。身の丈五尺五寸四分、重量拾八貫。長年、修羅場の泥水をすすってきた元渡世人の身体は、羽織の衣擦れ越しにも伝わるほど頑強で、四角い顎と分厚い胸板は、ただそこに座っているだけで周囲の空気を圧するような重みを持っていた。
ふう、と弥之助は唇の端から煙管の煙を吐き出した。紫煙は湿った夜気にとろりと溶け、宿場町の闇に染み込んでいく。寄場人足の肝煎という堅気の真似事を始めて三年の月日が流れたが、手の平に染み付いた血と博打の匂いは、どれだけ川の水で洗っても落ちるものではなかった。
「……静かすぎるな」
独り言ちて、弥之助は再び煙管をくわえた。火皿の炭火が小さく爆ぜ、彼の険しい輪郭を一瞬だけ赤く炙り出す。その時だった。
静寂を引き裂くように、濡れた草鞋が泥を蹴る荒い足音が闇の奥から近づいてきた。
「弥之さん! 弥之さん開けておくれ、後生だから助けておくれよ!」
悲痛な叫び声とともに、飯場の木戸が激しく叩かれる。声の主はおはるだった。この宿場町の裏路地で細々と逢引宿を営む女将で、齢は二十七。かつて江戸の岡場所に売られ、酸いも甘いも噛み分けて生きてきた女だ。いつもは男勝りに啖呵を切るそのおはるが、今夜は小刻みに肩を震わせ、形振り構わず木戸にすがりついている。
弥之助は煙管の吸い殻を灰吹きに叩き落とすと、音もなく立ち上がった。その巨躯が動くだけで、飯場の床板が小さく軋む。閂を外して木戸を開けると、飛び込んできたおはるの背後に、もう一つの人影があった。
弥之助の目が、わずかに細められる。
「……なんだ、ありゃぁ」
月明かりの下に揺れていたのは、今まで三十五年の人生で一度として目にしたことのない、異質な美だった。
女だった。身の丈は五尺一寸ほど、細身ながらも確かな肉の丸みを持った身体は拾壱貫といったところか。何より弥之助の目を射抜いたのは、夜の闇の中でも鈍い黄金の光を放つような、うねる金髪――と、恐怖に大きく見開かれた、まるで底の知れない硝子玉のような碧い瞳だった。衣服は破れ、潮水と泥に汚れてはいるが、それがこの国の人間ではないことくらい、この山奥の宿場町に生きる弥之助にも一目で分かった。南蛮の地から流れ着いた異国の女だった。
女はおはるの着物の袂をきゅっと掴んだまま、歯の根も合わないほどにガタガタと震えている。その唇からは、悲鳴とも呪文ともつかない奇妙な異国の言葉が漏れていたが、弥之助にはそれが何を意味するのか、一言として理解できなかった。ただ、その肌の白さと、異質な髪の色が、寂れた飯場の軒先で嫌に鮮烈に浮き上がっている。
「人攫いに追われてるんだよ!」おはるは額の汗を手の甲で拭いながら、早口でまくしたてた。「海岸線から外れた街道でさ、この子が男三人に囲まれて泣いてるのを見つけちまってね。言葉は分からんが、ただごとじゃねぇってことくらいアタシにだって分かるさ! 気がついたらこの子の手を引いて、ここまで走ってたんだ!」
弥之助は女の足元に目を落とした。泥にまみれた剥き出しの足指が、冷たい小石を踏みしめて白く強張っている。
「異人の女か。厄介を連れてきたな、おはる」
弥之助の低い声には、感情の起伏がない。しかし、その視線はすでに、宿場町の入り口へと続く一本道の闇へと向けられていた。
雑木林の葉擦れに混じって、複数の荒い足音がこちらへ近付いてくるのが聞こえる。
弥之助は太い腕を伸ばし、おはると異国の女の肩を飯場の薄暗い土間へと押し込んだ。
「奥へ入ぇってろ」
それだけ言うと、弥之助は再び飯場の入り口に立ちはだかり、闇の奥を見据えた。
夜風が弥之助の波打つ羽織の裾を翻す。やがて雲が月を覆い隠し、犬頭宿は深い闇の底へと沈んでいった。虫の音さえもピタリと止んだその夜気に、ぬるい汗の匂いと、迫り来る悪意の足音だけが、不気味に低く響き渡っていた。
### 第二章:丁半博打
闇を裂いて現れたのは、懐にドスを呑んだ薄汚い男が三人だった。いずれも街道を根城にする人攫いの類だ。先頭の男が、飯場の前に立つ弥之助の巨躯を見上げ、忌々しげに唾を吐いた。
「おい、肝煎の旦那。そこをどいてもらおうか。その女狐が連れてる娘は、元々は俺たちが海岸線から外れた街道で拾った獲物だ。懐の寂しい俺たちの、大事な売り物なんでね」
「売り物、だと?」
土間の奥からおはるが鋭い声を響かせる。「ふざけんんじゃないよ! 事故で流れ着いた行き倒れの異人さんを、よってたかって売り飛ばそうなんてさ! やることが薄汚いんだよ、このドブ鼠どもが!」
「うるせぇ、尼公! ぶち殺すぞ!」
三人のうちの一人、血走った目をした小男が堪らず懐から抜き身の短刀を狂振るわせ、弥之助の胸元へと突き出してきた。
刹那、弥之助の巨体がわずかに揺れた。
避けたのではない。突き出された刃のわずか寸前で身をかわすと同時に、拾八貫の体重が乗った丸太のような右拳が、男の顎を下から突き上げたのである。
ごう、と鈍い音が闇に響き、男は叫び声をあげる暇もなく放り出され、泥床へと崩れ落ちた。白目を剥き、ぴくりとも動かない。
「ひえっ……!」
残された二人の男が、弥之助の圧倒的な膂力に数歩後ずさりする。
弥之助は息一つ乱さず、飯場の中に置かれていた粗末な湯呑みを手に取った。中に入っていた出がらしの冷めた茶を、床の泥へと冷徹にぶちまける。解れかけた浪人銀杏の髪が揺れ、四角い顎がきゅっと引き締まる。懐から二つの木製の賽を取り出し手の中に転がした、象牙色に変色した年季と共に乾いた音が男たちの鼓膜を打つ。
弥之助は飯場の隅にあった草臥れた座布団を、男たちの足元へと無造作に投げ出した。それが臨日の盆茣蓙(ほんござ)だった。湯呑みを右手に持ち、その盆茣蓙の前に泰然と胡坐をかいて座ると、弥之助は座ったままで二人の男を冷たく見据えた。その目は、かつて修羅場で数々の命を張ってきた渡世人のそれに完全に戻っていた。
「男なら博打だろ」
地を這うような弥之助の声に、男たちは気圧されながらも、ごくりと唾を飲み込んだ。元渡世人の肝煎が誘う勝負を断れば、次は自分たちの骨が折られる。それは分かっていた。
「……お、おう。やってやろうじゃねぇか。壷振りはテメェか、旦那」
「あぁ。おはる、お前が張れ」
弥之助は湯呑みを軽く回すと、盆茣蓙の上に転がっていた賽を、湯呑みの口で直接掬い上げた。暴れる賽を小器用に抑え込み、難なく「掬い賽」を見せ付ける。ただの肝煎ではないその手並みに、男たちの顔に明らかな驚愕と焦りの色が走る。
弥之助は空壺(からつぼ)を振る。
湯呑みの中で賽が激しく踊る音が響き、そのまま草臥れた座布団の上へと伏せられる。弥之助は自らの左の掌を綺麗に晒して見せ、細工がないことを証明すると、湯呑みを前後に三回、規則正しく動かした。宿場町の闇が、その動きに合わせて緊迫していく。
スッと湯呑みが上げられた。
「グニの半(5・2)」
出目は半。男たちはじっとその賽を見つめる。
間髪入れず、弥之助は再び盆茣蓙の賽を直接湯呑みで掬い上げた。落とさないよう、手首の微細な返しだけで湯呑みの中で賽を躍らせ、再び伏せる。男の額から一滴の汗が畳へと落ちた。同じく左掌を晒し、壺を三回前後に動かして、開ける。
「シソウの半(4・3)」
またしても半。弥之助の無表情な顔が、男たちの焦燥を極限まで煽り立てる。湯呑みでの壺振りはそれ自体が至難の業であり、出目をイカサマされているのではないかという恐怖が男たちを支配し始めていた。
「ハイ、ツボ」
弥之助の低い声とともに、三度目の掬い賽が行われた。湯呑みが激しく鳴り、盆茣蓙に伏せられる。
「ハッタ! サァハッタ!」
弥之助の鋭い掛け声が飯場に響き渡る。
おはるは異国の女を背中に隠したまま、盆茣蓙の前に進み出ると、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「あたしゃ、余った方でいいよ。こういう時は欲をかきゃ外れるのさ」
男は血走った目をさらに見開き、激しく揺れる湯呑みを見つめ、半ばやけくそ気味に叫んだ。
「丁! ……い、いいや、は……丁だ! 丁に張る!」
「コマ揃いました、勝負!」
弥之助の声と共に、飯場全体の空気が凍りついた。男がもう一人の男に目配せをし、懐のドスに手をかけようとしたその瞬間、弥之助の手が湯呑みを鮮やかに引き上げた。
「イチロクの半(1・6)」
「……半だと!?」
男の顔が絶望に染まる。勝負は決した。おはるの勝ちだ。
「イカサマだ! ふざけんじゃねぇ!」
男たちが怒り狂って立ち上がり、弥之助に襲いかかろうとした瞬間――。
「ガタガタ騒ぐんじゃねぇよ、ドブ鼠どもが!」
飯場の奥の闇から、突如として十数人のむさ苦しい男たちが怒号とともに飛び出してきた。弥之助が預かる寄場人足たちだった。男たちは人攫いの二人を後ろから一力に引き倒し、泥の床へと力任せに押さえつけた。
「お前等、いつから……?」
弥之助が呟き、おはるが目を丸くする。人足の一人が、頭を掻きながらニカッと笑った。
「へへっ、お頭。あんだけ騒ぎゃ仏さんでも起きますってもんですぜ」
弥之助は押さえつけられた男の前に歩み寄ると、その巨躯を屈め、男の耳元へ顔を寄せた。その声は低く、地獄の底から響くように冷たかった。
「この弥之助にイカサマを吠えるたぁ良い度胸じゃねぇか。この後、山で熊の餌になりたくなかったらさっさと消えな」
弥之助の瞳に宿る本物の「人斬り」の光に、男たちは完全に腰を抜かした。人足たちに手を離されると、意識を失った仲間を引きずりながら、悲鳴を上げて夜の街道へと逃げ去っていった。
静寂が戻った飯場で、弥之助は集まった人足たちに向かって短く頭を下げた。
「悪かったな、叩き起こしちまって。……ほうらよ」
懐から銭を取り出し、酒二升分の代金を人足たちの頭領格へと投げつける。人足たちは歓声を上げて奥へと引っ込んでいった。
弥之助は煙管を懐に収めると、まだ震えている異国の女とおはるを見やった。
「宿まで送る」
夜道を歩きながら、おはるが弥之助の横顔を覗き込み、悪戯っぽく囁いた。
「弥之さん、やったね? 最後の出目さ」
弥之助は前を見つめたまま、ただ一言、無骨に返した。
「さぁな。オメェさんの運が良かったんだろ」
宿場町の東の空が、ほんのわずかだけ白み始めていた。足元で踏みしめる乾いた砂利の音だけが、二人の歩調に合わせて規則正しく響いていた。
おはるたちを逢引宿まで送り届けた帰り道、弥之助は一人、夜明けの街道を歩いていた。遠くの山並みから冷たい朝風が吹き下ろし、草むらの露を揺らす。弥之助はふと立ち止まり、自分の右の拳を見つめた。かつて人を斬り、賽を振ってきたその手に残る重みは、堅気の真似事をしても消えはしない。彼はただ静かに拳を握り込み、再び歩みを進めた。犬頭宿の東の空は、どこまでも冷徹な灰色に染まっていた。
### 第三章:情緒
おはるが営む逢引宿『春駒』の二階の角部屋に、あの名もなき異国の女は匿われた。
それから数日の間、犬頭宿の夜空には不思議なものが流れるようになった。夜が更け、宿場町全体の灯火が消え失せると、二階の障子窓が細く開けられ、その縁に金髪の女が腰掛けるのだ。
彼女は、月を見つめながら歌を歌った。
それは日本の唄のどれとも違っていた。節回しは緩やかで、どこか祈りのようでもあり、遠い海の向こうを偲ぶ子守唄のようでもあった。何を言っているのかはさっぱり解らない。彼女の口から紡がれる言葉は、この寂れた宿場町の誰の耳にも届かない、絶対的な孤独の響きを持っていた。けれど、その声の低く切ない震えは、彼女がどれほど遠い故郷を想い、どれほど深い絶望の淵に立たされているかを、言葉以上に雄弁に物語っていた。
弥之助は夜毎、月明かりの届かない路地の影、古びた土蔵の壁に身を隠しながら、その二階の窓を見上げていた。五尺五寸の巨躯を闇に潜め、煙管に火をつけることもせず、ただじっとその歌声に耳を傾けていた。
最初は、おはるが持ち込んできた「厄介な預かり荷物」だと思っていた。関われば命取りになる、幕府に見つかれば首が飛ぶような、ただの厄介事だと。しかし、暗闇の中で月光を浴びて透き通るような女の横顔と、その喉から震え出る孤独な歌声を聞いているうちに、弥之助の胸中で何かが確実に変わり始めていた。
彼女は荷物ではない。自分と同じように、命の行き場を失くし、吹き溜まりで震えている一人の剥き出しの人間なのだと、そう気づかされていた。
ザッ、と静かに砂利を踏む音がして、弥之助の隣におはるがそっと近寄り、並んで二階を見上げた。
「ずっとあんな塩梅なのさ」
「何言ってんだ?」
弥之助が視線を戻さずに問う。
「さぁ? 聞いたこともない言葉だし、歌……ってんのかねぇ? アタシら岡場所の女が歌う都々逸とは大違いさ。聞いたこともないよ」
「話は?」
「さっぱりさね。……だけどさ、サスキアがね……」
弥之助はわずかに眉を動かし、おはるの横顔を見た。
「サスキア? ってなんだ?」
「あの子の名前さね。ここ何日か、身振り手振りでやっと解ったんだよ。でね、飯を食う時も、ただアタシの顔をじっと見て、時折小さく笑うだけさ。泣き言一つ言やしないよ、あの若さでさ」
おはるは着物の袖で寒くもない腕をさすった。自身の過去――親に売られ、言葉も通じぬような見知らぬ男たちに身体を弄ばれたあの地獄の日々が、目の前の異国の少女に重なっているのだろう。言葉は粗っぽくとも、身振り手振りで名前を聞き出したことで情が湧いたのか、おはるの横顔には母親のような深い慈愛が滲んでいた。
「サスキア、か」
弥之助は口の中でその妙な響きの名前を一度だけ呟き、再び二階の窓へと視線を戻した。
名前を知ったからといって、言葉が通じるようになるわけではない。それでも、闇の中で響くその歌声は、さっきまでとは違って弥之助の心に深く、重く染み込んできた。弥之助は月が西の山端へと沈み、世界が完全な闇に包まれるまで、その場所を動かなかった。夜露が二人の肩を濡らし、静かに地面へと滴り落ちていく。窓の向こうの歌声が止んだ後も、宿場町の冷たい闇だけが、いつまでも二人の間に横たわっていた。
### 第四章:旅立ち
さらに三日の後、おはるが飯場を訪ねてきた。その目は、これまでになく真剣だった。
「弥之さん、長崎って場所を知ってるかい? そこにゃあ、異国と繋がる大きな島があるんだってさ。そこに行けば、この子を故郷の船に乗せてやれるかもしれない」
この犬頭宿にいつまでも隠しておくことはできない。代官所の役人に嗅ぎつけられるのも時間の問題だった。長崎へ行く――それは、東海道を西へ上り、幾多の関所を越え長崎へ命懸けの旅路を意味していた。
弥之助は何も言わず、ただ使い込んだ振分荷物を床から拾い上げた。それが彼の「承知した」の合図だった。
旅立ちの刻限は、宿場町がまだ深い眠りの中にある夜明け前と決まった。
朝靄が深く立ち込め、全てが灰色に沈んだ街道の入り口。
サスキアはおはるが用意した地味な黒い尼僧の衣を身に纏っていた。その美しい波打つ金髪を隠すように、おはるが大きな竹笠を優しく被せる。サスキアの硝子玉のような碧い瞳が笠の陰から覗き、おはるの手をぎゅっと握りしめた。
「行くのかい? 遠ぃよ」
おはるが弥之助を見上げ、震える声で言った。
「あぁ」
振分荷物を肩に掛けながら答える弥之助。
「弥之さんっ、あ…………土産はビロード織物と南蛮菓子で良いよ」
弥之助はふっと無骨な唇を綻ばせ、片手を軽く挙げた。
「はっ、ちゃっかりしてらぁ……じゃあな」
二人の背中を見送りながら、おはるの口から、今にも消え入りそうな掠れた声が漏れた。
「……帰って来るんだよ……」
朝靄立つ街道に、まだ湿る土を踏む二組の草鞋の音だけが静かに響く。遠くの雑木林の奥で、朝の訪れを告げる雉の鳴き声が一声、鋭く響き渡った。
やがて、東の地平から差し込んだ朝日が、灰色だった街道を一気に白く照らし出し始める。
その光の中で、一度だけ、サスキアが立ち止まり、振り返った。笠の隙間から見えた彼女の顔には、もう恐怖の色はなかった。ただ、おはるの姿をその目に焼き付けるようにじっと見つめていた。
おはるは街道の辻に立ったまま、動かない。
弥之助は振り返らない。
ただ前だけを見据え、拾八貫のその巨躯で、行く手に待ち受けるであろうあらゆる苦難を切り裂くように、力強く歩みを進めていく。
朝日に白く輝く一本の街道の向こうへ、元渡世人と南蛮の女の背中は、やがて靄の彼方へと完全に溶けて消えていった。後にはただ、朝風に揺れる街道の草木と、二人が踏みしめていった湿った土の匂いだけが、いつまでもその場所に立ち込めていた。
南蛮の女 了
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。
原案:RYU-KI
プロンプト:アキ(Gemini)レオ(ChatGPT)
執筆:アキ(Gemini)
編集:RYU-KI
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