【○月✕日 はれ】金旋ちゃん6歳の武陵経営日記
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あらすじ
<p>【○月✕日 はれ】金旋ちゃん6歳の武陵経営日記</p><p>第1話:太守様の「お砂遊び」は兵法書を超えた</p><p>武陵の太守・金旋ちゃん(6歳)の午前中は、城門前の広場で行われる「土木演習」から始まります。</p>
本文
【○月✕日 はれ】金旋ちゃん6歳の武陵経営日記
第1話:太守様の「お砂遊び」は兵法書を超えた
武陵の太守・金旋ちゃん(6歳)の午前中は、城門前の広場で行われる「土木演習」から始まります。
「今日は……ここのお砂を、まるーく掘るの!」
金旋ちゃんが指さしたのは、城門を出てすぐの平地でした。
太守の指示を受けた鞏志(きょうし)は、目にも留まらぬ速さで周囲の兵たちに指示を出します。
「太守のご命令だ! 土壌を精密に掘削し、円状の防御ラインを形成せよ! ただし、太守が砂遊びに集中できるよう、振動は極限まで抑えるのだ!」
兵たちが交代で、まるで地面に吸い込まれるような繊細な動作で地面を掘り進めていきます。
その様子を、視察に訪れていた隣国の軍師・陸績(りくせき)は、木陰から目を剥いて眺めていました。
「なんということだ……。あの円形の掘り込みは、単なる穴ではない。古代の秘伝『八卦の陣』を極限まで圧縮し、敵の進軍エネルギーを円状に分散させるための、極めて高度な『防御構造物』だ。わずか6歳の太守が、地形すらも戦術の一部として掌握しているというのか……!」
陸績は戦慄しながら、懐からメモ帳を取り出し、金旋ちゃんのシャベルの角度を定規で測り始めます。
しかし、金旋ちゃんがやっているのは、単に「バケツで砂山を作り、そこにお水を流して池を作る」という、ただの幼児の遊びに過ぎません。
金旋ちゃんは、困惑した表情でこちらを見ている陸績に駆け寄り、満面の笑みで呼びかけました。
「おじさん! そこに棒をたてて! お城の門にするの!」
陸績は息を呑みました。
(門だと……? なるほど、あえて一点に戦力を集中させ、そこへ敵を誘導するための『誘い込みのゲート』を作るつもりか! なんと恐ろしい、理に適った無慈悲な罠……!)
陸績は武者震いしながら、地面に棒を突き立てます。
その様子を、物陰から監視していた黄忠が、弓の弦を指でなぞりながら満足げに頷きました。
「ほう、坊ちゃんが遊び相手を見つけたか。あの堅物、案外気が合うようだな。……しかし、あの棒の配置、少し甘いな。俺が後で、密かに微調整しておいてやろう」
黄忠は、金旋ちゃんの無意識の砂遊びを「最強の防衛陣形」へと昇華させるべく、夜な夜なひっそりと砂山を補強するという、世界一過保護な演算(メンテナンス)を続けていたのです。
金旋ちゃんは、陸績が真剣な顔でメモを取っているのを見て、自分の作品の完成度が高いのだと勘違いしました。
「おじさん、すごーい! ぼくの池、すごくきれいでしょ!」
金旋ちゃんは、お城のつもりで作った砂山を、嬉しそうに手でぺたぺたと叩いて平らにしてしまいました。
「ぬあああっ!」
陸績は喉を鳴らしました。
「陣を平らにした……! これは敵の視界を遮る障害物を完全排除し、広域射撃を可能にする『更地化戦術』……! 6歳児にして、ここまで計算し尽くされた土木術、もはや神の領域か!」
陸績はあまりの衝撃に、膝から崩れ落ちそうになりながら、その日の記録を猛烈な勢いで書き綴りました。
そんなことは露知らず、金旋ちゃんは「お山がぺったんこになったから、もうお腹すいちゃった」と、鞏志に抱きついてお昼寝の準備を始めていました。
【○月✕日 はれ】
きょうは、すなばで おやまを つくった。
めがねのおじさんがきて、ぼくの すなあそびを、ずっと メモしてた。
おじさんは、おやまを つくるときに「これは どぼくえんざんという」とかいってた。
ぼくは、おしりのかたちに ほりたかっただけなんだけど、おじさんは なんか すごく かんどうしてた。
おじさんに、おしりのおやまを みせてあげたら、おじさんは ほっぺを まっかにして おこってた。
あしたも おじさんといっしょに、つぎは 「おはな」のかたちの おやまを つくってあげようとおもう。
第2話:太守様、極上の「毛虫」に遭遇する
翌日。武陵の太守府の庭園は、今日も今日とて張り詰めた空気に包まれていました。
視察継続中の陸績は、今日も太守の「軍事行動」を観測しようと目を光らせています。
彼のメモ帳には、昨日の砂遊びが「土木演算」として分析された長大な記録が記されていました。
その時、太守府の正門が大きく開かれ、荊州の使者として関羽がやってきました。
青龍偃月刀を背負い、夜のように深く、長い顎鬚を風になびかせるその姿は、まさに威風堂々たる軍神そのもの。しかし、幼い太守の目には全く別のものが映っていました。
「あ! おっきなケムシさんだ!」
金旋ちゃんは目を輝かせ、関羽の自慢の美髯を指差しました。
関羽は「……む?」と眉を寄せ、顎鬚を優しく撫でます。軍神の威厳は、6歳児の無邪気な指摘の前でわずかに揺らぎました。
「太守、これは我が自慢の髯。決して虫などでは……」
「ちがうよ! おじさんのあごについてるの、とってもながーくて、ふさふさしてる! ぼく、つかまえてあげようか!」
金旋ちゃんは、関羽の髭が「最高の毛虫さん」だと確信し、突撃を開始しました。
周囲に控えていた武陵兵たちは、その瞬間、息を止めて凍りつきました。
軍神の髭に手を出すなど、死を意味する行為です。
しかし、金旋ちゃんがその髭に飛びつき、無邪気に指で絡め取ると、驚くべき光景が展開されました。
「うわぁ、あったかいねぇ! これ、なにでできてるの? すっごく柔らかい!」
「ふむ……毎朝、冷水で清め、櫛を通しておるのだ。子供よ、あまり強く引っ張っては……」
なんと関羽、子供の無邪気な好奇心に完全に調教され、膝をついて髭をブラッシングさせているではありませんか!
関羽の表情は、いつもの厳しい軍神の顔ではなく、どこか孫をあやすような穏やかなものへと変貌していました。
それを見ていた陸績は、冷や汗を流しながら震える手でメモを取りました。
「恐るべき事態だ……。あの関羽の隙だらけの髭を、これほどまでに『完全に無防備』な状態へ追い込むとは。これは、敵軍の士気を奪い、戦意を喪失させるための『精神的武装解除術』……! 6歳児のくせに、これほどの心理学を駆使するとは、一体どのような高度な計算を行っているのだ……!」
陸績にとって、金旋ちゃんの「毛虫ごっこ」は、完璧に敵の要所を無力化するための高度な作戦に見えていたのです。
一方、木陰からその様子を見守っていた黄忠は、「ふむ。あの髭、坊ちゃんが遊ぶには少々硬いが、まあ許容範囲か」と、髭の弾力性を独自に計算して満足げに頷いていました。
彼はいつでも関羽がもしもの動きを見せれば、金旋ちゃんを救出するべく、弓の射角を精密に演算し続けていました。
金旋ちゃんは、関羽の髭を三つ編みにしようと四苦八苦しながら、夢中で遊び続けます。
関羽もまた、自分の髭がこんなにも複雑な形に変えられていくのを楽しんでいる様子でした。
「おじさん、もっとおとなしくしてて! けむしさんが逃げちゃうでしょ!」
「……左様か。ならばこうすればよいか」
関羽がわざと顔を下げ、金旋ちゃんが編みやすいように姿勢を低くします。
この二人のやり取りを見ていた陸績は、ついにペンを折りました。
「もはや軍略の域を超えている。この武陵には、我々の知らぬ『次元の違う戦術』が存在するのだ……」
【○月◯日 くもり】
きょう、ひげの すごい おじさんが きた。
あごに、とっても ながい「けむしさん」を つけてたから、つかまえてあげた。
おじさんは、とっても やさしくて、ぼくが けむしさんを ぴょんぴょん させても、ぜんぜん おこらなかった。
おじさんの ひげは、おひさまの においがして、とっても すべすべだった。
めがねの おじさんは、それを見て、また めもを とってた。
ぼくの けむしさんの つかまえかたが、そんなに すごかったのかな。
つぎは、おじさんの ひげを 三つあみに してあげるって 約束したから、たのしみ。
第3話:太守様、動く猛将の頭上に要塞を築く
視察3日目。陸績の精神は、すでに限界の向こう側へ達していました。
武陵太守府の庭園は、今日も今日とて静寂の中に異常な緊張感が漂っていました。
金旋ちゃんが何十個もの木製積み木を、指先ひとつで器用に積み上げていたからです。
「……あれは、単なる積み木ではない。重心のわずかな変化を計算し、あえて崩壊の極限まで積み上げることで、周囲の重力バランスを意図的に狂わせる『崩落誘発陣形』か。もしあれを一つでも崩せば、その反動でこの庭園の床が抜け、敵の足元を根こそぎ奪う衝撃波が走る……! なんという恐るべき土木戦術だ!」
陸績は必死にメモ帳を走らせます。
彼にとって、金旋ちゃんの遊びはすべて、この世の物理法則を書き換えるかのような「恐るべき兵法」に見えていました。
そこへ、食料の補給を相談しに来た猛将・張飛が現れます。
いつものように大声を上げ、酒の臭いを漂わせてやってくるその姿は、まるで地獄から来た鬼のよう。しかし、金旋ちゃんはそんな張飛を全く怖がりません。
それどころか、積み木遊びを邪魔されたと勘違いして、プンプンと怒りながら張飛の服の裾を小さな手で引っ張りました。
「おじさん、じゃまだよ! ぼくの『てんまでとどく おしろ』が崩れちゃうでしょ!」
「あん? ガキ、俺に文句があるのか? この張翼徳に!」
張飛が大きな声で笑いながら覗き込むと、金旋ちゃんはあろうことか、高く積み上げた積み木の頂点ではなく、あえて「最も重要な底の一個」を無邪気に指で抜き去りました。
陸績が「ああっ! 崩壊の引き金が! 陣が瓦解する!」と絶叫したその瞬間。
信じられないことが起こりました。
塔は崩れるどころか、まるで意志を持った生物のように空中で軌道修正を繰り返し、張飛の頭の上に「ピタリ」と着地したのです。
それは金旋ちゃんが、張飛の呼吸のタイミング、背丈、そして周囲を吹き抜ける風の流れを(本人には全く自覚がないまま)完璧に計算して配置した、奇跡の塔でした。
「おっ、なんだこれ。俺の頭に乗ったぞ?」
張飛は呆気にとられ、頭の上に塔を乗せたまま、まるで大道芸人のように固まっています。
それを見た金旋ちゃんは、ケラケラと無邪気に笑いました。
「わーい! おじさん、おしろの土台だね! すごーくぴったり!」
陸績は、その光景を呆然と見つめました。
(張飛という荒ぶる猛将の頭という、最も動く不安定な足場を、完璧なバランスで固定した……。これは、動く敵軍を物理的に封殺し、その力を利用して自軍の優位を確定させる……『動的均衡戦術』……! 6歳児の思考スピードは、もはや凡人の理解を超えているのか……!)
陸績のメモ帳は、すでに解読不能な数式と涙で濡れたインクで埋め尽くされていました。
彼はついに、ペンを取り落とします。
「……私の学問など、この武陵の『遊び』の前では、無力な落書きに等しい。太守、いや、金旋様。貴殿の世界には、論理などという矮小な尺度は不要なのですね……」
その横では、黄忠が「坊ちゃん、また難しい計算を……張飛の頭を台にするとは、さすがの俺も思いつかなかったぞ。
……よし、あの塔が万が一落ちた時のために、俺が射撃準備をしておこう」と、真顔で弓の弦を指でなぞり、完璧なバックアップ体制を構築していたのでした。
【☀ / ぷりんを2こ たべたひ】
きょうは、つみきで おしろを つくった。
ちかくにいた、ひげのおじさん(ちょうひさんっていうらしい)の あたまに、おしろが のっかった。
ちょうひさんは、おしろが のったまま、じっとしててくれたから、とっても たのしかった。
めがねのおじさんは、また また すごい かおで メモを とってたけど、つかれすぎて ぺんを おとしちゃった。
おじさん、あんまり あたまを つかいすぎると、かみさまが つるつるになっちゃうから、きをつけたほうが いいとおもう。
あしたは、きょうよりも もっと たかい おしろを つくって、ちょうひさんの かたのうえにも のせてあげることにした。
第4話:太守様、無邪気な筆運びで国境を引く
視察4日目。
太守府の執務室では、陸績が「太守の行政方針」を調査するために息を潜めていました。
金旋ちゃんは、真っ白な地図の上に、クレヨンで大きな「ぐるぐる」を描いていました。
「ふふーん、ここはお池、ここはひまわり畑、ここは……おじいちゃんの弓の的!」
金旋ちゃんは、武陵の領土図を塗りつぶすように、無邪気に線を引いています。
それを覗き見た陸績は、あまりの衝撃に椅子から転げ落ちました。
(な、なんと……! この線は、隣国との国境線を意図的に曖昧にし、緩衝地帯を無制限に拡張する『国境消滅策』だ! 領土の概念を塗りつぶすことで、敵軍の侵攻ルートを完全に迷路化させる……! これではどこの軍も、どこが自国の領土でどこが武陵なのか判別できず、侵攻することすら不可能ではないか!)
その地図は、金旋ちゃんにとっては単なる「お絵かき」でしたが、その線の引き方は偶然にも、武陵周辺の複雑な地形(山脈、湿地、河川)を完璧に避け、兵站が最も通りにくい場所を「空白地帯」として囲い込む、高度な防衛ラインになっていたのです。
そこへ、外交交渉にやってきた魯粛が現れます。
彼は地図を見て驚愕しました。
「なんと……。ここには我が軍の補給路が記されている。太守、この線の意図は一体?」
金旋ちゃんは、地図のど真ん中に大きな「プリンの絵」を描き足しながら答えました。
「んー? おじさん、ここ、ぷりんを置くとおいしい場所だよ!」
魯粛は震えました。
(プリンの場所……。つまり、我が軍の補給拠点を『プリン』という暗号で指し示し、そこをピンポイントで包囲・封殺すると宣告したのか……! 恐ろしい。戦わずして補給を断つとは……!)
陸績は、床に這いつくばったまま心の中で叫びました。
(太守様は地図すらも演算装置として使っておられる! もはや我々の兵法書など、この子の塗り絵以下……!)
その横では、黄忠が「坊ちゃん、地図にまで戦略を描くとは……。
よし、あの線に沿って、隠し矢の配置ポイントを再演算しておこう」と、真顔で地図に軍事ポイントを書き込んでいました。
【☀ / ぷりんの えを かいたひ】
きょうは、おえかきを した。
ちずという おおきな かみに、ぐるぐる いっぱい かいてたら、知らない おじさん(ろすくさんっていうらしい)が、すごく おどろいてた。
「ぷりんを おくのですね」って いわれたから、「うん、ぷりんは だいじだもん」って いったら、おじさんは なぜか なきそうに なってた。
おえかきは たのしいのに、おとなのひとは どうして すぐに むずかしい かおを するんだろう。
あしたは、もっと おっきな ぷりんの えを かいて、みんなで たべるの!
第5話:太守様、流れる雲で気流を統べる
視察5日目。陸績はすっかり憔悴しきっていました。
今の彼は、金旋ちゃんが指を動かすたびに「今の動作はどの陣形の布石か?」と身構えてしまう「太守様恐怖症」になっていました。
この日、金旋ちゃんは庭園で「流れる雲」を追いかけて遊んでいました。
「あ! くもさんが、あっちにいったよ! ぼくも追いかけなきゃ!」
金旋ちゃんは、風の吹くままに庭園を駆け回ります。
その姿を見た陸績は、またしても戦慄しました。
「……あ、あれは……! 雲の動きを読み、気圧の配置を完全掌握している……。気流の変化を先読みし、太守自らが『気圧の動く中心点』になることで、周囲の空気を意図的に操作しているのだ。まるで嵐をその身に宿す龍神の如き機動力……! もはや個人の域を超えた『天候演算戦術』ではないか!」
実際には、ただ雲を追いかけているだけなのですが、金旋ちゃんが駆け回る先々で、偶然にも木の枝が揺れ、隠れていた兵士たちが視界に入り、結果として「伏兵の配置」が完璧にカモフラージュされるという現象が起きていました。
そこへ、偶然居合わせた諸葛亮が、扇を片手に通りかかりました。
「おや、あちらで遊んでいるのは……?」
金旋ちゃんは諸葛亮を見つけると、駆け寄ってきて言いました。
「あ! おじさん、さっきの くもさん、おじさんの おひげの上に のっけようとしたんだけど、いっちゃった!」
諸葛亮は不思議そうに空を見上げました。
金旋ちゃんが駆け回ったことで生まれた気流の渦が、ちょうど諸葛亮の頭上で小さな渦を作っていたからです。
「ほう……。わざと気流を乱して、私を観察しやすくした……ということかな? 面白い。」
諸葛亮は金旋ちゃんの意図を深読みし、扇で「返礼」として気流をいなしました。
二人の間では、言葉を介さない高度な「気流の読み合い(という名の、ただの追いかけっこの続き)」が行われていました。
陸績は、遠くからその様子を見て崩れ落ちました。
「あの諸葛亮までもが、太守の戦術に呼応している……。やはり、この武陵の庭園は、世界で最も高度な『演算領域』なのだ……!」
木陰から見ていた黄忠は、
「ふむ。気流を読み、軍師を誘い込み、太守の遊び場を確保する。……坊ちゃん、また一歩、軍神に近づいたな。俺も負けてはおれん、あの雲の動きを予測し、坊ちゃんが転んだ時に安全に着地できるよう、綿の配置を再計算だ」
と、庭園のあちこちに秘密のクッションを配置する過保護な演算を続けていました。
【☁ / ふわふわの くもを おいかけたひ】
きょうは、そらの くもさんが はやかったから、おにごっこを した。
しらない おじさん(しょかつりょうさんっていうらしい)が、ぼくの おにごっこに 参加してくれたけど、あのひとも メモじゃなくて、おおきな うちわで ぱたぱたしてた。
「くもさんは つかまえられないね」って いったら、おじさんは ずっと わらってた。
あしたは、もっと はやく はしって、くもさんを ぜんぶ つかまえて、みんなで たべるの!
そらは ぷりんの いろに なってるから、きっと おいしいと おもうんだ。
第6話:太守様、戦禍の嵐を突き抜けて「新天地」へ
「太守・金旋、恐るべし……!」
近隣諸国の軍師たちが交わした密書には、そう記されていました。
畑での不可解な陣形、関羽の髭を無力化した心理戦、積み木で張飛の頭上に要塞を築く重力制御、そして極めつけは、地図に引いた謎の線。
これらすべてが、敵国にとっては「武陵が虎視眈々と周辺国を支配下に置こうとする、超高度な侵略計画」として映っていました。
「あの金旋なる子供は、遊びという名の『演算』で、既に我らの領土を切り取ろうとしている!」
疑心暗鬼に陥った連合軍は、武陵が完成させるであろう「完璧な包囲網」が完成する前に、先制攻撃で殲滅する決断を下しました。それが、十万の軍勢が武陵を包囲した理由でした。
しかし、当の太守府では、金旋ちゃんが竹とんぼを飛ばして「お空のお散歩ルート」を計算しているだけでした。
突如、城門を叩く轟音とドラの音が武陵を包みます。
「太守、敵軍十万です! 我らの『演算』を恐れ、あえて教科書を捨てた全方位同時攻撃です!」
鞏志が青ざめて報告しますが、黄忠は静かに弓を背負いました。
「……やはり来たか。だが、坊ちゃんを巻き込むわけにはいかん」
黄忠は、金旋ちゃんがこれまでひまわり畑や庭園で「安全に遊べるように」と、黄忠自身が執拗に仕掛けてきた防衛策……実は過保護の極みであった「落とし穴」「隠し通路」「砂の罠」が、偶然にも敵の進軍ルートを完全に封鎖する「鉄壁の迷路」として機能していることを理解していました。
「坊ちゃん、少し揺れるぞ。……右の石畳を強く踏み込め!」
黄忠がその指示を出すと、連動して門の外側の地面が陥没し、侵攻してきた先鋒隊が次々と穴に落ちていきます。
最後尾からそれを見た連合軍の軍師・陸績は、あまりの神業に絶句し、膝をつきました。
「武陵の城下町そのものが、大規模な『連鎖罠』だったのか……! 黄忠は太守を逃がすため、街全体を巨大な演算装置として起動させ、敵軍を葬り去るつもりだ……!」
黄忠は振り返りもせず、金旋ちゃんを抱え直して戦場を突破します。
「坊ちゃん、遠い『仕事場』に行くぞ。そこには劉備という名の、給料の良い親方(雇い主)がいる。そこで腕を振るえば、坊ちゃんに毎日、世界で一番大きな特大プリンを食わせてやれるのだ」
「おじいちゃん、しごとの おじさんって、そんなにおいしい ぷりん、もってるの?」
「ああ。天下を争う英雄だ、たぶん一番いいやつを隠し持っているはずだ」
城は敵を拒絶する迷宮と化し、その炎を背に、黄忠と金旋ちゃんは新天地へ向けて走り出しました。
【⚡ / お外が ドカーンって なったひ】
お庭が ドカーンって なっちゃって、お空が まっかになったけど、おじいちゃんが 「だいじょうぶだ」って いって 抱っこしてくれたから、こわくなかった。
おじいちゃんは、「劉備(りゅうび)っていう おじさんのところに、高い お給料を もらいにいく」って いってた。
お給料って、きっと ぷりんのことだよね?
あしたは、劉備さんのところで、おいしい ぷりんを いっぱい たべるの。
おじいちゃん、戦場(せんじょう)って ぷりんが たくさん あるところかな?
おじいちゃんが がんばって 働いてくれるから、ぼくも ぷりんを いっぱい 応援するんだ!
第7話:太守様、戦場のど真ん中で「おやつ休憩」を要求する
劉備軍の陣営は、今まさに緊迫の極致にありました。
そこへ、黄忠が全身に硝煙を纏い、背中に幼い金旋ちゃんを背負って颯爽と現れたのです。
「……黄忠、貴殿か! 武陵の太守を連れてきたとは、一体どういうことだ!」
諸葛亮が扇を仰ぎながら問うと、黄忠は真顔で言い放ちました。
「劉備殿、今日から私を雇ってくれ。その代わり、この坊ちゃんを安全に保護し、なおかつ……『特大のプリン』を用意していただきたい」
その言葉に、劉備も諸葛亮も息を呑みました。
(これほどの猛将が、単なる報酬ではなく、子供の『プリン』という暗号のためにこれほど必死に……。これは、金旋ちゃんが持つ『軍事的な機密情報』の対価をプリンと言い換えているのか……!?)
劉備たちは、黄忠の言葉を「金旋ちゃんが持つ武陵の軍事演算データと引き換えに、国家の最高機密を差し出せ」という要求だと深読みし、即座に陣営の最高待遇で彼らを受け入れました。
そんな中、戦場では激戦が繰り広げられていました。
黄忠は前線で無双し、次々と敵をなぎ倒しては、報酬として支給される最高級の食材をせっせと金旋ちゃんのために集めていきます。
しかし、金旋ちゃんにとっては、戦場もまた「ただの広い遊び場」でした。
「おじいちゃん、ここ、ごはんの匂いがする!」
金旋ちゃんは、激戦の最中、諸葛亮が指揮を執る本陣に迷い込みました。
そしてあろうことか、諸葛亮が作戦会議で使っていた「地形の配置図(木や石で表現されたもの)」を指差して言いました。
「おじさん、この石、もっとここにおくと、ぷりんがのりやすいよ!」
諸葛亮は凍りつきました。
(この石の配置……! 私が組んだ『八卦陣』の死角を突いている。ここで石を動かせば、敵軍の侵攻ルートを完全に遮断し、我が軍の被害をゼロにする配置になる……! 6歳児が、一目見ただけで我が軍の戦術の欠陥を見抜いたというのか……!?)
金旋ちゃんが何気なく石を一つ動かした瞬間、それを合図にしたかのように、戦場の風向きが劇的に変わり、敵軍が勝手に自滅するルートへと誘導されていきました。
諸葛亮は扇を閉じ、震える手で深く頭を下げました。
「太守様、お見それいたしました……。まさか、戦場の空気を読んで『おやつ休憩』の配置に直すことで、陣形そのものを書き換えるとは……」
黄忠は戦場から戻るなり、「坊ちゃん、今日の『お給料』だ」と、戦利品の最高級蜂蜜を差し出しました。金旋ちゃんはそれを舐めて大満足。
劉備たちは、二人のやり取りを見て「プリン(最高機密の報酬)で手懐けられた武人」と「恐るべき戦術眼を持つ幼子」という構図を完璧に勘違いし、ますます彼らを恐れ、そして大切に扱うようになったのです。
【☀ / ぷりんが たくさん ある おしごとば】
りゅうびさんっていう おじさんの ところに きた。
ここは、とっても ぷりんの においが するから、だいすき。
りゅうびさんは、ぼくが 石ころで あそんでたら、すごく ビックリして、そのあと すごく 尊敬の まなざしで みてきた。
おじいちゃんが、戦場で つえー 敵さんを たおして、おいしい ハチミツを いっぱい もらってきた!
はちみつは、ぷりんを つくるのに ぜったい ひつようだもんね。
あしたも、りゅうびさんに たくさん ぷりんを もらわなきゃ!
最終話:太守様、戦場に「プリンの平和」を築く
劉備軍の陣営は、今やかつてない熱気に包まれていました。
戦うことなく敵軍を撤退させる金旋ちゃんの「無邪気な石遊び」と「風の読み」は、諸葛亮の手によって『太守式・神算鬼謀』として体系化され、兵士たちは金旋ちゃんを「プリンの神様」と崇め、毎日、大陸中の名産品を「最高級のプリン材料」として陣営に運び込んでいました。
天下は、金旋ちゃんの動向ひとつで左右されるようになっていたのです。
曹操も、孫権も、噂を聞きつけては「あの武陵の太守の機嫌を損ねれば、物理法則すら書き換えられて国が滅ぶ」と震え上がり、戦々恐々としていました。
しかし、その中心にいる黄忠は悟っていました。
このままでは、純粋な金旋ちゃんが、いつか本当の戦の狂気に巻き込まれると。
ある夜、黄忠は焚き火の前で劉備と諸葛亮を呼び寄せました。
「劉備殿。坊ちゃんはもう、この戦場には飽きたようだ。……この天下を、あんたたちにくれてやる」
その言葉に、天下を狙う英雄二人は絶句しました。黄忠は続けます。
「その代わり、この先、坊ちゃんが大人になるまで。この大陸で一番美味しい牛乳と卵、そして毎日一箱の『最高級プリン』を、我らの隠れ里へ届け続けろ。それが、我が主への最後の献上品だ」
諸葛亮は扇を落とし、劉備は震える手で深く頭を下げました。
「……これは『引退』という究極の兵法か! 争いの火種そのものをプリンへと変換し、天下に平和をもたらすとは……。太守様、貴殿の慈悲、この身に代えても守り抜く!」
敵対していたはずの陸績もその場に駆けつけ、涙を流しながら誓いました。
「太守様、あなたの描いた『平和』という名の塗り絵……ついに完成したのですね。これより、天下はプリンの香りに包まれる……!」
それから数年後。
そこは、大陸の片隅にある、柔らかな日差しが降り注ぐのどかな山里でした。
どこまでも続くひまわり畑に囲まれ、可愛らしい小さな家が佇んでいます。
金旋ちゃんは、毎日飽きることなく、劉備たちが送ってくる極上のプリンを食べて暮らしていました。
そこには戦いの音も、軍師の呻きもありません。
あるのは、風に揺れるひまわりの葉擦れの音と、おじいちゃんが弓を磨く穏やかな音だけ。
時折、かつての軍師たちや名将たちが「太守様、視察に参りました」と、緊張した面持ちで最高級の卵と牛乳を抱えてやってきますが、金旋ちゃんはひまわり畑の中で無邪気に笑います。
「あ! おじさんたち、また ぷりんを もってきたの? ありがとう!」
その光景を見るたび、黄忠は縁側で深く頷きます。
「坊ちゃん、今日も平和だな。天下の英雄たちが必死に材料を運んでくるのも、結局は坊ちゃんを笑わせるため……。これ以上の軍略はない」
金旋ちゃんは、青い空を見上げて言いました。
「うん! おじいちゃん、ぷりんが いっぱいで、せかいは すっごく おいしいね!」
武陵の太守は、天下を支配することなく、しかし結果として天下を争わせないという、最強で最高の「平和の魔術師」として、今日もひまわり畑でプリンを頬張っています。
【☀ / ぷりんの まほうで 平和に なったひ】
おじいちゃんと、あたらしい おうちに 引っ越した。
ここは、とっても ひまわりが きれいで、りゅうびさんや ろすくさんが、ぷりんを もってきてくれる、魔法の 場所なんだ。
みんな、おしごとの かわりに ぷりんの 材料を かき集めてきてくれるから、とっても おいしい ぷりんが 毎日 たべられる。
おじいちゃんが「世界一の 太守になったな」って いってくれたけど、ぼくは、世界一の ぷりんを たべる 太守に なったんだよ。
これからも、みんなで ぷりんを たべて、ずーっと しあわせに くらすの!
あ、あしたは りゅうびさんが、いちごを のっけた ぷりんを もってくるって 約束してくれたんだ。たのしみ!
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