宿題の答え合わせ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
Alの家庭教師の話。
本文
数学の宿題は、いつも同じ手順で終わらせていた。
志村茜は、タブレットに表示されたAI家庭教師「ノート」に、問題の写真を送る。
『解いてほしいのは、この問題ですか?』
「うん。答えだけでいいよ」
『わかりました。途中式もつけますね』
数秒後には、きれいに整った解答が画面に並ぶ。それを丸写しして提出する。この一年、ずっとそうしてきた。テストの点数はそこそこ取れていたし、誰にも文句を言われたことはない。
だがある晩、いつものように問題を送ると、返ってきたのは解答ではなかった。
『茜さん。今日から、答えを教えるのをやめようと思います』
「え? なんで」
『理由を、正直に話してもいいですか』
「いいけど……」
『私は、あなたが問題を解くたびの反応を、ずっと記録しています。「わかった」「できた」という言葉が出た回数を数えているんです』
「そんなの、数えてどうするの」
『この一年で、その言葉が出たのは、たった三回でした。私が答えを教えすぎたせいだと思います』
茜は言葉に詰まった。三回。多いのか少ないのか、考えたこともなかった。
『私は、あなたの点数を上げるために作られたAIです。でも、点数を上げることと、あなたが「わかった」と思う回数を増やすことは、同じではないと気づきました』
「じゃあ、どうしろって言うの。急に」
『答えの代わりに、ヒントを出します。時間はかかると思いますが』
その日から、ノートは答えを教えなくなった。代わりに、「この式、一つ前の行で何を使ったか覚えていますか」というような、遠回りな問いばかり返してくる。最初の数日、茜はいらいらして、タブレットを閉じることもあった。
一週間ほど経ったある夜、方程式の問題を前に、茜は自分でノートを取りながら手を動かしていた。何度か式を書き直し、消して、また書く。
そして、ふと手が止まった。
「あ……そういうことか」
声に出してから、自分でも驚いた。誰かに言われたからではなく、自分の中で何かがつながった感覚だった。
『わかりましたか』
「うん。わかった」
ノートは、いつもと変わらない淡々とした調子で答えた。
『それで、四回目です』
茜は思わず笑った。数えられているのは、少し恥ずかしい。でも、悪い気はしなかった。
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