48話:なんかイチャイチャしてると勘違いされてる
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p>シュドーとメルティの二人のわだかまりが解けてから、また二人は一緒にいるようになった。</p><p>メルティが実技を、シュドーが座学を、お互いが足りない部分を補い合う様になっていく中で、周りにはある種の『厄災』を振りまいているとは知らずに…</p><p>ステラ・マリス魔法大学の教官室は、魔導書と古い羊皮紙の匂い、そして厳格な魔力的プレッシャーが漂う場所だ。</p>
本文
シュドーとメルティの二人のわだかまりが解けてから、また二人は一緒にいるようになった。
メルティが実技を、シュドーが座学を、お互いが足りない部分を補い合う様になっていく中で、周りにはある種の『厄災』を振りまいているとは知らずに…
ステラ・マリス魔法大学の教官室は、魔導書と古い羊皮紙の匂い、そして厳格な魔力的プレッシャーが漂う場所だ。
その中央、重厚な机を前にして、シュドーとメルティは直立不動(片方は所在なげに、片方はソワソワと)で立たされていた。
学年主任、ケンネル。
眼鏡の奥の神経質そうな眼光を鋭く光らせる彼は、手元の「苦情リスト」を苛立たしげに叩きながら、低い声で宣告した。
「貴方たちはもう少し、学生としての……いえ、人間としての節度というものを取りなさい」
その言葉の重みにシュドーが身構える一方で、メルティは首を傾げ、白いふわふわの毛を揺らしながらのほほんと問い返した。
「節度……? それって、魔力の出力を絞る練習のことですか?」
「いいえ、生活態度の話です!」
ケンネルはこめかみの血管をピクつかせ、頭を押さえた。
あのサイファーとの決闘以来、シュドーとメルティの距離は元通りに戻った様に見えて実際はかなり変わっていた。
特に、メルティ。元々シュドーにベッタリだったが和解後は…朝の挨拶のハグ、実技が成功した時の頭なでなで、食堂では常にシュドーの隣に座り、廊下で歩く時もシュドー抱き着いて歩く。
もはやただのバカップルだ。
「他の生徒たちから『視覚的な暴力だ』『集中を削がれる』との苦情が殺到しています。……たとえ恋人同士であっても、この学び舎では礼節と節度を重んじた行動を――」
「こ、恋人……? 僕とシュドーが、こいびと……えへへ、えへへへへぇ~」
「恋人」という単語が鼓膜を叩いた瞬間、メルティの表情がだらしなく崩れた。
180センチの大きな身体をくねらせ、指先を頬に当てて桃色の吐息を漏らす。
そこにシュドーの容赦ない肘打ちが腰に直撃した。
「アホ! 俺たち今、叱れてんだぞ!」
慌てて姿勢を正すメルティと、シュドーはケンネルを見据えて言った。
「……そもそも先生、俺たち別に恋人とか、そういうんじゃないです」
シュドーの言葉が職員室に響いた瞬間、周囲で仕事をしていた他の教師たちの
ペン先が紙を擦る音がぴたりと止み、部屋中の視線が痛いほどシュドーの背中に突き刺さった。
「とにかく! メルティさんの実技成績が極めて優秀であることに免じて多少のことは目を瞑ってきましたが、ここ最近の態度は目に余ります!
健全な学風を維持するため、今後学内において『過度な異性との接触』は一切禁止とします!
破れば即、特別反省文と奉仕活動を命じます。いいですね!?」
「ひぃっ、はい……」
「ねぇ、シュドー。さっきの『節度』って、どういう意味なの?」
職員室からの帰り道。重い沈黙に耐えかねたように、メルティがシュドーの裾を引っ張りながら聞いてきた。どうやら長話の内容を、半分も理解していなかったらしい。
「要するに、これからは人前で抱き着いたりベタベタしたりするんじゃねぇ、ってことだよ。お前の『抱き着き癖』にストップがかかったんだ」
「えぇーーーーーーーっ!?」 メルティの絶叫が廊下に木霊した。
「やだー! 無理だよ、死んじゃう!
シュドーの匂いを嗅げないなんてやだやだー!」
「離せ、今すぐ離せ! さっそく破ってんじゃねーか!」
子供のように泣き喚き、全力でシュドーに飛びつこうとするメルティ。
シュドーは小さな身体を精一杯踏ん張り、彼女の巨大な質量を押し戻す。
「いいか、よく聞けメルティ。これは学校からの正式な命令だ。
教師に目をつけられたら、大魔導士どころか卒業すら危ういんだぞ。
下手すりゃコタンに帰されるんだぞ!?」
「……っ、それは、もっと嫌だ……」
「だろ? だから、この機会にその無意識な抱き着き癖を克服するんだ。分かったな!」
「うぅ……っ。……う、うん。
頑張る……シュドーと一緒にいるために、我慢、する……」
メルティは涙を拭い、拳を握って渋々と同意した。
だが、その「我慢」が、別の意味で学内の風景を異様なものへと変えていく。
次の日の実技講義。メルティが見事な魔弾の散弾を披露し、標的を粉砕した。
「やったぁぁシュド――」
いつものように満面の笑みでシュドーに飛びつこうとした瞬間、後方でエト教官が「コッホォォォンッ!!」と、肺が飛び出さんばかりの大きな咳払いをした。
「……はうっ」 メルティの身体が空中でピタリと止まる。
獲物を前にした猟犬が首輪を引き絞られたかのように、彼女はシュドーの数センチ手前で、残念そうに、そして震えながら腕を下ろした。
その表情は、今にもこの世の終わりを迎えそうなほど悲壮だった。
昼休みの廊下。離れた場所からシュドーを見つけたメルティが、いつものように「再会のハグ」をしようと猛ダッシュで近づいてくる。
だが、すれ違ったデボラ教官が、氷のような視線でメルティを睨み、短く咳をした。 「……っくぅぅ……」
メルティは急ブレーキをかけ、シュドーの前でカクカクと膝を折り、奇妙な会釈をして立ち去った。
数日後。 もはや抱き着きを悉く中止され、禁断症状に陥ったメルティの姿は、ある意味で以前よりも危険なオーラを放っていた。
歩くシュドーの斜め後ろ。
メルティは腰を低く落とし、今にも飛びかかりそうな「待ち」の姿勢を維持したまま、シュドーを追尾していた。
「スー……ハー……スー……ハー……」
その鼻息は荒く、指先はシュドーの背中を求めてワキワキと空を掻いている。
触れたい、けれど触れられない。
その葛藤が彼女の瞳を野生の肉食獣のように爛々と輝かせ、全身からは制御しきれない魔力の残滓が陽炎のように立ち上っていた。
背中に、焼けつくような視線と、鼻息の熱が、じりじりと迫ってくるのを感じた。
「おい、メルティ……。お前、後ろですげー怖い顔してんの、気配で分かんだよ。
やめろよ、手がワキワキ鳴ってんぞ」
「だってぇ……シュドーの、背中が……僕を、呼んでるんだもん……。あ、あと五センチ……あと五センチで、シュドーのうなじの匂いが嗅げるのに……っ!」
「嗅ぐな! 憲兵呼ばれるぞアホ!!」
背が低いシュドーの後ろで、180センチの巨女が涎を垂らさんばかりの表情で手を蠢かせ、荒い吐息と共に追い縋る――。
校内の生徒たちは、以前の「いちゃいちゃ」よりも遥かに危ういその光景を見て、顔を引きつらせながら道を譲るようになった。
ゴオオォォ…
彼女の欲求不満が、迸る魔力の奔流として背中から湧き始めていた。
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