49話:イチャイチャ禁止発令後
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: rgba(0, 0, 0, 0);">「いちゃいちゃ禁止令」が発令されてから、ステラ・マリス魔法大学の空気は別の意味で張り詰めていた。</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: rgba(0, 0, 0, 0);">原因は、メルティ・アルフィリオだ。</span></p><p><span style="color: rgb(31, 31, 31); background-color: r
本文
「いちゃいちゃ禁止令」が発令されてから、ステラ・マリス魔法大学の空気は別の意味で張り詰めていた。
原因は、メルティ・アルフィリオだ。
彼女はシュドーの三歩後ろを、腰を極限まで落とした「捕食者の構え」で追尾していた。
「ハァ……ハァ……。シュドー、の……後頭部。
あと、三センチ……。あ、あの産毛……吸いたい……」
「お前、マジで顔が犯罪者なんだよ! 離れろっつーの!」
シュドーが叫ぶ。背後から漂う、湿り気を帯びた魔力のプレッシャー。
すれ違う生徒たちは「ヒッ……」と悲鳴を上げて壁際に寄り、デボラ教官は無言で書類にメモを取っていた。
そんなある日の昼休み。
限界を迎えたメルティの瞳が、怪しく黄金色に光った。
彼女はシュドーの手首をがしっと掴むと、恐るべき怪力で裏庭の物陰へと引きずり込んだ。
「お、おいメルティ! 離せ!
言っとくけどな、校内は警備用の監視魔法が網の目みたいに張り巡らされてんだぞ! こんな死角でも、すぐに見つかってケンネル先生に――」
「……学校内で、抱き着かなきゃいいんだよね?」
メルティの声は、低く、どこか超越的な響きを帯びていた。
彼女が杖も振らず、ただ指先を空に走らせた瞬間――。
パキィィィン! と空間がガラスのように割れる音がした。
次の瞬間、シュドーの視界は、石造りの裏庭から、鬱蒼と茂る緑の森へと一変した。
土と苔の匂い、鳥の羽ばたく音が、一瞬にして石畳の裏庭の空気と入れ替わった。
「……は? どこだ、ここ」
困惑するシュドーが木々の隙間に目を凝らすと、遥か遠方に小さく大学の時計塔が見えた。
「やったぁ、成功したぁ!」
「せ、成功したじゃねぇよ!
お前、媒介も詠唱もなしに二人まとめての遠距離転移魔法かよ!?
しかもこの距離……どんだけ規格外なんだよお前は!」
シュドーは、目の前の少女が持つ「歴史的才能」に戦慄した。
理論も計算もすっ飛ばし、ただ「抱き着きたい」という本能だけで空間を捻じ曲げたのだ。
だが、その感動は一秒で消え失せた。
「そんなことより、シュドー……」
メルティの瞳が、獲物を定めた獣のようにギラリと座った。
「やっと、抱き着けるよぉぉぉぉ!!」
「ちょ、うおおおお!?」
尋常でないメルティの気迫に野性的な危機感が働き
シュドーは杖を構えた。
「バ…呪縛(バインド)ォォォ!!」
杖の先から光の縄がメルティに向かって伸び、手足と肢体を縛り付ける。
「わああ!?」
メルティがバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。
「あ、あぶねぇ…こんな事もあろうかと練習しといて正解だった…」
「わーん!酷いよシュドー!なんでこんな事するのー!?」
縛られたメルティが芋虫の様に地面の上をジタバタとのたうち回る。
「アホかぁ!!そっちがいきなり襲い掛かってくるからだろうが!!」
「だってー!!だってー!!もう我慢出来ないんだもんー!!」
幼児返りを起こした様にジタバタと暴れるメルティ。
とりあえずはこれで安心かと思ったのもつかの間。
ピシッ
「え?」
何かが軋む不吉な音が森に響く。
「シュドー、シュドー…シュドーの匂いぃぃ……」
ピシッ バキッ ミシミシ
メルティを縛り付けた光の縄がひび割れていく。
心臓が早鐘を打ち、手のひらに嫌な汗が滲んだ。
メルティはいつものふにゃふにゃな顔ではなくいつの間にか獲物を狙うような猛禽類の様な鋭い目つきで這いつくばる恰好から飛び掛かる体勢を整えようとしていた。
(こ、こいつまさか自力で呪縛解こうとしてんのか!?規格外過ぎだろ!!)
シュドーは焦った。今の自分は飢えたライオンの前に差し出された肉である。
このままではどんな蹂躙を受けるのかわかったもんじゃない。
光の縄は今にもちぎれそうだ。
(こ、こうなったら…!)
シュドーは駆け出した。そして、
ぎゅっ
「ほーら、落ち着け落ち着け、どうどう……」
シュドーはメルティの頭を抱え込み、あやす様に喉元を撫でた。
「ふあ…」
鼻に広がるシュドーの匂いと温もり、顎の下の手の感触に先程までの猛獣の様な気配は徐々に無くなり、体が弛緩していった。
温かい体温と、規則正しくなっていく呼吸が、シュドーの腕の中で静かに伝わってくる。
「ふへ……えへへ……シュドー……」
ごろごろ、と喉を鳴らしそうな様子でメルティはシュドーに体を預ける様に更に胸元に顔を摺り寄せた。
(……何をやってんだ、俺は……)
静かな森の中、ステラ・マリスの校舎を見つめながらひたすらシュドーは虚無を抱えながらメルティを撫で続けていた。
数時間後。
森から帰還した二人に、ケンネルは死んだような魚の目で告げた。
「……分かりました。もういいです。『授業中以外の接触は許可』します。
その代わり、空間を捻じ曲げて校外に逃走するのだけは……
本当にもう、勘弁してください……」
事実上、メルティの規格外の魔力が、設立以来一度も破れる事がなかった大学の鉄の掟を物理的に粉砕した瞬間であった。
「えへへ、やったねシュドー! 休み時間は抱き着き放題だよ!」
「お前……。もう二度と転移魔法は使うなよ。俺の心臓が保たねぇ……」
シュドーは深い溜息をつきながら、自分に「懐いている」というより「執着している」巨大な羊の感触を、まだ肌の奥に感じていた。
その後転移を覚えたメルティが寝ぼけて就寝中のシュドーの部屋に転移して
朝のシュドーの部屋に悲鳴が響く事になるが、彼の名誉の為に詳細は省かせて頂く。
シュドーは日課に呪縛(バインド)の鍛錬も追加する事を心に決めたのであった。
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