模試の予言

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/22 📝 2,187文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIの模試判定の話。

本文

高校三年の夏、教室では「シンロナビ」というアプリが流行っていた。模試の成績と学習時間、過去問の正答パターンを入力すると、志望校ごとの合格率と、当日の得点シミュレーションまで出してくれる。相楽さがら涼香すずかのクラスでは、休み時間になるとみんな一斉にスマホを開き、判定の画面を見せ合うのが日課になっていた。

「今回もA判定だ、余裕かも」

隣の席の由紀ゆきが嬉しそうに画面を見せてくる。涼香は自分のスマホをそっと伏せた。志望校――第一志望にしている大学の判定は、ここ半年ずっとD、良くてもC止まりだった。真面目に机に向かっているつもりなのに、判定の文字だけがいつまでも変わらない。

「涼香は、いつも何時間くらい勉強してるの?」

「毎日五時間くらいかな。休みの日はもっと」

「それで判定変わらないの、なんか納得いかないね」

由紀に悪気はない。けれどその一言が、涼香の胸の奥に小さく刺さった。

二学期に入って最初の三者面談で、担任は成績表とシンロナビの判定画面を並べて眺めながら、困ったような笑顔を作った。

「正直に言うとね、このまま行くと、ちょっと厳しいかもしれない。滑り止めだけじゃなくて、志望順位そのものを一度見直してもいいと思うよ」

母は隣で黙って頷いていた。涼香は「はい」とだけ答えた。帰り道、スマホの中のシンロナビを何度も開いては閉じた。判定の下には、いつも同じ文言が表示されている。

『現在の学習方法では、目標達成の可能性は低いと予測されます』

その夜、涼香は自分の勉強のやり方を振り返ってみた。問題集を解くとき、涼香はいつも遠回りをしていた。公式を丸暗記するのではなく、なぜその公式が成り立つのかを自分の手でもう一度確かめてから解く。時間はかかるし、模試の点数には直結しにくい。シンロナビの分析画面には、この解き方に対してはっきりとこう書かれていた。

『時間対効果の低い学習パターンです。暗記中心の解法への切り替えを推奨します』

涼香は少し迷ったすえ、その夜だけは自分のやり方を通した。理由はうまく説明できなかったが、公式を丸暗記して解いた問題は、なぜか頭から抜けていくのが早い。自分の手で確かめた問題だけが、しばらく経ってもちゃんと形を保って残っている気がした。

秋の模試で、判定はまたDだった。けれど涼香は、答案を出したあとに一つだけ違う手応えを覚えていた。時間内に解ききれなかった大問の途中式を、あとで自分なりに見返してみると、考え方の筋道そのものは間違っていなかった。ただ時間が足りなかっただけだ。判定の数字は変わらなかったが、涼香の中では何かが少しだけ変わっていた。

それでも冬が近づくにつれ、状況は上向くどころか悪くなっていった。直前模試の結果は、これまでで一番悪いEだった。由紀をはじめ、周りの友達は次々とA、B判定を取り、志望校の話題で盛り上がっている。涼香はその輪から少しずつ距離を置くようになった。夜、部屋で問題集を開いても、文字がうまく頭に入ってこない日が増えた。母は「無理しなくていいのよ」と声をかけてくれたが、その優しさが、かえって涼香を追い詰めた。

入試前日の夜、涼香はもう一度シンロナビを開いた。最終判定の画面には、これまでで一番低い数字と、こんな一文が添えられていた。

『現在のデータに基づく限り、目標達成は極めて困難です』

スマホの画面を見つめながら、涼香はしばらく動けなかった。半年間、自分なりに積み上げてきたつもりのものが、たった一枚の判定画面に押しつぶされていくような気がした。布団に入っても、頭の中でその数字だけがぐるぐると回り続けた。

眠れないまま、涼香は枕元に置いていた問題集をもう一度手に取った。開いたのは、秋の模試で途中式だけ合っていたあの大問だった。数字ではなく、自分の手で書いた筋道を、もう一度指でなぞってみる。

――このやり方は、間違っていない。

誰かに証明してもらう必要はない。そう思えた瞬間、不思議と肩の力が少し抜けた。涼香は問題集を閉じ、灯りを消した。

入試当日、会場に着くと、教室の空気はどこかいつもと違った。試験が始まってすぐ、涼香は違和感に気づいた。ここ数年の過去問とは、明らかに出題の傾向が変わっている。単純な公式の当てはめでは解けない問いが並んでいた。まわりの受験生の中には、ペンが止まったまま動かない子もいる。おそらく、シンロナビが学習していたデータにもない傾向のはずだった。

涼香は一度深呼吸をした。目の前の問題を、いつものやり方で読み解いていく。公式を思い出すのではなく、なぜそうなるのかを、自分の手でもう一度たどり直す。時間はぎりぎりだったが、涼香は最後の一問まで、自分の言葉で筋道を書き切った。

解答用紙を提出し、会場を出ると、冬の乾いた風が頬に当たった。まわりでは、友達同士で答え合わせをする声や、手応えを確かめ合う声が飛び交っている。涼香はスマホを取り出しかけて、そのまま鞄の中に戻した。

判定の数字がどうだったかは、もう気にならなかった。あの夜、自分の手でなぞった筋道は、誰の予測にも乗っていない、涼香だけのものだった。校門を出ながら、涼香は小さく息を吐いた。結果はまだ、どこにも出ていない。けれど今はただ、自分の答えを書き切ったという事実だけが、静かに胸の中に残っていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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