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逃走経路

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/23 📚 シリーズ: #今日のターゲット -視聴者数 50,000人- 📝 2,045文字 ✅ 全年齢

あらすじ

<p> 夜の街をむき出しの悪意から逃れるように走り続け、葵がたどり着いたのは、かろうじて人気のない裏通りの自動販売機の前だった。荒い息を整えながら壁に背中を預けるが、ポケットの中のスマートフォンは、数万人の視線を乗せた熱を放ち続けている。</p><p>「どうしよう……どうすればいいの……」</p><p> 誰も信じられない。街の人間全員が、スマホの画面越しに自分を狙っている。</p>

本文

 夜の街をむき出しの悪意から逃れるように走り続け、葵がたどり着いたのは、かろうじて人気のない裏通りの自動販売機の前だった。荒い息を整えながら壁に背中を預けるが、ポケットの中のスマートフォンは、数万人の視線を乗せた熱を放ち続けている。

「どうしよう……どうすればいいの……」

 誰も信じられない。街の人間全員が、スマホの画面越しに自分を狙っている。

 パニックに陥りかけた頭で、葵は必死に縋るべき名前を探した。家族とは何年も疎遠だ。会社の人間はすでに「向こう側」にいる。ならば、学生時代からの唯一の親友である真由なら──

 震える指で連絡先を呼び出し、通話ボタンを押す。

 コール音が数回鳴った後、ガチャリと冷たい電子音がして、真由の疲れたような声が聞こえた。

『……もしも、葵? こんな時間にどうしたの……』

「真由……っ! よかった、助けて、私、今……」

 涙声で助けを求めようとした葵の言葉を、真由の呟きが遮った。

『ねえ、葵。……あなた、今、どこの細道にいるの?』

「え……?」

 凍りつくような違和感に、葵の喉が引き攣った。

『私ね、さっきからずっと見てるんだよ。その、自販機の横で怯えてる葵のこと。スマホの画面越しに、すっごく綺麗に映ってるよ』

「まゆ……? 何を言ってるの、あなたも、あのアプリを……?」

 真由の声が少し乱れ始めた。

『だって、しょうがないじゃない。SNSでバズってたんだもん。「リアルタイム社畜生配信」って。みんな見てるよ。私の友達がこんな面白いことになってるんだもん、見ないわけないじゃん。そっちの画面にも、私のアカウント名、映ってるでしょ?』

 スマホの画面を見ると、いつの間にかライブ映像の視聴者コメント欄の一番上に、見慣れた真由のアカウント名が表示されていた。

 コメント(真由):がんばれー、もっと絶望した顔見せて!

「うそ……真由、あなたも……っ!」

『あ、やば。私の後ろにも、なんか白い影が這ってきた……』

 その直後、電話の向こうからくぐもった音が聞こえた。布ずれと、湿ったような感触の音。

『あ……っ、ちょっと……今、私の後ろに……白い影が……!』

 真由の声が急に甘く掠れる。

 葵は息を呑んでスマホを耳に押し当てた。電話越しに、真由の荒い息遣いと、ねっとりとした水音がはっきりと聞こえてくる。

『んっ……! や……入ってくる……葵、聞いて……この影、太くて……冷たいのに、奥まで熱くて……あっ、あんっ!』

 真由の喘ぎ声が電話口から流れ出す。白い影が真由を襲っているのが、音だけで鮮明に伝わってくる。真由の部屋で、ベッドが軋む音、肌がぶつかる音、そして卑猥な水音が混じり合う。

『はあっ……はあっ……やめて……こんなの……嫌なのに……腰、勝手に動いちゃう……!』

 影が真由の胸を鷲掴みにする音がし、彼女の声がさらに高くなる。

『んあっ……! 胸……強く揉まないで……乳首、摘まないで……っ! なのに……気持ち……いいわけないのに……あっ、あんっ!』

 電話の向こうで、激しい抽送音が続く。真由は明らかに抵抗しているのに、声は徐々に甘い色を帯びていく。

『葵……聞いて……私、後ろから……ガンガン突かれて……子宮、当たってる……! 視聴者数、すごいことになってるよ……みんな、私が犯されてるの見てる……!』

『やめて……抜いて……こんなの……嫌……なのに……んあっ、そこ……!』

 影の動きが速くなったのか、真由の喘ぎが途切れ途切れになる。ベッドが激しく軋む音が、電話越しに生々しく響く。

『はあっ……はあっ……もう……だめ……イキそう……なのに……嫌なのに……いっ……いくっ……!』

 甲高い喘ぎ声が葵の耳に突き刺さる。

『あぁああっ!! イっ……ちゃう……っ!!』

 真由の絶頂の声が長く引き延ばされ、その後、荒い息だけがしばらく続いた。

 少し間を置いて、彼女の声は再び乾いた好奇心のトーンに戻った。

『ねえ、葵、これ、こっちにも感染るんだね……お揃いだね、私たち──』

 プツン。

 通話は、冷たい機械音とともに一方的に切れた。

 葵は絶叫とともにスマホを地面に叩きつけようとしたが、その直前、画面の奥からゾッとする気配が這い上がってきた。

 真由のスマホ越しに、今度は「こちら側」の葵を見つめていたはずの何かが、逆に真由の部屋の空間から、葵のいる現実世界へと触手を伸ばしてきたのだ。

 いや、違う。感染したのは真由だけではない。

 日本中の人間がこのアプリを開いた瞬間、画面と現実の境界線が完全に溶け合い、すべての「視線」が物理的な呪いとなって連鎖していく。

 葵の背筋に、冷たいものが這い上がった。

 ふと、自分の両腕を見て、葵は息を呑んだ。

 白いブラウスの袖をまくったその腕に、いつの間にか、無数の「黒いあざ」が浮き上がっていた。それはよく見ると、一つひとつがまばたきをする「目」の形をしていた。

「いや……やめて……っ!」

 叫びながら走り出そうとした瞬間、暗がりから伸びてきた無数の影が、葵の足首をガシリと掴んだ。

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