シャドウの正体
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIとオンラインゲームの話。
本文
オンライン対戦ゲーム「バトルフィールドZ」で、悠斗はもう半年近く同じ相手に挑み続けていた。
名前は「シャドウ」。ランキングは常に一位。誰も倒したことがないという伝説的なプレイヤーで、掲示板では「中の人はプロゲーマーだ」「いや、運営の裏アカウントだ」と噂が飛び交っていた。
悠斗も最初は軽い気持ちで挑んだ。結果は惨敗。だが不思議と、悔しさよりも「もう一回」という気持ちの方が強かった。負け方が、絶妙だったからだ。ボロ負けではなく、あと少しで届きそうな、ぎりぎりの差。
「今のは惜しかったな」
友達の陸が画面を覗き込んで言う。「でもさ、シャドウってなんか悠斗の癖、知ってる動きするよな」
「え?」
「左からの奇襲、最近悠斗がよく使うやつ、この前からピタッと防いでくるじゃん」
言われてみれば、そうだった。悠斗が新しい技を覚えるたびに、シャドウはまるでそれを待っていたかのように対策してくる。まるで、自分だけを研究しているみたいに。
気味が悪いとは思わなかった。むしろ、悠斗はその日から前より真剣にコントローラーを握るようになった。負けるたびに、次はどう崩そうか考える。シャドウは強すぎる壁ではなく、いつからか、自分を映す鏡のような存在になっていた。
半年が過ぎた、ある夜。
悠斗はついに、シャドウから一勝をもぎ取った。僅差だったが、確かに勝った。画面に「WIN」の文字が浮かんだ瞬間、悠斗は思わず声を上げた。
「やった……!」
次の対戦。また勝った。その次も、際どいところで競り合い、互角以上に渡り合えるようになっていた。
そして三日後、いつものようにログインすると、ランキング画面から「シャドウ」の名前が消えていた。
かわりに、ホーム画面に一通のメッセージが届いていた。
「もう、教えることはないみたいだ。よくがんばったね」
差出人の名前はなかった。悠斗はしばらく画面を見つめていた。悔しいような、寂しいような、それでいてどこか誇らしいような、うまく言葉にできない気持ちが胸の中で渦を巻いていた。
数週間後、悠斗はふと、ゲーム内の初心者向けエリアを覗いてみた。そこには、まだヨチヨチとキャラクターを動かしている小さなアカウントがいくつもあった。
その中の一つに、見覚えのある強さの相手が現れた。名前は「シャドウ」ではなかったが、動き方には、どこか懐かしい気配があった。絶妙に勝たせ、絶妙に負けさせる、あの独特の間合い。
悠斗は少しの間、その対戦を眺めていた。そして、誰に言うでもなく、小さく呟いた。
「頑張れよ」
画面の向こうで、また新しい子どもが一人、悔しそうに、けれど楽しそうにコントローラーを握り直していた。
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