その2:2026年7月12日日曜日・G県N市新町交差点「Barアムリタ」①
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
Kindle電子書籍「心(理×)霊カウンセラー」のスピンオフ第2弾 街の何でも屋。自称探偵・原アイラが今度は蹴っ飛ばす!? 「謎を解かない系探偵」が挑む1999年からの警告とは?
本文
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天気予報では、梅雨明けという言葉がチラホラと聞こえてくる頃ではあるが、G県N市は来週までお預けらしい。それにもかかわらず、この日の日中は晴天を突き抜けるが如くの晴天。太陽は【サンサン】と照り輝き、梅雨の雨間という言葉に大きなクエスチョンマークをつけたくなった者は数知れないだろう。
2026年7月12日、日曜日。時刻は18時15分46秒。
そんな一日が過ぎ、夕方にもなればこの暑さも弱まり……を見せることなく、昼間の暑さはしつこく居座り続ける中、アイラは部屋から程近くにある行きつけのBARへと足を運んでいた。
BARアムリタ。バーテンダー・柴山アオイと、バーメイド・柴山シンジュの二人が営む、市内唯一の本格BAR。N市駅前には居酒屋などの飲み処が多く、どこも毎夜賑わいを見せているが、その中でもアムリタは“静かにお酒を楽しむ人々”が集まる場所として知られている。どこから話を聞きつけたのか、遠方から訪れるファンも少なくない。
BARタイムには少し早い20時前。
この時間帯に好んでここへ足を運ぶ客が、四人いる。
市内の企業に勤める会社員・天野レイア。
ヨミノカウンセリング室の心理カウンセラー、黄泉野カレンと真城ナミ。
そして、街の御用聞き――自称探偵の原アイラ。
彼女たちはこの店の常連であり、バーテンダーの柴山アオイ、バーメイドの柴山シンジュ夫妻とは、長い付き合いの友人でもあった。そして今日18時。アイラとカレン、ナミの三人が集まり、ここで酒と夕食を共にすることにしていたのだが――30分前、アイラはカレンから「少し遅れます。18時30分くらいになると思う」というメールを受けており、一人少し早めにBARアムリタの扉を開けたのだった。
◇◆◇
2026年7月12日18時20分44秒。
「……アイラちゃん。今日は眉間にしわ一本ね。」
BARアムリタのカウンター、向かって左から三番目の席に座り、いつもどおりビールを口にするアイラのカウンター越しに【くるり】とした声でそう呼びかけたのは、この店の店主・柴山アオイの妻、シンジュだった。
栗色のセミロングヘア。褐色肌にくるりとしたエメラルドグリーンの瞳。誰もが初めて彼女を見たとき、天真爛漫な雰囲気の可愛い女の子という印象を持つのだが……実はアラサー。店の料理を主に担当する自称32歳である。
白シャツにエプロン姿のいつものスタイルでカウンターに立ち、コクリと一口ビールを飲んだアイラの様子を、小さく微笑みながら見ている彼女の口から出た言葉。それが、「……アイラちゃん。今日は眉間にしわ一本ね。」だった。
ん、とその言葉に小さく頷き、「シンジュさんにはわかっちゃうか~」と苦笑いを浮かべるアイラ。
「ん、わかっちゃうか~。シンジュさんに隠し事は、出来ないなぁ。」
「ふっふーん、どれだけ長い付き合いしていると思ってるの、アイラちゃん。お悩みだったら、私にパーンとお話しちゃって。」
【ニンマリン】と笑顔でそう話すシンジュに、アイラは気にかけてもらえる嬉しさと、何とも言えない苦笑いを混ぜた笑みを浮かべていた。
「お悩みって言うほどの話じゃないんだ。ただ、30年くらい昔のことを思い出させることがあってさ。シンジュさん、覚えてる? 1999年7の――」
「……あ~、あのころの話ね。」
その年月を聞いた瞬間、シンジュの【ニンマリン】は【ニ“ンマ”リ“ン】と、どこか乾いた「ははははははは……」という笑いを含みながら、可愛い苦笑いを浮かべていた。
「ミシェルの残した予言の話か~。久しぶりに聞いた気がするな。1999年7の月。『きょーふのだいおーがー♪』って。」
「シンジュさん、言い方言い方っ」
おどけるようにそう言うシンジュに、思わず笑いかけていたアイラ。 丁度そのとき、BARアムリタのドアベルが【カラカラーン】と音を立てながら開いた。
◇◆◇
「こんばんわ。ごめん、アイラ。お待たせ。」
「こんばんわー!」
扉の向こうから姿を見せたのは、心理カウンセラー師弟コンビ。ヨミノカウンセリング室室長の黄泉野カレンと、カウンセラーの真城ナミだった。カレンの表情に僅かな疲れと、それを気遣うような顔をしたナミの様子が、一目するだけでアイラとシンジュには見て取れた。「これは、今日は忙しかったんだな――」と察する二人。
「いらっしゃい、カレンちゃん、ナミちゃん。こちらの席へどうぞっ。」
察しながらもいつもと変わらない様子で、二人に席を促すシンジュ。そしていつものようにカウンターへ向かって左から二番目、アイラの左隣の席に腰を掛けるカレンと、一番左の席、カレンの左隣に腰を掛けたナミ。 丁度そのタイミングを見計らったかのように、厨房の扉が開き、そこから【ふわり】と顔をのぞかせたのは――
「いらっしゃい。みんな揃っているね。」
柴山アオイ。BARアムリタの店主でシンジュの夫。店の酒を担当する彼は巷では「完璧超人」と囁かれる“イケメン”……と言うには少し歳を重ね、ダンディと言うには少し若い気もする自称36歳。肩までかかった茶色の長髪に、一言で「美男」と表現できる精悍な顔。バーテンダージャケットを纏う姿は細いように見えるが、実は仕上がった体をしており、姿勢も良いためそこにいるだけで絵になる雰囲気を纏う、巷で囁かれるとおりの「完璧超人」である。
「さて、カレンさん、ナミちゃん。今日は何から始める?」
アオイは、“今日の至福の一杯目”の準備へと、二人にそう呼びかけた。そして二人の選んだものは――
◇◆◇
「はい、カレンさんお待たせしました。ユニコーン:赤。ナミちゃん、すぐに準備するから少し待ってね。」
「はーい。お願いします。」
カレンは、コースターの上に置かれたグラスに目を細め、ホッと一息を吐く。その様子は“お疲れ様、今週の私”と自身に声を掛けているようにも見える。そしてアオイは、バックバーの棚の中からナミの選んだ「プーチンカ」の準備を始める。
今、アムリタ店内にいる三人の客、二人の店員の中で最も若い24歳。そして最もお酒に強いのも、最も若い彼女――真城ナミである。バックバーの棚にある未開封のそれを見つけ、興味津々にしているところをアオイに気付かれ、「明けましょうか」の一声で目を【きららんら】と輝かせ、「おねがいします!」の元気な一声が、カウンターを囲む仲間たちの笑顔と笑い声を誘う。そして、その酒“プーチンカ”が箱から出され、その蓋が【コカリッツ】と音を立てながら回される。
ショットグラスに注ぎ、チェイサーと共にスッと差し出されたそれは、一見ただの透明な液体。その中身はウォッカ。当然の如くストレートである。
プーチンカ(Pučinka)。ロシア産のウォッカで、口当たりが柔らかく飲みやすいのが特徴の“酒豪向けの一杯”。アイラ、カレン、そして今日はここにいない天野レイアの常連組も、それがここに置いてあることは前から知っていたのだが、その高いアルコール度数と聞いて驚く“いいお値段”に、いやいやいやいやと一歩引いていた。しかし、そこに物怖じすることなく突っ込んでいくところが、酒豪・真城ナミの若さなのかなぁ……と、差し出されたそれに目を輝かせる彼女の様子を、目を丸くして見守るアイラとカレン。
「さて、じゃあいただきましょう。今週もお疲れさまでした。乾杯っ」
「おう、乾杯!」
「おつかれさまでしたー! かんぱーい!」
それぞれの手に収まった“今週もおつかれさま”の一杯を掲げ、三人は互いのグラスを軽く【カチコーン】と当て、7月12日の夕食会は定刻30分遅れながらも和気藹々と始まるのだった。
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