予報がはずれる日
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと予報の話。
本文
教室の休み時間、机の上にスマホが並ぶ。みんなが覗きこんでいるのは「ミライナビ」という占いアプリだ。
明日の天気、次のテストの点数、給食の残り物まで、驚くほど当たる。当たりすぎて、最近はクラスのみんなが何かを決める前に、まずミライナビに聞くようになった。
「今日の掃除当番、代わってもらえる?」
「え、無理。ミライナビで見たら、今日わたし忘れ物する日だって」
そんな会話が、当たり前になっていた。
神谷千夏も、最初はみんなと同じようにアプリを開いていた。でも、千夏の予報だけは、いつも外れる。
「明日は雨」と出た日は晴れて、「テストは六十点」と出た日は九十点を取った。「今日は元気が出ない一日」と出た日に限って、朝からずっと機嫌がよかった。
「千夏のって、なんか壊れてない?」
クラスメイトにそう言われて、千夏は何も言い返せなかった。当たらないアプリを持っているのは、自分だけだったから。
仲のいい芝崎光だけは、笑いながらこう言った。
「べつに壊れてないと思うけどな」
「じゃあ、なんで当たらないの」
「千夏っていつも、予報のあとでちゃんと自分で決めるじゃん。晴れって出ても傘持っていくし、点数が悪いって出た日ほど、めちゃくちゃ勉強してるし」
千夏は返事に困った。そんなふうに考えたことはなかった。
二週間後、運動会が近づいてきた。リレーの選手を決める日、ミライナビの画面には、こう表示された。
――千夏さんの明日:リレーで転倒、チームは負ける。
クラスがざわついた。「じゃあ、別の子に代わってもらったほうが……」そんな声も聞こえてきた。千夏の胸の奥が、すっと冷たくなった。
その夜、布団の中でスマホを見つめながら、千夏は何度も同じ画面を開いた。転倒。負ける。文字は変わらない。
――だったら、走らなければいい。
そう思いかけた自分に気づいて、千夏ははっとした。
運動会当日、スタートラインに立ったとき、千夏の手は少し震えていた。でも、隣にいた光が小さく言った。
「当たるかどうかは、走ってみないとわからないよ」
ピストルが鳴る。千夏は走った。転びそうになった瞬間もあった。それでも足を止めなかった。
バトンを渡したとき、チームは一位でゴールした。
その晩、千夏はまたミライナビを開いた。画面には「明日の千夏さん:とくに何も起こらない、いつも通りの一日」と出ていた。
千夏は少し笑って、アプリを閉じた。
当たるかどうかは、きっとどうでもいい。明日をどう過ごすかを決めるのは、アプリじゃなくて、自分自身なのだから。
窓の外には、まだ運動会の熱気が残る夕焼けが広がっていた。