判定の向こう側

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/29 📝 1,170文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとサッカーの判定の話。

本文

 サッカー部に「ジャッジAI」が導入されたのは、新チームになって最初の月だった。

 コートの四隅に設置されたカメラが選手の動きを追い、微妙なプレーはその場で解析される。オフサイド、ハンド、シミュレーション――人間の目では判断しきれない一瞬を、AIは淡々と裁いていく。

「これでもう、誤審で負けることはないな」

 顧問はそう言って満足そうだった。梶谷かじたに陸りくも、最初はそれを歓迎していた一人だった。今まで際どい判定のたびに感じていたモヤモヤが、これで消えると思っていたから。

 県大会の準決勝、後半のアディショナルタイム。陸のチームは一点差で追う展開だった。

 相手ゴール前、混戦の中でボールが陸の腕に当たった。

 審判の笛が止まる。「ハンドの疑いあり、AI判定へ」というアナウンスが流れ、スタジアムが静まり返った。

 陸自身、よくわからなかった。腕を引いたつもりだった。でも、ボールを止めたくて、ほんの少しだけ腕を出してしまった気もする。その境目は、自分でも思い出せなかった。

 数秒後、電光掲示板に表示が出た。

 ――ハンドなし。腕は自然な走行姿勢の範囲内。

 試合は続行され、その流れのままチームは同点、そして逆転ゴールを決めた。ホイッスルが鳴った瞬間、チームメイトが陸に飛びついてきた。

 でも、陸の目に入ったのは、相手キャプテンの顔だった。

 別所べっしょ蒼あおいは、審判にもAIにも何も抗議しなかった。ただ、陸のことをじっと見ていた。責めるのでも、恨むのでもない。何かを確かめるような、静かな目だった。

 その夜、陸は何度も自分の腕の動きを思い出そうとした。

 AIは、腕の角度と速度だけを見る。そこに「わざとかどうか」という迷いは映らない。陸自身、あの一瞬に迷いがあったことを、AIより先に知っていた。

 正しい判定だったのだと思う。データは嘘をつかない。

 それでも、何かが引っかかったまま消えなかった。

 翌週、駅で偶然、蒼と会った。気まずさに、陸のほうから声をかけた。

「あのプレー、ずっと引っかかってて」

 蒼は少し驚いた顔をして、それから小さく笑った。

「別にいいよ。AIが判定したことだし」

「でも」

「でもさ」と蒼が続けた。「AIが見てないところで、お前がどう思ったかは、お前にしかわからないだろ。それは、次の試合までに自分で決めればいいんじゃないの」

 陸は何も言えなかった。ただ、その言葉が、これまでの何よりも自分に届いた気がした。

 正しさは、機械が決めてくれる。でも納得は、自分の中にしか答えがない。

 駅のホームに電車が滑り込んでくる。二人はそれぞれの電車に乗り、何も約束せずに別れた。

 次の試合で同じ場面が来たら、陸はどうするだろう。まだわからない。でも、少なくとも今は、その問いをちゃんと持っている自分でいたいと思った。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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