数値化できない欄

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/30 📝 1,103文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと人事評価の話。

本文

 人事評価支援AI「タレントスコープ」が導入されてから、評価面談の準備は驚くほど楽になった。

 部下の勤怠データ、案件の進捗、社内チャットのやり取りまで解析して、強みと弱みを箇条書きで出してくれる。文章もそのまま面談シートに貼り付けられるくらい、よくできていた。

 相馬そうま有紗ありさは、五年目の主任として、この春から八人分の評価を任されていた。ほとんどの部下については、AIの出力を少し直すだけで済んだ。

 ただ一人、郡司ぐんじ亮りょうの欄だけ、何度やり直しても同じような文章しか出てこなかった。

 ――担当案件数は平均的。数値目標の達成率は標準的。特筆すべき突出項目なし。

 有紗は画面を見ながら、小さく首をかしげた。それは、有紗の知っている亮とは、少し違う人物のように見えた。

 亮は、数字に表れる仕事はたしかに平凡だった。でも、新人が資料の作り方で詰まっていたとき、いちばん最初に気づいて手を止めるのはいつも亮だった。トラブル対応で誰もが苛立っている会議で、場の空気をふっと和らげるのも亮だった。

 そういうものは、勤怠にもチャットログにも、数字としては残らない。

 面談の前日、有紗はAIの出力欄をもう一度開いた。「特筆すべき突出項目なし」の一文が、やけに冷たく見えた。

「これじゃ、亮くんのこと何も書いてないのと同じだ」

 有紗はそうつぶやいて、AIの提案文をすべて削除した。

 カーソルだけが点滅する空欄を前に、有紗は自分の記憶をたどった。三月の繁忙期、誰も気づかなかった新人の顔色に、亮だけが気づいて声をかけていたこと。取引先とのやり取りで、角の立つ言い方を、亮がさりげなく和らげてくれたこと。

 数字では測れないそれらを、有紗は自分の言葉で、一つずつ空欄に書き入れていった。

 面談当日、有紗はいつものように評価シートを読み上げた。数値の項目を終えたあと、有紗は手元の紙から顔を上げた。

「ここからは、AIが書いた文章じゃなくて、わたしが見てきたことを話すね」

 有紗は、三月のこと、取引先とのやり取りのことを、順番に話した。亮は最初、戸惑ったような顔をしていたが、話が進むにつれて、少しずつ表情が変わっていった。

「そんなところ、見てたんですね」

 亮の声は、少し震えていた。

 面談を終えて席に戻ると、有紗はタレントスコープの画面をもう一度開いた。他の七人分の評価は、今日もAIの文章のままでよかった。

 でも、少なくとも今日という日には、AIには埋められない欄が一つあって、それを埋めるのが自分の仕事なのだと、有紗は思った。

 窓の外では、夕方のオフィス街の明かりが、いつも通りに灯り始めていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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