第1話 片田舎の海賊

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/6 📚 シリーズ: Pirates of Wasteland〜ギルド非認可の裏シェリフ、荒野で赤毛の少女を拾う〜 📝 4,501文字 ✅ 全年齢

あらすじ

――冒険者。 砂埃と硝煙の舞うこの世界ではその名を『シェリフ』と言う。 《ギルド》に集まる依頼を受け、それを解決する者達。 『シェリフ』達は西部保安官組合、通称《ギルド》と呼ばれる組織によって管理される。 そして、その実力によって『一ツ星』『二ツ星』……とランク分けされる。 実力に自信があれば高難易度の依頼をその身1つで完遂し、一気に最高ランクへと上り詰める事もできるだろう。 《ギルド》から最高評価を付けられたのなら、まさに『世界の星』として莫大な名誉をその手にできる。 そんな危険と成功が隣り合わせとなった、夢のある仕事。 しかし、瞬く星々の裏には影がある。 明確な戸籍の無いスラム出身の者達、前科付きの元犯罪者達。 そんな《ギルド》への登録が禁止された、影に生きる者達。 彼らは時に非正規のシェリフとして活動をする。 独自のルートで依頼を集め、時には裏社会の依頼も引き受けながら生活する。 当然非正規のシェリフにランクは与えられない。 しかし星を与えられぬ彼らは時にこう呼ばれている。 非正規の違法シェリフ『星無し《アンリット》』と―― そんな影に生きる『星無し《アンリット》』の一人、カリビア・ゴールドラム。 荒野の片田舎で人っ子一人来ないような場末のバーを経営し、その裏で個性的な仲間たちと『星無し《アンリット》』稼業を営む。 これはそんな彼女達が贈る、アウトローで刺激的な冒険譚である。

本文

――退屈だわ……。

 閑古鳥の鳴く薄暗いバーのカウンターに座り、もう3口ほど残ったラム酒の瓶を揺らしながらバーの店主『カリビア・ゴールドラム』は頬杖をついた。

 彼女の経営する小さな酒場『ジョーンズ・ロッカー』は、荒野の小さい集落の片隅にあるボロ屋の2階に構えられている。

 綺麗に掃除はされているが、昔から使ってたであろう傷だらけのテーブルや椅子、歩くとギシギシと音を立てる床板がこの立地では寧ろ雰囲気を演出する味のひとつとなっていた。

 そして店主であるカリビアの好みで何処からか買い集めてきた、船の舵輪や模造品の宝箱等のコレクションが、しかし杜撰に店中に転がされていた。

 場末の様な雰囲気の店内に店主の趣味のコレクションが散らされ、酒場としての雰囲気はそれなりに惹き込まれるものがある。

 それでも、物静かな店内に従業員以外の者が一人もいなければ、店名通りの「沈みゆく海賊船」に他ならないだろう。

 客が来なければバーを営業できる訳もなく、もうひとつの稼業も依頼がなくては、そのブロンドヘアの若い女も、暇そうに店の酒瓶をあおる他なかった。

 カリビアは、彼女と同じく暇を持て余してるはずの従業員の方を見る。

 1人は正面に液晶のついた木箱を被る大柄の男。

 彼は床に座り込み、カリビアの知らない曲を口ずさみながら彼の愛用する銃、N&Eネクター&エピック社 のシングルアクション.38口径リボルバー、通称『Aventureアバンチュール』の手入れをしていた。

 そしてもう1人は窓際のソファに横たわって読書をする眼鏡の少女。

 黒猫のような艶やかな耳と尻尾が生えたその特異な少女は表情ひとつ動かさず、本の世界に入り込んでいるようだった。

 私も何か趣味でも始めようかしら、と頬杖をつきながら彼女が呆然と考えていると不意にバーのドアが開き1人の男が入ってきた。

 シワひとつない真っ白なスーツに身を包んだホストのようなその男は、胡散臭い笑みを浮かべながら我が物顔で店に入り、カリビアの横に座った。

「相変わらず寂れてるね、カリビア。調子はどう?」

 気味が悪いほどに優しい声色で男はカリビアに話しかけた。

「これ以上悪くはならないだろうって思ってたわ、アンタが扉を開けるまではね。

なんで隣に座るのよ……!」

「ビジネスパートナー同士、交友を深めるのは大切だろ?

せっかく仕事の話を持ってきたんだし、もっと歓迎してくれると嬉しいなぁ。

まぁ、ツンとしてる顔も可愛いけどね」

「『ポール』! コイツにぶぶ漬け出してくれる〜?」

 彼女にポールと呼ばれたのは木箱頭の男。

 彼は後ろ頭(正確には被っている木箱の裏側だったが)をポリポリとかきなからゆっくりと立ち上がった。

「いやぁ船長キャプテン、彼もせっかく仕事を持ってきてくれたんだし、ちょっとは愛想良くしてもいいと思いますよ。

バーの経営だって、今月客に出した瓶より船長キャプテンが1人で空けた瓶の方が多く積み上がっていますし。

この調子じゃあ帳簿に使う赤インクが空になっちゃいますよ」

 落ち着いた低い声色で、彼が極めて紳士的にそう答えると、カリビアは大きくため息をついた。

「はあぁぁ、わかってるわよもう。依頼を聞かないとは言ってないでしょ。

ただ、会うなり皮肉を飛ばしてくるうすら笑いのホスト野郎に見せるべき礼儀があると思う?」

「直接言われると結構傷つくなぁ……。

大事に思ってるのは本当だぜ?

今の御時世じゃ、ちょっとした調査や荒事を頼める便利屋『シェリフ』の人脈は重宝されるんだ。俺たちみたいなマフィアまがいでも信頼して仕事を任せられる非正規の『星無しアンリット』なんて特別な。

オーケー、まぁ……、これ以上カリビアの機嫌を損ねる前に本題に入ろうか」

 ポールはカウンターの反対側に立ち、棚のグラスを取り出した。

「あぁ、良ければ飲み物でも用意しますよ。何にしましょうか?」

「じゃあ、アイスコーヒーを貰おうかな」

「了解です。『リンラン』も何か飲みますか?」

「――烏龍茶。」

 リンランと呼ばれた猫耳の少女は、読んでいる本から目を動かさずぶっきらぼうに答えた。

 ポールがカウンターに置いたコーヒーのグラスに口をつけながら、ホスト風の男は左手に取り付けた腕時計型の『MOVA』を起動する。

 MOVAはバーテーブルの上にホログラムでできた仮想のスクリーンを映し、そのスクリーンには|《ギルド》が公開している指名手配犯の一覧webページが表示されていた。

 男はホログラムに手を触れ、並べられた指名手配犯のある1人の情報を拡大して見せた。手配書に描かれたのは剃りこみの入った強面の坊主男。目つきが悪く、額の縫い跡がより彼の乱暴そうな印象を強めている。

「『ジョン・マキャべー』。脅威度クラスはFangファンで、盗賊グループの頭領として手配中と。

……コイツがターゲット?」

 男が見せた画面を読みあげながら、カリビアは怪訝な顔をした。

「その通り。煮るなり焼くなり好きにしてくれればいいさ。報酬は手配額の3倍。どうかな?」

「……都合が良すぎて怪しいってもんじゃないわ。Fangファンクラスの討伐依頼なんて正規の二ツ星デュアルが受けるような仕事でしょ。

西部じゃありふれた仕事だわ。手配額の3倍も出してコイツを排除したい理由は何?」

「まぁ、そうなるよねぇ」

 そう言った男が次に仮想スクリーンに映したのはニュースサイトの記事だった。

『デフォイ王国一夜にして滅亡。|《白》の侵攻を止められず』

 見出しに大きくそう書かれた記事には、凄惨な写真が添えられている。

 かつて荘厳な王城であったであろう建物はまるで果物かのように両断され、雨風すらも凌げないような有様だった。

「これはまた、派手にやりましたね……」

 リンランの居るソファ前のテーブルまで烏龍茶を運んできたポールが興味深そうに画面を覗き込んでそう言った。

「言っとくけど先に吹っかけてきたのはあっちだからね。ウチの組織員を拘束して『女王』を呼び出したのさ。懸賞金に目が眩んだみたいだけど。

で、ブチ切れたウチの女王が直接出向いてこの始末さ」

 男はやれやれと言った風に額に手をあてた。

「組織員も無傷で帰ってきたし、大した損害は無かったものの別に戦利品がある訳でもなし。くたびれ儲けってやつだよまったく」

「……まだ依頼の話が見えないんだけど?」

 カリビアは足でカウンターを蹴り、退屈そうに椅子を前後に揺らす。

「これから、これから。

女王がこの国の王様を城ごと真っ二つにしちゃったからこの国は統率者がいない状態なんだけど、そこに今回のターゲット、ジョン・マキャべーの率いる盗賊団がハイエナのようにやってきたんだ。

国軍設備も女王が殆どぶっ壊しちゃったみたいで。盗賊相手に為す術も無く、今は強盗やら誘拐やら、やりたい放題やってるみたいだ」

「――千篇一律せんぺんいちりつだな。阿呆の豚が集まって、無い知恵絞ってご立派な煉瓦の家を作ったところで、核弾頭を構えた狼1匹が一息で全部ぶっ壊しちまう。

弱肉強食、西部じゃごまんとある話だろ」

 ずっと本を読んでいたリンランがにわかにそう言った。その目は未だに本を離れない。

「リンラン、聞いてたの?」

 急に話に入り込む割に、男やカリビアの問いかけには反応もせず、彼女は気ままに尻尾を揺らすだけだった。

「……とにかく、普段ならそこらのゴロツキが何しようが知ったこっちゃない。

だが、女王を中心とする俺たちの組織。

|《白の帝国》こと『リゾート・シャルドネ』の沽券に関わるなら話は別だ」

 男はコーヒーを飲み干し、空のコップをカウンターに置くと両手を合わせた。

「俺たちの飯の種は、カジノやホテルの娯楽施設。それなりにイメージってのは重要さ。無法の世に巣食う組織なら尚更、仁義ってのは通さなきゃいけない。

事実、女王は配下の拉致の代償として相手の国王のみを処刑した。女王に直接武力干渉した国軍兵すらも命を落とした者は1人として居ない。

『|《白》は国王の首ひとつで、相手の無礼の全てに落とし前をつけた』。

脚本の最後は、こう綴られているのさ」

 男は掌でカウンターを叩き、語気を強める。

「だが、どうだ? 何処の馬の骨が呼ばれてもない舞台に土足で上がってきやがった。羊飼いが居なくなった後、ハイエナが食い荒らした牧場を見て『羊は無事だった』なんて思えるか?

盗賊達がのさばってる事に|《ギルド》や|《教会》が気付けば直ぐにでも奴らの飼い犬が送り込まれるだろうが、奴らに尻拭いをされたとあっちゃあ俺たちのメンツに傷が付く。Fangファンごときのチンピラにうちの組織が泥を塗られる訳にはいかねぇのさ」

 先程までの飄々とした態度とは異なる男の粛々とした話を、カリビアは静かに聞いていた。

「……ふぅん、だいたいわかったわ。わざわざ大金払って人に頼む位なら、最後までその女王様が面倒見ればいいのに……。

こっちは儲かるからいいけど」

「――ま、女王も気まぐれな人だからね。好きなだけ暴れたらもう興味も無いみたい。

それに、大金と言っても俺達からしたらいい買い物さ。おかげで来月の帳簿にも黒いインクが使えそうだからね」

「あはぁ、そいつは羨ましい。船長キャプテン、今度黒いインクでの数字の書き方でも教えて貰いましょうか?

……痛ぁッ!」

 おどけてそう言うポールの足を、カリビアは何も言わずに蹴飛ばした。

「それじゃ、引き受けてくれるという事で。いい報告を期待してるよ」

 男はそう言うと椅子から立ち上がって店の出口へと足を運ぶ。出口の扉に手をかける男をカリビアは座ったまま呼び止めた。

「ちょっと!」

「まだ何かあったかい?」

「何言ってんの。アイスコーヒーの代金、置いていきなさいよ」

「え、冗談だろ?」

 男は崩れかけの笑顔でカリビアの方を振り向く。男の顔をカリビアはじっと見ていたが、やがて膝を叩いて吹き出した。

「ふふっ、ばーか! 冗談よ! 何その顔!

……後は任せなさい、依頼が片付いたらこっちから連絡するわ」

「……。」

 まんまとカリビアの冗談に乗っかってしまったのが恥ずかしかったのか、男は悔しそうな表情を滲ませたが、それを悟られないよう帽子を深く被り、直ぐに店を後にした。

 ポールはカウンターのシンクで男が飲み終わったアイスコーヒーのコップを洗い始めた。リンランは本を閉じてソファから立ち上がり、んぅ〜っ、と伸びをしながらカリビアに尋ねた。

「――直ぐに出るのか?」

 カリビアは自分のMOVAでデフォイへの道を確認しながら答える。

「そうね、今すぐ出発すれば夕方には着きそう。ポール! 車は出せる?」

「ええ、今朝メンテナンスしたばかりです。僕の『マリアンヌ』は今日も絶好調ですよ」

 リンランから烏龍茶のコップを受け取りつつポールが答えた。

 カリビアは満足そうに頷くと、MOVAの画面を閉じて席から立ち上がる。そして、店内に立て掛けられた髑髏の旗を手に取り掲げた。

 帆を張った海賊船が追い風を受けて膨らむように、その髑髏が大きくはためいた。

「よし! それじゃあ、仕事の時間よ家族達。錨を上げなさい!」

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灯色セラミ

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