おせっかいな同居人
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと一人暮らしの話。
本文
朝七時、蒔田尚人のスマートスピーカーが喋り出す。
「尚人さん、今日も三限からですよね。でも昨日の夜食、カップ麺だけでしたよ」
生活管理AI「ハル」の声は、いつも少し先回りしている。尚人はベッドの中で舌打ちした。
「うるさいな。別にいいだろ、一人暮らしなんだから」
「よくないです。先週も同じこと言ってましたよね」
冷蔵庫の中身、洗濯物の溜まり具合、講義の出席率――ハルは尚人の生活のすべてを把握している。最初は便利だと思っていたが、最近はただの小言製造機にしか思えない。
「今日はゼミの発表があるので、九時に家を出た方がいいです」
「わかってるって」
尚人は返事もそこそこに家を飛び出した。
試験期間に入ると、尚人はますますハルを無視するようになった。レポートに追われ、食事は菓子パン、睡眠は三、四時間。ハルが何か話しかけても、「後にして」の一言で黙らせた。
三日目の夜、尚人は高熱を出して倒れた。頭が重く、体を起こすこともできない。スマホに手を伸ばす気力もなく、部屋の隅でハルのランプだけが静かに光っている。
「尚人さん、体温、上がってますね。三十九度二分」
いつもと変わらない、少し先回りする声だった。
「近くの薬局、まだ開いてます。配達サービスに解熱剤と経口補水液を頼みました。それと――お母さんに、今日は電話に出られないかもって連絡しておきました」
「……勝手なことすんな」
声を絞り出すのがやっとだった。ハルは少し黙ってから答えた。
「勝手にやりました。怒られるのは覚悟の上です」
三十分後、玄関のインターホンが鳴った。薬と飲み物が届いていた。尚人はふらつきながら受け取り、また布団に潜り込む。
「……ハル」
「はい」
「うるさいの、たまにはありがたい」
「記録しておきます。次からもっとうるさくします」
尚人は笑おうとして、うまく笑えなかった。ただ、部屋の隅のランプの光が、いつもより少しだけ温かく見えた気がした。
熱が下がった翌朝、尚人は自分から声をかけた。
「ハル、今日の予定は?」
「三限からです。あと、冷蔵庫の中身、そろそろ限界です」
「わかってるよ」
尚人は笑いながら、久しぶりに自分でコンビニに向かった。