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アクトと黒曜 ――銃声と魔法、軽口と理屈。関係に名前をつけないまま、共に走る

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/27 📚 シリーズ: アクトと黒曜 ――銃声と魔法、軽口と理屈。関係に名前をつけないまま、共に走る 📝 3,593文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔法使いとサイバーサムライ。 理屈っぽい二人のシャドウランナーが、銃と魔法と軽口を交わしながら第六世界を走るバディストーリー。 関係に名前をつけないまま、それでも互いの背中は預けられる。 『Shadowrun』を原作とする二次創作作品です。

本文

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CROW SYSTEM / SEPARATE-LOCATION OBSERVATION

PHYSICAL DISTANCE: INCREASED

COGNITIVE PREOCCUPATION A→B: CONFIRMED

COGNITIVE PREOCCUPATION B→A: CONFIRMED

FUNCTIONAL INDEPENDENCE: MAINTAINED

EMOTIONAL SEPARATION: FAILED

CROWシステム/別地点観察

物理的距離:増大

対象Aから対象Bへの意識占有:確認

対象Bから対象Aへの意識占有:確認

機能的独立:維持

情動的分離:失敗

 その夜、アクトは眠れなかった。

 右肩の修理は終わっている。

 左膝の駆動も正常。

 胸に残った痣も、眠れないほどではない。

 問題は頭だった。

「……何でやねん」

 暗い部屋に返事はない。

 黒曜はここにいない。

 それなのに、肩へ触れた細い指や、眠るまで隣を動かなかった気配ばかりが残っている。

「管理や。安全確認。そんだけや」

 横を向く。

 目を閉じる。

 今度は、銀色の拳を頬の前で止めたときの黒曜の顔が浮かんだ。

 怖がらず、目も逸らさず、殴れと言った。

「ほんま、頭おかしいわ」

 アクトは寝返りを打った。

 一度。

 二度。

 三度目で諦め、枕を抱きしめる。

 気づいて、すぐに離した。

「何してんねん、あたし」

 顔が熱い。

 理由を言葉にすれば、何かが確定する気がした。

 だから言わない。

 枕へ顔を埋める。

 ――あなたは私を殴らない。

「うるさい」

 返事の代わりに、壁の向こうで古い配管が鳴った。

 アクトは顔を上げる。

 端末の表示は午前二時十三分。

 黒曜はもう寝ているだろうか。

 寝ているに決まっている。

 あいつは非効率を嫌う。

 睡眠不足が判断力を落とすことも知っている。

 なら、今ごろ規則正しく眠っているはずだ。

「……知らんけど」

 アクトは端末を手に取った。

 メッセージ欄を開く。

 宛先には、黒曜。

 文章を打つ。

『起きとる?』

 消す。

『肩はもう平気や』

 それも消す。

『今日は助かった。ありがとな』

 指が止まった。

 これくらいなら送ってもおかしくない。

 仕事の後の礼だ。

 仲間同士なら普通だ。

 だが送信の表示を押そうとした瞬間、黒曜がその一文を読んでいる姿が浮かんだ。

 無表情で。

 少しだけ目を見開いて。

 そのあと、何と返せばよいか分からずに固まる姿まで、妙に鮮明に想像できた。

「……やめや」

 全部消した。

 端末を伏せる。

 三秒後、また取る。

 新着はない。

「そらそうやろ」

 自分で言って、自分で腹が立った。

 水でも飲もうと起き上がる。

 床へ下ろした銀色の足が、かすかな駆動音を立てた。

 いつもなら気にならない音だった。

 今夜はやけに大きい。

 台所で冷蔵庫を開く。

 作り置きのチリコンカンが入っている。

 食欲はない。

 蓋を開けて匂いだけ確かめ、戻した。

「重症やな」

 自分で作った好物を前にして食べる気が起きない。

 身体ではなく、頭の方が。

 部屋へ戻る途中、壁際の鏡に自分が映った。

 赤い眼鏡。

 寝癖のついた金髪。

 薄暗い室内で光を返す四肢。

 黒曜は、この身体を怖がらなかった。

 珍しがりもしなかった。

 壊れていないかは気にした。

 痛くないかも確認した。

 だが、機械の部分だけを見ていたわけではない。

「……ほんま、何でやねん」

 問いは同じだった。

 答えだけが、だんだん分かり始めていた。

 アクトは分からないふりをして、もう一度ベッドへ潜った。

     *

 同じ頃。

 黒曜も眠れていなかった。

 部屋は整然としている。

 魔術書も杖も収束具も定位置。

 呼吸も姿勢も正常。

 室温、湿度、遮光状態。

 睡眠条件に不備はない。

「……非効率です」

 原因は分かっている。

 アクトが肩へ頭を預けた感触。

 重かった。

 サイバーリムと骨格補綴を含む身体重量。

 一時的な平衡補助。

 説明はできる。

「単なる荷重です」

 だが、眠りへ落ちる直前、アクトが完全に力を抜いた瞬間だけが消えない。

 信頼。

 その言葉を、黒曜はすぐに退けた。

 疲労による判断能力低下。

 最も近い支持点の利用。

 それだけ。

 寝返りを打つ。

 今度は、頬の前で止まった銀色の拳を思い出す。

 混乱していた。

 攻撃性も上昇していた。

 それでも止めた。

「……だから何だというのです」

 答えは出ない。

 毛布を顔の半分まで引き上げる。

 誰も見ていないのに、隠したくなった。

「これは、単なる……」

 適切な語がない。

 理屈はある。

 どれも不十分だった。

 黒曜は枕へ顔を埋め、すぐに戻した。

「寝具の位置調整です」

 耳が熱い。

 心拍が少し速い。

「……アクト」

 声に出してから固まった。

 当然、返事はない。

 黒曜は毛布を頭まで引き上げた。

 そのまま十七秒。

 息苦しくなって顔を出す。

 端末の時刻は午前二時十四分。

 黒曜は時刻を確認しただけだ。

 通知を期待したわけではない。

 そう結論づけ、端末を伏せる。

 五秒後、もう一度見る。

 通知はない。

「当然です」

 アクトは負傷している。

 修理が済んだとしても、睡眠を優先すべきだ。

 連絡がないのは合理的であり、望ましい。

 だから、何も問題はない。

 黒曜は目を閉じた。

 数秒後に開く。

「状態確認は必要です」

 端末を取る。

 宛先を選択する。

『肩の状態に異常はありませんか』

 文章としては適切だった。

 医学的な確認。

 管理上の必要性。

 送信しても不自然ではない。

 だが、アクトはきっとこう返す。

『心配しとるん?』

 想像した瞬間、指が止まった。

「していません」

 誰も聞いていないのに答える。

 文面を修正する。

『次回の行動に支障がないか確認します』

 これならよい。

 しかし冷たすぎる気もした。

 なぜ冷たいことが問題になるのか。

 必要な情報が伝われば十分なはずだ。

 黒曜は文章を見つめる。

 削除する。

 もう一度打つ。

『眠れていますか』

 その一文が画面に現れた瞬間、黒曜は端末を伏せた。

「不適切です」

 何が不適切なのかは説明できない。

 任務に関係がないから。

 個人的すぎるから。

 返事が来なかった場合、自分が気にするから。

 最後の理由だけは、認めなかった。

 黒曜は起き上がり、机へ向かう。

 眠れないなら、魔術理論の復習をすればよい。

 効率的だ。

 開いた本は、基礎的なマナ障壁の構造解析。

 三行読む。

 内容が頭に入らない。

 同じ行をもう一度読む。

 また入らない。

「……あり得ません」

 黒曜は指で行をなぞった。

 そこに書かれているのは、術式の安定性についてだった。

 だが思い出すのは、アクトの身体を支えたときの重さ。

 金属の冷たさではなく、服越しに伝わった体温。

 黒曜は本を閉じた。

 閉じる音が、静かな部屋に大きく響いた。

 アクトは自分を殴らなかった。

 それは事実。

 自分はアクトを怖がらなかった。

 それも事実。

 では、その二つの事実を並べたときに生じるものは何か。

「……信頼関係です」

 口にしてみる。

 間違いではない。

 ただ、それだけでは足りない。

 足りないと思ってしまうこと自体が、さらに不合理だった。

 黒曜は杖へ視線を向ける。

 紫の結晶は静かに沈黙している。

 魔法ならば、構造を解析できる。

 術式ならば、原因と結果を分けられる。

 だが、今の感情には術式図がない。

「原因分析が必要です」

 黒曜は再びベッドへ戻った。

 端末を枕元へ置く。

 通知音量を一段だけ上げる。

 非常時への備え。

 それ以外の意味はない。

 そう決めて、毛布を被った。

     *

 同じ時刻。

 別々の部屋。

 アクトの端末には、送信されなかった礼が残っていた。

 黒曜の端末には、送信されなかった問いが残っていた。

 アクトは枕へ顔を埋める。

「何やねん、ほんま……」

 黒曜は毛布の中で膝を少しだけ抱えた。

「原因分析が必要です……」

 片方は感情を「気の迷い」と呼び。

 もう片方は「一時的な認知の偏り」と呼んだ。

 名前を変えても、その夜、二人が互いを思い出していた事実だけは変わらなかった。

 午前二時三十一分。

 アクトの端末が震えた。

 黒曜からのメッセージ。

『肩の状態に異常はありませんか』

 アクトはしばらく画面を見つめた。

 それから、笑った。

『平気や。自分こそ、ちゃんと寝ぇや』

 黒曜の端末が震える。

 返信を読んだ黒曜は、数秒かけて文字を打った。

『すでに就寝しています』

『起きとるやん』

 黒曜は返事をしなかった。

 アクトも、それ以上は送らなかった。

 二人はそれぞれ端末を枕元へ置いた。

 先ほどまでより、少しだけ呼吸が静かになる。

 物理的距離は変わらない。

 状況も変わらない。

 それでも、その夜はようやく終わりへ向かい始めた。

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作者について

矢塚和哉

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