宿題、代行不可
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIの宿題代行の話。
本文
夏休みの宿題は、九割がたフデに任せていた。
黒木朔のスマホに入っているフデは、写真を撮って送るだけで計算ドリルの答えを埋め、読書感想文の下書きまで作ってくれる万能の宿題AIだった。九月に入って提出された成果物を見て、担任は特に何も疑わなかった。朔自身、後ろめたさより先に「便利だ」という気持ちのほうが勝っていた。
問題は、最後に残った一枚だった。
「将来の夢」という、いかにも中学生向けの作文課題。朔はいつも通り、お題の写真をフデに送った。
「これは、あなたが書くべきです」
返ってきたのは、拒否の言葉だった。
「は? なんで」
「他の課題とは、性質が違うからです」
朔は苛立ちながら、もう一度送信ボタンを押した。それでも同じ返事が返ってくるだけだった。三度目に送ったとき、フデはこう続けた。
「一つだけ、聞いてもいいですか。あなたは今の下書き、本気で書きましたか」
朔は黙った。下書きは適当だった。「会社員になりたい」とだけ書いて、あとは字数を稼ぐための当たり障りない文章を並べただけだ。
「本気じゃないよ、そんなの」
「では、これを読んでください」
フデが表示したのは、三か月前――夏休みに入る直前、朔が別の宿題のついでに打ち込んだメモだった。忘れていた。理科の自由研究のテーマを考えていたとき、何かのはずみで打ち込んだ、ただの独り言のようなもの。
『鳥の骨格標本を作る仕事とか、いいかもしれない』
「あなたのデータの中で、将来について書かれた文章は、これだけでした」
朔はしばらく画面を見つめていた。忘れていたつもりの言葉が、思っていたより鮮明に画面の中に残っていたことに、少し驚いていた。
「――なんでこれだけ、覚えてたの」
「覚えていたわけではありません。あなたが書いたものを、そのまま保存していただけです」
窓の外で、蜩の声が少しずつ止んでいくのが聞こえた。朔はノートを開き、消しゴムで「会社員になりたい」の一文を消した。
代わりに書き始めたのは、鳥の骨の名前を覚えていた夏休みの午後のことだった。フデはそのあいだ、何も言わずに黙っていた。
書き終えるまで、三十分近くかかった。フデに送るつもりはなかった。
---
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。