終章:2026年7月26日日曜日・G県N市新町交差点「Barアムリタ」①
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
Kindle電子書籍「心(理×)霊カウンセラー」のスピンオフ第2弾 街の何でも屋。自称探偵・原アイラが今度は蹴っ飛ばす!? 「謎を解かない系探偵」が挑む1999年からの警告とは?
本文
=1=
「何というかさぁ………」
7月26日、日曜日18時。天候は晴れ。 梅雨も明け、夏の様相が急激に【ズバァアアン】と顔をのぞかせたことで、 もう一時間もすれば陽も落ちるだろうこの時間になっても、 外の気温は“なかなかなもの”である。
昼間、友人の仕事を手伝うため外に出ていたアイラは、 夏本番を感じる陽気の洗礼を受け、どこか気怠さを感じる夕方を BARアムリタで迎えることになった。
店内はエアコンが効いているため涼しく快適。 それに加えて、夏の定番カクテル「モヒート」のグラスが三つ。 彼女たちの前に整然と並んでいる。
日曜18時のアムリタ。 毎週日曜のこの時間帯は、四人の常連客がそれぞれ決まったカウンター席に腰を下ろし、 【ファラーン】と並んでいる。
カウンター左奥に、ヨミノカウンセリング室の新人カウンセラー・真城ナミ。 その隣に室長・黄泉野カレン。 さらに隣に街の御用聞き“自称探偵”、原アイラ。 そして最後の席はまだ空いているが、この後、市内企業に勤めるエリート会社員・天野レイアが遅れて来る予定だ。
「何というかさぁ………終わってみれば、あっけないものだった。そんな気がするんだよな。」
そんなアイラの発言に、一同同意と言うかのようにコクコクと小さく頷いた。
◇◆◇
7月20日早朝、刃物使用によるN市駅前大量器物損壊事件の犯人は、 アイラの通報によって逮捕され、そのことは21日の新聞に小さく載っていた。
先日アイラは、犯人である男――“瀬川ユウマ”について、 ジムで神山アキラと顔を合わせたときに尋ねていた。アキラの話によると、瀬川ユウマはおそらく 心神喪失による犯行として不起訴処分になる可能性が高いという。
その他にも瀬川ユウマの為人を根掘り葉掘り聞きたいところではあるものの、警察官であるアキラには守秘義務がある。だが一つだけ、アキラはアイラに伝えた。
「犯人、瀬川ユウマは非常に神経質で、妄想癖がある人物だそうです。 取り調べ中もとてもおとなしくて、声をかける度にビクビクしていたと聞いています。」
その話からアイラは、 瀬川ユウマには“ネガティブ情報の生霊に憑かれやすい性格的基盤”があったのだろうと、 納得はできないが理解はした。
理解はした――だが納得できないのは、自分もこの事件の被害者であるという事実があるからだ。
アイラの愛車、フォード・クラウンビクトリア・ポリスインターセプターのタイヤは、 運が悪いと取り寄せに最長二ヶ月ほどかかることがある。いつも世話になっている店に問い合わせたところ、 運よく国内倉庫に在庫があるのを確認できたため先週中に交換はできたのだが――そのお値段、工賃込みで3万3千円。
なかなか手痛い出費である。
◇◆◇
「それで、アイラちゃん。例の生霊は、どう“成敗”したの?」
「成敗」と、先日のナミの言葉を借りて、カウンター越しから興味深そうに 目をクルクルさせながら聞いてくるシンジュ。 可愛い仕草が本当に三十代なのかと疑いたくなる。 二十四歳のナミと並んでも、同級生か歳の差二歳以内の友人にしか見えない。
「ははは、シンジュさん、それはもうさ…………」
含みのある笑いと意味ありげな笑顔でそう言ったアイラは、 話の続きを絶妙にじらす6.1901秒の沈黙を言葉の間に抛り込む。 その“間”が、カレン、ナミ、シンジュの三人を 続く言葉の興味へ【グググッツッツ】と前のめりに引き込んでいく。
「それももうさ、大霊界までガッツリ蹴飛ばして“成敗”してやったぜ。」
アイラの“成敗”という言葉に、一同は秒の間もなく、 そして声のトーンを抑えることなく大きな声で笑った。 前のめりに引き込まれることなく、カウンター内に【シャラーン】と立っていたアオイまで、 周りを囲む女性陣につられて笑っていた。
中でもカレンは、余程ツボにはまったようで、どこか息苦しそうだ。
だが、その笑い声とは対照的に―― 今頃、大霊界までアイラに蹴り飛ばされた「ネガティブ情報の生霊」は 大変な目に遭っていることだろう。 アイラが蹴り飛ばし、生霊の墜ちた場所がどこであろうとも――
そしてそれだけではない。生霊は“飛ばした主”とも“宿主”とも何らかのつながりを持つもの。 事件の犯人・瀬川ユウマ。そして、ユウマが「ネガティブ情報の生霊」に憑かれる原因となった滅亡予言動画の投稿主にも、何らかの影響が出ていることは間違いないだろう。
そのとき、アムリタの店内入り口の方から【タンタンタン】と階段を駆け上がる音が聞こえてきた。 どうやら、遅れて来たメンバーが到着したらしい。ドアベルが【カラカラーン】と音を立てて扉が開くと、そこにはいつもの様子とは少し違う彼女の姿があった。
「こんばんわー! ゴメンね遅れて!!」
天野レイア。市内企業に勤める会社員。 今日は日曜で本来休日なのだが、市内の様々なコミュニティに属する彼女は仕事とは別件でも日々忙しく、今日は22分遅れの合流となった。
いつも忙しくしていて、この日曜アムリタの会に参加できないことも多いレイア。 普段はフォーマルな服でばっちり固めた“仕事の出来る女”という雰囲気なのだが、 今日はなぜかカジュアルでラフな格好。 そして扉を開けての最初の一言も妙に元気だ。
元気なのは良いことなのだが―― その様子を一目見て、カレンとアイラの二人はあることを確信していた。
「やっぱりレイアさん、やりましたね。」
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。