終章:2026年7月26日日曜日・G県N市新町交差点「Barアムリタ」③
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
Kindle電子書籍「心(理×)霊カウンセラー」のスピンオフ第2弾 街の何でも屋。自称探偵・原アイラが今度は蹴っ飛ばす!? 「謎を解かない系探偵」が挑む1999年からの警告とは?
本文
=3=
時刻は十八時三十分〇六秒。 いつものメンバーが揃ったBARアムリタのカウンター席。
向かって左から、真城ナミ、黄泉野カレン、原アイラ、天野レイア。 カウンター越しには左に柴山アオイ、右に柴山シンジュ。 仕事中の柴山夫妻のグラスは炭酸水とミネラルウォーターだが、 カウンターに座る四人の前には、アオイが準備したそれぞれ好みのカクテルが並び、 乾杯後は女性陣の談笑に【パパパーン】と花が咲いている。
中でも普段になく目立つのは、レイアの上機嫌さだ。ロックグラスに注がれたウイスキー“響”に口をつけ、 その優雅な味わいを楽しむ姿は、 熟渋昇華(ダンディーズピーク)と対になる艶美到峰(ビューティーズピーク)というところに 【ト】と華麗に着地したように見える――今のところは。
女性陣の花咲く雑談が続いた九分五十九秒。 ここで、BARアムリタ店主・柴山アオイが、 この七月に起きた様々な出来事を総括する話を静かに始めた。
◇◆◇
どういうわけか、今回の事件を引き起こしていた 「現代に甦ったネガティブ情報の生霊」。 その根底にあった“滅亡系”の動画は一斉に削除された。動画が人の目に触れなくなったことで、 ひとまずしばらくは生霊の拡散もなくなり、 それに取りつかれる人もいなくなるだろう――とアオイは話す。
そんな彼の目が、【チラリフラリ】と何度かレイアを見ていることに、 誰もが気付いていた。 いや、それはむしろ“気付かせようとしている”ような素振りだった。
話を聞きながらロックグラスを傾けるレイアは、 アオイの視線に気づくと同時に、女性陣全員の目が 気持ち自分を【ソー】っと見ていることを感じ、 どこか意味ありげに【ニッコリニヤニコ】と“とてもいい笑顔”を浮かべていた。
(あー、レイアさん。やっぱりやったんだな。 何というか…はは、さすがだぜ。)
世の中で実際に起こりそうな出来事の中に、 自身の力を上手く忍ばせて、 誰にも“何らかの力が働いた”と悟らせないやり方は、 物事を腕力で解決するタイプのアイラには到底できないことだ。
それをいとも簡単に、そして大規模であっても 世間に怪しまれない形でやってしまうレイアに―― 言葉にしなくとも、アイラは流石としか言えなかった。
「だが、これで終わったわけじゃない。」
続いたアオイの言葉が、その場の空気を【ピリリ】とさせた。
1990年代。 経済の変化、世間の閉塞感が「終末論」を強調したオカルト情報の土台となり、 大なり小なり様々な事件・事故が起こることになった。
そして2020年代。 社会不安の時代に合わせるかのように、 終末論、陰謀論、滅亡予言という話は再び流行する。
「人類滅亡、大災害、逃げ場なし…… 不安を煽るような言葉で、人々に終末論を強く意識させる――」
人の認知という観点から見れば、 そうした流れから完全に逃れることは難しい。 だが、それを“ビジネスチャンス”と捉える人間が現れる限り、 滅亡予言を作り、不安を煽り、注目を集めて儲ける人間が現れる限り――ネガティブ情報の生霊はまた姿を現し、 再び、大なり小なり様々な事件を起こすことになるだろう。
「短い中で繰り返す、あまり好ましくない歴史ね。」
まき散らされた不安に充てられ、精神的に滅入ってしまい カウンセリング室を訪れた相談者たちの姿が、 カレンの記憶の中に浮かび上がる。
それは現在、新人カウンセラーとして彼女の下で働くナミにも、 カレンほど長い人生の中の“一時代”としてではないにしろ、 理解できるものがあった。
「何というか、これから先も思いやられる気がしちゃうね。」
アオイの隣でシンジュは【ヤレヤレダナァ】と肩をすくめ苦笑いを浮かべる。 アイラもそれにつられるように、その隣のレイアまでもつられるように 【ヤレヤレダナ】【コマッタモノネェ】と肩をすくめ、苦笑いを浮かべていた。
◇◆◇
「それでも、人は迷いながらも光を探し続ける存在でもある。」
その言葉と同時に、アオイは今度は隠すことなく、 “誰に向けているか”を全員に意識させるように視線を強調し、 カウンターの一番右―― カレン、アイラ、レイアから見れば一番左へと向けた。
それにつられるように、全員の視線は【ザッパーン】といっぺんにその方向へ向く。
そこに座っているのは、この集まりの最年少であり、 唯一の「この世の人間」。 ヨミノカウンセリング室の新人カウンセラー、真城ナミ。
「え? え?? えええ???? 何ですか皆さん!」
カウンターを囲む五人の注目をいっぺんに浴びたナミは、 その突然さだけでなく、話の流れから 「私、何か言わなきゃいけませんか!?」 という優しい圧のようなものを感じていた。
えっと、えっと、とアタフタしながら、 隣に座る歳の離れた友人であり、同じ職場で働く上司であり、仲間である 黄泉野カレンに(助けてー)と切実な目で訴えるナミ。だがカレンは、そんな様子に【ニッコリ】と微笑みを浮かべながら、 (がんばれー)と優しい視線のエールを送る。そんなカウンセラー師弟コンビのやり取りを、 微笑ましく見守る一同。
そしてナミは、ついに決心したのか――
「えっと……その、がんばります!!」
両手を前に、優しく拳を握って【ふんす】と答えるナミ。 そのかわいい様子と、一同期待の若者の「がんばります!!」という言葉。
具体的にどうする、そのために何を始める―― そんな説明ではなく、この一言に込められた彼女の気持ちが、 ナミを囲む五人、カレン、アイラ、レイア、シンジュ、アオイには とても心地よい響きとなって心に【ジィン】と沁みていた。
「へへ、期待しているぜ、ナミちゃん!」
そう言いながら、カレンの席の後ろへ身を乗り出し、 ナミの頭に手を伸ばして優しくポンポンと撫でるアイラ。 唐突続きにビックリしながらも、どこか照れるような微笑みを浮かべるナミ。
その様子を見守る皆の目にも優しい微笑みが浮かび、 BARアムリタの穏やかな夜の時間は、いつもと変わらない温度でゆっくりと刻まれていた。
◇◆◇
アイラたちが日曜のアムリタに18時頃集まっているのは、 その時間が開店時間だからという理由もある。 しかし、それだけではない。
18時。 世間一般的には「BARでゆっくりするにはまだ早い」と思われる時間帯。 まして日曜ともなれば、翌日の仕事を思い外に飲みに出る人も少ない。
そんなことから、この時間帯のアムリタ店内は比較的空いている。 いや、むしろ彼女たちの貸し切り状態になることが多い。
ナミを除く5人は 「この世の人」とは少し…いや、大きく違う事情を持っている。 聞かれて困る話を、人の多い時間帯にするわけにもいかない。 だからこその、この時間帯――という側面も持っているのだ。
そして現在時刻は、二十時。
アムリタ店内には今、アイラたち以外に二組の客がいる。 窓側のテーブル席では、本格BARに初めて入るのか、物珍しそうに店内を眺める若い男女三人。 そしてもう一方では、静かにグラスを傾け、 マッカラン12年・シェリーオークの香りと上質な甘さを楽しむ、 人生大ベテランの熟年男性二人。
十八時から二時間が経ち、それなりにお酒も回ってほろ酔いのアイラたち。 酒豪・真城ナミという例外はいるものの、 彼女たちからは【ほんわり】と“いい酒を楽しみました”という空気が、 誰が見ても分かるほど柔らかく漂っていた。
四人は会計を済ませ、それぞれ帰路につく。
レイアは明日から始まる忙しい仕事に向けて気を引き締め、 ナミは明日・明後日の定休日、友人とのランチツーリングに心を躍らせる。 カレンもナミと同じく明日・明後日は定休日。 登録している動画配信サイトの「サメ映画祭り」にほっこり癒される二日間。
そしてアイラは――
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