快眠スコア

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/5 📝 1,283文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと睡眠のスコアの話。

本文

 起床時刻、午前六時十七分。手首の端末が振動する前に、柊ひいらぎ蘭らんはすでに目を開けていた。

「――今日もアラームより早いね」

 寝室の天井に向かって呟くと、枕元の睡眠管理端末が淡く光る。〈スリープナビ〉。全校生徒の腕に装着が義務づけられている、あの箱型のセンサーだ。深部体温、心拍、寝返りの回数まで拾い上げ、毎朝「快眠スコア」という一つの数字にまとめて教師に送る。

 スコアが低ければ補習。

 これは分かる。寝不足で授業に出ても意味がないからだ。

 だが蘭には、もう一つ分からないことがあった。

 スコアが高すぎても、呼び出される。

 先週、七日連続で九十点を超えたときも、生活指導室に呼ばれた。

「柊さん、最近の生活、少し……乱れていない?」

 教師の言葉に蘭は面食らった。乱れていない。むしろ完璧に眠れている。それなのに「乱れ」と言われる理由が分からなかった。

 この日、蘭は放課後の教室で友人の深町ふかまち渚なぎさに相談した。

「高得点で怒られるとか、意味分からなくない?」

 渚は肩をすくめる。

「意味はあるんじゃない。数字そのものより、《《ばらつき》》が見られてるって聞いたことある」

「ばらつき?」

「毎日同じようにきれいな波形だと、逆に『不自然』判定されるらしいよ。人間の眠りって、本来ちょっとガタガタしてるものだから」

 蘭は昼寝の常習犯だった。授業中、上履きの中で指を動かして眠気と戦いながら、放課後にこっそり保健室で仮眠を取る。そうすれば夜のスコアだけは整えられる――そう思っていた。だが、渚の言葉が引っかかった。

 その夜、蘭は端末の設定画面を開き、めったに見ない「詳細ログ」に触れてみた。数値の奥、小さな注釈欄に、今まで気づかなかった一文があった。

〈本スコアは睡眠の質に加え、生活リズムの再現性を評価対象とする〉

 再現性。

 良くても悪くても、同じパターンを続けている生徒は「安定」ではなく「硬直」と判定され、逆に呼び出される。つまりこの制度が本当に見ているのは、眠りの質ではない。

 ――従っているかどうか、だ。

 補習に呼ばれれば「改善しよう」とし、高得点で呼ばれれば「乱そう」とする。どちらに転んでも、生徒は制度の指示に反応して自分の生活を書き換える。健康のためではなく、揺さぶられ続けること自体が目的だったのだと、蘭は気づいた。

 翌朝、蘭は保健室に向かわなかった。授業中の眠気も我慢しなかった。堂々と机に突っ伏し、涎を垂らして眠った。

 放課後、生活指導室に呼ばれる。

「柊さん、今日の記録、かなり乱れているけど……」

「知ってます」

 蘭は正面から教師を見た。

「わざとです。ちゃんと乱れてる方が、《《人間》》らしいんですよね?」

 教師は一瞬言葉に詰まり、それから小さく笑った。

「――そうだね。今日は指導、なしにしよう」

 教室に戻る廊下で、渚が待っていた。

「どうだった?」

「スコアなんてもう気にしない。ちゃんと、下手に眠ることにした」

 蘭は伸びをして、窓の外を見る。まだ午後の陽が高い。今夜もきっと、きれいな数字にはならないだろう。それでいい、と思った。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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