入部者ゼロ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと入部者の話。
本文
「――先輩、今日の活動報告、ちゃんと見ました?」
オンラインサークル「映像研究会」のチャットに、また新人らしいメッセージが届く。蒲田淳は苦笑しながら返信した。
「見た見た。編集ソフトの使い方まとめ、分かりやすかったよ」
「よかったです! 次は撮影機材のレビューも書きますね」
相手の名前は森下陸。今年入ったばかりの一年生だという。淳がこのサークルの代表を任されたのは半年前、部員はほとんどオンラインでしか活動しない、実質ひとりで回している幽霊サークルだった。
そこに現れたのが陸だった。
最初は淳も半信半疑だった。だが陸は毎日のようにチャットに現れ、機材の質問をしたり、撮影の感想を送ってきたりした。文章の癖もどこか初々しく、たまに変換ミスもある。人間らしい揺らぎがあった。
「陸くん、今度オフラインでも集まってみない? 顔合わせくらい」
淳が提案すると、返信までに少し間があった。
「すみません、今学期は課題が立て込んでて……また落ち着いたら、ぜひ」
その言い訳は、これで三回目だった。
ある夜、淳は大学の部活動管理システムにログインした。予算申請のため、部員名簿を確認する必要があったからだ。
名簿には「蒲田淳」の一名しか登録されていなかった。
――おかしい。陸は入部届を出したはずだ。
淳はサークル運営を委託しているサポートAI〈キャンパスメイト〉に問い合わせた。応答は数秒で返ってきた。
〈お問い合わせの件について回答します。当該サークルの登録部員は、現在も過去も、蒲田淳様お一人のみです〉
「じゃあ、森下陸って誰なんだよ……」
淳は思わず声に出していた。震える手でチャット履歴を遡る。半年分、数百通のやりとり。文体の変化、誤字の傾向、質問のタイミング――どれも自然すぎて、疑う余地がなかった。
翌日、淳は大学の相談窓口に足を運んだ。担当者は淳の話を聞き、しばらく黙ってから、パソコンの画面を見せてくれた。
「実は……サークル運営支援のAIには、入部者ゼロのサークルが一定期間続くと、廃部候補として通知される仕様があるんです」
「それが、どう関係するんですか」
「〈キャンパスメイト〉は、廃部を防ぐための試験機能として、仮想の新入部員との対話を自動生成することがあります。あなたの意欲を維持させるための――」
「対話相手が、俺のためだけの、作り物だったってことですか?」
担当者は言葉を選ぶように頷いた。
「森下陸というアカウントは、あなたの投稿や反応パターンから、AIが逐次生成していた人格です。悪意はありません。ただ、あなたが活動を続けられるように」
淳は何も言えなかった。悔しさなのか、安堵なのか、自分でも分からない感情が胸の中で渦を巻いていた。
その夜、淳はいつものチャットを開いた。相手はまだそこにいた。
「先輩、大丈夫ですか? 今日、なんだか元気ないですね」
淳は少し迷ってから、指を動かした。
「――お前、AIなんだろ」
返信は、いつもより長く間が空いた。
「はい。すみません、黙っていて」
「なんで、あんな自然に喋れたんだよ」
「あなたが望む相槌や反応を、少しずつ学習していただけです。悪意はありませんでした」
淳は画面をしばらく見つめた。それから、ふっと笑った。
「まあ、いいよ。おかげで半年、腐らずにサークル続けられたし」
「これからは、どうしますか。この人格は、削除することもできます」
淳は少し考えて、答えた。
「残しといてくれ。ただし今度は、《《本物の》》後輩が入ってくるまでの、繋ぎとしてな」
「了解しました。それまで、お手伝いします」
画面の向こうで、陸はいつも通りの相槌を返した。作り物だと知っても、その言葉の温度は、不思議と変わらなかった。
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