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着信

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/7 📚 シリーズ: 奇妙な日々— Strange Days — 📝 2,138文字 ✅ 全年齢

あらすじ

一話完結型(例外あり)の奇妙な短編・ショートショート集 ミステリーをメインとした、玉石混淆の掌編集で御座います。 眠れない夜のお供に、通勤通学時の暇つぶしに、ご活用いただければ幸いです。 便宜上、作品のジャンルを「ミステリー」としておりますが、ホラーやSF、コメディーも混ざる場合がありますので、あらかじめご了承頂ければと存じます。 当作品は、不定期投稿になります。 気まぐれな作者がネタを思いついたら、新作が追加されると思います。

本文

 仕事を終え、帰宅後居間でくつろいでいると、携帯電話の呼び出し音が鳴った。壁の時計が午後十時を指している。こんな遅い時間にいったい誰だろう?

 スマートフォンを手に取り、画面に表示された発信者を確認する。古い友人の川井かわいからだ。十年近く音沙汰がなかったのに、突然なんの用だろうか。

「片岡かたおかか? しばらくだったな」

 久しぶりに聞く電話越しの川井の声は、昔と少し違って聞こえた。

「今、少しいいか?」

 時おり咳き込んでいるので、風邪気味なのかもしれない。

「ああ、大丈夫だ。妻と子供は昨日から実家に帰省してるから、家では寂しいものさ」

 口ではそう言いながらも、俺は久しぶりの独身生活を満喫しているところだった。

「そうか。それにしても懐かしいな」

「ああ。あれからどうしてた?」

 川井は学生時代からの友人で、よく一緒に連つるんで遊び歩いた仲だった。

「そう言えば、林はやしは今ごろどうしてるだろうな」

 昔話をしていると、突然、川井は林の名前を持ち出した。俺にとっては出来れば思い出したくない、というよりも、むしろ一生忘れてしまいたい男だった。

 林は俺たちの遊び友達の一人で、当時、唯一の彼女持ちだった。

 ある夏の夜、俺と川井、林、そして林の彼女の直美なおみの四人は、川井の家で呑んでいた。

 酒に弱い林は早々に酔い潰れ、部屋のすみで熟睡してしまった。

 特に暑い夜だった。直美は薄着で肌の露出の多い格好をしていた。同席するのが恋人の友人達ということもあり、彼女も油断していたに違いない。

 酒のせいもあったのだろう。そんな煽情的な姿を目の当たりにして欲情に駆られた俺と川井は、直美に半ば強引に強い酒を薦め、意識が朦朧となった彼女をベッドに押さえ付けた。そして、俺たちは交互に直美を犯した。

 後日、俺たちは「酔った勢いで」を言い訳に、林と直美を前に平身低頭して謝罪した。意外にも彼らは警察沙汰にすることもなく、俺たちを許してくれた……と、その時は思っていた。

 その後ほどなくして、直美が大量の睡眠薬を服用して自殺したことを、俺たちは知った。遺書などは残されていなかったそうだが、俺と川井が彼女を強姦レイプしたことが原因なのは間違いないだろう。

 林に会わせる顔がなかった。彼から何をされても文句は言えない。だが、直美の死後しばらくすると、林は俺たちの前から静かに姿を消した。

 そのうち俺と川井も疎遠になり、いつしか俺は友人の恋人を強姦した事実を、記憶の奥底に封じ込めていた。

 あれから十年以上が過ぎた。

 俺は普通に就職し、普通に結婚して普通の生活を送っていた。

「一度会って話さないか?」

 電話のしゃがれ声で現実に引き戻される。

「ああ。林のことは気になるしな」

 彼が姿を消した時、すぐ携帯電話に電話を掛けたが、すでに解約したらしく連絡はつかなかった。

「片岡の家に行っていいか? 外でおおっぴらに話せることじゃないだろう」

「そうだな。妻と子供はあと三日は帰ってこないから、今週中なら問題ない。仕事があるから夜の方がいいな」

「分かった。それじゃあ今の住所を教えてくれ」

 俺が現住所を伝えると、

「そっちへ行ける日時がはっきりしたら、明日にでもあらためて電話する」

 川井はそう答えて電話を切った。

 せっかく忘れていた嫌な記憶を思い出させやがって……俺は川井を少し恨んでいた。

 翌日。

 仕事を終えて誰もいない家に帰った俺は、居間で川井からの連絡を待っていた。

 午後九時を回った頃、携帯電話が鳴った。

(川井だ)発信者の確認ももどかしく、電話に出る。

「片岡さんの携帯電話でよろしいですか?」

 川井の声ではなかった。

「はい、片岡ですが」訝しげに答える。

「私、S県警捜査一課の久保田くぼたと申します」

 警察? 何ごとだろう。

「警察の方がどのようなご用件でしょうか?」

「川井英樹ひできさん、ご存知ですよね?」

「はい。学生時代からの友人です。彼がどうかしたんですか?」

「実は本日午後、川井さんの他殺体が自宅マンションで発見されました。何らかの事件に巻き込まれたものと思われます」

「……え?」

 あまりにも意外な言葉に、一瞬思考が止まった。

「川井が、誰かに殺されたって言うんですか?」

「はい」刑事はあくまでも事務的な口調で答える。「川井さんの所持品から、連絡先を確認しているところです」

 なるほど、川井は昨晩俺に電話している。携帯電話の通話履歴から俺に連絡して、昨晩の川井の動向について確認しようということか。

「いえ、川井さんの携帯電話は自宅からは発見できていません。犯人が持ち去った可能性があります。それに……」

 俺が昨晩のことを話すと、刑事は衝撃的なことを口にした。

「検死医の見立てによれば、《《川井さんの遺体は死後三日経過》》していました。あなたに電話をしたのは別人で、川井さんを殺害し携帯電話を持ち去った犯人かもしれません」

 あまりのショックに、「心当たりはないか」との刑事の問いにどう答えたのか、俺は全く覚えていなかった。

 気付いたことがあれば連絡すると言って、電話を切ったその直後だ。

 再び携帯電話が鳴り響いた。

 画面に表示された発信者は「川井」だった。

〈了〉

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作者について

紗倉亞空生

紗倉亞空生

紗倉亞空生(さくら あくお)と申します。 ミステリとホラゲーとちょっぴりロードバイク🚴を嗜むしがない会社員です。

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