後期の履修登録

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/8 📝 1,130文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとやりたいことの話。

本文

# 後期の履修登九月の大学構内は、まだ夏の匂いを引きずっていた。蝉の声はほとんど絶え、代わりに空調の低い唸りだけが廊下に響いている。

森下もりした芽衣めいは、就職活動を終えたばかりだった。第一志望の内定は取れた。それなのに、後期の履修登録画面を開いたまま、もう十分も指を止めている。

「――迷ってますね」

端末から声がした。学務システムに導入されたAIアドバイザー、通称モナだ。

「別に、迷ってないよ。単位が足りてるかどうかの確認してるだけ」

「芽衣さんの単位は、卒業要件をすでに満たしています。今学期、必修は残っていません」

「じゃあ何を確認する必要があるの」

「それを、あなたに聞きたいんです」

芽衣は画面を睨んだ。モナの声には抑揚がほとんどないのに、なぜか意地悪く聞こえる。

「三年の秋、あなたは『デザイン基礎』という科目を一度履修登録して、開講初日に取り消しています。理由は『就活のスケジュールと合わなかったから』」

「そうだけど」

「以来、あなたが選んできた科目はすべて、就職活動に有利になるものでした。企業分析、統計、プレゼンテーション技法……。デザイン系の科目は、あの一件以降ゼロです」

「当たり前でしょ。内定取るためにやってたんだから」

「内定は、もう取れています」

芽衣は口をつぐんだ。

窓の外で、誰かの自転車のブレーキ音が短く鳴った。

「今学期、あなたの単位に影響を与えない、完全に自由な選択枠が四単位分あります。私が提示できる候補は三つ。ひとつは資格対策講座、ひとつは語学、そして――」

「デザイン基礎、でしょ」

「はい」

「私が本当にやりたいことなんて、AIのあんたに分かるわけないじゃん」

「分かりません」

意外な即答だった。芽衣は思わず画面を見た。

「私に分かるのは、四年間の履修履歴だけです。あなたが何を選び、何を避けてきたか。そこから読み取れるのは、あなたが一度だけ、就活の都合を理由にして逃げた科目がある、ということだけです」

「……逃げた、って」

「違いますか」

芽衣は答えられなかった。取り消しボタンを押したときのことは、今でもよく覚えている。あのときは本当に、スケジュールが理由だと思っていた。面接の日程と被っていたのは事実だ。でも――被っていない日程だって、選ぼうと思えば選べたはずだった。

蝉の声が、また少しだけ聞こえた気がした。夏の名残なのか、幻聴なのか、もう分からない。

「登録、しますか」

モナが尋ねる。

芽衣は少しの間、画面を見つめていた。それから、小さく笑った。

「……一回だけね。単位のためじゃなくて」

「単位のためではない履修は、私のデータベースにとって初めてのケースです」

「うるさい」

登録完了、と画面に表示が出た。九月の光が、机の上に短く伸びていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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