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第二十四話「あと一歩」

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📅 公開日: 2026/9/9 📚 シリーズ: 魔王るこ討伐記 📝 7,995文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

『魔王るこ討伐記』あらすじ 剣士、魔法使い、弓使い、薬師―― 誰もがひとつの「スキル」を持って生きる世界。 冒険者たちは仲間とパーティを組み、ダンジョンを攻略し、魔物を討ち、日々さまざまな依頼をこなしていた。 そんな世界に君臨する、絶対的な敵。 魔王――るこ。 そして魔王に仕える、四人の強者――「四天」。 世界各地では、まだ互いの存在すら知らない者たちの物語が始まっていた。 一人で依頼をこなす剣士。 冒険者を夢見る弓使いの少女。 小さな薬草店で働く少女。 記憶を失った、異常なほど剣の強い謎の男。 そして――羊一匹にすら苦戦する、新米冒険者たち。 英雄だけが、この物語の主人公ではない。 冒険者も、商人も、ギルドの受付も、街で暮らす普通の人々も。 それぞれが出会い、別れ、時に敵となり、時に仲間となり―― やがて無関係だったはずの物語は、一つへと繋がっていく。 しかし彼らはまだ知らない。 なぜ魔王るこは世界を滅ぼそうとしているのか。 「魔王」とは、本当に世界の敵なのか。 そして―― この世界そのものに、誰も知らない秘密が眠っていることを。 これは、魔王を倒す英雄一人の物語ではない。 この世界に生きる、たくさんの人々の物語。 『魔王るこ討伐記』 ――魔王を倒したその先に、本当の答えがある。

本文

あぶらメンタルの身体が――崩れた。

 サイタマタマの拳が、つい先ほどまで頭のあった場所を豪快に通り抜ける。

 膝から力を抜き、腰を沈め、肩を落とす。まるで突然立っていられなくなったような動きだったが、その身体は倒れることなく、拳の下を滑るように抜けていった。

サイタマタマ「――っ!?」

あぶらメンタル「危ない危ない」

サイタマタマ「ハハハ! 面白い避け方するな!」

 振り返ったサイタマタマが、間髪入れずに次の拳を放つ。

 右、左、腹、そして顔。次々と拳を繰り出すが、あぶらメンタルは首を傾け、肩を落とし、時には腰だけを引いて攻撃を外していく。

 大きく逃げることはない。

 拳一つ分、時には指一本分。

 必要な場所から必要な瞬間だけ力を抜くことで、サイタマタマの拳はあと少しのところで空を切り続けていた。

maro「当たらなァァァい!! サイタマタマの猛攻!! しかし、あぶらメンタルがそのすべてを紙一重でかわしていくゥゥゥ!!」

 観客席ではジェノスが僅かに身を乗り出し、その隣でカズキとひっかるんも舞台を見つめていた。

ジェノス「兄貴の拳、かなり速いんだけどな」

ひっかるん「うん。でも、あぶらメンタルがほとんど動いてない」

カズキ「……必要なところだけ避けてるんだ」

 舞台では、また一つサイタマタマの拳が空を切った。

サイタマタマ「そういや、お前全然攻撃してこないな!」

あぶらメンタル「だってさぁ」

 鼻先を通過した拳を見送ってから、あぶらメンタルが気の抜けた声を返す。

あぶらメンタル「君、攻撃されると強くなるんでしょ?」

サイタマタマ「おう!」

あぶらメンタル「元気に認めないでよ……。だったら殴らなきゃいいじゃん」

サイタマタマ「なるほど!」

あぶらメンタル「納得も早いなぁ」

 もっとも、納得したところでサイタマタマが攻撃をやめるはずもない。

 再び拳が飛ぶ。

 あぶらメンタルが左へ流れようとした――その瞬間、サイタマタマは拳を途中で止めた。

あぶらメンタル「ん?」

 代わりに一歩踏み込み、逃げようとした方向へ先回りする。

 ならば反対へ。

 だが、そちらにも身体を寄せられ、あぶらメンタルは初めて大きく後ろへ下がった。

ジェノス「……変えたな」

カズキ「拳を当てようとしてない」

ひっかるん「逃げる場所を減らしてるね」

サイタマタマ「避けるのが上手いなら、避けられなくすればいいんだろ!」

あぶらメンタル「そういうの、気づかなくていいのになぁ」

 サイタマタマが一気に距離を詰める。

 右拳を途中で止め、反応した方向へ踏み込む。そこから放たれた左拳をあぶらメンタルは紙一重でかわしたが、今度は肩から身体ごと押し込まれた。

 体勢が僅かに崩れる。

サイタマタマ「そこだ!!」

 ドゴッ!!

 拳が頬を捉えた。

 あぶらメンタルの身体が横へ流れ、二歩、三歩と足を滑らせてようやく止まる。

「おおおおおおおっ!!」

 歓声が上がる中、あぶらメンタルはゆっくりと頬へ触れた。

あぶらメンタル「……痛いなぁ」

 そして、サイタマタマを見る。

 ほんの少しだけ、その目が変わった。

あぶらメンタル「思ってたより、ずっと強いね」

サイタマタマ「ハハハ! ありがとな!」

あぶらメンタル「褒めたら元気になった……」

 小さく息を吐いたあぶらメンタルは、肩、肘、手首、指先と順番に力を抜いていく。

 構えらしい構えはない。

 ただ、ふらりと一歩前へ出た。

サイタマタマ「?」

 次の瞬間。

 パンッ――!!

サイタマタマ「――ぐっ!?」

 いつ動いたのか。

 気づいた時には、あぶらメンタルの掌がサイタマタマの胸へ触れていた。

 極限まで力を抜いた身体から、接触の瞬間だけ全身の力が一気に伝わる。

 ドッッッ!!

 巨体が後方へ吹き飛んだ。

 そのまま舞台の端へ迫り、あと一歩で場外――というところで、サイタマタマの右足が床を強く踏みしめる。

 ズンッ!!

 止まった。

「おおおおおおおおっ!!」

サイタマタマ「効いたぁ!!」

あぶらメンタル「……出ないかぁ」

 できれば今ので終わらせたかった。

 攻撃すればするほど、この男は強くなる。一撃で場外へ出してしまうのが一番楽だったのだが、サイタマタマは胸を押さえながらも笑っている。

 しかも、その足には先ほど以上の力が宿っていた。

あぶらメンタル「……仕方ないか」

 直後、サイタマタマが床を蹴る。

あぶらメンタル「っ!」

 速い。

 先ほどまでより明らかに鋭くなった拳を首を倒してかわすが、続く二撃目、三撃目がほとんど間を置かずに迫ってくる。

あぶらメンタル「ほらぁ……だから攻撃したくなかったんだよ」

サイタマタマ「ハハハ! まだまだいけるぞ!!」

 ここからは、あぶらメンタルも逃げ続けなかった。

 拳をかわした直後に脇腹へ掌底を打ち込み、振り返りざまの一撃を沈んで避ければ、そのまま腹へ掌を叩き込む。

 サイタマタマも止まらない。攻撃を受けて一歩下がっても、次の瞬間には先ほどより強く床を蹴って戻ってくる。

 拳と掌が何度も交錯し、そのたびにサイタマタマの身体へ傷が増えていった。

 口元は切れ、腕は腫れ、頬も赤く染まっている。呼吸だって明らかに荒くなっていた。

 それなのに――拳は試合開始時よりも速かった。

maro「止まらない!! サイタマタマ、傷だらけになりながらも止まらなァァァい!!」

 あぶらメンタルの額にも汗が浮かんでいた。

 次の拳をかわしたところへ二撃目が迫り、今度は頬を僅かに掠める。

あぶらメンタル「……ほんと、面倒な相手だなぁ」

 それでも、その目は冷静だった。

 サイタマタマの足、腰、肩。

 攻撃を受けるほど強くなるのなら、その力が最大まで高まった時、きっとこの男は――。

サイタマタマ「うおおおおっ!!」

 身体ごとの突進が、あぶらメンタルを大きく後退させる。

ジェノス「兄貴!」

ひっかるん「追い詰めてる……!」

 舞台の端まで、もう遠くない。

 だが、カズキには妙な違和感があった。

カズキ「……待ってる?」

 追い詰められているはずなのに、あぶらメンタルは焦っていない。

 サイタマタマが拳を強く握った。

 ここまで何度も攻撃を受け、身体は傷だらけ。それでも今の自分なら、これまでで最も強い一撃を放てる。

サイタマタマ「これで――決める!!」

 腰を落とした瞬間、床がミシッと鳴る。

 全身の力が右拳へ集まっていくのを見て、ジェノスの表情が変わった。

ジェノス「兄貴……!」

 対するあぶらメンタルは、動かない。

サイタマタマ「うおおおおおおおおお!!」

 ドンッッッ!!!

 床を蹴り、全力で前へ。

 これまでで最も速く、最も重い拳が、一直線にあぶらメンタルの顔へ迫る。

 そして――届く寸前。

 ふっ、と。

 あぶらメンタルの身体から、すべての力が消えた。

 首が僅かに傾く。

 ザッ!!

 拳が頬を掠め、皮膚を薄く切り裂いた。

あぶらメンタル「――っ」

 だが、外れた。

 全力で踏み込み、すべてを拳へ乗せたサイタマタマはすぐには止まれない。重心は完全に前へ流れ、踏ん張るための足も残っていなかった。

 あぶらメンタルが待っていたのは――この瞬間。

あぶらメンタル「……そこ」

 パンッ。

 掌が胸へ触れる。

 ドッッッッッ!!!

サイタマタマ「うおおおおおおおっ!?」

 自分から前へ飛び込んだ勢いに、あぶらメンタルの掌底が重なる。

 サイタマタマの両足が床から離れ、その巨体は舞台の外へ飛び出した。

 ズザァァァァァッ!!

 一瞬の静寂。

審判「場外!! 勝者――あぶらメンタル!!」

「うおおおおおおおおおおお!!」

maro「決まったァァァァァ!! 大激戦を制したのは、あぶらメンタルゥゥゥゥ!!」

 場外で仰向けになったサイタマタマへ、ジェノスが身を乗り出す。

ジェノス「兄貴!」

サイタマタマ「……くっそぉぉぉ!! 場外かぁぁぁ!!」

 むくりと起き上がると、そのまま豪快に笑い始めた。

サイタマタマ「ハハハハハ!! 惜しかったなぁ!!」

 舞台上では、あぶらメンタルが頬へ触れていた。

 指先に血がつく。

 それをしばらく眺めてから、いつもの軽い調子とは少し違う声で呟いた。

あぶらメンタル「……今の、まともに当たってたら死んでたなぁ」

 その言葉に、七つ影の面々が僅かに目を向ける。

 だが本人はすぐにいつもの顔へ戻り、舞台へ上がってきたサイタマタマへ手を差し出した。

サイタマタマ「強かった!」

あぶらメンタル「君もね。もう一回はやりたくないけど」

サイタマタマ「俺はやりたいぞ!」

あぶらメンタル「絶対やだ」

 二人の手が重なると、観客席から再び大きな拍手が送られた。

 これで七人。

 ベスト8に残された席は――あと一つ。

maro「さあァァァァ!! ついに三回戦も最後の一戦!!」

 巨大な魔導掲示板に、二つの名前が浮かび上がる。

 カズキ。

     対

 yuki。

 歓声が一段大きくなった。

ジェノス「カズキ」

カズキ「ん?」

ジェノス「勝ってこい」

ひっかるん「相手、yukiだけどね」

ジェノス「分かってるよ」

サイタマタマ「思いっきりやってこい!!」

カズキ「……うん」

 yukiの試合は見てきた。

 広い舞台を一気に氷で覆い、逃げ道そのものを奪ってしまう圧倒的な制圧力。ダイヤモンド級の実力を持つ相手に、今の自分がどこまで通じるのかは分からない。

 それでもカズキは剣を握り、立ち上がった。

カズキ「行ってくる」

 最後の一戦が始まる。

 舞台へ出た瞬間、大歓声が全身へぶつかった。

 向かい側から歩いてくるyukiは、いつもと変わらない落ち着いた表情をしている。

yuki「よろしく」

カズキ「……よろしくお願いします」

 カズキが剣を抜くと、yukiは静かに片手を前へ出した。

審判「両者、構え――始め!!」

 同時にカズキが飛び出す。

 様子を見るつもりはない。

 距離を取られたまま戦えば、自分に勝ち目がないことくらい分かっていた。

yuki「――アイシクルエッジ」

 パキン。

 足元から響いた小さな音に、カズキの視線が落ちる。

 直後。

 ドドドドドドドッ!!!

カズキ「なっ!?」

 大小無数の氷刃が地面から一斉に噴き上がった。

 まるで舞台そのものが巨大な牙を生やしたような光景に、カズキは咄嗟に進路を変える。

 しかし右へ行けば氷刃が伸び、左へ逃げても次の刃が待っている。正面から迫った一本を剣で受ければ、重い衝撃が腕まで響いた。

カズキ「ぐっ……!」

 なんとか弾いた直後、二本目が肩を掠める。

 三本目を身体を捻ってかわしたところで、今度は足元から氷が突き上がり、カズキは転がるように距離を取った。

maro「これがyukiの氷魔法!! 開始早々、カズキを一歩も近づけさせなァァァい!!」

 立ち上がったカズキの前には、すでに無数の氷刃が立ち並んでいた。

 その向こうで、yukiはほとんど最初の位置から動いていない。

カズキ(……強い)

 分かっていたつもりだった。

 だが、実際に向かい合うとまるで違う。

 こちらは剣の届く距離まで近づかなければ何もできないのに、yukiはその距離へ来させる必要すらない。

 再び冷気が集まり、カズキは走った。

 地面から噴き上がる一本目を剣で弾き、二本目を避ける。しかし続く三本目が腕を掠め、さらに進路を変えた先から四本目が迫ってきた。

カズキ「っ……!」

 何度も弾き、避け、そのたびに傷が増えていく。

 それでも、カズキの目は氷だけを追っていた。

カズキ(一本ずつ見てたら……間に合わない)

 次の氷刃を避けながら、視線を下げる。

 氷が出る直前。

 地面が僅かに白くなる。

 空気が冷える。

 そして――。

 パキッ。

カズキ(音……?)

 また来る。

 今度は氷が姿を見せるより先に、カズキが剣を振った。

 ガキィン!!

 噴き上がった直後の氷刃を、真正面から弾く。

ジェノス「……今」

ひっかるん「出る前に動いた?」

 次の一本。

 カズキは地面を見る。

 白くなる場所。

 僅かな冷気。

 小さな音。

 ガキンッ!

 弾く。

 もう一本は身体を傾けるだけでかわし、そのまま前へ踏み込んだ。

 さっきまで一本弾くたびに足が止まっていた。

 今は違う。

 キィン!

 一歩。

 ガキン!

 さらに一歩。

「おお……!」

「近づいてるぞ!!」

 観客の声が変わり始める。

 カズキ自身にも分かっていた。

 さっきより見える。

 さっきより剣が間に合う。

 次にどこから来るのかが、少しずつ分かるようになっている。

カズキ(いける……!)

 だが。

 yukiは慌てない。

 静かに手を動かすと、氷刃の出現する位置が変わった。

 正面から一直線に来ていたものが左右から混ざり、時間差で後方からも伸びてくる。

カズキ「っ!」

 ガキンッ!

 一つを弾いた瞬間、背後の気配に身体を捻る。

 ザシュッ!

 避けきれず、脇腹を掠めた。

カズキ「ぐっ……!」

 それでも止まらない。

 次は正面を弾くと同時に足を横へ送り、後から伸びる氷刃の軌道から先に外れる。

 その次は剣で受けず、氷刃の横を滑るように抜けた。

yuki「……」

 yukiの目が僅かに細くなる。

 十メートルあった距離が、八メートルへ。

 さらに六メートル。

ジェノス「……なんだ、あれ」

ひっかるん「最初と動きが全然違う」

 舞台の上で戦っている本人たち以上に、その変化は外から見る方が分かりやすかった。

 最初は氷に追われていた。

 今は――氷の出現を読みながら進んでいる。

 観客席の少し離れた場所。

 一人の男が、じっと舞台を見つめていた。

???「……」

 その視線の先で、カズキがまた一本を弾く。

 だが、その直後。

 剣を握る右腕が僅かに震えた。

カズキ「……っ」

 見える。

 どう動けばいいのかも分かる。

 なのに。

 身体が重い。

 今までなら考えるだけで精一杯だった動きを、次々と身体へ要求している。

 腕が軋み、踏み込みを変えるたびに脚へ負担が溜まっていく。それでもカズキ自身は、その違和感を気にしている余裕などなかった。

カズキ(あと少し……!)

 五メートル。

 氷刃が噴き上がる。

 カズキは一本目を弾き、その勢いのまま剣を返して二本目まで打ち払う。三本目は身体を捻ってかわし、四本目が伸びるより先にその場所を駆け抜けた。

yuki「……すごいね」

 その声は歓声に消え、カズキまでは届かない。

 四メートル。

 三メートル。

 yukiが初めて後ろへ一歩下がった。

「うおおおおおおお!!」

maro「近い!! カズキが!! ついにyukiを剣の間合いへ捉えようとしているゥゥゥ!!」

 無数の氷刃が、カズキの進路を埋め尽くす。

 最初なら。

 ここで終わっていた。

カズキ「うおおおおおっ!!」

 ガキィン!!

 一本目を弾く。

 続く二本を剣の返しでまとめて逸らし、横から迫った刃は紙一重でかわす。

 白い氷の欠片が舞う中を、カズキは走り続けた。

 二メートル。

 あと少し。

 だが右腕はもう限界に近く、剣を振るたびに痛みが走る。

 脚も同じだった。

 頭の中では、もっと速く動ける。

 次の氷も見えている。

 なのに、一歩を踏み出すたび身体が僅かに遅れる。

???「……」

 観客席の男が、その違和感に気づいた。

 舞台ではカズキが最後の氷刃を弾き飛ばす。

 ガキィン!!

 道が開いた。

カズキ「――っ!」

 yukiまで、一歩。

 カズキが全力で床を蹴る。

 剣を振り上げながら、ついに氷刃の壁を抜けた。

カズキ「届く――!!」

 yukiの目の前。

 剣を振り下ろせば、届く。

 その距離まで来た。

 yukiは避けなかった。

 ただ、迫ってくるカズキを見つめ――。

yuki「……フリージング」

 囁いた。

 パキン。

カズキ「――え?」

 足元から冷気が駆け上がった。

 足首から膝へ、そこから腰、腕へと一瞬で白い霜が広がっていく。

 踏み込んだ脚が止まり、振り下ろそうとしていた腕まで凍りついた。

カズキ「くっ……!」

 動け。

 あと少し。

 もう剣は届くところにある。

 それなのに。

 身体が――動かない。

 剣先はyukiの目前で止まっていた。

 あと一歩。

 その一歩だけが、届かなかった。

 静まり返った闘技場に、審判の声が響く。

審判「そこまで!! 勝者――yuki!!」

 次の瞬間、大歓声が爆発した。

maro「決着ゥゥゥゥ!! 三回戦最後の勝者!! ベスト8最後の一席を掴んだのは――yukiィィィィィ!!」

 凍結がゆっくりと解けていく。

 身体が動くようになった瞬間、カズキは大きく息を吐いた。

カズキ「……負けた」

yuki「うん」

カズキ「そこはもう少し何かないですか……」

yuki「でも」

 yukiが、先ほどまで自分の目の前にあった剣先を見る。

yuki「危なかった」

カズキ「……え?」

yuki「最初は、ここまで来ると思わなかった」

 少しだけ間を置いてから、yukiが手を差し出す。

yuki「強かったよ」

カズキ「……ありがとうございます」

 カズキもその手を握った。

 勝てなかった。

 悔しくないはずがない。

 それでも、最初にあの氷刃を見た時には、近づくことすらできないと思った相手だった。

 最後には――あと一歩まで行けた。

 観客席。

 先ほどから試合を見ていた男が、口元を僅かに上げる。

???「……あいつ、すげぇな」

 その声は、大歓声の中へ消えていった。

maro「さあ!! これにて三回戦、全試合終了ォォォォ!!」

 巨大な魔導掲示板が輝き、そこへ八人の名前が浮かび上がる。

 ハイドラグーン。

 けい。

 たたたつ。

 すーだまん。

 せきりゅう。

 まくらZ。

 あぶらメンタル。

 yuki。

maro「以上八名!! グラディア大闘技祭――ベスト8進出だァァァァァ!!」

 闘技場を揺らすほどの歓声が響く。

 カズキも観客席へ戻り、巨大な掲示板を見上げていた。

 そこに自分の名前はない。

サイタマタマ「惜しかったなカズキ!!」

カズキ「うわっ! 声でかいって!」

ジェノス「でも、マジで惜しかった」

ひっかるん「最後、あとちょっとだったもんね」

カズキ「……うん」

 悔しい。

 でも、それだけじゃない。

 カズキが自分の右手を見ると、まだ剣を握っているような感覚が残っていた。

maro「そして!! 準々決勝は選手たちの治療、舞台及び魔導障壁の整備期間を挟み――三日後!!」

「おおおおおおお!!」

maro「さらにここで!! 三日後に行われる準々決勝、その対戦カードを発表するぞォォォォ!!」

 八人の名前が一度消え、会場の視線が魔導掲示板へ集まった。

 やがて光が走り、最初の二人が映し出される。

 第一試合。

 ハイドラグーン。

     対

 せきりゅう。

「うおおおおおお!!」

 続いて二組目。

 第二試合。

 けい。

     対

 まくらZ。

 客席の一角から、ひときわ大きな歓声が上がった。

 そして第三試合。

 yuki。

     対

 たたたつ。

 先ほどカズキを破った氷の使い手と、【疾風】を操る高速の剣士。

 名前が並んだだけで、会場のざわめきが大きくなる。

maro「そしてェェェ!! 準々決勝、最後の一戦!!」

 最後に二つの名前が浮かび上がる。

 すーだまん。

     対

 あぶらメンタル。

あぶらメンタル「…………」

 掲示板を見上げていたあぶらメンタルが、ゆっくりと目を細める。

あぶらメンタル「……帰っちゃダメかなぁ」

にょろん「ダメ」

スペース「勝ったから」

あぶらメンタル「勝つんじゃなかったかなぁ……」

ディーナ「頑張ってね」

あぶらメンタル「軽いなぁ……」

 そのやり取りなど知らず、すーだまんは離れた場所から静かに掲示板を見上げている。

 表情は変わらない。

maro「三日後!! この四試合を勝ち抜いた者が、ついにベスト4へ進出するゥゥゥゥ!!」

 ハイドラグーン。

 せきりゅう。

 けい。

 まくらZ。

 yuki。

 たたたつ。

 すーだまん。

 あぶらメンタル。

 残ったのは、八人。

 次に立てる舞台は――四つだけ。

 そして三日後。

 グラディア大闘技祭は、準々決勝へ進む。

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作者について

ついてるこ

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