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クロックワーク・メイド

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/10 📚 シリーズ: 奇妙な日々— Strange Days — 📝 1,058文字 ✅ 全年齢

あらすじ

一話完結型(例外あり)の奇妙な短編・ショートショート集 ミステリーをメインとした、玉石混淆の掌編集で御座います。 眠れない夜のお供に、通勤通学時の暇つぶしに、ご活用いただければ幸いです。 便宜上、作品のジャンルを「ミステリー」としておりますが、ホラーやSF、コメディーも混ざる場合がありますので、あらかじめご了承頂ければと存じます。 当作品は、不定期投稿になります。 気まぐれな作者がネタを思いついたら、新作が追加されると思います。

本文

 小高い丘の上に建つそのお屋敷は、まるで欧州ヨーロッパの古城のようでした。

 長い年月、風雪に耐えてきた白い石造りの壁は、そのほとんどが蔦つたで覆われています。それでも瀟酒しょうしゃな佇まいは、絵画や絵葉書などで目にする有名なお城と比べても、何ら遜色はございません。

 芝生の緑が眩しいその庭園には、たくさんの家具や調度品が運び出されています。どうやら引越しの最中のようです。

 お屋敷の主人あるじでしょうか、杖を手にしたひとりの年老いた男性が、大勢の使用人を指揮しています。彼の指示どおり、大荷物を抱えた使用人たちは額に汗しながら、お屋敷と庭園の間を忙せわしく行き来しています。

 そんな様子を、少女はお屋敷の二階の窓から見下ろします。メイド服を身にまとった彼女も、もちろん使用人のひとりです。ですが、彼女は階下の作業には加わりません。と言うのも、主人から「おまえはこの部屋にいるように」と命じられているからなのです。

『ご主人様のお役に立ちたい』

 少女は思います。ですが主人の命令は絶対です。彼女はこの部屋で待機するほかありませんでした。

 彼女がこのお屋敷に仕えて、どれほどの年月が経ったでしょう。主人がまだ子供だったころ? いいえ、そのさらにもっと昔から、彼女はお屋敷を守ってきました。

『――そうか』

 窓から庭園を眺めていた少女の脳裏に、ある考えが浮かびます。

 私はこれまで、ずっと長くこの屋敷に仕えてきたのだ。どの使用人よりも長く。きっとご主人様は、このような物を運び出すだけの些細な仕事は私には不似合いであると判断して私を外したのだ。そう、私はほかの使用人たちとは違うのだ、と。

 程なくして、庭園での作業が終了しました。数台の大きな車がやってきて、荷物を全て運び去って行きました。

 太陽は大きく傾き、はるか彼方の山の稜線に隠れようとしています。少女のいる部屋も、徐々に暗くなっていきました。

『そろそろ明かりを点けなければ』

 彼女は部屋の出入り口へ向かおうとします。ところがどうしたことでしょう、脚が動きません。

『アレ……?』

 それどころか、頭も朦朧とします。意識がだんだんと遠のいていきます。

『ゴ、主人、サ、マ……』

 やがて、長年お屋敷に仕えてきた機械仕掛けの侍女は、その寿命をまっとうし、全ての機能を停止しました。

 あれからどれほどの年月が流れたでしょう。

 あのお屋敷では、何もない部屋の中で昔と変わらない姿の少女が、静けさの中で今もなお主人が迎えに来るのを待っているのでした。

〈了〉

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作者について

紗倉亞空生

紗倉亞空生

紗倉亞空生(さくら あくお)と申します。 ミステリとホラゲーとちょっぴりロードバイク🚴を嗜むしがない会社員です。

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