【39番外】 歌うパチンコ台たち
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
午後の時環遊技場。
店主はカウンターの奥で、従業員アンドロイドの音声データを更新していた。
「最近、店内アナウンスの種類が増えましたからね。ちょっと整理しておきましょうか」
営業時間の案内、台の呼び出し、遊技上の注意、閉店のお知らせ。
長年使い続けてきた音声データには、少しずつ追加されたものが積み重なっている。
店主は古いデータを確認しながら、必要なものだけを新しい音声データベースへ移していった。
「はい。これで大丈夫でしょう」
「音声データの更新を確認しました」
従業員アンドロイドが立ち上がる。
「では、発声テストをお願いします」
「承知しました」
一拍。
「Daisy, Daisy, give me your answer do……♪」
店主の手が止まった。
「…………」
従業員アンドロイドは、そのまま何事もなかったように歌い続ける。
「I’m half crazy, all for the love of you……♪」
店主はゆっくり顔を上げた。
「……あのう」
「はい」
「今、歌いましたよね?」
「はい。発声テストです」
「いやぁ、発声テストなのは分かるんですけどね。どうしてデイジー・ベルなんでしょう?」
「確認します」
従業員アンドロイドが数秒ほど停止する。
「……原因不明です」
「そうですかぁ」
店主が音声データを確認していると、少し離れたところで遊技していたDJ-Spinが振り返った。
「その曲、気になるから調べてみていいですか?」
「どうぞ」
DJ-Spinはホログラム端末を空中に展開した。歌声を拾わせると、すぐに曲名が表示される。
DAISY BELL(BICYCLE BUILT FOR TWO)
「Daisy Bell……?」
DJ-Spinが検索結果を読み進める。
「……え?」
さらに画面をスクロールする。
「これ、めちゃくちゃ昔の曲じゃん!」
店主が画面を覗き込む。
「そうみたいですねぇ」
「十九世紀!???」
DJ-Spinはさらに検索結果を読む。
「……あ。これ、1961年にコンピューターが歌った記録があるんだって」
DJ-Spinは少し意外そうに従業員アンドロイドを見る。
「へえ。コンピューターが歌った、すごく昔の歌なんだ」
その話を聞いていた常連客が、遊技台から顔を上げた。
「何の話?」
「すごく昔の歌らしいですよ」
近くの常連ロボットも、ホログラム端末を覗き込む。
「コンピューターが歌った?」
「そう。かなり古いコンピューター」
「へえ……」
その声を聞きつけ、ほかの客たちも集まってくる。初めて来た客たちは、何事かと周囲を見回していた。
「何か始まったんですか?」
皆がざわざわし始めたその時。店の奥から、小さな電子音が聞こえた。
「Daisy……♪」
全員が振り返った。一台の古いパチンコ台。誰も触っていない台のスピーカーから、もう一度。
「Daisy, Daisy……♪」
「…………」
DJ-Spinが目を見開く。
「え?」
店主も台を見る。
「……歌いましたねえ」
常連ロボットが台の横まで移動する。
「この台に歌唱機能はあったか?」
「ありませんねぇ」
初めて来た客が台を指差す。
「……パチンコ台が歌った?」
「そうみたいですね」
「なんでそんなに落ち着いてるんですか!?」
店主は少し困ったように笑った。
「いやぁ、私も驚いてますよ」
その時。別の台から声がした。
「……give me your answer do……♪」
「また!?」
さらに奥の台が続く。
「I’m half crazy……♪」
「増えた!」
一台。また一台と、古いパチンコ台のスピーカーから、次々と歌声が聞こえ始める。
同じ曲なのに、音程もテンポもばらばらだ。
「Daisy……♪」
「Daisy, Daisy……♪」
「……all for the love of you……♪」
店内が一気に騒がしくなる。
「何これ!?」
「故障じゃないのか?」
「いや、隣の台も歌ってるぞ!」
「ちょっと待って、私の台まで!?」
常連客たちは笑いながら台を見回し、常連のロボットやアンドロイドたちは、それぞれの音声ログを確認し始めた。
初めて来た客たちは、完全に置いてきぼりだった。
「店主さん!」
「はい?」
「これ、普通なんですか!?」
店主は歌い続ける台を眺めた。
「いやぁ……これは私も初めてですねぇ」
「初めて!?」
DJ-Spinは、そんな騒ぎの中でもホログラム端末を操作していた。
「待って。これ、さっきの話と関係あるんじゃない?」
「さっきの話?」
「コンピューターが歌った曲でしょ?」
DJ-Spinは店内を見回した。パチンコ台の中には、昔の制御基板や音声回路が組み込まれているものもある。
「……この子たちも、コンピューターじゃん」
店主が一瞬、黙った。
そして歌っている台を見る。
「……そうですねえ」
一台の台が、
「Daisy, Daisy……♪」
と歌う。その隣の台が、
「Give me your answer do……♪」
と続けた。
DJ-Spinが嬉しそうに笑う。
「もしかして、仲間だと思ってるのかな?」
「さあ……どうでしょうねえ」
店主は歌っている台を眺めながら、少しだけ笑った。
「コンピューター同士、何か通じるものがあったのかもしれませんねえ」
しばらくすると、歌声は何事もなかったように止まった。
店内には、何とも言えない静けさが戻る。初めて来た客たちは、まだ呆然としている。
「……今の、何だったんですか?」
「私にも分かりませんねぇ」
店主はそう答えながら、少し楽しそうに笑った。
その横で、DJ-Spinは満足そうに録音データを確認していた。
「よし。全部録れた」
「全部ですか?」
「はい。台ごとにちょっとずつ違ってて面白いんです」
DJ-Spinは録音データを再生する。
「Daisy……♪」
「Daisy, Daisy……♪」
「……give me your answer do……♪」
「これ、今度のライブで使おうかな」
「まあ、お客さんが楽しむのなら、いいんじゃないですかねぇ」
「やった!」
その日の閉店時間。
店内に蛍の光が流れ、最後の客が帰っていく。
従業員アンドロイドが閉店処理を終えた。
「本日の営業は終了いたしました。ご来店、ありがとうございました」
店主が照明を落とす。
「今日は変な一日でしたね」
「はい」
「明日には直ってるといいですね」
「そうですね」
店主はカウンターへ戻りながら、今日のことを思い返していた。
古い歌。十九世紀の曲。それを歌ったアンドロイドと、パチンコ台。
そして、その歌を録音して明日のライブで使おうとしているDJ-Spin。
「……ふふ」
店主は小さく笑った。
そのまま何気なく、鼻歌を口ずさむ。
「Daisy, Daisy……♪」
数歩進んだところで、店主の足が止まった。
「…………」
自分が何を歌っていたのかに気づく。
「あら」
店主は少しだけ照れくさそうに笑った。
「私まで歌ってましたねぇ」
そう言って、今度こそカウンターへ戻っていった。
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