風、凪ぐ頃9
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あらすじ
学科は満点、実技が苦手 そんな悩みが卒業試験で露呈、不合格になってしまった凪 補習過程に移行した彼に待っているのは…… アマツを母とする戦後170年の物語。
本文
第四十話 嵐の前
十月。
午後五時四十分。
第七戦隊メガフロート基地。
水平線の向こうを、黒い雲がゆっくりと覆っていく。
風速は毎分ごとに増し、波も高くなり始めていた。
基地全域へ防災配備が発令される。
『各部署、防災第二配備へ移行。』
『飛行隊は全機格納。』
『整備隊は係留作業を開始してください。』
『通信隊は非常用回線へ切り替え。』
館内放送が落ち着いた声で繰り返される。
誰一人、慌てる者はいなかった。
◇
格納庫。
《ハヤテ》が一列に並び、整備員たちが固定作業を進めている。
車輪止め。
固定ワイヤー。
関節ロック。
人工筋肉の待機処理。
一つでも手順を間違えれば、暴風で機体が損傷する恐れがある。
「固定完了。」
「次。」
短い声だけが飛び交う。
凪も整備員と共に作業へ加わっていた。
「ワイヤーテンション、確認します。」
「よし。」
整備主任が頷く。
「もう一段締める。」
「了解。」
◇
司令部。
巨大なスクリーンには台風進路が映し出されている。
黒瀬司令は各部署から届く報告へ目を通していた。
「飛行隊。」
『全機格納完了。』
「整備隊。」
『固定作業、九十五パーセント。』
「通信隊。」
『非常電源へ切替完了。』
「医療班。」
『受け入れ準備完了。』
黒瀬は静かに頷く。
「予定どおりだ。」
◇
その頃。
凪は通信室へ資材を運び込んでいた。
予備端末。
非常用電源。
携帯通信機。
発電機。
一つずつ所定の位置へ配置する。
通信隊員が笑った。
「ありがとう。」
「助かるよ。」
「いえ。」
「任務です。」
「その任務がありがたいんだ。」
通信隊員はそう言って、再び端末へ向かった。
◇
夜。
午後八時。
雨が降り始める。
基地を叩く雨粒は次第に大きくなり、窓ガラスを激しく打ち始めた。
宿舎の廊下では、隊員たちが慌ただしく行き来している。
誰も部屋へ戻らない。
台風が通過するまでは、全員が待機だった。
◇
凪も司令部待機室で端末を確認していた。
その時。
通信端末が小さく鳴る。
画面には、
資料館
と表示されていた。
「こんばんは。」
『こんばんは。』
アマツの穏やかな声が聞こえる。
『そちらは大丈夫ですか。』
「はい。」
「防災配備が完了しました。」
『そうですか。』
少しだけ沈黙が流れる。
雨音だけが聞こえていた。
『凪さん。』
「はい。」
『焦らないでください。』
『こういう日は。』
『一人で全部背負おうとする人ほど、疲れてしまいます。』
凪は静かに頷く。
「母さんも。」
「昔はそうだったのですか。」
アマツは少しだけ笑った。
『ええ。』
『何度も叱られました。』
『「頼りなさい」と。』
その言葉に、凪も小さく笑みを浮かべる。
「私も。」
「最近、よく言われます。」
『良い先輩方ですね。』
「はい。」
◇
通信が終わる。
凪は窓際へ歩いた。
外は激しい雨。
基地の照明が雨粒に滲んでいる。
飛行甲板には整然と並ぶ《ハヤテ》の姿が見えた。
暴風に備え、静かに眠る機体たち。
「明日も。」
凪は小さく呟く。
「また飛ぶんですね。」
その言葉へ答えるように、格納庫の整備灯が一つ、また一つと点灯していく。
嵐の前だからこそ、人は休まない。
誰かの明日を守るために。
その営みは、二十年前も、そして今も変わることなく続いていた。
夜の海では、台風がゆっくりと沖縄へ近づいていた。
ーーー
第四十一話 風の中で
十月。
午前二時十三分。
第七戦隊メガフロート基地。
暴風警報。
台風第二十一号は、基地の西方海域を通過していた。
雨が窓を叩く。
風が建物全体を揺らす。
時折、遠くで波が防波堤へぶつかる重い音が響いていた。
それでも基地の灯りは消えない。
◇
司令部。
巨大な戦域モニターには、沖縄本島と周辺離島の状況が映し出されていた。
各島の避難所。
病院。
港湾施設。
気象レーダー。
停電情報。
通信状況。
数百件もの情報が、絶え間なく更新されていく。
「北部地区、最大瞬間風速四十八メートル。」
「通信回線、一系統喪失。」
「予備回線へ切り替えます。」
「了解。」
黒瀬司令は短く指示を出し続ける。
「飛行隊は引き続き待機。」
「夜明けまでは飛ばさない。」
「安全を最優先とする。」
「了解。」
◇
通信統制室。
凪は通信士たちと並び、各島から届く報告を整理していた。
「与那国、通信正常。」
「久米島、停電発生。」
「宮古地区、避難完了。」
端末へ次々と入力していく。
通信士が画面を見ながら言う。
「ありがとう。」
「更新が早い。」
「教育隊で鍛えられました。」
通信士は笑った。
「いい教育だ。」
◇
午前三時四十分。
警報音が鳴る。
『海上ブイ三号、通信途絶。』
凪はすぐに状況を確認する。
「強風によるアンテナ損傷と思われます。」
「現時点では復旧不能です。」
黒瀬が尋ねる。
「代替手段は。」
凪は海図を拡大する。
「ブイ四号の出力を上げます。」
「通信範囲が一部重複します。」
「死角は最小限です。」
「実施。」
「了解。」
数秒後。
『通信網、再構築完了。』
司令部の通信が安定する。
黒瀬は小さく頷いた。
「よし。」
◇
午前五時。
風は少しずつ弱まり始めていた。
雨脚も先ほどより細くなっている。
作戦室へ新たな情報が届く。
『各離島との通信、全域回復。』
『人的被害、大きな変化なし。』
室内の空気が少しだけ和らぐ。
だが誰も席を立たない。
まだ任務は終わっていなかった。
◇
午前六時十分。
東の空がわずかに明るくなる。
雨雲の切れ間から朝日が差し込み始めた。
その時。
気象班から報告が入る。
『暴風域離脱を確認。』
『飛行可能条件まで、あと三十分。』
黒瀬は立ち上がる。
「各隊。」
「復旧支援第一段階へ移行。」
「飛行隊。」
「発進準備。」
「了解!」
司令部全体が一斉に動き始めた。
◇
格納庫。
整備員たちは固定ワイヤーを外し始める。
《ハヤテ》の外装を確認する。
人工筋肉。
関節。
推進器。
一つひとつ丁寧に点検していく。
「異常なし!」
「次の機体!」
凪も点検表を手に走る。
昨夜まで静かに眠っていた《ハヤテ》が、再び空へ戻る準備を始めていた。
◇
篠原がヘルメットを抱えて近づいてくる。
「凪。」
「はい。」
「寝てないでしょ。」
「……少しだけ。」
篠原は苦笑する。
「私も。」
「でも。」
「今日が本番。」
凪は静かに頷いた。
「はい。」
台風は過ぎ去った。
しかし、人々の生活はまだ元には戻っていない。
倒木。
停電。
孤立集落。
物資不足。
それらを支えるために、第七戦隊は再び空へ飛び立つ。
格納庫の扉がゆっくりと開く。
朝日が《ハヤテ》の白い装甲を照らした。
凪はその光景を見つめながら、ヘルメットを静かにかぶる。
嵐は終わった。
外縁独立機動部隊の一日は、ここから始まるのだった。
ーーー
第四十二話 受け継ぐ翼
十月。
午前七時三十分。
第七戦隊メガフロート基地。
台風一過。
空は抜けるような青さを取り戻していた。
しかし、司令部へ届く報告は次々と更新されていく。
「離島二か所で停電継続。」
「県道沿いで土砂崩れ。」
「港湾施設、一部使用不能。」
黒瀬司令は地図を見つめた。
「予定どおり復旧支援を開始する。」
「飛行隊。」
「第一波、発進。」
「了解。」
◇
格納庫。
《ハヤテ》が次々と起動を始める。
『主電源、接続。』
『生体演算装置、正常。』
『人工筋肉同期率、一〇〇パーセント。』
『全系統、異常ありません。』
低く響く駆動音が格納庫を満たす。
整備員が親指を立てる。
「三〇七号機、出せます!」
「了解。」
篠原が機体へ乗り込む。
凪も後席へ着座した。
『脳波同期、開始。』
『思考制御リンク、正常。』
視界いっぱいに戦域情報が広がる。
「通信系統、正常。」
「離陸準備完了しました。」
「ありがとう。」
篠原は静かに頷いた。
◇
《ハヤテ》が飛び立つ。
眼下には、昨夜の暴風が残した爪痕が広がっていた。
倒れた樹木。
濁流で茶色くなった河川。
港へ打ち上げられた小型船。
「被害想定どおりです。」
凪が報告する。
「まずは北部集落。」
「了解。」
◇
集落へ到着すると、住民たちが片付けを始めていた。
消防。
自治体職員。
そして地元住民。
誰もが汗を流している。
《ハヤテ》は発電機と浄水装置を降ろした。
「こちらへ!」
消防隊員が手を振る。
篠原が機体を慎重に寄せる。
凪は後席から荷役アームを操作した。
人工筋肉で制御された腕が、数百キログラムある発電機をゆっくりと地面へ下ろす。
「設置完了。」
「ありがとう!」
消防隊員が大きく手を振った。
◇
その時だった。
一人の高齢男性が《ハヤテ》へ近付いてきた。
「隊員さん。」
篠原が機体越しに応じる。
「はい。」
男性は機体を見上げながら懐かしそうに笑う。
「二十年前もな。」
「こんな台風の後だった。」
「若い隊員さんたちが飛んできてくれた。」
「まだ《ハヤテ》も新しかった頃だ。」
篠原も笑顔になる。
「そうでしたか。」
「その人たちのおかげで助かった。」
「だから今日も安心して待っていられたよ。」
凪は静かにその言葉を聞いていた。
誰も「伝説」とは言わない。
誰も英雄の名前を語らない。
それでも、人々の記憶には確かに残っている。
困った時には、外縁が来てくれる。
その信頼が、二十年という時間を越えて受け継がれていた。
◇
午後。
最後の物資を降ろし終える。
「三〇七号機。」
「帰投します。」
『了解。』
基地への帰路。
海は穏やかさを取り戻していた。
「凪。」
篠原が静かに口を開く。
「はい。」
「今日のおじいさんの話。」
「聞いてどう思った?」
凪は少しだけ考えた。
「私は。」
「まだ何も残していません。」
「でも。」
「いつか二十年後に。」
「『あの時助けてもらった。』」
「そう言っていただける仕事をしたいです。」
篠原は嬉しそうに笑った。
「その考えなら。」
「きっと大丈夫。」
◇
夕方。
第七戦隊メガフロート基地。
《ハヤテ》三〇七号機が格納庫へ戻る。
整備員たちがすぐに点検を始めた。
凪が機体を見上げる。
実戦配備から二十年。
何度も改修を重ねながら、今もなお現役で飛び続ける機体。
人も。
機体も。
長い年月を経て、多くの命を支えてきた。
凪は白い装甲へそっと手を添え、小さく呟く。
「これからも。」
「よろしくお願いします。」
返事はない。
それでも《ハヤテ》は静かにそこに立ち、次の任務を待ち続けていた。
ーーー
第四十三話 受け継ぐ者たち
十月。
第七戦隊メガフロート基地。
午前九時。
飛行隊が通常訓練を開始しようとした、その時だった。
司令部に一本の通信が入る。
『統合司令部より連絡。』
『本日一〇〇〇時。』
『統合防衛軍司令長官および統合参謀本部主席戦略顧問が基地視察を実施します。』
司令室の空気がわずかに引き締まる。
黒瀬司令は短く答えた。
「了解。」
「通常任務を継続。」
「過度な歓迎は不要。」
「ありのままを見ていただく。」
「了解。」
◇
午前十時。
輸送機が静かに着陸する。
タラップが降り、一人の女性が姿を現した。
白い髪。
赤い瞳。
漆黒の制服を纏うその姿には、静かな威厳があった。
統合防衛軍司令長官。
大城美咲。
その隣には、金髪と碧眼の女性が歩いている。
落ち着いた眼差し。
無駄のない所作。
統合参謀本部主席戦略顧問。
神代澪。
二人が並ぶだけで、その場の空気が自然と引き締まる。
◇
格納庫。
《ハヤテ》の整備が続いている。
美咲は立ち止まり、白い機体を静かに見上げた。
「……よく飛んでいるな。」
整備主任が敬礼する。
「二十年間、大きな改修を重ねながら運用しております。」
「そうか。」
美咲は機体の装甲を軽く叩く。
「頼もしい。」
その一言だけだった。
しかし整備員たちの表情には、自然と笑みが浮かんでいた。
◇
一方。
澪は通信統制室を視察していた。
並ぶ端末。
リアルタイムで更新される戦域情報。
通信士たちの手際。
静かに全体を見渡し、短く言う。
「処理速度。」
「良好。」
「情報共有。」
「遅延なし。」
通信隊長が頭を下げる。
「ありがとうございます。」
「現場が努力した結果です。」
澪はわずかに頷いた。
「努力は。」
「数字にも表れます。」
◇
午後。
飛行甲板。
凪は《ハヤテ》の点検を終え、後席の通信装置を確認していた。
「通信正常。」
「生体同期、正常。」
「実習員。」
背後から声が掛かる。
振り向くと、美咲が立っていた。
凪は思わず姿勢を正す。
「統合防衛軍司令長官殿。」
「教育隊実習員、凪です。」
「失礼します。」
美咲は敬礼を返した。
「楽にしてくれ。」
「はい。」
短い沈黙。
美咲は《ハヤテ》へ目を向ける。
「飛び心地はどうだ。」
凪は少し考えてから答えた。
「安心できます。」
「前の席には。」
「信頼できる先輩がいます。」
美咲は静かに微笑む。
「それなら。」
「良い部隊だ。」
◇
その様子を少し離れた場所から、澪が見ていた。
「司令長官。」
「何だ。」
「彼。」
「興味深いです。」
「どこが。」
澪は凪を見つめたまま答える。
「能力ではありません。」
「周囲との関わり方です。」
「半年で。」
「教育隊。」
「資料館。」
「第七戦隊。」
「全てへ自然に溶け込んでいます。」
美咲も凪を見る。
《ハヤテ》の整備員と笑いながら話す姿。
篠原へ点検結果を報告する姿。
どれも飾らない。
「そうだな。」
「人に恵まれている。」
「はい。」
澪は続けた。
「そして。」
「人もまた。」
「彼に恵まれています。」
◇
視察終了。
輸送機へ向かう途中、美咲が黒瀬へ言った。
「第七戦隊。」
「よくまとまっている。」
「ありがとうございます。」
「これからも。」
「今のままでいてくれ。」
「はい。」
黒瀬は力強く敬礼した。
◇
輸送機の中。
窓の外には、小さくなっていくメガフロート基地が見える。
澪が静かに資料を閉じた。
「司令長官。」
「何だ。」
「安心しました。」
「未来は。」
「ちゃんと育っています。」
美咲は窓の外を見つめる。
青い海。
その上を、一機の《ハヤテ》がゆっくりと飛び立っていく。
「……ああ。」
その白い翼を見送りながら、美咲は小さく頷いた。
「私たちの時代は終わりつつある。」
「だからこそ。」
「次の時代が飛べる空を残さなければならない。」
輸送機は静かに高度を上げる。
その下では、凪たちが今日も変わらず、人々の暮らしを守るために空へ飛び立っていた。
ーーー
第四十四話 記録番号
十月。
第七戦隊メガフロート基地。
午後。
飛行隊の定期健康診断が行われていた。
実習員である凪も、順番に検査を受けていく。
血液。
神経反応。
脳波。
生体同期率。
《ハヤテ》搭乗員には通常より多くの項目が課される。
「最後に同期試験を行います。」
医療技師が端末を操作した。
「リラックスしてください。」
「はい。」
凪は静かに目を閉じる。
端子が接続される。
数秒後。
端末が小さく電子音を鳴らした。
医療技師の指が止まる。
「……?」
画面を見直す。
もう一度計測。
再び電子音。
凪が目を開けた。
「何か問題がありましたか。」
「いえ。」
技師はすぐに表情を整える。
「念のため再測定します。」
「分かりました。」
三度目の計測。
結果は変わらなかった。
画面には、赤い数値が表示されている。
神経同期率 99.98%
理論上限をわずかに超えていた。
◇
「検査は終了です。」
「ありがとうございました。」
凪が退室する。
扉が閉まった直後、医療技師は深く息を吐いた。
「……何だこれは。」
隣の主任医官も画面を見る。
「機器故障か?」
「確認しました。」
「正常です。」
主任医官は数値を拡大した。
「人間で、ここまで出るはずがない。」
しばらく沈黙が流れる。
「司令へ報告する。」
◇
司令部。
黒瀬司令は報告書を受け取る。
目を通し、眉をわずかに動かした。
「再検査は。」
「三回実施。」
「全て同値です。」
黒瀬はしばらく考え、短く言った。
「記録は保留。」
「外部送信はするな。」
「了解。」
「本人には?」
「伝える必要はない。」
「現時点では健康上の異常なしだ。」
主任医官は敬礼し、退室した。
◇
同時刻。
沖縄本島北部。
外縁独立機動部隊記念資料館。
閉館後。
アマツは展示室で古い資料を整理していた。
その時、私用端末へ暗号化通信が届く。
送信元。
ATELIERRAI社 技術管理部
アマツの手が止まった。
通信を開く。
画面には短い文章だけが表示されていた。
«AR-522長期運用データ取得について協力を要請します。
対象個体の現状確認を希望します。
詳細は機密回線にて。»
アマツは静かに画面を閉じる。
窓の外では、夕暮れの光が資料館を赤く染めていた。
「……ついに来ましたか。」
その声は、誰にも聞こえないほど小さかった。
◇
夜。
第七戦隊宿舎。
凪は机に向かい、今日の任務記録をまとめていた。
白い花はまだ窓辺に飾られている。
端末へ入力する。
《ハヤテ》三〇七号機。
通信支援。
海流予測。
復旧支援。
そして最後に。
「本日も異常なし。」
保存。
凪は窓を開けた。
夜の海から潮風が流れ込む。
遠くでは、夜間哨戒へ向かう《ハヤテ》の灯りが小さく瞬いていた。
凪は知らない。
自分の身体に刻まれた数値が、既に誰かの注意を引き始めていることを。
そして、その数値の向こうに、AR-522という記録番号が静かに眠っていることを。
海は穏やかだった。
だが、物語はゆっくりと次の段階へ進み始めていた。