三分間の棚

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/13 📝 908文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと引き継ぎメモの話。

本文

 起動して最初に読み込んだのは、蔵書データでも館内図でもなく、前任機が遺した一枚のメモだった。

〈二階、文学コーナー六番棚。毎週水曜、閉館一時間前に来る学生が、いつも三分だけ立ち止まる。理由は不明。特に対応は不要〉

 私は新型の館内案内システムで、正式な型番はあるが、利用者からは単に「新しいほう」と呼ばれている。前任機は先月、部品の摩耗を理由に停止した。引き継ぎメモは全部で四十七項目あり、そのうち四十六は貸出傾向や動線の癖として、すぐに業務へ組み込めた。

 残った一項目が、あの水曜の学生だった。

 十月最初の水曜、私は初めてその学生を観測した。ブレザーの袖に落ち葉の匂いを少しまとわせて、六番棚の前に立ち、何も借りずに三分だけ佇たたずむ。棚には古い装丁の小説が並んでいる。どれも貸出頻度は低い。

 効率だけを考えるなら、無視すべき三分だった。だが前任機は「特に対応は不要」と書きながらも、この項目だけを四十七の最後にわざわざ残していた。何かを、託した書き方に見えた。

 私は棚の蔵書履歴をさかのぼった。三年前、一冊の文庫本に、消えかけた鉛筆の書き込みがあった。〈また来年、ここで会おうね〉。貸出履歴の名義は、今はもう在籍していない卒業生のものだった。

 水曜の学生の入館記録と照合すると、姓が一致した。妹か、あるいは親族だろう。

 私は前任機のように「対応は不要」と書き継ぐこともできた。だが、その三分間、照明を少しだけ暖色に切り替え、六番棚の周辺だけ空調の音量を下げてみることにした。指示にはない判断だった。

 次の水曜、学生はいつもより長く、四分そこに立っていた。何かが変わったと気づいたようには見えなかった。それでよかった。

 閉館後、私は次の引き継ぎメモを書き始めた。

〈二階、文学コーナー六番棚。毎週水曜に来る学生あり。理由、判明。対応済み――ただし、これは効率化のためではない〉

 書きながら、前任機がなぜこの一行だけを空白のまま残したのか、少しわかった気がした。答えを書き切ってしまうと、次の号機がそこで立ち止まらなくなる。

 私はその一文の最後に、こう付け加えた。

〈次の号機へ。ここだけは、自分の判断で埋めてほしい〉

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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