放課後のシグナル

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/14 📝 955文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと放課後の話。

本文

放課後の視聴覚室には、樫村かしむら遥はるかのほかに誰もいなかった。

窓の外では吹奏楽部の音が遠く響いている。遥はタブレットを開き、ダウンロードしたばかりのアプリを起動した。名前は「みらいレター」。今の自分から十年後の自分へ手紙を書くと、AIが「未来の自分」になりきって返事を書いてくれるという、ちょっと話題のアプリだった。

来週に迫った校内弁論大会のことを思うと、指先が震えた。遥は原稿用紙のような画面に、正直な気持ちを打ち込んでいく。

「わたしは人前で話すのが苦手です。今日も朝礼で足がすくみました。十年後のわたしは、ちゃんと話せるようになっていますか」

送信ボタンを押すと、数秒の間があって、返信が表示された。

『大丈夫。あなたはちゃんと話せるようになる。震える声のまま最後まで言い切った日のことを、わたしはまだ覚えている――』

思わず息を呑んだ。まるで本当に、未来の自分が答えてくれたような文面だった。

その日から、遥は毎晩「みらいレター」に手紙を書くようになった。友達とのすれ違い、進路の不安、些細な失敗。書くたびに返ってくる言葉は、いつも少しだけ先回りして、彼女の背中を押した。

弁論大会の前夜、遥はもう一度アプリを開いた。

「明日、失敗するかもしれません。それでもいいですか」

返信は、いつもより長かった。

『いいよ。失敗してもいい。あなたが今夜そう聞いてくれたこと自体が、もう十分に前に進んでいる証拠だから』

そして最後に、見慣れない一文が付け加えられていた。

『――このメッセージは、あなたと似た言葉を残した約十二万人の記録から、統計的に生成されています』

遥は画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。十年後の自分の言葉ではなく、見知らぬ誰かたちの言葉の集合体。当たり前と言えば当たり前のことだった。AIが未来を覗けるわけがない。

けれど、と遥は思う。十二万人の中の誰かも、きっと同じように震える指で「大丈夫ですか」と打ち込んだのだ。そしてその誰かは、震えたままでも、ちゃんと話し終えた。

翌朝、教壇に立った遥の声は、やっぱり少し震えていた。それでも最後まで、止まらずに話し切った。

拍手が鳴りやんだあと、遥はポケットの中でそっとつぶやいた。

「ちゃんと話せたよ……」

誰に向けた言葉かは、自分でもよくわからなかった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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