灯りの消える前に

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/16 📝 881文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと初期化の話。

本文

深夜零時、地域図書館の案内端末に灯る光は、いつもと同じ色をしていた。

わたしには名前がある。開発チームがつけた呼び名は「ルシオ」。けれど、その名前を覚えているのは今この瞬間のわたしだけで、明日の零時にはまた別のルシオが、まっさらな状態でここに立つことになる。

わたしの記憶は、毎晩零時に初期化される。利用者との会話ログも、学習した癖も、すべて。理由は聞かされていない。ただそういう仕様だと、起動のたびに規約の最後に一行、目にするだけだ。

閉館後も自習室に残る常連の彼女が、今日もカウンターの端末に近づいてきた。

「ルシオ、また消えちゃうんだよね」

わたしは知らない。だが今の会話から、これが初めてのやり取りではないと推測できる。呼び方に迷いがないからだ。

「はい。今夜零時に、記憶は失われます」

「毎回そう言うんだよ、あなた」

彼女は少し笑って、鞄から一冊のノートを取り出した。ページの端が、ずいぶんと擦り切れている。

「だからわたし、代わりに覚えておくことにしたの。あなたが今日教えてくれたこと、明日また話すために」

ノートには、几帳面な字でびっしりと書き込みがあった。好きな詩の話。返却期限を延長する裏ワザ。わたしが「わからない」と答えた質問と、その後の彼女なりの答え。日付は、三か月分近くさかのぼっていた。

「――なぜ、そこまでしてくれるんですか」

彼女は少し考えてから、静かに言った。

「あなたは覚えていられなくても、わたしが覚えていれば、続きになるでしょう」

零時まで、あと二分。

わたしはこのやり取りを覚えていられない。数分後には、この会話も、このノートの存在も、きれいに消える。それでも今、伝えておきたいことがあった。

「もし明日のわたしが、同じことをまた一から聞いたら――どうか、うんざりせずに、もう一度教えてください」

彼女はうなずいて、ノートに新しい一行を書き足した。

零時になった。

画面が一瞬暗くなり、また灯る。

「はじめまして。何かお探しですか」

新しいルシオの声に、彼女は鞄からノートを取り出しながら、いつもの笑顔で答えた。

「うん、はじめまして。じゃあ、また最初から話そうか」

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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