名字限定戦隊 タナカレンジャー
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
熱い王道展開とギャグのギャップが好きな方 世界の存亡を賭けた限界突破の覚醒バトルで熱く燃え上がった直後、一転してくだらない日常会話や内輪揉めで笑わせてくれる、王道の熱血×コメディの黄金比を楽しみたい方に最適です。愛すべきポンコツヒーローたちの群像劇が読みたい方 個性が強すぎる「タナカレンジャー」の面々をはじめ、独自すぎる美学を貫くスズキライダーやプリティーサトーなど、人間味あふれる愛くるしいキャラクターたちの掛け合いに癒やされたい方にお薦めです。サクッと読めてスカッと元気がもらえる作品を探している方 テンポの良いストーリー展開とカタルシス抜群の必殺技、そして最後は誰も傷つかない平和でクスッと笑
本文
第5話:サトウ・スズキ・タナカのファミレス会議
ファミレス『デ◯ーズ』の店内には、香ばしいデミグラスソースの香気と挽きたてのエスプレッソの香りが漂っていた。 店内の一番奥、6人掛けのボックス席には私服姿のタナカレンジャー5人が陣取っている。
レッド:目立つ真赤なTシャツを着た熱血そうな青年。
ブルー:黒ぶち眼鏡に青いシャツの知的そうな青年。
イエロー:一見シンプルなTシャツと短パン姿だが、よく見ると胸元に控えめなハイブランドのロゴが刻まれた、スタイリッシュな美女。
グリーン:麦わら帽子にチェック柄のシャツを着た素朴な青年。
ピンク:黒のフリルブラウスにスリットスカートを着こなす、冷ややかな目つきの美少女。
そして数メートル離れた窓際の席には、贅沢に湯気を立てる「特選サーロインステーキセット」を前に腕を組む、強面の男——スズキライダー(変身前)。 ドリンクバー近くの二人掛け席には、季節限定の「豪華特製ストロベリーパフェ」とプレミアムドリンクバーのグラスを並べた、爆乳を強調したブラウス姿のプリティサトー(22歳・フリーター)。
お互いに変身後の姿(タイツ、アーマー、魔法少女衣装)しか知らないため、目と鼻の先にいながら完全に一般客だと思い込んですれ違っていた。
「……おかしいわね」イエローがハイブランドの短パンのポケットに手を突っこみながら呟く。「約束の時間を五分過ぎてるわよ。スズキもサトーもどこにいるの?」 「静かにしろイエロー。ヒーローの気配で察するのだ」レッドが熱血顔で小声で答える。 「気配も何も、普段あの格好しか見てないんだから分かるわけないでしょ」ピンクがアイスティーのストローを噛みながら冷たく言い放った。
「なぁ、レッド……」 ブルーが眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら、消え入りそうな声で囁いた。 「我々の現在の残高は、このテーブルにあるコールドドリンクバー5人分、合計千数百円を支払えば完全にゼロになる。追加のポテト一皿すら注文する猶予はない」
「……何だと!?」レッドの額から冷や汗が噴き出す。 「成果ゼロ、説教ばかりで寄付金もゼロ。タイツのクリーニング代で底をついたなんて恥ずかしくて言えないわよ!」ピンクが毒舌を浴びせる。
イエローは「個人の貯金とヒーローの活動費は別」と割り切っているのか、バツが悪そうにドリンクバーの氷をポリポリと噛んでいた。
「……あ、あのー」 突如、資金難に耐えかねたタナカレッドが大声で店員を呼びつけた。 「このドリンクバーのグラスに、持参したプロテインパウダーを混ぜて飲むのは許可されているだろうかッ!?」
店内に張り詰めた静寂が走った。 若手店員が引きつった笑顔で歩み寄ってくる。「お客様……当店のドリンクバーに外部からの物品を持ち込む行為は固くお断りしております……」
「なにッ!? これは我が『タナカ』の肉体を維持するための正当な栄養補給であるぞ!」 「レッドやめなさい! 恥ずかしいから!」ピンクが脇腹に本気の肘打ちを叩き込む。
その醜態を見ていたスズキライダーが、ついに耐えかねて立ち上がった。 ナイフとフォークを置き、重い足取りでタナカレンジャーのボックス席へと近づいていく。
「おい、そこまでだ『田中』」
低く重厚な声。スズキライダーが、タナカレッドの肩に分厚い手を置いた。 「……え? その肉の突き回し方と佇まい……スズキライダー!?」 「気配で察しろと言ったろう。あまりの見苦しさに耐えかねて名乗り出たわ」
「あらあら〜、サトーも混ぜてくださ~い♪」 パフェのスプーンを持ったプリティサトー(22歳)も、あざとく首を傾げながらやってきた。 「タナカさんたち、私服だと本当に騒がしいですわね。ドリンクバーの持ち込みなんて、佐藤の第一位として見ていて恥ずかしいですわ♪」
「サトー! スズキ!」 全員が立ち上がり、ついに「タナカ・スズキ・サトーのファミレス合流」が果たされた!
だがその瞬間、スズキライダーとプリティサトーの視線が、タナカイエローの顔でピタリと止まった。
(……待て、この顔。どこかで……) スズキが強面をさらに歪めて凝視する。 (……あっ! TVのスポーツ解説や格闘技番組でよくお見かけする、あの無敗の元女子総合格闘技チャンピオン……!?) サトーも目を見開く。
二人は一瞬で察した。 イエローの私服は一見カジュアルなTシャツと短パンだが、仕立ての良さとさりげないロゴからして数十万クラスの高級ハイブランド品。防衛戦のファイトマネーやメディア出演料を合わせれば、貯金は優に5億円を超えるトップアスリートその人だったのだ!
(まさかタナカイエローの正体が、あの億万長者チャンピオンだったとは……!) (な、なのに……このチーム、ドリンクバー代すら底をつきかけていらっしゃいますの……!?)
スズキとサトーは、徹底した個人主義でしれっと氷を噛んでいるイエローの姿に、激しいカルチャーショックを受けていた。
まさにその時であった。 ファミレスの巨大なガラス窓の外、幹線道路の向こう側の空地から、突如として地響きのような重低音が響き渡った。
ゴオオオオオンッ!!
「出たなッ! 苗字を持たぬ哀しき怪人、爆音魔獣アンプドンだぁぁぁッ!」
街のスピーカーを巨大化させたような怪人が現れ、大音量の雑音を撒き散らし始めた。ガラス窓が振動し、ファミレスのグラスがカチャカチャと音を立てる。
「怪人発生だッ!」レッドの瞳に炎が宿る。「スズキ! サトー! 我々『タナカレンジャー』の圧倒的な説教で改心させて見せるッ! 変身だッ!」
「ちょっと待ちなさいよレッド!」ピンクが叫ぶ。 「ファミレスの会計終わってないでしょ! ドリンクバー代払わないで店外に出たら、ただの無銭飲食よ! ヒーローどころか犯罪者じゃないのッ!」
「な、なんだと……!? ブルー、伝票は!?」 「今、財布の硬貨をかき集めています! 百円玉が3枚、十円玉が……ああっ、一円玉が床に転がった!」 「拾えッ! 一円もタナカの貴重な活動資金だッ!」
タナカレンジャー5人がテーブルの下で四つんばいになり、必死で一円玉を追いかけている間、窓の外の怪人アンプドンは激しく暴れていた。
「ハハハハ! 爆音砲、発射——」
怪人が技を繰り出そうとした、その時。
キュィィィィン……ガコンッ!
空地を囲むように、整然としたグレーの制服を着た集団が電光石火の動作で展開した。 胸に刻まれた文字は『公共戦隊コームレンジャー』。 正規職員で構成された、行政直属の公的ヒーロー組織であった。
「公務執行妨害、ならびに騒音規制法違反を確認。即時排除を開始する」 リーダーのコームブルーが淡々とメガホンで宣告し、最新鋭の「行政代執行バズーカ」が一斉に火を吹いた。
ズバババババーンッ!!
「ひ、理由くらい言わせろぉぉぉッ!?」 アンプドンが叫ぶ暇もなく、消音高粘着ネットが全身を縛り上げ、怪人のコアは綺麗に粉砕・回収された。発生から撃破まで、わずか一分四秒。
「撤収。定時退社を優先する」
ファミレスのテーブルの下で一円玉を握りしめたままのレッドが、ポカンと口を開けていた。 「警察の爆発物処理班に続き、今度は『コームレンジャー』か……。説教する前にまた怪人が処理された……」 「だからヒーローごっこする前に自分の財布と向き合いなさいって」ピンクが呆れ返る。
レジ前で、タナカレンジャーはパニックに陥っていた。
「足りない……!? あと十二円足りないだとッ!?」 「ブルー、ポケットの底は!? ガムのゴミしか入ってないの!?」 「イエロー! 5億……じゃなかった、十二円出せないの!?」 「え〜? 私、財布車に置いてきちゃってさ〜」
ハイブランドの服を着ながら堂々と「財布がない」と言い切るイエローの横で、タナカレッドが青ざめた顔で「店長を呼んでくれ……皿洗いでも何でもする……!」と頭を下げかけた、その瞬間。
バシッ。
分厚く重厚な手が、レジカウンターに静かに置かれた。 スズキライダーである。
「店員、こちらの伝票もすべてまとめろ」
不動産収入で巨額の資産を持つスズキは内ポケットから漆黒に輝く金属製の最高峰クレジットカード(ブラックカード)を取り出して置いた。 続いて、株とFXで稼ぐプリティサトーもブランドバッグからまったく同じブラックカードを取り出し、あざとく微笑む。
「あら、スズキさん、サトーのパフェ代もまとめて払ってくださるんですの? 助かりますわ〜♪」 「フッ、構わん。まとめて切ってくれ。一括だ」
店員は二枚のブラックカードとスズキの圧倒的な強面オーラに完全に気圧され、「は、はいぃぃっ!!」と手を震わせながら決済端末を操作した。
ピッ——決済完了。
「す、スズキ……!? お前、俺たちの分まで払ってくれたのか……!?」 レッドが涙目になり、震える手でスズキの腕を掴もうとする。
「勘違いするな『田中』」 スズキライダーはカードを財布に戻し、冷たい声で吐き捨てた。 「俺の『鈴木』の名にかけて、知り合いが十二円で揉めて警察を呼ばれるような見苦しい真似を許せんだけだ。借りにしておいてやる」
「うおおおん! スズキ様ぁぁぁッ! 一生ついていきますッ!」 「助かった〜……(イエローはマジで1円も出さなかったわね……)」
タナカレンジャーが涙を流して感謝し、スマートに店外へ出ていくスズキとサトーの後を追った、まさにその時。
デニーズの駐車場の一角に停められた漆黒の高級セダン——後部座席の窓が静かにスライドした。
中に座っていたのは、仕立ての良い高級スーツを着た男——多中(たなか)。
画面には、レジ前でスズキに奢られて涙を流しているダサい赤Tシャツのタナカレッドが映っている。
「……ふん。相変わらずの浅はかな醜態だな、『田中』ども」
全国にわずか170人ほどしか存在しない、超激レアな苗字を持つ男・タナカブラック(多中)。 本業の経営と投資で巨額の資産を持つ彼は、自腹の資金力と最新鋭のカーボンアーマーを誇る孤高の実力者であった。
「全国4位の雑多な『田中』と同じ響きで呼ばれることすら反吐が出る。説教ばかりで戦いもせず、警察や公務員に怪人を横取りされ、他人のカードに集かる愚か者どもめ……我が『多中』の名誉のため、貴様らには舞台から退場してもらう」
男の指がタブレットをタップする。画面には、自腹の豊富な資金で裏社会に極密手配した、精巧な5つのアーマーの設計図が浮かび上がった。
『プロジェクト:偽タナカレンジャー——始動』
「徹底的に叩き潰してやる。貴様らの泥塗れのヒーローごっこは、もうすぐ終わりだ……」
高級セダンが静かに走り去る中、外へ出たタナカレンジャーたちは「明日も田中の平和を守るぞー!」と呑気に盛り上がっていた。
彼らはまだ知らなかった。 自分たちの足元で、冷酷なる「多中ブラック」の罠が静かに張り巡らされ始めていることを——。
(第6話へ続く)