なんか知らんが俺と幼馴染は付き合っているらしい
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
どうにも俺、真司と幼馴染の未緒が付き合ってるらしい。けど俺達二人にそんなつもりはない。いつも通りの家の中で、付き合うってなんだろう?と未緒と改めて考えてみた。
本文
「なぁ、俺らって付き合ってるの?」
「どしたの急に」
テーブルの向かいでクッションに座る未緒がポニーテールを微かに揺らしながら、ノートから目を離さずに答える。
ぬいぐるみやら雑誌やらで床がごっちゃの部屋は一見ガサツに思えるが、昔からこいつは意外にも勉強は真面目にやるタイプだったりする。
「いや、坂口が「お前らホントは付き合ってるんだろ」って言うからそうなのかなって思ってさ」
「私と真司が? 無い無い」
「だよな。俺らって所謂幼馴染ってだけだし」
「幼馴染っていっても私ら小6から知り合っただけでしょ?」
「いや、小5から……あれ、小3じゃなかったっけ?」
「……忘れた」「俺も」
カリカリカリ。
シャーペンの走る音が部屋の中に響く。
「つか思ったんだけどさ、そもそも付き合ってるってどういう状態なんだよ?」
こちらの言葉に未緒がようやくノートから顔を上げてこっちを見る。
「どうって……デートしたり、チューしたりハグしたり、とか?」
「チューなら小4の時にやったよな」
「やめてそれ黒歴史。言いふらしたらタンスの角で殴るから」
「言うか、んなもん」
子供の頃の好奇心からくる愚行、若さゆえの過ち。
結果は「なんか鼻息当たってイヤ」という散々な物だった。
「デートって何処行くんだよ?」
俺の疑問に未緒は少し考える素振りをしてから答える。
「……遊園地とか、水族館とか、買い物とか?」
「全部お前と行った事あるとこばっかじゃねーか。買い物もさっき晩飯のオカズ買いに行ったし。……あ、トイレットペーパーの替え買うの忘れた」
「えー?もうスーパー閉まっちゃったじゃん!」
「明日学校帰りに買いに行くって。
……あれ、俺達付き合ってる状態になってね?」
「え、じゃあ今の私って真司の恋人なの?」
未緒があからさまに顔を顰める。
「いや、それはなんか違う」
「だよね。なんか真司はそういうのと違う」
キュポッ
手元のペットボトルを開けて喉を潤す。
茶の味を口に感じながら更に話を続ける。
「……つーか、そういうのってどんな感じなんだろうな?」
「知らないよ。付き合った事ないもん。
この前も前川先輩に告られたけどなんか違うなって思って断ったし」
「おう、マジかそれ。初耳だぞ。ちなみにフッた理由は?」
「顔」「顔?」
意外な答えに思わず声を上げてしまった。
「お前面食いかよ。ていうか前川先輩って結構イケメンじゃなかったっけ?」
「いや、単純に一目見てなんか違うなーって思っただけ」
「そういや、未緒ってあんまアイドルとか興味ないもんな。
ダックスフンドとかよりブルドックが好きとか言ってたし」
「え?可愛くない?」「知らん」
未緒の部屋のぬいぐるみを見渡す。
そこにはオニオコゼやブロブフィッシュといったブサイクな魚のぬいぐるみが転がっている。昔からこいつはイルカや猫とかそういう一般的な可愛さには興味がない。
不意に、未緒が細い手を伸ばして先程置いたばかりのペットボトルを掴み取る。
「おい、それ俺の」
「家にある物は私の物だし」「新手のジャイアニズムか」
躊躇なく口をつけ、緑色の液体を嚥下していく。
後で冷蔵庫のゼリーを密かに奪うことを心に誓う。
「……で、さ」
未緒が茶を飲み干すのを待って話を切り出す。
「結局、付き合うっていうか……恋人になりそうな人ってどんなのなんだよ?」
「うーん……」
二人そろって首を捻る。
「漫画とかアニメとかだとさ、なんか一緒にいてドキドキする感じ?」
「二次元知識かよ。……ちなみに今ドキドキしてるか?」
「全然」「俺も」
うーん、と二人して唸る。
シャーペンを指で回しながら、ぼんやりと呟く。
「なんというか、ちょっと勿体ない気がするよなぁ」
「何が」
「俺らもさ、もうすぐ高2じゃん? 再来年は受験があるから忙しくなるだろうし、もう二度と戻らない青春のドキドキを知らないまま終わらせていいのかなぁと」
「うーん……じゃあ、やっぱり前川先輩の告白受けた方が良かったのかな」
「いや、好きでもないのに付き合うのはなんか相手に失礼だろ。
俺が誰かとお試しで付き合うって言ったらお前どうするよ?」
「……うん、なんかムカつくし殴りたくなった。ごめん今の無し」
珍しく殊勝な声色の未緒が俯く。
なんかこっちも悪い事してる気がしてきた。
恋のドキドキとやらを知りたいが、かといって適当な相手もないし第一失礼だ。
ふと、突拍子もない思い付きが思わず口に出た。
「じゃ俺達いっそ付き合ってみるか、お試しで」
「いいよ」「え」
まさかの即答。
回してたシャーペンが手から落ちてカラン、と鳴った。
「え、いや、いいの?自分で言っといてアレだけどさ」
「ん、だってお試しでしょ?お互い違ってたら別れたらいいだけだし、
あんたなら後腐れ無さそうだし」
あっけらかんと言い放つ未緒に、俺自身もそうかな、そうかも……とちょっと納得しつつある。
「……で、付き合うって何すりゃいいんだ?」
「わかんないって」
ここに来て話が振り出しに戻ってしまった。
「とりあえずさ、こう、ドキドキする事すりゃあいいんだよな?」
「うーん……なんか違う気するけど、とりあえずそうなのかな。
で、なんかあるの?」
またも、二人して唸り声を上げながら考え込む。
そして、ある考えが思い浮かんだ。
「やっぱ……アレかな」
「え?アレって……」
「中学の頃に、やってみようと思ったけど結局親がいたから止めた奴。
あれ、直前まですげードキドキしたじゃん。
丁度さ、今週の土曜の夜から俺らの親両方仕事で家にいないし」
「…………本気?」
未緒のちょっと戸惑った様な顔が見える。
部屋の片隅。
カチ、コチと刻まれる時計の秒針が、妙にうるさい。
「……まぁ嫌ならやめとくけど」
「……いや……うん、わかった。やろ。私もちょっと覚悟決めるから」
「うし、じゃあ……土曜日に、な」「うん」
部屋の中で密約が交わされた時、丁度階下からおばさんが呼ぶ声が聞こえた。
「未緒ー、真司くん、ご飯よー」
「……じゃ、行くか。おばさん達には内緒だからな」「ん」
珍しく小さな未緒の返事。
俺達は今日、共犯者になった。
バレてはならない高揚を覆い隠すように、足音を消して階下へ向かう木製階段を踏みしめた。
◇◇◇
「で、俺達付き合う事にした。お試しで」
翌日、昼の食堂で向かいの席の坂口に改めて報告はしておく。
「お試しの彼女です」隣の未緒がペコリと頭を下げる。
「あー……うん、お、おめでとう?」
坂口は定職のヒレカツを箸で掴んだまま、何とも言えない顔で俺達を見つめている。
「でさ、俺達明日の土曜日に恋人らしいことしようと思って」
「夜、二人とも家に親もいないし」
ブッ
坂口が口に入れかけたヒレカツを噴き出した。汚い。
「ん、んん!? いや待て待て。えらく飛ばすなオイ!?
そりゃ、付き合うってなったらいずれはするけどさ、何も明日しなくてもいいだろ?!
ていうかなんでそれを俺に報告するわけ!?」
「いや、お前にも参加して欲しいと思って」
「待て、待て待て待て待て」
坂口が制する掌をこちらに向けて頭を抑える。
「なんで俺も巻き込むの!?恋人だったらもう二人でやれよ!!」
「だってなんか怖いし」「こういうのって人数多い方が楽しいって聞いたし」
「その場に巻き込まれるこっちの事も考えろぉ!!どんな感情で俺その場にいればいいだよ!!そんなマニアックな趣味俺にはねーよ!!」
「そんなにマニアックな事かな。選ぶのも付き合って貰おうと思ったんだけど」
「だから普通は……ん?選ぶって何を?」
「いや、ホラー映画の鑑賞会で見る奴」
俺の言葉を聞いた坂口は、何故か口を開けた固まっている。
「中学の時にも夜中で電気消して二人でやろうと思ったんだけど、結局未緒がガチ泣きして止める羽目になったんだよ」
「いや泣いたのは真司の方でしょ。私は別に平気だったし」
「あの後暫くトイレいけねぇって夜中に叩き起こしたのは誰なんだよ。
おばさんかおじさんに言えばよかっただろうが」
「起こしたら怒られるし」
俺達が言い争っていると、坂口はいつの間にか定食をたいらげてトレーを持って席を立とうとしていた。
「……あー、悪いけど俺明日用事あるし。二人でやってくれ」
そう言って、なんか疲れた顔をしながら食器の返却口へと行ってしまった。
「……結局二人で見るのか」
「まぁ、始めからそう言う予定だったし。じゃあ放課後帰りに買い物したら
家集合ね。あ、トイレットペーパー買うの忘れないでよ」
「はいはい」
俺達は坂口より少し遅れて食べ終えた昼食のトレーを持って席を立つ。
夜に二人で何を見ようか。
親もいないから夜中に菓子やジュース食っても怒られないし。
不覚にも、中学の頃のあの背徳感を思い出して俺は軽く足を弾ませていた。
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