生命の芽吹く箱庭
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
木漏れ日のような温もりと、ありのままを愛でるやさしい世界。 自分の神域でちまちまと「徳」を溜め、ささやかな箱庭世界を購入した女神。 緑豊かな土地と素朴な人々が暮らすその世界で、女神は巫女たちに静かに語りかける。包み隠さず、ありのままの生命力を育むことこそが、最大の加護なのだと。 身だしなみの刃を置いた巫女たちの心に広がっていく、解放感と確かな温もり。 春の陽気が雪を溶かすように広がる、少し変わった、けれどとびきり穏やかな愛の物語。
本文
静かで穏やかな神域には、今日もゆったりとした時間が流れていた。
主である女神は、とにかくマイペースだ。他の神々が果てしない創世の力を振るったり、壮大な神威を競い合ったりする中、彼女は自分の神域の隅で、ちまちまと「徳」という名のお小遣いを溜め込んでいた。毎日少しずつ、急がず休まず、地道な貯金生活をつづけること数百年。
「ふう……やっと溜まったわ」
女神は満足そうに口元をほころばせると、天界の市場でぽんと小さな世界を一つ買い取った。人間たちが「楽しみにしていた新作ゲームを買った」と胸を躍らせるような、ごく軽やかで個人的な満足感。それが彼女にとっての、待ちに待ったお買いものだった。
買ったばかりの世界は、緑豊かな土地と素朴な人々が暮らす、箱庭のような世界。そこを治めることになった女神には、ひとつだけ譲れないこだわりがあった。
彼女は、ふさふさとした女性の脇毛を心から愛していたのだ。あの柔らかな質感、ありのままの生命力、そしてどこかおおらかな美しさ。自分の世界を手に入れたからには、この素晴らしさをぜひ住人たちにも知ってほしい。
女神はさっそく、自らの神殿に仕える巫女たちの元へ姿を現した。
「みんな、ちょっといいかしら」
神々しい後光を背負いながらも、どこかぽわんとした雰囲気の女神に、巫女たちは驚いて深々と頭を下げる。
「新しい加護を与えるわ。これからは、体毛を無理に整えたり剃ったりしなくていいのよ。特に脇の毛はね、神聖な生命の芽生えであり、私からの特別な温もりなの」
女神はそう言うと、自らの衣の袖をふわりと持ち上げ、美しく生え揃った己の脇毛をそっと見せた。それは決して誇張されたものではなく、やわらかな木漏れ日を浴びる草原のように自然で、どこか神聖な気品すら漂わせていた。
「見なさい。これが本来の美しさ。包み隠さず、豊かに育むことこそが、私の加護を一番受け取れる姿なのよ」
巫女たちは息をのんだ。それまで身だしなみとして丁寧に処理していた部分に、まさか神の加護が宿るとは思ってもみなかったからだ。しかし、心から愛おしそうに己の身体を慈しむ女神の姿はあまりにも神々しく、そしてどこか魅力的に映った。
「……神の加護、ですか」
一人の若い巫女が、自分の脇にそっと手を当て、胸をときめかせた。
それからというもの、変化はとても静かに、じんわりと広まっていった。
劇的な宗教改革のような騒がしさは一切ない。巫女たちは女神のお告げ通り、ただ身だしなみの刃を置き、そのままの自分でいることを試してみた。
数週間が経ち、うっすらと柔らかい毛が芽吹き始めると、不思議なことに、どこか心が軽く解放されるような、温かい安心感に包まれるのを感じた。
朝の祈りで腕を高く掲げるたび、広袖の隙間から覗く柔らかな毛並み。お互いにちらりと視線を交わしては、誇らしげに、そして照れくさそうに頬を緩ませる巫女たち。
「最近、なんだか心も身体も心地が良いですね」
「ええ、女神様の加護の温もりが、ここからじんわりと伝わってくる気がします」
巫女たちの間で生まれたその穏やかな空気は、やがて神殿を訪れる参拝客へ、そして街の女性たちへと自然に伝わっていった。無理に飾らず、ありのままを愛でる文化。それはまるで春の陽気がじわじわと雪を溶かしていくように、小さな世界の隅々へとやさしく染み渡っていった。
当の女神はといえば、自分の神域の縁側に腰掛け、お茶をすすりながら、眼下に広がる箱庭を満足そうに眺めていた。
「うんうん、みんなとっても素敵に生え揃ってきたわね」
マイペースな女神がコツコツ溜めたお小遣いで買った小さな世界は、今日もどこか温かく、そしてほんのりと毛深い愛しさに満ちていた。
作品統計
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