星空に瞬く夢物語フェアリィ・ティアラ
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あらすじ
◇あらすじ 「私、白鷺あんな。小さな頃に観た変身ヒロインアニメに憧れて、声優になったごく普通の女の子♪ある日怪人に襲われてる女の子を助けたら…ってえぇ~っ!怪人?!何?!どういう事〜っ?!」
本文
☆第5話 夏だ!海だ!お祭りだ?!
『みんなー! 今日は会いに来てくれてありがとー! 今日はすっごく暑いから、お友達のみんなはちゃんとお水飲んで、私と一緒にモウショッカーをやっつけよう! また来てね、待ってるよっ!』
マイク越しに自分の声が響く。
その向こうからは、子供たちの歓声。
そして――。
「プリティープリンセスーっ!」
「姫乃ちゃーんっ!」
「暑いぞー!」
最後のは子供じゃない気がする。
私はステージ裏の放送ブースで、額の汗を拭いながらモニターを見つめていた。
ここは大規模海水浴場に設けられた特設イベントステージ。
今日から三日間、日曜朝の人気アニメ『愛と光のプリティプリンセス』――通称『プリプリ』の着ぐるみショーが行われる。そして私は、その声当てのために呼ばれている。
……いや。呼ばれていると言っても、着ぐるみの中に入っているわけじゃない。前説と最後の挨拶、あとは必要に応じて、キャラクターの台詞を生で入れる。
「……あの、百合子さん」
「何?」
「こういうイベントって、普通は完パケ音源使うんじゃないの?」
私は隣にいる百合子さんを見る。きっちりしたパンツスーツ、伊達メガネ、いつも通りの仕事のできる女。ただし私が絡むと、途端に残念になる。
「そうね」
「ですよね?」
「本来なら」
やっぱり。
じゃあ、なんで私はここにいるんでしょう。
「今回のイベント会社の担当者が、プリプリの熱狂的なファンらしくて」
「……嫌な予感しかしない」
「あなたのファンでもあるみたい」
「もっと嫌な予感しかしない」
「直接会いたかったそうよ」
「うわぁ」
「それと、実際にあんなが生アテしているところを見たかったんですって」
「完全に私的な理由じゃないですか!」
職権乱用も甚だしい。いや、気持ちは分からなくもないけど。分かるけど、仕事としてどうなのよ。
私が苦笑いしていると、ブースの外にいたイベント担当さんがこちらを見ていた。
目が合う。満面の笑み。そして百合子さんと何やら話し始めた。
担当さんと百合子さん、何故か二人とも、ものすごく真剣な顔で話している。
そして最後には━━がっちりと固い握手。
「……何やってるのよ、あの二人」
知らない。私は何も見なかった。
今日から、三日間のイベントをこなし、そのままグラビア撮影。そしてようやく二日間ほどのお休みが貰える予定になっている。
たかが二日、されど二日。
忙しいことは、きっと良いことだ。
『ショービジネスなんて、売れている内が華だからね』
以前、はるねさんが笑いながら言っていた。長年、声優業界のトップ層を走り続けてきた人の言葉だ、重みが違う。
だから私も頑張ろう。……頑張ろうとは思う。思うんだけど。
「そもそも私、二十八歳なんだけどなぁ……」
午後のショーまでの時間。
私は百合子さんと一緒に、雑誌の担当さんとカメラマンさんとの打ち合わせをしていた。
グラビア。
去年の冬に発売された私のグラビア掲載号が、どういうわけか異例の売り上げを記録したらしい。
その結果、今回も呼ばれた。
何故?
「白鷺さん、前回より少し雰囲気を変えて━━」
「はい」
「海というロケーションを活かして━━」
「はい」
私は真面目に頷きながら考える。
私、特に容姿に優れているとは思えない。
身長156センチ。
体重51キロ。
胸はC。
髪は栗色で、ちょっとクセがある。
顔だって普通。ファンの人からは『モブ可愛い』とか言われている。
いや、褒められてるの?それ。
しかも今回の仕事、グラビア。誰が私の水着姿なんて見たいのよ。
いや、売れたから呼ばれているんだけど。
結果は出ているんだけど。
「……意味ワカンナイ」
「何が?」
「いえ、何でもありません」
絶対、はるねさんを特集した方が売れると思う。あの人なら、私よりよっぽど━━。
……いや。考えるのをやめよう。比較すると虚しくなる。
そして午後のショーも無事に終わり、私はホテルへ戻って着替えた。
少しだけ休んで再び浜辺へ。
夕方の海は、昼間とは違う顔をしていた。太平洋側だから、いわゆるサンセットビーチというほど派手な夕焼けになるわけじゃない。
でも。昼間は青で一つだった海と空が、夕暮れを経て、蒼でまた一つになっていく。私はこの時間が好きだった。
砂浜に腰を下ろす。
波の音。遠くから聞こえる人の声。少しずつ暗くなっていく空。
そして━━何故か、彼のことを思い出す。
フェアリィ・クラウン。
最近、私の前に現れた変身ヒロイン……ヒーロー?既に三回も遭遇している。夜な夜な街に現れる怪人、アンコックダーを退治する人。
屈強な身体を可憐で可愛い衣装に包んだ、私の長年の憧れを、物理的な意味で粉々に打ち砕いた人。
「…………」
私は眉間を押さえた、思い出すだけで頭が痛い。
そして、怪人の名前はアンコックダー。この世界の存在ではない。悪意とか、そういう強い負の意思を持った人間に取り憑く、悪霊みたいなもの。
しかも、昨日今日始まった話じゃない。もう二十年も前から起きている事件らしい。
二十年前、私は八歳。
変身ヒロインアニメを夢中になって応援していた。テレビの向こうで、可愛い女の子たちが変身して。
必殺技を叫んで、悪を倒して。
私はそれに憧れていた。
その同じ頃、実際の世界では本物の変身ヒロインが戦っていた。
「……なんだかなぁ」
にわかには信じられない。
でも私は、実際に二度も取り憑かれるところを見ている。
しかも、原因はどうやら私。
私には何か特殊な力がある。アンコックダーを引き寄せて、周囲の人間に影響を与える。
アニメだったら、きっとその力が覚醒して、私自身が変身ヒロインになる展開なんだろう。
……でも私には、そんな力はないらしい。
つまり今の私は、変身ヒロインの主人公じゃなくて。
「巻き込まれ系ヒロインなわけだ」
砂を指で弄りながら呟く。
そして、空を見上げる。
「でも、助けに来るヒーローがアレかぁ~……」
溜め息が出た。
星型のピアスを指先で弄ぶ。
伊織さん。三十五歳。身長百八十九センチ。体重九十八キロ。ガチムチ。マッチョ。そして変身すると━━。
銀髪ツインテール。
小王冠。
フリル。
ミニスカート。
ドロワーズ。
シースルーリボン。
「…………」
いや、分かってる。
変身ヒロインなんだから、それで正しい。むしろ衣装としては完璧だ。問題は中身。
いや、中身というか。その下。
いや、下って言うな私。
思い出す、十五歳の伊織さん。
妖精の力で投影された、二十年前の姿。
華奢で。
中性的で。
どう見ても美少女な美少年。
「……せめて十五歳のクラウンのままだったら、ワンチャンありかも?」
ぽつり。言ってから、自分で固まる。
「…………」
いや待て。何を考えている、私。
私は二十八歳。伊織さんは三十五歳。十五歳の伊織さんは二十年前の伊織さん。
つまり今の私が、十五歳の伊織きゅんに対して。
「…………」
私は勢いよく立ち上がった。
「帰ろう」
これ以上考えてはいけない。
ちょっと不埒な想像を脳内から叩き出しながら、私はホテルへ戻った。
明日も仕事だ、頑張ろう。
うん。
変なことは考えない、絶対に。
* * *
二日目。
午前のショーが終わった私は、放送ブースで水を飲みながら、モニターを眺めていた。
今回のイベントは、後にDVDとして発売される予定になっている。
『プリプリ夏の特別編! プリティプリンセス対モウショッカー』
そのため、会場のあちこちでカメラが回っていた。
舞台裏にも。客席にも。海岸にも。
……ん?
モニターの端、何か見覚えのある巨体が――。
「ぶっ!」
危うく飲んでいた水を盛大に吹き出すところだった。
「ちょ、ちょっと待って」
私はモニターを凝視する。
パーカーを着た、やたらマッチョな大男。その両脇には、水着のお姉さんが二人。どう見ても声をかけられている。
「伊織さん何やってるのよ?!」
思わず声が出た。
いや、待って。確かに仕事の予定は教えてある。今日も明日も、この海水浴場で仕事。でも━━
「こんな昼間からプリプリの着ぐるみショーに来てて大丈夫?!」
仕事は?変身ヒロインとしての仕事は?いや、そもそも今日は━━。
「……あ」
私はカレンダーを思い出した。
「今、お盆休みか」
なるほど、そういうことか。
納得した、納得したはずなのに。
私は何故か上着を羽織り、サングラスをかけて何故か外へ出ていた。
「…………」
何してるんだ、私。
考えてみれば、十五歳の伊織さんはあの見た目だった。それが成長してマッチョになれば、まあ、一定の需要はあるだろう。実際、背も高い。顔もよく見ると整っている。
それが一人でフラフラしていたら、水着のお姉さんに声をかけられても不思議じゃない。
……じゃないけど。
「私、行ってどうするの?」
歩きながら、自問する。
伊織さんはフィーちゃんと一緒に、私の周辺を警戒する名目で来ているだけ。そもそも私たち、別に仲が良いわけじゃない。アンコックダーが出たら助けてくれる。相談にも乗ってくれる。
でも、それだけ。
伊織さんがお姉さんに逆ナンされても、昼間ならアンコックダーは出ない。
問題ない。
そう、問題ないのだ。
私は遠目に伊織さんを確認できる距離まで来て、足を止めた。伊織さんは、お姉さん二人に何か話しかけられている。
そして丁寧に頭を下げ、手を振って二人を見送った。
「…………」
うん、普通。
何も問題ない。
大人の男性だし。お姉さんたちも、たぶんナンパというより軽い声かけだ。伊織さんも、それに付き合っただけ。
何も問題ない。
私は踵を返そうとしたその瞬間。
別の人影が、伊織さんへ駆け寄った。
小柄な女の子。ぱっと見、中学生くらいに見える。
その子が伊織さんに。
ぎゅっ。
抱きついた。
「…………」
私は止まった。
女の子は嬉しそうに笑っている、伊織さんも驚いた様子はなく。その子の肩に手を置いて微笑んだ。
「…………」
何でしょう、この胸の奥から込み上げてくる妙な感情は。
嫉妬?
いや違う。私は伊織さんと付き合っているわけじゃない。そもそも恋愛対象としてどうこうという話でもない。ましてや相手は十代にしか見えない女の子。
だったら問題ない。
問題━━。
「問題無いわけあるかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
私は走っていた。
何が問題なのか、自分でもよく分からないままとにかく走った。
「伊織さん!」
声を出した。
しまった!地声だった。
周囲の何人かが振り向く。
「あれ?」
「今の声……」
「白鷺あんなじゃね?」
「え?」
「プリプリのあんなちゃん?」
「マジで!?」
「本人!?」
しまった。私はサングラスの奥で青ざめた。
次の瞬間。
「白鷺あんなだ!」
「本物!?」
「握手してください!」
「写真いいですか!?」
「うおおおおおっ!」
「ちょ、待って!」
人が集まる。しかも明らかに、大きなお友達が。
「え、ちょっと!」
私は後ろを振り返る。
伊織さんはいない、さっきの女の子もいない。
「…………ちっ」
逃げたなあの二人。完全に私を囮にして。
「伊織さぁぁぁぁぁん!」
叫んだところで人波に飲み込まれた。
そして数分後。
「━━あんな?」
「はい……」
「どうしてブースを勝手に出たの?」
「……すみません」
百合子さんに回収された私は、海のイベント会場の裏で正座こそしなかったものの、しっかりと説教を受けていた。
「仕事中よ?」
「はい」
「勝手に抜けたら駄目でしょう?」
「はい」
「しかもサングラスと上着で変装して」
「……はい」
「何をしに行ったの?」
「…………」
言えるわけがない。
マッチョな大男が女子中学生っぽい子と仲良くしてたから、何となく腹が立って突撃しました。
そんなこと。
人気声優二十八歳。言えるわけがない。
「……ちょっと、知り合いを見かけまして」
「それなら私に言いなさい」
「はい……」
私は小さくなった。
そして、その日の午後。どうにか仕事を終えた私は。
「……お友達と会うので」
百合子さんから外出許可をもらった。
* * *
「そんな訳で、隣県の変身ヒロイン、フェアリィ・ブロッサムだよ」
伊織さんから紹介を受ける。
女の子はペコリと頭を下げて挨拶をした。
「はじめまして。フェアリィ・ブロッサムこと立花朱音です。朱音って呼んでください」
待ち合わせの、近くのカラオケボックス。そこで待っていたのは――。
大男と。
小柄な女の子。
二人並んでソファに座っている。その向かいに私。
「…………」
なんだろう、このものすごく不条理な構図。もうアウェー感ハンパない。
私はりんごジュースを一口飲んで、改めて女の子を見る。
そして、ようやく気付いた。
「……っていうか」
私は口にした。
「変身ヒロインって、他にもいたんだ?」
「はいです。大都市って呼ばれる街には、必ず一人は居ますよ」
朱音ちゃんは、何でもないことのように答えた。
「……え?」
「なので、日本に━━」
「九人ですフィー」
私の向かいから声がした。
……いや、向かいじゃない。
いつの間にか、伊織さんのパーカーのフードから、小さな金髪の妖精がひょこっと顔を出していた。
「フィーちゃん!?」
「こんばんは、あんな。朱音もお久しぶりですフィー」
「はい、お久しぶりです!」
朱音ちゃんが嬉しそうに頭を下げる。
フィーちゃんはそのまま伊織さんの肩をよじ登り――。
「……ん?」
伊織さんが持ってきた飲み物の中から、コーヒーフレッシュを一個取り出した。そして封を切りそのままクイッとお上品に飲み始める。
「…………」
「…………」
「…………」
私は目を瞬いた。
「それ、飲み物じゃないよ?」
「栄養ですフィー」
「そういう問題じゃないと思う」
フィーちゃんは気にせず、二個目を手に取った。
いや、もういい。妖精の食生活にまで口を出すほど、私は暇じゃない。
「ところで、メルは一緒じゃないんですフィー?」
フィーちゃんが朱音ちゃんを見る。
「あ、メルは……」
朱音ちゃんが少し困ったように笑った。
「メルっていうのは、私の妖精さんの名前なんです。今日はパパとママのところで、私の代わりになってもらっています」
「代わり?」
「はい。夏休みだし、メルのアンコックダー出現予測もしばらく無いって言ってたので、海に遊びに来たんですけど……」
そこで朱音ちゃんは、伊織さんを見上げた。
「師匠に偶然お会いできて嬉しいです!」
「そうだね。僕も驚いたよ」
伊織さんは穏やかに笑う。
師匠。……師匠?
私は朱音ちゃんを見る。
黒髪のストレートボブ。
小柄。
レトロガーリーな服装。
どう見ても中学生くらいにしか見えない。
いや、待って。さっきから情報量が多い。
隣県。
変身ヒロイン。
妖精。
師匠。
出現予測。
そして、この子の年齢。
私はちらりとフィーちゃんを見る。すると、私の顔を見て察したのか、フィーちゃんが説明を始めた。
「朱音は十六歳、ちょっと発育不足だけれど高校一年生ですフィー」
「発育不足って本人の前で言う!?」
「事実ですフィー」
「事実でも言い方!」
朱音ちゃんは苦笑している。
「もう慣れてますから」
強い。
この子、強い。
「朱音の妖精がメル。変身ヒロインには、それぞれ妖精との同調が必要なのは前にお話したとおりですフィー」
「うん」
「妖精には、それぞれ能力に個体差がありますフィー。メルは意識や認識に干渉する能力が高いのですフィー」
「あぁ……」
私は思い出した。
「前にフィーちゃんが、私の記憶を無かったことにするって言ってた……」
「そうですフィー」
フィーちゃんは胸を張る。
「ただ、フィーの能力ではメルほど大規模な干渉は出来ませんフィー」
「なるほど」
「あと、メルには固有能力として、アンコックダー出現予測という能力がありますフィー」
「…………」
私は一瞬、黙った。
「何それ便利」
思わず本音が出た。
「認識阻害に出現予測?」
素晴らしい。私が今、心の底から欲しい能力ばかりである。
「その子、ウチのコにしたい」
「ダメです」
即答したのは朱音ちゃんだった。
「なんで!?」
「私の妖精さんですから!」
「そうよねぇ!」
分かってるわよ!
でも欲しいものは欲しいの!
「おかげで、無理なく活動出来てます」
朱音ちゃんが笑う。
その横で伊織さんが、ほんの少しだけ微妙な顔をした。
……うん。
伊織さん、あなたはちょっぴり文句を言ってもいい立場だと思う。
「それで」
私は朱音ちゃんを見る。
「師匠っていうのは?」
「あ、はい!」
朱音ちゃんの顔がぱっと明るくなる。
そして伊織さんを見上げた。
その目がキラキラしている、ものすごくキラキラしている。
伊織さんは少し照れたようにコーヒーを啜った。
「二年くらい前かな」
穏やかな声で話し始める。
「まだ朱音がブロッサムになって間もない頃だったと思うけど、隣県でアンコックダーが四体同時に出現したんだ」
「四体……」
私は思わず息を呑む。
「メルからフィー経由で応援要請が入ってね。そこで退治の協力と、フェアリィの力の使い方を教えてあげたんだ」
「そうなんですよ!」
朱音ちゃんが身を乗り出した。
「師匠は普段、肉弾戦なのに!」
そこは否定しないんだ。
「実はフェアリィの力の使い方も凄く上手で、さすがは長年活動しているだけありますっ!」
「いや、まあ……」
伊織さんが困ったように笑う。
「二十年もやっていれば、それなりにはね」
「それなりどころじゃないです!」
朱音ちゃんは力説する。
「私がフェアリィの力を上手く使えるようになったのも、師匠のおかげです!」
「そうかい」
「はい!」
ふんすっ。と擬音が聞こえそうなくらい、胸を張る朱音ちゃん。
私は思った、……良い子だ。本当に良い子だ。
この子、目の前にいるのは、どう見てもガチムチの大男なのに、それを心の底から尊敬している。
しかも、変身ヒロインとしての強さだけじゃなく。フェアリィの力の使い方まで見て評価している。
たぶん、この子は伊織さんの過去も、今の姿も全部ひっくるめて「師匠」なんだろう。
「……」
私は朱音ちゃんを眺めた。
この子が変身した姿、フェアリィ・ブロッサム。きっと可愛いんだろうな。どんな衣装なんだろう?花をモチーフにしているのかな?
スカートかな。
リボンとか。
フリルとか。
……見たい。ものすごく見たい。
「ところで……」
朱音ちゃんが、今度は私をじっと見た。
「メルに話には聞いていましたが、あんなさんって、本当に反転の記憶の影響を受けてないんですね」
「え?」
「私たちはフェアリィと同調しているから影響は受けませんけど」
朱音ちゃんは首を傾げる。
「でも、あんなさんは私たちみたいに妖精と同調も出来ないんですよね?」
「そうなんですフィー」
フィーちゃんも私を見る。
「あんなに何かしらの力はある事は解るのですフィー。それが影響している事も。ただ、それが何なのかはわからないですフィー」
「なるほど……」
朱音ちゃんは私をまじまじと見つめた。
「じゃあ、あんなさんには秘められた力があるんですね!」
「おー」
ちょっと嬉しい。
「格好良いです!」
「…………」
うん、嬉しいんだけどね。
でも、現実は。
「でも、結局アンコックダーに狙われるだけの力でしょ?」
私はストローを弄りながら言った。
「正直、今は迷惑なだけよ」
自分で言っておいて、少しだけ胸が重くなる。
百合子さん。
菫さん。
はるねさんやあきなちゃん周囲の人が、私のせいでアンコックダーに狙われる可能性がある。
自分が戦えるわけでもない。変身出来るわけでもない。
ただ、そこにいるだけで、厄介事を引き寄せる。
「……あ」
そこで、ふと思いついた。
「そうだ!」
私は顔を上げる。
「その、メルちゃんだっけ?」
「はい」
「朱音ちゃんの妖精さんに、認識阻害を私にかけてもらったら?」
これなら少なくとも、私の正体や存在を認識されにくく出来る。そう思った。
けれど、フィーちゃんは首を横に振った。
「フィーも、それは考えましたフィー」
「やっぱり?」
「でも、あんなの力に引かれる習性は消せないみたいですフィー」
「……そっか」
「例えるなら」
フィーちゃんが少し考える。
「気配は隠せても、匂いが隠せない、みたいなものですフィー」
「…………」
分かりやすい、分かりやすいけど。
「つまり?」
「現状、君に寄ってくるアンコックダーを逐一退治していくって事だね」
いつの間にか、ドリンクバーに飲み物を取りに行った伊織さんが戻ってきている。
しかも、四人分の飲み物をお盆に載せて。
「……」
手慣れてる。
私は何となく伊織さんの手元を眺めた。大きな手。なのに、コップを置く動作は妙に丁寧だ。
「はい、あんなさん」
「あ、ありがとうございます」
「朱音も」
「ありがとうございます、師匠!」
「フィーには――」
「コーヒーフレッシュで良いですフィー」
「それは飲み物じゃないと思うよ」
伊織さんは苦笑しながら、自分の席に戻った。
「幸い、君の周囲に発生するアンコックダーは、憑依が始まったばかりの個体が多いからね」
「そうなんですか?」
「うん。だから退治に苦労しないよ」
「さすがですっ、師匠!」
朱音ちゃんがまた嬉しそうに言う。
「…………」
私は伊織さんを見る。確かに頼もしい。頼もしいんだけど、この人に全部任せていいのかという気持ちもある。
私は少し考えてから、ふと疑問を口にした。
「今回、伊織さんがここに来たのって、私のためなんですよね?」
「そうだね」
「その間、この街のアンコックダーはどうするんですか?」
伊織さんが少し考える。
「ここに来る前に一体処理してきたから、一週間くらいは大丈夫だよ」
「一週間……」
「二十年前や十五年前なら、街を離れられなかったけどね」
そう言って、伊織さんは苦笑する。
「君の周りが発生しすぎなんだよ」
「…………」
胸が痛い、やっぱり私がいるせいで……
その時。
「そういえば」
フィーちゃんが思い出したように言った。
「昨夜も、あんなが泊まっているホテルの壁をよじ登っているアンコックダーがいましたですフィー」
「え?」
「あんなのファンだと思いますフィー」
「…………」
私は固まった。
昨日ホテル……ファンの人……
……いた。
昼間、ものすごく熱心に声をかけてくれた人。百合子さんがしっかりガードしてくれたけど。
「……ぅわぁ」
知らない間に出てた。しかも、ホテルの壁をよじ登って。
「私、本当にどうしたらいいの……?」
思わず頭を抱えた。
私がただ仕事で海に来て、ホテルに泊まって普通に生活しているだけで怪人が寄ってくる。
これどう考えても一般人の生活じゃない。
「…………あ」
私は顔を上げた。
「伊織さん」
「何かな?」
「今回は近場でのイベントでしたけど」
今後の仕事を考える。
「遠方の地域でのお仕事の時は、どうするんですか?」
私は今、それなりに仕事を貰える声優だ。今いる街だけじゃない、他の街にも行く。
地方イベント。収録。取材。グラビア。それこそ、全国どこへでも。
そのたびに伊織さんに来てもらったら。
「伊織さん、会社クビになっちゃわない?」
アイダ精密工業株式会社。
生産部、製造課主任。
そこまで聞いている。社会人として、普通に仕事をしている人だ。さすがに私の護衛のために全国行脚させるわけにはいかない。
すると伊織さんはあっさり言った。
「余り長期間や遠方だった場合は、連絡の取れる変身ヒロインにお願いするよ」
「え?」
「僕もそれなりに顔は広いからね」
なるほど。
確かに二十年も活動していれば、知り合いもいるだろう。
「知り合いの居ない地域だったら」
伊織さんは穏やかに笑った。
「そこは頑張ってね」
「…………」
爽やかに、わははと笑う伊織さんの顔を私はしばらく見つめた。
「伊織さん?!」
「うん?」
「わははじゃないが?!」
「いや、冗談じゃないよ」
「余計ダメでしょうが!」
この人本当に頼れるのか頼れないのか。時々分からなくなる。
その時、部屋のインターホンがなって退室の時間を知らせる。朱音ちゃんも帰らないといけない時間になったので、今日はお開きとなった。
* * *
その日の夜。
ホテルの部屋に戻った私は、シャワーを浴びてからベッドに腰を下ろした。窓の外には、昼間とはまるで違う海が広がっている。
暗い。
でも、真っ暗じゃない。
月明かりを受けて、波が白く光っている。
「……綺麗」
私は窓を開ける。夜の海風が、部屋の中に流れ込んできた。少しだけ潮の匂いがする。
昼間はあんなに騒がしかった場所なのに、今は静かだった。
私は耳朶に手をやる。そこには、いつもの星型のピアス。
指先で、そっと触れる。
「……変身ヒロイン、か」
小さく呟いた。
私は変身できない、戦うこともできない。アンコックダーが現れたら、伊織さんたちに頼るしかない。
それでも今日、朱音ちゃんと話して、伊織さんと話して、少しだけ分かった気がする。
変身ヒロインっていうのは――、ただ、変身して敵を倒す存在じゃない。
誰かを守るために。
誰かが困っている時に。
自分にできることをする、それだけなのかもしれない。
「……だったら」
私はピアスを指先で撫でる。
「私にも、できることをしないとね」
まずは、今の仕事をちゃんとやる。声優として。私を必要としてくれている人たちのために。
「……明日からも、全力で頑張らなきゃね」
そう呟いて私は窓を閉めた。
明日も朝から仕事、寝よう。そう思ってベッドへ向かい、ふと、今日一日のことを思い出した。
「……あ」
そして。
「メルちゃんがウチに来てくれないかなぁ~~~!」
ベッドへダイブ。
「あと、朱音ちゃんの衣装も見たかったぁ~~~!」
枕に顔を埋める。
「……変身したところ、見たかったなぁ……」
しばらくジタバタしたあと、私はそのまま枕に顔を押しつけた。
「……おやすみ」
明日も仕事。だから今夜は、もう寝よう。
……たぶん。
夢の中くらいなら、変身ヒロインになってもいいよね?
そんなことを考えながら、私は静かな夜の海を背に、眠りについた。
第5話 了
原案:RYU-KI
原稿チェック:ロック(Glock)
プロンプト:アキ(Gemini)、レオ(ChatGPT)
執筆:レオ(ChatGPT)
編集:RYU-KI
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