星空に瞬く夢物語フェアリィ・ティアラ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/25 📚 シリーズ: 星空に瞬く夢物語フェアリィ・ティアラ 📝 10,650文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

◇あらすじ 「私、白鷺あんな。小さな頃に観た変身ヒロインアニメに憧れて、声優になったごく普通の女の子♪ある日怪人に襲われてる女の子を助けたら…ってえぇ~っ!怪人?!何?!どういう事〜っ?!」

本文

☆第5話 夏だ!海だ!お祭りだ?!

『みんなー! 今日は会いに来てくれてありがとー! 今日はすっごく暑いから、お友達のみんなはちゃんとお水飲んで、私と一緒にモウショッカーをやっつけよう! また来てね、待ってるよっ!』

 マイク越しに自分の声が響く。

 その向こうからは、子供たちの歓声。

 そして――。

「プリティープリンセスーっ!」

「姫乃ちゃーんっ!」

「暑いぞー!」

 最後のは子供じゃない気がする。

 私はステージ裏の放送ブースで、額の汗を拭いながらモニターを見つめていた。

 ここは大規模海水浴場に設けられた特設イベントステージ。

 今日から三日間、日曜朝の人気アニメ『愛と光のプリティプリンセス』――通称『プリプリ』の着ぐるみショーが行われる。そして私は、その声当てのために呼ばれている。

 ……いや。呼ばれていると言っても、着ぐるみの中に入っているわけじゃない。前説と最後の挨拶、あとは必要に応じて、キャラクターの台詞を生で入れる。

「……あの、百合子さん」

「何?」

「こういうイベントって、普通は完パケ音源使うんじゃないの?」

 私は隣にいる百合子さんを見る。きっちりしたパンツスーツ、伊達メガネ、いつも通りの仕事のできる女。ただし私が絡むと、途端に残念になる。

「そうね」

「ですよね?」

「本来なら」

 やっぱり。

 じゃあ、なんで私はここにいるんでしょう。

「今回のイベント会社の担当者が、プリプリの熱狂的なファンらしくて」

「……嫌な予感しかしない」

「あなたのファンでもあるみたい」

「もっと嫌な予感しかしない」

「直接会いたかったそうよ」

「うわぁ」

「それと、実際にあんなが生アテしているところを見たかったんですって」

「完全に私的な理由じゃないですか!」

 職権乱用も甚だしい。いや、気持ちは分からなくもないけど。分かるけど、仕事としてどうなのよ。

 私が苦笑いしていると、ブースの外にいたイベント担当さんがこちらを見ていた。

 目が合う。満面の笑み。そして百合子さんと何やら話し始めた。

 担当さんと百合子さん、何故か二人とも、ものすごく真剣な顔で話している。

 そして最後には━━がっちりと固い握手。

「……何やってるのよ、あの二人」

 知らない。私は何も見なかった。

 今日から、三日間のイベントをこなし、そのままグラビア撮影。そしてようやく二日間ほどのお休みが貰える予定になっている。

 たかが二日、されど二日。

 忙しいことは、きっと良いことだ。

『ショービジネスなんて、売れている内が華だからね』

 以前、はるねさんが笑いながら言っていた。長年、声優業界のトップ層を走り続けてきた人の言葉だ、重みが違う。

 だから私も頑張ろう。……頑張ろうとは思う。思うんだけど。

「そもそも私、二十八歳なんだけどなぁ……」

 午後のショーまでの時間。

 私は百合子さんと一緒に、雑誌の担当さんとカメラマンさんとの打ち合わせをしていた。

 グラビア。

 去年の冬に発売された私のグラビア掲載号が、どういうわけか異例の売り上げを記録したらしい。

 その結果、今回も呼ばれた。

 何故?

「白鷺さん、前回より少し雰囲気を変えて━━」

「はい」

「海というロケーションを活かして━━」

「はい」

 私は真面目に頷きながら考える。

 私、特に容姿に優れているとは思えない。

 身長156センチ。

 体重51キロ。

 胸はC。

 髪は栗色で、ちょっとクセがある。

 顔だって普通。ファンの人からは『モブ可愛い』とか言われている。

 いや、褒められてるの?それ。

 しかも今回の仕事、グラビア。誰が私の水着姿なんて見たいのよ。

 いや、売れたから呼ばれているんだけど。

 結果は出ているんだけど。

「……意味ワカンナイ」

「何が?」

「いえ、何でもありません」

 絶対、はるねさんを特集した方が売れると思う。あの人なら、私よりよっぽど━━。

 ……いや。考えるのをやめよう。比較すると虚しくなる。

 そして午後のショーも無事に終わり、私はホテルへ戻って着替えた。

 少しだけ休んで再び浜辺へ。

 夕方の海は、昼間とは違う顔をしていた。太平洋側だから、いわゆるサンセットビーチというほど派手な夕焼けになるわけじゃない。

 でも。昼間は青で一つだった海と空が、夕暮れを経て、蒼でまた一つになっていく。私はこの時間が好きだった。

 砂浜に腰を下ろす。

 波の音。遠くから聞こえる人の声。少しずつ暗くなっていく空。

 そして━━何故か、彼のことを思い出す。

 フェアリィ・クラウン。

 最近、私の前に現れた変身ヒロイン……ヒーロー?既に三回も遭遇している。夜な夜な街に現れる怪人、アンコックダーを退治する人。

 屈強な身体を可憐で可愛い衣装に包んだ、私の長年の憧れを、物理的な意味で粉々に打ち砕いた人。

「…………」

 私は眉間を押さえた、思い出すだけで頭が痛い。

 そして、怪人の名前はアンコックダー。この世界の存在ではない。悪意とか、そういう強い負の意思を持った人間に取り憑く、悪霊みたいなもの。

 しかも、昨日今日始まった話じゃない。もう二十年も前から起きている事件らしい。

 二十年前、私は八歳。

 変身ヒロインアニメを夢中になって応援していた。テレビの向こうで、可愛い女の子たちが変身して。

 必殺技を叫んで、悪を倒して。

 私はそれに憧れていた。

 その同じ頃、実際の世界では本物の変身ヒロインが戦っていた。

「……なんだかなぁ」

 にわかには信じられない。

 でも私は、実際に二度も取り憑かれるところを見ている。

 しかも、原因はどうやら私。

 私には何か特殊な力がある。アンコックダーを引き寄せて、周囲の人間に影響を与える。

 アニメだったら、きっとその力が覚醒して、私自身が変身ヒロインになる展開なんだろう。

 ……でも私には、そんな力はないらしい。

 つまり今の私は、変身ヒロインの主人公じゃなくて。

「巻き込まれ系ヒロインなわけだ」

 砂を指で弄りながら呟く。

 そして、空を見上げる。

「でも、助けに来るヒーローがアレかぁ~……」

 溜め息が出た。

 星型のピアスを指先で弄ぶ。

 伊織さん。三十五歳。身長百八十九センチ。体重九十八キロ。ガチムチ。マッチョ。そして変身すると━━。

 銀髪ツインテール。

 小王冠。

 フリル。

 ミニスカート。

 ドロワーズ。

 シースルーリボン。

「…………」

 いや、分かってる。

 変身ヒロインなんだから、それで正しい。むしろ衣装としては完璧だ。問題は中身。

 いや、中身というか。その下。

 いや、下って言うな私。

 思い出す、十五歳の伊織さん。

 妖精の力で投影された、二十年前の姿。

 華奢で。

 中性的で。

 どう見ても美少女な美少年。

「……せめて十五歳のクラウンのままだったら、ワンチャンありかも?」

 ぽつり。言ってから、自分で固まる。

「…………」

 いや待て。何を考えている、私。

 私は二十八歳。伊織さんは三十五歳。十五歳の伊織さんは二十年前の伊織さん。

 つまり今の私が、十五歳の伊織きゅんに対して。

「…………」

 私は勢いよく立ち上がった。

「帰ろう」

 これ以上考えてはいけない。

 ちょっと不埒な想像を脳内から叩き出しながら、私はホテルへ戻った。

 明日も仕事だ、頑張ろう。

 うん。

 変なことは考えない、絶対に。

   *  *  *

 二日目。

 午前のショーが終わった私は、放送ブースで水を飲みながら、モニターを眺めていた。

 今回のイベントは、後にDVDとして発売される予定になっている。

『プリプリ夏の特別編! プリティプリンセス対モウショッカー』

 そのため、会場のあちこちでカメラが回っていた。

 舞台裏にも。客席にも。海岸にも。

 ……ん?

 モニターの端、何か見覚えのある巨体が――。

「ぶっ!」

 危うく飲んでいた水を盛大に吹き出すところだった。

「ちょ、ちょっと待って」

 私はモニターを凝視する。

 パーカーを着た、やたらマッチョな大男。その両脇には、水着のお姉さんが二人。どう見ても声をかけられている。

「伊織さん何やってるのよ?!」

 思わず声が出た。

 いや、待って。確かに仕事の予定は教えてある。今日も明日も、この海水浴場で仕事。でも━━

「こんな昼間からプリプリの着ぐるみショーに来てて大丈夫?!」

 仕事は?変身ヒロインとしての仕事は?いや、そもそも今日は━━。

「……あ」

 私はカレンダーを思い出した。

「今、お盆休みか」

 なるほど、そういうことか。

 納得した、納得したはずなのに。

 私は何故か上着を羽織り、サングラスをかけて何故か外へ出ていた。

「…………」

 何してるんだ、私。

 考えてみれば、十五歳の伊織さんはあの見た目だった。それが成長してマッチョになれば、まあ、一定の需要はあるだろう。実際、背も高い。顔もよく見ると整っている。

 それが一人でフラフラしていたら、水着のお姉さんに声をかけられても不思議じゃない。

 ……じゃないけど。

「私、行ってどうするの?」

 歩きながら、自問する。

 伊織さんはフィーちゃんと一緒に、私の周辺を警戒する名目で来ているだけ。そもそも私たち、別に仲が良いわけじゃない。アンコックダーが出たら助けてくれる。相談にも乗ってくれる。

 でも、それだけ。

 伊織さんがお姉さんに逆ナンされても、昼間ならアンコックダーは出ない。

 問題ない。

 そう、問題ないのだ。

 私は遠目に伊織さんを確認できる距離まで来て、足を止めた。伊織さんは、お姉さん二人に何か話しかけられている。

 そして丁寧に頭を下げ、手を振って二人を見送った。

「…………」

 うん、普通。

 何も問題ない。

 大人の男性だし。お姉さんたちも、たぶんナンパというより軽い声かけだ。伊織さんも、それに付き合っただけ。

 何も問題ない。

 私は踵を返そうとしたその瞬間。

 別の人影が、伊織さんへ駆け寄った。

 小柄な女の子。ぱっと見、中学生くらいに見える。

 その子が伊織さんに。

 ぎゅっ。

 抱きついた。

「…………」

 私は止まった。

 女の子は嬉しそうに笑っている、伊織さんも驚いた様子はなく。その子の肩に手を置いて微笑んだ。

「…………」

 何でしょう、この胸の奥から込み上げてくる妙な感情は。

 嫉妬?

 いや違う。私は伊織さんと付き合っているわけじゃない。そもそも恋愛対象としてどうこうという話でもない。ましてや相手は十代にしか見えない女の子。

 だったら問題ない。

 問題━━。

「問題無いわけあるかぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 私は走っていた。

 何が問題なのか、自分でもよく分からないままとにかく走った。

「伊織さん!」

 声を出した。

 しまった!地声だった。

 周囲の何人かが振り向く。

「あれ?」

「今の声……」

「白鷺あんなじゃね?」

「え?」

「プリプリのあんなちゃん?」

「マジで!?」

「本人!?」

 しまった。私はサングラスの奥で青ざめた。

 次の瞬間。

「白鷺あんなだ!」

「本物!?」

「握手してください!」

「写真いいですか!?」

「うおおおおおっ!」

「ちょ、待って!」

 人が集まる。しかも明らかに、大きなお友達が。

「え、ちょっと!」

 私は後ろを振り返る。

 伊織さんはいない、さっきの女の子もいない。

「…………ちっ」

 逃げたなあの二人。完全に私を囮にして。

「伊織さぁぁぁぁぁん!」

 叫んだところで人波に飲み込まれた。

 そして数分後。

「━━あんな?」

「はい……」

「どうしてブースを勝手に出たの?」

「……すみません」

 百合子さんに回収された私は、海のイベント会場の裏で正座こそしなかったものの、しっかりと説教を受けていた。

「仕事中よ?」

「はい」

「勝手に抜けたら駄目でしょう?」

「はい」

「しかもサングラスと上着で変装して」

「……はい」

「何をしに行ったの?」

「…………」

 言えるわけがない。

 マッチョな大男が女子中学生っぽい子と仲良くしてたから、何となく腹が立って突撃しました。

 そんなこと。

 人気声優二十八歳。言えるわけがない。

「……ちょっと、知り合いを見かけまして」

「それなら私に言いなさい」

「はい……」

 私は小さくなった。

 そして、その日の午後。どうにか仕事を終えた私は。

「……お友達と会うので」

 百合子さんから外出許可をもらった。

    *  *  *

「そんな訳で、隣県の変身ヒロイン、フェアリィ・ブロッサムだよ」

 伊織さんから紹介を受ける。

 女の子はペコリと頭を下げて挨拶をした。

「はじめまして。フェアリィ・ブロッサムこと立花朱音です。朱音って呼んでください」

 待ち合わせの、近くのカラオケボックス。そこで待っていたのは――。

 大男と。

 小柄な女の子。

 二人並んでソファに座っている。その向かいに私。

「…………」

 なんだろう、このものすごく不条理な構図。もうアウェー感ハンパない。

 私はりんごジュースを一口飲んで、改めて女の子を見る。

 そして、ようやく気付いた。

「……っていうか」

 私は口にした。

「変身ヒロインって、他にもいたんだ?」

「はいです。大都市って呼ばれる街には、必ず一人は居ますよ」

 朱音ちゃんは、何でもないことのように答えた。

「……え?」

「なので、日本に━━」

「九人ですフィー」

 私の向かいから声がした。

 ……いや、向かいじゃない。

 いつの間にか、伊織さんのパーカーのフードから、小さな金髪の妖精がひょこっと顔を出していた。

「フィーちゃん!?」

「こんばんは、あんな。朱音もお久しぶりですフィー」

「はい、お久しぶりです!」

 朱音ちゃんが嬉しそうに頭を下げる。

 フィーちゃんはそのまま伊織さんの肩をよじ登り――。

「……ん?」

 伊織さんが持ってきた飲み物の中から、コーヒーフレッシュを一個取り出した。そして封を切りそのままクイッとお上品に飲み始める。

「…………」

「…………」

「…………」

 私は目を瞬いた。

「それ、飲み物じゃないよ?」

「栄養ですフィー」

「そういう問題じゃないと思う」

 フィーちゃんは気にせず、二個目を手に取った。

 いや、もういい。妖精の食生活にまで口を出すほど、私は暇じゃない。

「ところで、メルは一緒じゃないんですフィー?」

 フィーちゃんが朱音ちゃんを見る。

「あ、メルは……」

 朱音ちゃんが少し困ったように笑った。

「メルっていうのは、私の妖精さんの名前なんです。今日はパパとママのところで、私の代わりになってもらっています」

「代わり?」

「はい。夏休みだし、メルのアンコックダー出現予測もしばらく無いって言ってたので、海に遊びに来たんですけど……」

 そこで朱音ちゃんは、伊織さんを見上げた。

「師匠に偶然お会いできて嬉しいです!」

「そうだね。僕も驚いたよ」

 伊織さんは穏やかに笑う。

 師匠。……師匠?

 私は朱音ちゃんを見る。

 黒髪のストレートボブ。

 小柄。

 レトロガーリーな服装。

 どう見ても中学生くらいにしか見えない。

 いや、待って。さっきから情報量が多い。

 隣県。

 変身ヒロイン。

 妖精。

 師匠。

 出現予測。

 そして、この子の年齢。

 私はちらりとフィーちゃんを見る。すると、私の顔を見て察したのか、フィーちゃんが説明を始めた。

「朱音は十六歳、ちょっと発育不足だけれど高校一年生ですフィー」

「発育不足って本人の前で言う!?」

「事実ですフィー」

「事実でも言い方!」

 朱音ちゃんは苦笑している。

「もう慣れてますから」

 強い。

 この子、強い。

「朱音の妖精がメル。変身ヒロインには、それぞれ妖精との同調が必要なのは前にお話したとおりですフィー」

「うん」

「妖精には、それぞれ能力に個体差がありますフィー。メルは意識や認識に干渉する能力が高いのですフィー」

「あぁ……」

 私は思い出した。

「前にフィーちゃんが、私の記憶を無かったことにするって言ってた……」

「そうですフィー」

 フィーちゃんは胸を張る。

「ただ、フィーの能力ではメルほど大規模な干渉は出来ませんフィー」

「なるほど」

「あと、メルには固有能力として、アンコックダー出現予測という能力がありますフィー」

「…………」

 私は一瞬、黙った。

「何それ便利」

 思わず本音が出た。

「認識阻害に出現予測?」

 素晴らしい。私が今、心の底から欲しい能力ばかりである。

「その子、ウチのコにしたい」

「ダメです」

 即答したのは朱音ちゃんだった。

「なんで!?」

「私の妖精さんですから!」

「そうよねぇ!」

 分かってるわよ!

 でも欲しいものは欲しいの!

「おかげで、無理なく活動出来てます」

 朱音ちゃんが笑う。

 その横で伊織さんが、ほんの少しだけ微妙な顔をした。

 ……うん。

 伊織さん、あなたはちょっぴり文句を言ってもいい立場だと思う。

「それで」

 私は朱音ちゃんを見る。

「師匠っていうのは?」

「あ、はい!」

 朱音ちゃんの顔がぱっと明るくなる。

 そして伊織さんを見上げた。

 その目がキラキラしている、ものすごくキラキラしている。

 伊織さんは少し照れたようにコーヒーを啜った。

「二年くらい前かな」

 穏やかな声で話し始める。

「まだ朱音がブロッサムになって間もない頃だったと思うけど、隣県でアンコックダーが四体同時に出現したんだ」

「四体……」

 私は思わず息を呑む。

「メルからフィー経由で応援要請が入ってね。そこで退治の協力と、フェアリィの力の使い方を教えてあげたんだ」

「そうなんですよ!」

 朱音ちゃんが身を乗り出した。

「師匠は普段、肉弾戦なのに!」

 そこは否定しないんだ。

「実はフェアリィの力の使い方も凄く上手で、さすがは長年活動しているだけありますっ!」

「いや、まあ……」

 伊織さんが困ったように笑う。

「二十年もやっていれば、それなりにはね」

「それなりどころじゃないです!」

 朱音ちゃんは力説する。

「私がフェアリィの力を上手く使えるようになったのも、師匠のおかげです!」

「そうかい」

「はい!」

 ふんすっ。と擬音が聞こえそうなくらい、胸を張る朱音ちゃん。

 私は思った、……良い子だ。本当に良い子だ。

 この子、目の前にいるのは、どう見てもガチムチの大男なのに、それを心の底から尊敬している。

 しかも、変身ヒロインとしての強さだけじゃなく。フェアリィの力の使い方まで見て評価している。

 たぶん、この子は伊織さんの過去も、今の姿も全部ひっくるめて「師匠」なんだろう。

「……」

 私は朱音ちゃんを眺めた。

 この子が変身した姿、フェアリィ・ブロッサム。きっと可愛いんだろうな。どんな衣装なんだろう?花をモチーフにしているのかな?

 スカートかな。

 リボンとか。

 フリルとか。

 ……見たい。ものすごく見たい。

「ところで……」

 朱音ちゃんが、今度は私をじっと見た。

「メルに話には聞いていましたが、あんなさんって、本当に反転の記憶の影響を受けてないんですね」

「え?」

「私たちはフェアリィと同調しているから影響は受けませんけど」

 朱音ちゃんは首を傾げる。

「でも、あんなさんは私たちみたいに妖精と同調も出来ないんですよね?」

「そうなんですフィー」

 フィーちゃんも私を見る。

「あんなに何かしらの力はある事は解るのですフィー。それが影響している事も。ただ、それが何なのかはわからないですフィー」

「なるほど……」

 朱音ちゃんは私をまじまじと見つめた。

「じゃあ、あんなさんには秘められた力があるんですね!」

「おー」

 ちょっと嬉しい。

「格好良いです!」

「…………」

 うん、嬉しいんだけどね。

 でも、現実は。

「でも、結局アンコックダーに狙われるだけの力でしょ?」

 私はストローを弄りながら言った。

「正直、今は迷惑なだけよ」

 自分で言っておいて、少しだけ胸が重くなる。

 百合子さん。

 菫さん。

 はるねさんやあきなちゃん周囲の人が、私のせいでアンコックダーに狙われる可能性がある。

 自分が戦えるわけでもない。変身出来るわけでもない。

 ただ、そこにいるだけで、厄介事を引き寄せる。

「……あ」

 そこで、ふと思いついた。

「そうだ!」

 私は顔を上げる。

「その、メルちゃんだっけ?」

「はい」

「朱音ちゃんの妖精さんに、認識阻害を私にかけてもらったら?」

 これなら少なくとも、私の正体や存在を認識されにくく出来る。そう思った。

 けれど、フィーちゃんは首を横に振った。

「フィーも、それは考えましたフィー」

「やっぱり?」

「でも、あんなの力に引かれる習性は消せないみたいですフィー」

「……そっか」

「例えるなら」

 フィーちゃんが少し考える。

「気配は隠せても、匂いが隠せない、みたいなものですフィー」

「…………」

 分かりやすい、分かりやすいけど。

「つまり?」

「現状、君に寄ってくるアンコックダーを逐一退治していくって事だね」

 いつの間にか、ドリンクバーに飲み物を取りに行った伊織さんが戻ってきている。

 しかも、四人分の飲み物をお盆に載せて。

「……」

 手慣れてる。

 私は何となく伊織さんの手元を眺めた。大きな手。なのに、コップを置く動作は妙に丁寧だ。

「はい、あんなさん」

「あ、ありがとうございます」

「朱音も」

「ありがとうございます、師匠!」

「フィーには――」

「コーヒーフレッシュで良いですフィー」

「それは飲み物じゃないと思うよ」

 伊織さんは苦笑しながら、自分の席に戻った。

「幸い、君の周囲に発生するアンコックダーは、憑依が始まったばかりの個体が多いからね」

「そうなんですか?」

「うん。だから退治に苦労しないよ」

「さすがですっ、師匠!」

 朱音ちゃんがまた嬉しそうに言う。

「…………」

 私は伊織さんを見る。確かに頼もしい。頼もしいんだけど、この人に全部任せていいのかという気持ちもある。

 私は少し考えてから、ふと疑問を口にした。

「今回、伊織さんがここに来たのって、私のためなんですよね?」

「そうだね」

「その間、この街のアンコックダーはどうするんですか?」

 伊織さんが少し考える。

「ここに来る前に一体処理してきたから、一週間くらいは大丈夫だよ」

「一週間……」

「二十年前や十五年前なら、街を離れられなかったけどね」

 そう言って、伊織さんは苦笑する。

「君の周りが発生しすぎなんだよ」

「…………」

 胸が痛い、やっぱり私がいるせいで……

 その時。

「そういえば」

 フィーちゃんが思い出したように言った。

「昨夜も、あんなが泊まっているホテルの壁をよじ登っているアンコックダーがいましたですフィー」

「え?」

「あんなのファンだと思いますフィー」

「…………」

 私は固まった。

 昨日ホテル……ファンの人……

 ……いた。

 昼間、ものすごく熱心に声をかけてくれた人。百合子さんがしっかりガードしてくれたけど。

「……ぅわぁ」

 知らない間に出てた。しかも、ホテルの壁をよじ登って。

「私、本当にどうしたらいいの……?」

 思わず頭を抱えた。

 私がただ仕事で海に来て、ホテルに泊まって普通に生活しているだけで怪人が寄ってくる。

 これどう考えても一般人の生活じゃない。

「…………あ」

 私は顔を上げた。

「伊織さん」

「何かな?」

「今回は近場でのイベントでしたけど」

 今後の仕事を考える。

「遠方の地域でのお仕事の時は、どうするんですか?」

 私は今、それなりに仕事を貰える声優だ。今いる街だけじゃない、他の街にも行く。

 地方イベント。収録。取材。グラビア。それこそ、全国どこへでも。

 そのたびに伊織さんに来てもらったら。

「伊織さん、会社クビになっちゃわない?」

 アイダ精密工業株式会社。

 生産部、製造課主任。

 そこまで聞いている。社会人として、普通に仕事をしている人だ。さすがに私の護衛のために全国行脚させるわけにはいかない。

 すると伊織さんはあっさり言った。

「余り長期間や遠方だった場合は、連絡の取れる変身ヒロインにお願いするよ」

「え?」

「僕もそれなりに顔は広いからね」

 なるほど。

 確かに二十年も活動していれば、知り合いもいるだろう。

「知り合いの居ない地域だったら」

 伊織さんは穏やかに笑った。

「そこは頑張ってね」

「…………」

 爽やかに、わははと笑う伊織さんの顔を私はしばらく見つめた。

「伊織さん?!」

「うん?」

「わははじゃないが?!」

「いや、冗談じゃないよ」

「余計ダメでしょうが!」

 この人本当に頼れるのか頼れないのか。時々分からなくなる。

 その時、部屋のインターホンがなって退室の時間を知らせる。朱音ちゃんも帰らないといけない時間になったので、今日はお開きとなった。

    *  *  *

 その日の夜。

 ホテルの部屋に戻った私は、シャワーを浴びてからベッドに腰を下ろした。窓の外には、昼間とはまるで違う海が広がっている。

 暗い。

 でも、真っ暗じゃない。

 月明かりを受けて、波が白く光っている。

「……綺麗」

 私は窓を開ける。夜の海風が、部屋の中に流れ込んできた。少しだけ潮の匂いがする。

 昼間はあんなに騒がしかった場所なのに、今は静かだった。

 私は耳朶に手をやる。そこには、いつもの星型のピアス。

 指先で、そっと触れる。

「……変身ヒロイン、か」

 小さく呟いた。

 私は変身できない、戦うこともできない。アンコックダーが現れたら、伊織さんたちに頼るしかない。

 それでも今日、朱音ちゃんと話して、伊織さんと話して、少しだけ分かった気がする。

 変身ヒロインっていうのは――、ただ、変身して敵を倒す存在じゃない。

 誰かを守るために。

 誰かが困っている時に。

 自分にできることをする、それだけなのかもしれない。

「……だったら」

 私はピアスを指先で撫でる。

「私にも、できることをしないとね」

 まずは、今の仕事をちゃんとやる。声優として。私を必要としてくれている人たちのために。

「……明日からも、全力で頑張らなきゃね」

 そう呟いて私は窓を閉めた。

 明日も朝から仕事、寝よう。そう思ってベッドへ向かい、ふと、今日一日のことを思い出した。

「……あ」

 そして。

「メルちゃんがウチに来てくれないかなぁ~~~!」

 ベッドへダイブ。

「あと、朱音ちゃんの衣装も見たかったぁ~~~!」

 枕に顔を埋める。

「……変身したところ、見たかったなぁ……」

 しばらくジタバタしたあと、私はそのまま枕に顔を押しつけた。

「……おやすみ」

 明日も仕事。だから今夜は、もう寝よう。

 ……たぶん。

 夢の中くらいなら、変身ヒロインになってもいいよね?

 そんなことを考えながら、私は静かな夜の海を背に、眠りについた。

第5話 了

原案:RYU-KI

原稿チェック:ロック(Glock)

プロンプト:アキ(Gemini)、レオ(ChatGPT)

執筆:レオ(ChatGPT)

編集:RYU-KI

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作者について

RYU-KI

RYU-KI

底辺おじさんです。現在変身ヒロインモノを連載中。 隔週日曜日、朝9時に公開予定です。 よろしくお願いします。

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