【61番外】 こちらは見学コース外です
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
未来都市の中心部から、第九区へ向かう小型シャトルがゆっくりと高度を下げていく。
窓の外には、いつもの見慣れた景色が広がっていた。
空中を走る自動運転車。建物の壁面を流れる巨大なホログラム広告。空中配送ドローンが、規則正しく交差していく。
そんな都市の風景が少しずつ遠ざかり、代わりに低い建物が増えていった。
「皆さーん、間もなく第九区です」
車内に、明るい声が響く。
今日は「昔の街並み見学ツアー」。
再開発されずに残った古い商店街や、昭和から平成初期にかけて建てられた建物を見て回る、少し珍しい観光コースだった。
「第九区には、今では貴重になった昔ながらの建物が残っています」
ガイドが説明する。
「今日は保存地区を中心に――」
シャトルが停車した。
一行は降りる。そこからは徒歩だった。ところが。
「……こちら、ですよね?」
ガイドが古い地図と周囲を見比べる。
「はい。こちらの道をまっすぐ進めば、保存地区の入口に――」
「……?」
全員が立ち止まった。目の前にあるのは、畑だった。
「違いますね」
「違いますねえ」
ガイドは苦笑した。
どうやら、昔の地図に描かれた道と、現在の道路が完全には一致していないらしい。
「少々お待ちください。現在地を確認します」
ガイドが腕の端末を操作する。
しかし、第九区の一部では通信状況が不安定だった。
「……あれ?」
「ガイドさん?」
「大丈夫です。たぶん、こちらです」
そう言って歩き出した。
数分後。
一行の前に、一軒の店が現れた。
古い建物だった。派手なホログラム看板もない。壁には昔のポスターが貼られている。
そして入口の上には、『時環遊技場』と書かれていた。
「……ここは?」
ガイドが立ち止まった。
「資料にありません」
「昔の商店ですか?」
「遊技場……?」
参加者の一人が、ガラス越しに店内を覗き込んだ。
「中に、変わった機械がありますよ!」
「本当だ」
「ちょっとだけ見てみませんか?」
「いや、でも見学コースは――」
言い終わる前に、扉が開いた。
「どうぞ」
店主が立っていた。穏やかな笑顔だった。
「道に迷われましたか?」
「あ、はい……」
ガイドが申し訳なさそうに頭を下げる。
「昔の街並みを見学するツアーで来たのですが、道が分からなくなってしまって」
「それは大変でしたね〜」
店主は笑った。
「よろしければ、中で少し休んでいかれてください」
「ありがとうございます」
遠慮がちに入った一行だったが。数秒後には、空気が変わっていた。
「……これ、何ですか?」
一人が、古いパチンコ台の前で立ち止まる。
「パチンコ台ですよ」
「パチンコ……」
未来都市の住人たちが、顔を見合わせた。
「実物、初めて見ました」
「私も」
「映像がないんですね?」
「そういう台もあります」
別の客が盤面を覗き込む。ガラスの向こうには、たくさんの釘。機械式の役物。小さな穴。
そして銀色の玉。
「……全部、物理なんですか?」
「はい」
店主が答える。
「玉を打って、釘に当てて遊ぶんです」
「玉を?」
「はい」
店主が一台の前に立った。ハンドルを握る。玉が弾かれた。盤面を玉が跳ねる。
パチ、パチ、パチ――。
「おお……」
一行が身を乗り出した。
玉は釘に当たりながら下へ落ちていく。
「すごい」
「本当に物理だけで動いてる……」
すると、盤面の中央で玉が跳ねた。
その瞬間。役物が、カタンと動いた。
「動いた!」
一行が一斉に身を乗り出した。
「今の何ですか!?」
「役物ですね」
「役物……!」
未来人たちの目が輝く。
さらに別の台から、パチン、と玉の音がした。
「こっちも動いた!」
「見てください!」
「どういう仕組みですか!?」
「ええと……」
店主は台を覗き込む。
「これは、たぶん……」
その台自身が答えるように、もう一度カタン、と動いた。
「おおおお!」
拍手が起こった。
店主が目を丸くする。
「そんなに喜んでいただけるとは……!」
そのとき、一人の参加者が隣の台を指差した。
「店主さん! こっちは画面があります!」
そこにあったのは、平成初期のCR機だった。
盤面の中央に、小さな液晶画面が埋め込まれている。
「これは?」
「CR機ですね」
店主が説明する。
「こちらには液晶がついています」
「液晶……?」
一同が覗き込む。
画面に小さな数字や図柄が表示される。
「……小さい」
「え?」
店主が少し驚く。
「こんなに小さい画面で、遊ぶんですか?」
「はい」
「これが?」
「はい」
未来都市では、建物ほどの大きさの映像や、空中に浮かぶ立体映像が当たり前になっている。だからこそ。手のひらより少し大きい程度の液晶画面が、かえって珍しかった。
「かわいい……」
「本当にこれだけ?」
「でも、ちゃんと動いてる!」
「数字が変わった!」
小さな液晶の中で図柄が次々と切り替わる。参加者たちは、まるで貴重な古代遺物でも見るように、顔を近づけた。
「こんな小さな画面で、昔の人は楽しんでいたんですね」
「そうですね」
店主は嬉しそうに頷いた。
「当時は、それでも新しいものだったんですよ」
「これが新しかったんですか?」
「はい」
「へえ……!」
誰かが感心したように声を上げる。
その直後。液晶の図柄が、ぴたりと止まった。
「……?」
全員が息を止める。
そして、ジャラララ……!と、台から玉の音が響いた。
「えっ!?」
「何が起きたんですか!?」
「当たったんです」
店主が答える。
「当たり!?」
一斉に歓声が上がった。
「すごい!」
「画面だけじゃなくて、下の機械まで動いてる!」
「もう一回見たい!」
ガイドが腕時計を見る。予定時刻を、とうに過ぎている。
「あの……皆さん…皆さーん!!」
「はい!」
「そろそろ本来の見学コースへ戻らないと……」
「あと五分!」
「これだけ見てから!」
「この台、もう一回だけ!」
ガイドは困った顔をした。
店主が申し訳なさそうに言う。
「すみません。私も少し話し込んでしまいました」
「いえ……」
ガイドは店内を見回した。
壁の古いポスター。年季の入った台。蛍光灯の柔らかな明かり。そして、それを珍しそうに眺める未来都市の人々。
「……まあ、たまには予定外もいいかもしれませんね」
ようやく、一行は店を出ることになった。入口で、参加者の一人が振り返る。
「次のツアーもここに来ますか?」
「ここは見学コースには――」
ガイドが言いかける。
「ぜひ入れてください!」
「お願いします!」
「今度はもっと時間を取って!」
次々と声が上がった。
店主は少し困ったように、それでも嬉しそうに笑った。
「では、道に迷わないようにお越しください」
「それは……」
ガイドが苦笑する。
「私たちも努力します」
人々が去っていく。
しばらくして、店内が静かになった。
店主は入口の外を眺めた。
「……昔の街並みを見に来たはずなのに、こちらへ来てしまったんですね」
従業員アンドロイドが答える。
「結果として、予定外の見学先が最も印象に残ったようです」
「そうですか」
店主は楽しそうに笑った。
「道に迷うのも、たまには悪くありませんね」
その数日後。
店に一通の連絡が届いた。先日の見学ツアーを担当したガイドからだった。
『先日は突然お邪魔してしまい、申し訳ありませんでした』
店主が続きを読む。
『あの日、参加者の皆さんから大変好評でして――』
そこまで読んで、店主は少し目を丸くした。
『ぜひ今後の「昔の街並み見学ツアー」の正式な見学先として、時環遊技場をコースに加えさせていただけないでしょうか』
「……正式な見学先、ですか」
店主は手元の端末を眺める。
その隣から、従業員アンドロイドが画面を覗き込んだ。
「先日の皆さまは、かなり興味を持たれていましたから」
「そうでしたね」
店主は笑った。
「でも、うちは昔の街並み……というほど古い建物ではありませんよ?」
「建物だけが見学対象とは限らないのではないでしょうか」
「なるほど」
店主は少し考えてから、返信画面を開いた。
「それなら――」
指先が、承諾の文字を入力していく。
こうして時環遊技場は、もともとの予定にはなかった場所から、正式な「昔の街並み見学ツアー」の立ち寄り先になった。
もっとも。店主自身は、いまだに少し不思議に思っている。あの日の一行は、昔の街並みを見に来たはずだった。それなのに一番長く見ていたのは、古いパチンコ台だったのだから。
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