雪は溶たら泥になる 7話 「きなこもち」という影 白川の闇に潜む“匿名の声”

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/13 📚 シリーズ: 雪は溶たら泥になる 📝 5,383文字 ✅ 全年齢

あらすじ

<p><span>深夜の資料室。</span></p><p><span>チープな蛍光灯の白い光が無機質に机の上の書類を照らし、深夜の資料室には深い沈黙だけが支配していた。ひんやりとした空気が、浅野の肺腑にじんわりと染み渡る。積まれた古いファイルから立ち上る微かな埃の匂いが、時間の重みを物語っていた。浅野の疲れた目には、その無機質な光すらも、街の偽りの平穏を象徴しているように映った。</span></p><p><span>浅野は、無数の事件の記録が眠るこの資料室で、ただ一つ、今日向き合うべき“あるアカウント”の記録を、重い指で開いた。画面が淡く光り、彼の疲れた顔を青白く染め上げる。</span>

本文

深夜の資料室。

チープな蛍光灯の白い光が無機質に机の上の書類を照らし、深夜の資料室には深い沈黙だけが支配していた。ひんやりとした空気が、浅野の肺腑にじんわりと染み渡る。積まれた古いファイルから立ち上る微かな埃の匂いが、時間の重みを物語っていた。浅野の疲れた目には、その無機質な光すらも、街の偽りの平穏を象徴しているように映った。

浅野は、無数の事件の記録が眠るこの資料室で、ただ一つ、今日向き合うべき“あるアカウント”の記録を、重い指で開いた。画面が淡く光り、彼の疲れた顔を青白く染め上げる。

アカウント名は――

「きなこもち」

画面に浮かんだその五文字に、浅野は微かに眉根を寄せた。白川市の住民と思われる人物。被害者家族を執拗に攻撃し続けた匿名の声。この街の陰湿な部分を凝縮したような存在に、浅野の心には、疲労とは異なる重苦しいものが募った。

浅野は、それを単なる匿名の誹謗中傷として読む気にはなれなかった。あるいは、論理的な“謎解き”として分析する段階も過ぎていた。まるで、この街の澱んだ空気が、憎悪と諦念を伴って文字になったものとして、ただ静かに、その言葉の羅列を眺めた。画面の奥から、冷たい息吹が彼の精神にまとわりつくようだった。

画面には、2021年4月25日から29日にかけて投稿された“きなこもち”の言葉が並んでいた。

浅野は、その日付と文章を一つずつ目で追った。指先でマウスを操作するたびに、カチリ、カチリと静かな音が資料室に響いた。

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 2021年4月25日投稿

**メデイアやネットで騒いでる人達が学校付をウロついてて全下校に生徒達が嫌な思いをしているそうです。

在校生は無関係なのに可哀想.。

親達も心配だろうな...**

浅野は、その文章の“視点”に即座に違和感を覚えた。被害者でもなく、学校組織そのものでもない。まるで自分の子どもを守る母親が、苛立ちと不安を募らせながらキーボードを叩いているかのようだ。

「守りたいのは、自分の子どもだけか……」

彼の脳裏には、過去に遭遇した同様の事件で、地域社会が如何にして被害者を孤立させていったかという記憶が蘇っていた。それは、この街特有の病理だと、浅野は感じていた。

まるで、自分の子どもを守るために誰かを攻撃しているような言葉。その背後に、被害者家族への冷淡な視線と、自分たちの平穏を乱されたことへの苛立ちが透けて見えた。

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 2021年4月25日投稿

**「守ってあげなかっただろ!」と教育委員会や学校に対して言いながら学校付近を毎日ウロついて、無関係の子供達を不安や嫌な思いをさせてるのは矛盾してないか?って思う。

今その中学校に通ってる子供達の事はどうでもいいの?

子供達の為にやめてあげて欲しい。**

浅野は、この投稿に漂う“学校擁護の空気”を肌で感じ取った。それはもはや、学校という閉鎖的な世界を守るための、暗黙の圧力だった。

「いつもそうだ…」

浅野は、硬く口を結んだ。学校という名の要塞を守るために、被害者家族を責め、彼らの訴えを「迷惑」というレッテルで塗り潰す。それは、この街で何度も見てきた、おぞましいまでの構造だった。彼の胸には、静かな怒りが燻っていた。

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 2021年4月26日投稿

**いじめがあったのも事実だろうけど、家庭の事で悩んで本人が同級生とかにも相談していたと聞いています。

学校側が言ってるのはそこは本当なんだと思った。

そこは問題視されないのも不思議...。

実際耳にした内容は違ったりもしてる..。**

浅野は、この投稿が“学校側の説明”と驚くほど一致していることに気づいた。そして同時に、一般人が知り得ないはずの情報が、ごく自然な形で織り込まれていることに背筋が寒くなった。

「一般人が使わない言い回し……」

それは、まるで学校内部の人間がリークした情報か、あるいは学校の意向を汲んだ人間が世論を誘導しようとしているかのようだった。この街では、学校の言葉がそのまま市民の言葉になり、いつの間にかそれが「真実」としてまかり通ってしまう。その不気味な連鎖を、浅野は何度となく目撃してきた。

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 2021年4月26日投稿

**いつも学校給食を食べては

「こんな美味しい物を食べた事がない」

と言って喜んで食べておかわりもしていたそうです。

「もうコンビニ弁当に飽きた」

と不満もよく言ってたそうです。**

日頃、家でどんな食生活をしてたのか。

浅野は、この投稿を読みながら、胸の奥に冷たいものが広がるのを感じた。それは、被害者家族の尊厳を根こそぎ奪い去ろうとする、悪意に満ちた攻撃だった。

「家庭の悪口……」

浅野は、低く呟いた。この手口は、隠蔽が起きる時に必ず使われる。被害者自身の欠点、家族の問題を殊更に強調し、事件の本質から目を逸らさせる。汚い、と彼は心の中で吐き捨てた。ディスプレイの冷たい光が、浅野の疲弊した目に痛みを訴えかけた。

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 2021年4月27日投稿

テストで高得点を取っても100点じゃないのを怒られるとか、塾に行きたくないのに塾に行けと言われてて嫌だと同級生にも相談してたそうです。

浅野は、この投稿が“同級生の親”でなければ知り得ない情報だと、確信に近い感覚で悟った。ごく身近な人間関係の中でしか知りえない、被害者の内面に関する具体的な描写。これは単なる匿名の中傷ではない。情報源は、きわめて身近な場所にある。

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 2021年4月27日投稿

**ユーチューバーなのかわからないけど、真夜中に中学校前で演説をしてて騒音で近隣住民が迷惑をしたそうです。

今現在、中学校に通学してる子供達の事考えてますか?

子供達が可哀想です。**

浅野は、この投稿の“近隣住民の視点”に気づいた。具体的な迷惑行為を挙げ、住民感情を煽る。それは、学校の近くに住み、日々の生活の中で被害者家族の行動を目にしている人物でなければ書けない内容だった。そして、同時に、学校という存在が崩されることを極度に恐れ、その平穏を死守したいと願う人間の心理が透けて見えた。

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 2021年4月28日投稿

**何度も家出を繰り返してたり、夜遊びしてたのに

「不良になっちゃったー」

って探しもしないで笑って自慢げに同級生の親に話してたそうです。

普通、探しませんか?

心配じゃないですか?

変なの。**

浅野は、この投稿の“攻撃性”に静かに息を吐いた。それは、被害者家族を貶めることで、加害者側の責任を相対化しようとする、あまりにも典型的な言葉だった。

「変なの、か……」

被害者の家庭を異常と決めつけ、彼らの感情を揺さぶる。浅野は、このような陰湿な手口に、何度悔しい思いをしてきたか知れない。

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 2021年4月28日投稿

**いじめ問題があって謝罪の会をやった後に加害者側に納得いかなかったら弁護士も雇ってたのなら何故、その時に裁判しなかったんだろう?

警察沙汰にもなってるんだから証拠もあるのに。

当時動いてたら今と状況はまた変わってたんでは?

2年も時間あったのに。

不思議。**

( 注. 2019/6/22ウッペ川いじめ事件 と その謝罪の会は2019/9/11 )

浅野は、この投稿が“学校の責任を薄めるための言葉”だと即座に理解した。被害者家族の行動の遅れを指摘することで、まるで彼ら自身に問題があったかのようにミスリードする。しかし、被害者が置かれた状況、精神的な負担、そして何よりも「信頼していた学校」への裏切りがあったことを、この投稿は一切考慮していない。浅野の眉間の皺が、一層深まった。

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 2021年4月29日投稿

**男と一緒に暮らしてて

「児童扶養手当が貰えなくなるのでは?」

と言う声に

「私その辺の男より稼いでるから大丈夫」

と言い放ったのに、じゃあ何故、記事には母と娘2人暮らしと答えているの?

男も一緒に暮らしてる事が公になったら何か問題でもあるのだろうか?**

浅野は、この投稿が“家庭の信用を落とすための攻撃”であることを悟った。個人のプライバシーに深く踏み込み、金銭的な問題や異性関係に言及することで、被害者家族のイメージを意図的に貶めようとしている。この手の情報は、非常に限られた人間しか知りえない。その事実が、浅野の背筋を冷たくさせた。

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 2021年4月29日投稿

**だから言ってるんですよ。

家庭にも問題もあったって。

昔から知り合いだったり、身近な人で知ってる人は多いんです。

みんな「またか」 「やっぱり」って思ってるから発言しないだけです。

本人と身近じゃなく何も知らない人達が否定してるだけです。**

浅野は、この投稿の“身近な人間の視点”に気づいた。これは、単なる匿名の誹謗中傷ではない。長年、被害者家族を知り、彼らの生活を間近で見てきた人物の言葉だ。その口調からは、「自分たちは知っている」という優越感と、それ故の排他的な冷酷さが滲み出ていた。この街の、歪んだ“常識”が凝縮されているようだった。

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 2021年4月29日投稿

**家の中がゴミ屋敷化してた時期がありました。

靴を履いて家に入ってた状態。

最終的には家で生活できず娘と車中泊の生活。

殴る蹴る等の虐待さえなければそれでいいんでしょうか?**

浅野は、この投稿が“家庭の内部事情”を知る人物である、動かしがたい証拠だと感じた。具体的な生活状況、それも極めて個人的な問題に言及している。これは、被害者家族と相当な期間、密接な関係にあった人物でなければ知り得ない情報だ。彼は静かに息を呑んだ。ターゲットは、もう絞られつつあった。

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 2021年4月29日投稿

**発達障害だとすぐ口に出してたけど、定期的に小児発達神経外来も通院させず、療育センターや児童ディも利用して無い。

小学生の時から教室から飛び出したりしてたんだし支援学級の相談も出来たはず。

子供の為にサポートしてあげるのが親では?**

浅野は、この投稿が“教育関係者の視点”を多分に含んでいることに気づいた。発達障害に関する専門的な知識、学校における支援体制への言及。これらの情報は、一般の保護者がこれほど詳細に知り得るものではない。あるいは、関係者から直接情報を得ている、もしくは、自身が教育現場に深く関わっている人物だろう。この街の闇の深さに、浅野は改めて疲弊した。

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 2021年4月29日投稿

**「みんな家庭持ってるけど不倫多いんだよー」

と言って、今付き合ってる男の前に付き合ってた男は妻子持ちで不倫の関係。

消防士の男。

娘の運動会にも不倫相手をよく連れて来たなと思います。

パートナー頻繁に変わり過ぎで今の男で何人目?**

浅野は、この投稿が“同級生の親の視点”であることを確信した。保護者同士のネットワーク、特にゴシップや噂話が交換される中でしか知り得ない、具体的な異性関係に関する情報。運動会という公の場での目撃情報が、その確信をさらに強めた。それは、この街に渦巻く嫉妬と偏見が形になったような言葉だった。

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 2021年4月29日投稿

**小学生の時から家出を繰り返したり、夜遊び歩いたり、同級生に相談したり、学校から逃げ出したり...たくさんSOSを出してたと思います。

不倫する前に娘にもっと目を向けて、寄り添ってあげたら良かったのに!と周りでは言ってる人が多いです。**

浅野は、この投稿が“地域の保護者ネットワーク”の声であることを悟った。複数の保護者から集められた情報が、一つの声として紡がれている。しかし、その根底にあるのは、被害者への共感ではなく、家庭の乱れを糾弾することで、事件の責任を被害者側に転嫁しようとする冷酷な意図だった。彼の心には、抑えきれない義憤が込み上げていた。

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 2021年4月29日投稿

**本人は「好きな事を仕事にしたい」と絵を描くのが好きだったのに「医者になりたがってる」と言ってたそうです。

でも記事には「検察官になりたがってた」と言ってたり。

本人の意思関係なかったんでしょうかね?**

浅野は、この投稿が“被害者の進路希望を知る人物”であることに気づいた。進路希望という、きわめて個人的な事柄に関する情報が、これほど詳細に語られている。しかも、その発言の矛盾点を指摘し、被害者自身の意思すら否定しようとしている。この粘着質な攻撃は、単なる匿名アカウントの犯行というにはあまりに悪質で、そして「近い」存在だった。

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 浅野の感情

画面を閉じた瞬間、浅野は静かに、しかし深く、息を吐いた。吐き出された息は、冷えた資料室の空気の中に、あっという間に溶けて消えた。彼の顔には、言いようのない疲労の色が濃く浮かんでいた。

この街では、行政も、議員も、学校も、そして――一般市民までもが、自分のために、都合の悪い真実を隠す。自己保身のためなら、他人の尊厳を踏みにじることも厭わない。その残酷な現実が、浅野の心を重く締め付けた。

浅野は、誰に向けるでもなく、低く呟いた。その声は、深海の底から湧き上がるような、諦念と怒りが混じり合ったものだった。

「……影は、どこにでもいるんだな。」

その言葉は、深い疲労と、この街の根深い病巣を悟った刑事の孤独な呟きだった。夜の資料室に静かに溶けていったその言葉の残響は、浅野の心に深く沈み、重い沈黙だけが後に残された。

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作者について

AKIRA OO

過去に似ている事件が起こったかもしれないが ここに書いている物語は 「 フィクション 」として楽しんでください。 登場している団体、警察組織は仮想の団体、組織です。 以下、個人メモ。 ...

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