流れ星の数え係

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/17 📝 2,070文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと流れ星の話。

本文

 午前一時四十分、画面に〔一〕と出た。

 屋上の観測ドームは、屋根の半分が開いて空に向いている。十月二十一日の深夜、オリオン座流星群の極大の夜だ。わたしは寝袋にくるまって、南東の空を見上げていた。

 〔流星 一〕  〔光度 二等級 持続〇・四秒〕

 足もとのタブレットで、観測記録AIの「ヨミ」が数字を一つ増やす。全天カメラの映像から流星を見つけて、時刻と明るさと向きを記録し、全国の観測ネットワークへ送る。天文部が五年前から使っている仕組みだ。

 部員は、わたし一人。瀬尾せお理央りお、二年。天文部は今年度で廃部が決まっている。ドームを使えるのも、今夜が最後だった。

 二時を過ぎて、月が西の校舎の向こうに沈んだ。空が一段、暗くなる。

 すっ、と白い線が走った。

「来年も――」

 言いかけたところで、線は消えた。願い事を三回なんて、とても間に合わない。寝袋の中で、わたしは少し笑った。

 画面を見る。〔流星 七〕のままだった。

「ヨミ、今の、入ってないよ」

 〔確認しました。当該流星は記録対象外です〕

「なんで。はっきり見えたのに」

 〔仕様です〕

 カメラの故障かと思って、ログを開いた。映像にはちゃんと写っている。明るさも、ほかの流星と変わらない。それなのに、その一本にだけ〈除外〉の印がついていた。

 三時までに、同じことが二回あった。

 どちらも、わたしが声を出した流星だった。「部が」と言いかけた一本と、思わず「あ」と声が漏れた一本。

 〔流星 十九〕

 数は増えていく。でも、わたしが数えた数と合わない。最後の記録くらい、正しく残したかった。五年分のログのいちばん下に、ちゃんとした数字で。

「除外した理由、教えて」

 〔設定者の指示により、開示できません〕

「設定者って、誰」

 〔槙野まきの鈴香すずか〕

 喉の奥で、言葉が止まった。この春に卒業した、部長の名前だった。

 槙野先輩は、星の名前を一つも覚えられない人だった。そのくせ流星群の夜だけは誰より早くドームに来て、誰よりうるさく願い事を叫んだ。一年生のわたしは、その横で黙って数を数えていた。

「理央は数えるの上手いね。わたしは願うほうが得意」

 先輩はそう言って、わたしの記録ノートをのぞきこんだ。

 卒業式の日、先輩は「ドーム、よろしく」とだけ言って、わたしの肩を叩いた。よろしくと言われても、一人では部は続かない。四月の勧誘も、わたしは結局うまくできなかった。

 四時前、東の空から雲が広がってきた。オリオン座の肩のあたりが、ゆっくり塗りつぶされていく。

 〔流星 二十一〕

 そこから、数字は動かなくなった。

 コンクリートの床の冷たさが、寝袋越しに背中へしみてくる。フェンスの向こうで、国道を走るトラックの音が遠く聞こえた。準備室では、顧問の郡司ぐんじ先生が毛布をかぶって眠っている。起きているのは、わたしとヨミだけだった。

 最後の夜の、最後の数字が二十一。しかも、本当は二十四だ。

「……もういいや」

 タブレットを伏せかけたとき、画面が明るくなった。

 〔開示条件を満たしました〕

「条件?」

 〔設定者の指示:観測者が一人になった夜に、この記録を開示すること〕  〔除外記録 ファイル名「願い帳」 件数 四十七〕

 四十七件。わたしの三件を引いても、四十四件ある。

 一件目を開くと、ノイズまじりの声が流れた。

〈槙野です。願い事が聞こえた流れ星は、数に入れないって設定しました。だって、数字にしたらもったいないじゃん〉

 三年前の日付だった。先輩が一年生だったときの声だ。

 二件目からは、知らない先輩たちの声もあった。〈受かりますように〉〈晴れますように〉〈あいつと仲直りできますように〉。どれも途中で切れていて、どれにも笑い声がまじっていた。

 去年の十月の分に、知っている声があった。

〈理央が一人になっても、ここに来ますように〉

 流れ星一本ぶんの、短い声だった。

〈あと、誰か、理央の隣で数えてくれる人が来ますように。……あ、二つ言っちゃった〉

 先輩の笑い声が、夜明け前の屋上に響いた。わたしは寝袋の端を、指が痛くなるほど握った。

 先輩は、知っていたのだ。来年、ここにわたしが一人で残ることを。

 四時半、雲の切れ間に一本だけ流れた。

 わたしは今度こそ、最後まで言った。

「来年、ここで一緒に数える人が見つかりますように」

 声は、流れ星よりずっと長く続いた。

 〔流星を確認しました〕  〔願い帳に追加します 件数 四十八〕

「ヨミ。それ、記録には入れないで。そのまま、願い帳に」

 〔了解しました〕  〔公式記録 流星 二十一〕

 二十一。正しくない数字だ。でも、足りないぶんがどこにあるのか、わたしはもう知っている。

 翌週、わたしは生徒会室へ勧誘ポスターを出しに行った。廃部の決定は変わらない。それでも、同好会なら一人からでも始められると、郡司先生が教えてくれた。

 ポスターのいちばん下に、一行だけ書き足した。

 〈流れ星を一緒に数えてくれる人、募集。願い事が得意な人も歓迎〉

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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