もう一度逢いたい人
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
あの人に、もう一度会わないといけない理由がある。
本文
目が覚めたら、動けない。
どうやら縛られているようだった。
声をあげようにも、口には猿ぐつわが噛まされていた。
目の前に、タンスや押し入れを漁るオヤジがいた。
「お、気付いたか? お邪魔してますよ」
オヤジは、作業の手を止めずに言った。
目の付け所が良い泥棒だ……。
緊急事態にも関わらず、ぼんやりそんなことを考えた。
目眩ましに、安アパートなどに住んでいるが、私はこれでも社長なのだ。
ITは下火になりつつある。
それでも私の会社は躍進を続けている。
もっとも、このオヤジがそれを知ってのこととは限らないが。
しかし、妙だな……。
部屋に違和感があった。
昨日より片付いてる?
台所を見ると、使ったまま積み上げてた皿がなくなっていた。
……取った?
いや、金目でもなんでもないのに取るわけがなかった。
まさか洗ったとか?
そんな疑問を浮かべる私をよそに、オヤジは『ふう』とため息をついた。
換金率が高いものが、ドッサリ。
私の記憶する限り、全部筋が良いものばかりだった。
防犯用のフェイクまで見抜いたのか?
高そうに見えて安いものも置いておいたのに、それらはその中に入っていなかった。
私の顔から血の気が引いていく。
そんな私をよそに、オヤジはカバンを開いた。
やめろ、持っていかないでくれ。
会社が倒産してしまう。
私の祈りが通じたのだろうか?
オヤジは、出ていかなかった。
それどころかメモ帳と電卓をカバンから取り出し、畳に直に座ると何かを計算しだした。
「んー、これは十万、これは十二万……。お、これは三十万ってとこだな」
いくらになるのか、計算してやがる……。
手にした金目の物を分け、高額なものとそうでないものに分けていく。
そんな様子を眺めているしかなかった。
「よし」
オヤジは計算を終えたようだった。
軽量化して、持ち運びやすくしているのだろう。
それにしても、なんという的確な切り分け。
切り分けた方だけでも、かなりの額になる。
倒産は確実か……。
私は、覚悟を決めた。
オヤジは高額でないものを手にした。
「これぐらいなら、お前の会社は潰れないだろう。羽振りが良いようだが、追加投資が必要な時期だ。なにかと物入りだろう」
え? どういうことだ?
まさか、そっちだけで?
いやいや、盗みに入ったリスクと釣り合ってないだろう。
「売って10万ってとこか。……くぅ、たまらんなぁ。良い儲けになった」
これはいけない。
オヤジを止めなくては。
私は声を出そうと、必死で抵抗した。
「おっと、大声を上げようったって無駄だぜ。そう簡単には解けないからな。あんたが喋れる頃には、もう会えなくなってるってわけさ」
私は更に必死に抵抗したが、オヤジの言う通り、簡単には解けそうもなかった。
「あばよ」
猿ぐつわが実に邪魔だった。
それさえなければ私は叫べたのだ。
『二十万出すから、雇わせてくれ』
——3年後、私は行き詰まっていた。
会社は、3年で押しも押されぬ業界屈指の大手となっていた。
それ自体は、喜ばしい。
いや、取りようによっては、喜ばしくない。
大きいあまりに以前使えていたノウハウが、役に立たなくなっていた。
軌道修正しようと頑張ってはいるのだが、全く言うことを聞かない。
会社は、私の器を超える大きさになってしまっていたのだ。
「ここまで大きくしたのだから、大丈夫ですよ」
部下にはそんな風に言われた。
しかし、違うのだ。
拘束から解放された私は、オヤジをとり逃した悔しさをにじませた。
それから落ち着いて気づいたのだ。
ゴミ箱に捨てられたオヤジの書いたメモに。
メモ帳を見ると、金目の物の計算とは別に、事細かな計算が3パターンされていた。
これは、まさかうちの会社の経営シミュレーションか?
それぞれのパターンの上に『愚・凡・才』とある。
凡と才の上には、どっちにするか迷ったのだろう。
点が多数、打ってあった。
そして凡の上に赤い丸。
私を凡人扱いか。
オヤジの読みは正しく、凡の計算パターンは私の計画と一致していた。
才の方はというと、凡に比べて使う金額が高額だった。
この額は普通ではひねり出せない。
更なる巨大な借金が必要なのだ。
ちょっとしたミスで即倒産なのだ。
二つのパターンを改めて見比べて、考える。
この才のパターンは本当に正しいのだろうか?
わからなかった。
いや、あのオヤジがその気なら、倒産していたのだ。
なにを恐れる必要があろうか。
確かめてやろう。
あの時、そう考えた。
考えてしまったのだ。
そして、才のパターンに従った結果が、今である。
メモ帳の計算は、3年分しかなかった。
つまり、この先がないのだ。
この先、どうしたらいいんだ?
ああ、もう一度逢いたい!
<了>
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