第三十一話「宴」
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あらすじ
『魔王るこ討伐記』あらすじ 剣士、魔法使い、弓使い、薬師―― 誰もがひとつの「スキル」を持って生きる世界。 冒険者たちは仲間とパーティを組み、ダンジョンを攻略し、魔物を討ち、日々さまざまな依頼をこなしていた。 そんな世界に君臨する、絶対的な敵。 魔王――るこ。 そして魔王に仕える、四人の強者――「四天」。 世界各地では、まだ互いの存在すら知らない者たちの物語が始まっていた。 一人で依頼をこなす剣士。 冒険者を夢見る弓使いの少女。 小さな薬草店で働く少女。 記憶を失った、異常なほど剣の強い謎の男。 そして――羊一匹にすら苦戦する、新米冒険者たち。 英雄だけが、この物語の主人公ではない。 冒険者も、商人も、ギルドの受付も、街で暮らす普通の人々も。 それぞれが出会い、別れ、時に敵となり、時に仲間となり―― やがて無関係だったはずの物語は、一つへと繋がっていく。 しかし彼らはまだ知らない。 なぜ魔王るこは世界を滅ぼそうとしているのか。 「魔王」とは、本当に世界の敵なのか。 そして―― この世界そのものに、誰も知らない秘密が眠っていることを。 これは、魔王を倒す英雄一人の物語ではない。 この世界に生きる、たくさんの人々の物語。 『魔王るこ討伐記』 ――魔王を倒したその先に、本当の答えがある。
本文
嵐龍がグラディアの空を覆った日から、二日が過ぎた。
戦島グラガスに築かれた闘技都市は、まだ傷だらけだった。
街の北側では、崩れた屋根を修理する職人たちが朝から槌を振るっている。大通りには割れた石畳を取り替えるための資材が積まれ、壁の一部を失った建物には応急処置の木板が打ちつけられていた。
それでも、街から活気が失われたわけではない。
むしろ、人々は以前にも増して忙しそうに動き回っていた。
冒険者たちが瓦礫を運び、商人たちが食料を届け、住民たちが互いの無事を確かめ合う。
そして、街の中央にある大広場では、朝から別の準備が進められていた。
「そっちの机、もう少し右!」
「料理が届いたぞ! 誰か運ぶの手伝ってくれ!」
「飲み物はあっちだ! 酒と果実水を間違えるなよ!」
「おい! その肉はまだ食べるな!」
「一切れくらいいいだろ!」
「さっきから五切れ食ってるだろうが!」
長い机が何列も並べられ、その上には大皿に盛られた料理が次々と運び込まれていく。
焼きたての肉。
香草をまぶした魚料理。
大鍋で煮込まれた野菜と肉のスープ。
山のように積まれたパン。
色とりどりの果物や菓子。
そして、樽ごと運び込まれる飲み物。
広場の一角には簡易的な舞台まで設置され、その周囲には大会で使用された旗が飾られていた。
グラディア大闘技祭、閉幕記念大宴会。
それが、今日の催しの名前だった。
当初は大会の打ち上げとして計画されていたものだったが、嵐龍襲来を受け、街の無事と復興を祝う催しも兼ねることになった。
もちろん、復旧作業が終わったわけではない。
治療院には今も負傷者が残っているし、街の修復にはまだ多くの時間が必要だった。
そのため、宴会で用意された料理の一部は、治療院や作業現場にも届けられることになっている。
誰かが言ったのだ。
『こんな時だからこそ、一度みんなで飯を食おう』
その提案に、多くの人が賛同した。
そして今、グラディアの大広場には、世界各地から集まった冒険者たちが再び顔を揃えようとしていた。
舞台の上。
一人の男が、広場を見渡しながら腕を組んでいた。
maro「……ふむ」
グラディア大闘技祭の実況を担当した男、maro。
彼はしばらく広場を眺めた後、満足そうに頷いた。
maro「いい……実にいいぞ……!」
その横で、椅子を運んでいた男性が首を傾げる。
「何がです?」
maro「この広さ! この料理! この人数!」
「まあ、盛大ですよね」
maro「これはもう、実況するしかないだろう!!」
「……宴会を?」
maro「当然だ!!」
「いや、普通に司会していただければ十分なんですが……」
maro「安心しろ! 俺に任せておけ!!」
男性はしばらくmaroを見つめていた。
そして、静かにその場を離れた。
「……誰か、あの人を止めてくれ」
残念ながら、その願いが届くことはなかった。
昼を少し過ぎた頃。
広場の入口に、三人の姿が現れた。
カズキ「……すごい人数だ」
カズキが思わず声を漏らす。
隣には、るいひろとさくらもちがいた。
るいひろ「まだ始まってないのに、もうこんなに集まってるのか」
さくらもち「いい匂いがします!」
さくらもちは目を輝かせていた。
広場には、すでに大勢の冒険者たちが集まっている。
大会で戦った選手たち。
観客席で声援を送っていた者たち。
嵐龍との戦いで街を守った冒険者たち。
その顔ぶれを見て、カズキは少しだけ不思議な気持ちになった。
カズキ「……ついこの間まで、みんな本気で戦ってたんだよね」
るいひろ「そうだな」
カズキ「それなのに、今は普通に笑ってる」
るいひろは少し考えた後、笑った。
るいひろ「試合が終われば、そんなもんだろ」
さくらもち「同じ大会に出た仲間ですもんね!」
カズキは小さく頷いた。
自分も、あの舞台に立った。
強い相手と戦い、何度も限界を感じた。
そして、最後には想像もしていなかった災厄と向き合うことになった。
たった数日の出来事とは思えないほど、濃密な時間だった。
そんなことを考えていると、背後から大きな声が響いた。
ジェノス「おーい! カズキ!」
振り返ると、ジェノスが片手を上げていた。
その隣にはサイタマタマの姿もある。
ジェノス「やっと来たか!」
カズキ「ジェノスさん! サイタマタマさんも!」
サイタマタマ「身体はもう大丈夫なのか?」
カズキ「はい。まだ少し痛みますけど、普通に歩けるくらいには」
ジェノス「ならよかった! 今日はいっぱい食えよ!」
るいひろ「お前が一番食いそうだけどな」
ジェノス「当たり前だろ! せっかくの宴会だぞ!」
サイタマタマが呆れたように肩をすくめる。
サイタマタマ「……お前、朝も相当食ってただろ」
ジェノス「朝飯と宴会は別だ!」
その言い分に、さくらもちが笑った。
だが、カズキが何かを言おうとした、その時だった。
SHIN「カズキィィィィ!!」
広場の向こうから、凄まじい声が響いた。
カズキの肩が跳ねる。
カズキ「…………」
るいひろ「……あ」
ジェノス「……来たな」
人混みを割るように、一人の大柄な男が近づいてくる。
マスター級冒険者、SHIN。
その後ろを、きいこが落ち着いた足取りで追っていた。
SHIN「探したぞ!!」
カズキ「……こんにちは」
SHIN「うむ!! 元気そうで何より!!」
きいこ「カズキ様、こんにちは」
カズキ「あ、きいこさん。こんにちは」
SHINは満面の笑みを浮かべた。
SHIN「では、早速だが!」
カズキ「……はい」
SHIN「俺の弟子になる件についてだ!!」
カズキ「やっぱり!!」
るいひろが吹き出した。
るいひろ「ははは! まだ続いてたのか!」
カズキ「笑い事じゃないよ!」
SHIN「何を迷っている! 俺が直々に鍛えてやると言っているんだぞ!」
カズキ「いや、それは本当にありがたいんですけど!」
SHIN「なら決まりだな!!」
カズキ「まだ決まってません!!」
きいこが静かに口を開いた。
きいこ「SHIN様」
SHIN「む?」
きいこ「まずは宴会を楽しませて差し上げてはいかがでしょう」
SHIN「……なるほど!」
SHINは大きく頷いた。
SHIN「確かにその通りだ!!」
カズキはほっと息を吐く。
カズキ「……ありがとうございます」
だが。
SHIN「では、宴会が終わったら続きを話そう!!」
カズキ「結局逃げられないんですね!?」
周囲から笑い声が上がった。
嵐龍を真っ二つにした英雄は、今日も絶好調だった。
広場の反対側。
長い机を一つ占領していたのは、七つ影の面々だった。
あぶらメンタル「肉だぁぁぁ!!」
あぶらメンタルが大皿へ手を伸ばす。
スペース「まだ始まってない!」
あぶらメンタル「一個くらいいいだろ!」
スペース「お前の一個は信用できない!」
にょろん「もう皿に三個乗ってるしね」
あぶらメンタル「……これは試食だ」
すけジュニ「試食多くない?」
かずくんは耳を澄ませながら、広場の入口へ視線を向けていた。
かずくん「……あっち、またすごい声がする」
シードル「何かあった?」
かずくん「弟子がどうとか」
スペース「ああ、SHINさんか」
あぶらメンタルは肉を口へ運びながら頷いた。
あぶらメンタル「元気だなぁ、あの人」
にょろん「お前も大概だけどね」
すると、背後から声がした。
まおー「おーい! みんな!」
振り返ると、まおーが両手に皿を持って歩いてきていた。
まおー「見ろよ! 厨房で余った料理、先にもらってきた!」
あぶらメンタル「お前が頭でよかったぁぁぁ!!」
スペース「さっきまで食うなって言ってたのに!」
まおーは笑いながら皿を置いた。
まおー「いやぁ、すごいな今日! こんなに人が集まるなんて!」
にょろん「そりゃ大会の打ち上げだからね」
まおー「それもそうか!」
スペースがまおーを見た。
スペース「……ところで、昨日の話なんだけどさ」
まおー「ん?」
スペース「お前、本当に荒野まで行ってたのか?」
まおー「ああ」
あぶらメンタル「しかも、すーだまんと一緒に戦ったんだろ?」
まおー「そうそう!」
あぶらメンタルは顔をしかめた。
あぶらメンタル「……あいつ、めちゃくちゃ強かっただろ」
まおー「強かったなぁ!」
まおーは楽しそうに頷いた。
まおー「俺がちょっと手伝ったら、すごい勢いであの硬い奴をぶっ壊してさ!」
スペース「……硬い奴?」
まおー「なんか、四本脚で、全身が硬くて、目が赤いやつ」
にょろん「……魔物?」
まおー「それがよく分かんないんだよ」
まおーは少しだけ首を傾げた。
あの奇妙な存在。
金属のような身体。
不自然な動き。
どこかで見たことがあるような気もする。
だが、思い出そうとしても、何も浮かばなかった。
あぶらメンタル「……で、そいつを倒したんだな?」
まおー「すーだまんがな!」
スペース「お前は?」
まおー「手伝った!」
にょろん「……具体的には?」
まおー「強くして、ちょっと邪魔した!」
仲間たちは顔を見合わせた。
まおーの能力を知っているからこそ、それだけでも相当な助けになったことは分かる。
だが、本人は大したことではないように笑っていた。
まおー「それでさ! あいつ、めちゃくちゃ強かったから七つ影に誘ったんだけど!」
あぶらメンタル「……おい」
まおー「即答で断られた!」
沈黙。
そして。
スペース「……だろうな」
にょろん「うん」
すけジュニ「なんとなく分かる」
シードル「むしろ、よく誘ったね」
まおー「なんでだよ!!」
あぶらメンタルが腹を抱えて笑い始めた。
あぶらメンタル「はははは! あいつ、絶対入らねえだろ!」
まおー「いや、強い奴は欲しいじゃん!」
あぶらメンタル「気持ちは分かるけどよ!」
かずくんが静かに言った。
かずくん「……でも、無事でよかった」
その一言に、まおーは少しだけ目を丸くした。
そして、笑う。
まおー「……おう!」
七つ影の面々も、自然と笑顔になった。
誰も欠けていない。
それだけで、今日の宴会には十分な意味があった。
その隣では、銀の羊が集まっていた。
ざるそば「……全員、揃ったな」
ねこ「うん」
むっちゃん「料理すごいね!」
ぴりからし「……辛いのないかな」
ざるそば「お前はそればっかりだな」
ぴりからしは肩をすくめる。
ぴりからし「好きなんだから仕方ないだろ」
ねこは周囲を見渡し、小さく呟いた。
ねこ「……みんな無事でよかったね」
その言葉に、少しだけ沈黙が落ちた。
嵐龍襲来。
銀の羊は、街の人々を避難させるために走り回っていた。
倒壊しかけた建物。
逃げ遅れた住民。
空から降り注ぐ瓦礫。
何度も危険な場面があった。
むっちゃん「……あの時、ほんとに怖かった」
ざるそばは仲間たちを見渡した。
ざるそば「……でも、全員ここにいる」
そして、小さく笑う。
ざるそば「それで十分だろ」
ねこが頷いた。
ねこ「……うん」
その時、ぴりからしが真っ赤な料理を持ってきた。
ぴりからし「じゃあ、無事だった記念に!」
むっちゃん「……何それ?」
ぴりからし「特製激辛肉!」
ざるそば「……肉が見えないぞ」
ぴりからし「大丈夫! うまいから!」
ねこ「……信用できない」
重くなりかけた空気は、一瞬で吹き飛んだ。
やがて、広場に鐘の音が響いた。
カァァン!!
カァァン!!
人々の会話が少しずつ静まっていく。
舞台の上には、すでにmaroが立っていた。
maro「さああああああああ!!!」
広場全体に声が響く。
maro「お待たせいたしましたぁぁぁ!!」
歓声が上がった。
maro「グラディア大闘技祭!! そして、嵐龍討伐を祝う!!」
maroは大きく息を吸い込んだ。
maro「大・宴・会ぃぃぃぃぃ!!!」
ワァァァァァァ!!
広場が歓声に包まれる。
maro「本日は、選手の皆様! 冒険者の皆様! そして、グラディアの皆様にお集まりいただきました!」
maroは一度だけ表情を引き締めた。
maro「まずは、今回の災害で傷ついた皆様へ、心よりお見舞い申し上げます」
広場が静かになる。
maro「街の復旧は、まだ終わっておりません。今この瞬間も、治療や修復に力を尽くしてくださっている方々がいます」
maroは広場を見渡した。
maro「だからこそ、今日は少しだけ、笑いましょう!」
その声は、いつもの実況とは違っていた。
力強く、それでいて温かい。
maro「ここにいる皆様が、再びこの街で笑えることを祝って!」
大きな拍手が起こった。
maroは頷き、いつもの調子に戻る。
maro「そして!! 忘れてはいけない!!」
広場の中央へ視線を向けた。
maro「数々の強敵を打ち破り! 決勝戦では氷の魔導士yuki選手との激闘を制した男!!」
人々がざわめく。
maro「グラディア大闘技祭!! 栄えある優勝者はぁぁぁ!!」
舞台の脇から、一人の男が姿を現した。
ハイドラグーン。
maro「ハイドラグーーーーーーン!!!」
ワァァァァァァァ!!!
広場が揺れるほどの歓声が響いた。
ハイドラグーンは舞台へ上がると、少しだけ困ったように眉を寄せた。
ハイドラグーン「……もう十分だろう」
maro「いいえ!! まだ足りません!!」
ハイドラグーン「……そうか」
maro「皆様!! もう一度、大きな拍手を!!」
再び拍手が巻き起こる。
ハイドラグーンは小さく息を吐いた。
だが、その表情にはわずかな笑みが浮かんでいた。
やがて、maroが魔導具を差し出す。
maro「では、優勝者から一言いただきましょう!!」
ハイドラグーンは少し考えた。
そして、静かに口を開く。
ハイドラグーン「……まず、決勝まで戦ってくれた選手たちに感謝する」
広場が静かになる。
ハイドラグーン「特に、最後まで戦ったyuki。そして、準決勝で戦うはずだった剣士にも」
その言葉に、何人かが顔を上げた。
すーだまん。
突然姿を消した、あの剣士。
ハイドラグーン「……次に会う時は、最後まで戦いたい」
それだけ言って、ハイドラグーンは魔導具を返した。
maro「短い!! しかし、実に彼らしい!!」
笑い声が上がる。
すると、広場の一角から声がした。
yuki「……次は、私が勝つ」
yukiだった。
彼女は腕を組み、ハイドラグーンを見上げている。
ハイドラグーンはその姿を見つけると、小さく頷いた。
ハイドラグーン「……楽しみにしている」
その短いやり取りに、再び歓声が上がった。
隣にいたけいが、少しだけ笑う。
けい「……二人とも、もう次の試合の話か」
yuki「当然」
けい「……僕も、次は負けないよ」
yukiがけいを見る。
yuki「……望むところ」
大会は終わった。
だが、彼らの戦いが終わったわけではない。
それぞれの胸には、すでに次の目標が生まれていた。
maro「それでは皆様!!」
maroが高々と杯を掲げた。
maro「グラディアの未来と!! ここにいる全員の無事を祝って!!」
広場中で杯が掲げられる。
maro「かんぱぁぁぁぁぁい!!!」
全員「乾杯ーーー!!!」
グラディアの街に、久しぶりの大きな笑い声が響いた。
宴が始まった。
料理へ駆け寄る者。
久しぶりに再会した仲間と肩を組む者。
試合の感想を語り合う者。
あちらこちらで笑い声が上がり、広場は一気に賑やかになった。
そして、その中で。
ひときわ騒がしい集団がいた。
まくらA「Zちゃーーーん!!」
まくらB「ベスト8だよ! ベスト8!」
まくらC「すごいよね!」
まくらD「偉い!」
まくらE「天才!」
まくらF「かわいい!」
まくらG「世界一!」
まくらH「宇宙一!」
まくらI「抱きしめたい!」
まくらJ「もう抱きしめてる!」
まくらK「ずるい!」
まくらL「私も!」
人型ゴーレム、まくらZ。
その周囲には、まくらAからYまでの姉たちが集まっていた。
そして、その中心にはマクラ博士の姿もある。
マクラ博士「おお……! Zよ……! よく頑張った……!」
博士は目元を押さえながら、感極まった様子で頷いていた。
マクラ博士「まさか、あそこまで勝ち進むとは……!」
Zは姉たちに囲まれながら、静かに立っている。
まくらZ「……博士。少々、動きにくいです」
まくらM「動きにくいって!」
まくらN「かわいい!」
まくらO「もう一回言って!」
まくらZ「……動きにくいです」
まくらP「きゃーーー!!」
少し離れた場所で、その様子を見ていたるいひろが苦笑した。
るいひろ「……相変わらずすごいな、あそこ」
カズキ「うん……」
カズキも頷く。
大会で見たZは、あれほど恐ろしい相手だった。
だが今は。
まくらQ「Zちゃん、お肉食べる?」
まくらR「いや、こっちのスープ!」
まくらS「パンもあるよ!」
まくらT「甘いものは!?」
まくらU「私が持ってくる!」
まくらV「待って、私も!」
まくらW「Zちゃんは何が好きなの!?」
まくらX「全部用意しよう!」
まくらY「そうしよう!!」
まくらZ「……食事機能はありません」
姉たちが一斉に固まった。
そして。
まくらA「そんなところもかわいいーーー!!」
再び大騒ぎになった。
カズキ「……大変そうだね」
るいひろ「……ああ」
だが、Zの表情はどこか穏やかに見えた。
その少し先では、別の大きな影が動いていた。
たぬビス。
メイビスの契約魔獣である。
たぬビスは机の上に置かれた肉をじっと見つめていた。
メイビス「……だめだよ」
たぬビスはゆっくりとメイビスを見上げる。
メイビス「……そんな顔してもだめ」
しばらく沈黙。
すると、隣から声がした。
ルーシー「……食べたいのか?」
ルーシーである。
その後ろには、大きな牛のギュウタンがいた。
ルーシーは少し考え、自分の皿から肉を一切れ差し出した。
ルーシー「……ほら」
たぬビスは嬉しそうに受け取った。
メイビス「あっ! もう!」
その様子を見て、ルーシーが笑う。
ルーシー「いいじゃないか。一切れくらい」
メイビス「……甘やかすと、ずっと欲しがるんだよ」
すると、ギュウタンがゆっくりと鼻を鳴らした。
たぬビスも、それに応えるように小さく鳴く。
なぜか二匹は、しばらく見つめ合っていた。
ルーシー「……仲良くなったのか?」
メイビス「……どうだろう」
その直後。
たぬビスがもう一度、肉へ手を伸ばした。
メイビス「だからだめだってば!!」
周囲から笑い声が上がった。
広場の別の場所では、ゆうやがせきりゅうと話していた。
ゆうや「……やっぱり、守るだけじゃ勝てないな」
ゆうやは自分の手を見つめた。
【聖騎士】。
高い防御力を持つスキル。
だが、けいとの戦いでは、その守りを突破された。
せきりゅう「……俺も同じことを考えていた」
せきりゅうは頷く。
せきりゅう「盾は、ただ攻撃を受けるためだけのものじゃない」
ゆうや「……ああ」
せきりゅうは小さく笑った。
せきりゅう「次は、もっと上へ行きたいな」
ゆうや「……俺もだ」
その時、近くにいたカズキが声をかけた。
カズキ「……僕も、もっと強くなりたいです」
ゆうやが振り返る。
ゆうや「カズキか」
カズキは頷いた。
カズキ「大会で、自分より強い人がたくさんいるって分かりました」
せきりゅうが笑った。
せきりゅう「それは、いいことだ」
カズキ「……いいこと?」
せきりゅう「ああ。目標ができたってことだからな」
カズキは少し考えた。
そして、笑う。
カズキ「……そうですね」
その隣で、さくらもちが元気よく手を上げた。
さくらもち「じゃあ、みんなで強くなりましょう!」
その言葉に、三人も笑った。
少し離れた机では、たたたつとはにが何やら言い合っていた。
たたたつ「いや、だから! 俺の方が速いって!」
はに「いやいや、あの時はこっちが先に動いてたでしょ!」
たたたつ「それは残像だろ!」
はに「残像だって技術だよ!」
どうやら、速さについて議論しているらしい。
その隣では、ひっかるんが黙々と料理を食べていた。
だが、二人の視線が同時に向けられる。
たたたつ「なあ、ひっかるん!」
ひっかるん「……ん?」
はに「どっちが速いと思う?」
ひっかるんは少し考えた。
ひっかるん「……知らない」
たたたつ「ええ!?」
はに「いや、見てたでしょ!?」
ひっかるん「……試してみれば?」
その言葉に、二人の目が輝いた。
たたたつ「……それだ!」
はに「やる!?」
次の瞬間。
耀平「やめろーーー!!」
近くにいた耀平が慌てて声を上げた。
耀平「こんなところで走るな! 机ひっくり返すだろ!」
たたたつ「ちょっとだけ!」
耀平「ちょっとでもだめ!」
はに「広場の端なら?」
耀平「宴会終わってからにしろ!」
ひっかるんはその様子を見ながら、静かに肉を口へ運んだ。
ひっかるん「……言うと思った」
耀平「お前、分かってて言っただろ!?」
周囲から笑い声が上がる。
その時、あやとが近づいてきた。
あやと「……何の騒ぎ?」
耀平「速さ比べを始めようとしてたんだよ」
あやと「……宴会で?」
耀平「そう!」
あやとは少し考えた。
あやと「……まあ、元気そうで何より」
耀平「止めてくれよ!!」
その言葉に、再び笑いが起きた。
宴会は、まだ始まったばかりだった。
広場の一角。
長い机を囲んでいたのは、大会で上位に勝ち進んだ選手たちだった。
ハイドラグーン。
yuki。
けい。
そして、せきりゅう、ゆかマキ、ディーナ。
普段なら、これほどの実力者たちが同じ机を囲むことなど、そう多くはない。
だが今日は、誰も剣を抜いていない。
代わりに、それぞれの前には料理の皿が置かれていた。
ゆかマキ「いやぁ、やっぱり悔しいなぁ!」
ゆかマキが大きく伸びをした。
ゆかマキ「もうちょっと行けると思ったんだけどな!」
せきりゅう「……俺もだ」
せきりゅうは苦笑した。
せきりゅう「ハイドラグーンは、やっぱり強かった」
ハイドラグーン「……そちらも、いい戦いだった」
せきりゅう「そう言ってもらえるなら、少しは救われるな」
ゆかマキは隣のせきりゅうを見た。
ゆかマキ「でもさ、私に勝ったんだから、もうちょっと上まで行ってほしかったよ!」
せきりゅう「……それは、すまない」
ゆかマキ「謝らなくていいって!」
けいが笑いながら口を開く。
けい「……でも、みんな本当に強かったね」
yuki「……そうね」
yukiは小さく頷いた。
彼女の前には、温かいスープが置かれている。
決勝戦で大量の魔力を消費した彼女は、嵐龍襲来の際にはほとんど戦える状態ではなかった。
今はかなり回復しているものの、まだ無理はできない。
ディーナ「……決勝戦、すごかったわ」
ディーナが静かに言った。
ディーナ「見ているだけでも、あの二人の技量が分かったもの」
けい「……僕も、あそこまで戦えるとは思わなかった」
yuki「……負けたけどね」
少しだけ沈黙が落ちる。
だが、yukiはすぐに顔を上げた。
yuki「……次は勝つ」
ハイドラグーン「……ああ」
その返事に、yukiは満足そうに頷いた。
すると、ゆかマキが身を乗り出した。
ゆかマキ「ねえねえ! じゃあ、私とも再戦してよ!」
せきりゅう「……俺とか?」
ゆかマキ「そう!」
せきりゅう「……もちろん、構わない」
ゆかマキ「よっしゃ!」
ディーナが笑う。
ディーナ「みんな、戦うことばかりね」
けい「……冒険者だからね」
その時、ディーナはふと周囲を見渡した。
ディーナ「……そういえば、あの剣士は?」
ハイドラグーンが顔を上げる。
ディーナ「すーだまん。今日は来ていないの?」
その名前に、机の空気が少しだけ変わった。
大会中、突然姿を消した剣士。
ディーナを破り、あぶらメンタルを破り、準決勝ではハイドラグーンと戦うはずだった男。
ハイドラグーンは静かに首を横へ振った。
ハイドラグーン「……見ていない」
けい「……結局、どこへ行ったんだろう」
yuki「……不思議な人」
ディーナは少し考え込んだ。
ディーナ「……でも、あの人なら大丈夫そうね」
ハイドラグーンは答えなかった。
ただ、遠くの空を見つめる。
あの時。
準決勝の舞台で、すーだまんは何かを感じ取っていた。
そして、自分に言ったのだ。
『こっちは君に任せる』
その言葉の意味は、まだ分からない。
だが、ハイドラグーンは思っていた。
いつか、もう一度会うことになる。
その時こそ。
最後まで、戦いたい。
その頃。
広場の別の場所では、レックウザが大勢に囲まれていた。
「なあ! あのドラゴンに変身したの、本当にお前なのか!?」
「すごかったぞ!」
「もう一回見せてくれよ!」
レックウザは困ったように笑っていた。
レックウザ「いや、ここでは無理だって!」
嵐龍との戦いで見せた【龍化】。
巨大な龍へと姿を変え、災級の魔物を正面から押しとどめたその姿は、多くの人々の記憶に残っていた。
もっとも、本人にとっては簡単なことではない。
あの時も、長く持ちこたえることはできなかった。
レックウザ「……それに、あれやると結構疲れるんだよ」
すると、隣にいた五月雨が頷いた。
五月雨「……あの時は、本当に助かった」
レックウザ「いや、みんながいたからだよ」
五月雨は小さく笑った。
五月雨「……それでも、助かったことに変わりはない」
その言葉に、レックウザは少しだけ照れたように頭を掻いた。
近くでは、ジェノスとサイタマタマがその話を聞いていた。
ジェノス「……でも、あれはすごかったよな」
サイタマタマ「ああ」
ジェノス「俺、最初見た時、敵がもう一匹増えたのかと思ったぞ」
レックウザ「おい!」
笑い声が上がる。
その時、サイタマタマが静かに口を開いた。
サイタマタマ「……でも、あのドラゴンは本当に強かった」
その一言に、少しだけ空気が変わる。
嵐龍。
危険度五。
あれほどの魔物と戦ったのは、多くの者にとって初めての経験だった。
ジェノス「……ああ」
ジェノスも頷く。
ジェノス「正直、途中でどうなるかと思った」
五月雨が静かに言った。
五月雨「……でも、倒せた」
レックウザは大きく息を吐いた。
レックウザ「……ああ。みんなでな」
その言葉に、全員が頷いた。
広場の別の場所。
Amは、静かに飲み物を口にしていた。
彼の周囲には、数人の冒険者が集まっている。
「なあ、あの魔法って何だったんだ?」
「すごい爆発だったぞ!」
「空が真っ赤になってた!」
Amは少し困ったように笑った。
Am「……ちょっと、無理しただけだよ」
「ちょっと!?」
誰かが思わず声を上げた。
嵐龍へ放たれた極限魔法。
《フォースエクスプロージョン》
闇と炎を重ねた、凄まじい破壊力を持つ一撃。
あの魔法が嵐龍へ大きな傷を与えたことは、誰もが知っていた。
だが、その代償も大きかった。
Amは魔力をほとんど使い果たし、しばらく動くことすらできなかったのだ。
Am「……次は、もう少し考えて使うよ」
その言葉に、近くにいたけいが頷いた。
けい「……あの威力なら、そうした方がいいと思う」
Am「……だよね」
すると、後ろから大きな声が響いた。
SHIN「いやぁ!! 見事な魔法だったぞ!!」
SHINだった。
Amは少しだけ驚いたように顔を上げる。
Am「……ありがとうございます」
SHIN「俺があいつを吹き飛ばしていなければ、街に当たっていたかもしれんがな!!」
Am「……それは、本当に助かりました」
SHIN「はっはっは!! 気にするな!!」
SHINは豪快に笑った。
その横で、きいこが静かに頭を下げる。
きいこ「……皆様、ご無事で何よりです」
Amも小さく頷いた。
あの戦いは、一人の力で勝ったものではない。
それぞれが、自分にできることをした。
その積み重ねが、嵐龍を倒したのだ。
しばらくして。
広場の中央付近では、ゆうやとカズキ、さくらもちが話していた。
ゆうや「……そういえば、不思議だったんだが」
カズキ「何ですか?」
ゆうや「大会中、怪我の治りが異常に早くなかったか?」
カズキは少し考えた。
カズキ「……ああ、確かに」
激しい試合。
深い傷。
全身に残る疲労。
本来なら数日は動けないような状態でも、翌日にはかなり回復していた。
カズキ自身も、何度か不思議に思ったことがあった。
さくらもち「私も思ってました!」
その時、近くにいた大会関係者が口を開いた。
「……それは、特別な治療を受けていたからですよ」
カズキたちが振り返る。
カズキ「……特別な治療?」
「はい。今回の大会では、ある方に協力していただいていたんです」
ゆうや「……ある方?」
関係者は少しだけ声を落とした。
「……あすか様です」
その名前に、ゆうやが目を見開いた。
ゆうや「……あすか?」
「ご存じですか?」
ゆうや「いや、名前だけは聞いたことがある」
関係者は頷いた。
「彼女は、極めて希少な治癒系スキルの保有者です」
カズキは首を傾げた。
カズキ「……治癒系のスキルって、そんなに珍しいんですか?」
「珍しいどころではありません」
関係者は真剣な表情で答えた。
「傷を治す魔法や薬草は存在します。しかし、生まれ持ったスキルそのものが治癒に特化している例は、世界でも極めて少ないんです」
さくらもちが目を丸くした。
さくらもち「……そんなに?」
「はい。あすか様は、その希少性から国宝として扱われています」
カズキ「……国宝!?」
カズキは思わず声を上げた。
国宝。
それほどの存在が、大会の裏側で選手たちを支えていたというのか。
「今回の大会では、あすか様の能力の一部を治療に利用させていただきました」
ゆうや「……だから、あれほど早く回復できたのか」
「もちろん、治療師たちの力もあります。ただ、あすか様の協力がなければ、試合の進行はもっと難しかったでしょう」
カズキは自分の手を見つめた。
何度も剣を握り、傷つき、再び戦った手。
その裏側には、自分の知らない誰かの力があった。
カズキ「……すごい人なんですね」
「ええ。ですが、能力の詳細については、あまり公にはされていません」
関係者は静かに微笑んだ。
「それだけ、大切にされている方なんです」
カズキは頷いた。
世界には、まだ自分の知らない力がある。
剣を振るう力だけではない。
誰かを守る力。
誰かを救う力。
そして、傷ついた者を再び立ち上がらせる力。
それもまた、冒険者たちを支える大きな力なのだ。
その頃。
広場の中央付近では、マリンといれが話をしていた。
マリン「……そろそろ、ソルティモに帰らないとね」
いれ「そうだな。こっちも落ち着いてきたし」
マリン「みんな、どうしてるかなぁ」
マリンは少しだけ遠くを見つめた。
水の都ソルティモ。
かつて魔物の襲撃を受け、大きな被害を出した街。
だが、そこでも多くの人々が力を合わせ、復興を進めていた。
マリンにとって、大切な場所だった。
いれ「……そういえば、ゆうくんの作ってるやつは?」
マリン「ああ、列車?」
いれ「そうそう。それ」
マリン「まだ完成してないと思うけど、どうなってるんだろうね」
その会話を、偶然耳にした人物がいた。
マクラ博士「…………?」
マクラ博士である。
彼はゆっくりと振り返った。
マクラ博士「……すまん。今、何と言った?」
マリンが顔を上げる。
マリン「え?」
マクラ博士「……れっしゃ?」
聞き慣れない言葉だった。
博士は眉を寄せ、少し考え込む。
マクラ博士「……それは、何だね?」
マリン「あ、列車ですか?」
マクラ博士「うむ。初めて聞く言葉だ」
いれが少し驚いたように言った。
いれ「……知らないんですか?」
マクラ博士「知らん。だから聞いておる」
博士は真剣な表情だった。
マリンは少し考え、説明を始めた。
マリン「えっと……たくさんの人を乗せて、遠くまで運ぶための乗り物、かな?」
マクラ博士「……乗り物?」
マリン「はい。長い車体があって、車輪がついていて……」
いれ「決まった道を走るようにするらしいです」
マクラ博士「……決まった道?」
博士の目が、少しずつ輝き始めた。
マリン「線路っていうものを敷いて、その上を走らせるんです」
マクラ博士「……線路」
博士はその言葉を繰り返した。
マクラ博士「つまり、あらかじめ進む道を作り、その上を車輪で移動する……?」
マリン「そんな感じです!」
博士は顎に手を当てた。
マクラ博士「……ふむ」
しばらく考え込む。
そして。
マクラ博士「……面白い」
その声は、先ほどまでとは違っていた。
マクラ博士「非常に面白い!!」
マリンが驚いて肩を跳ねさせる。
マリン「わっ!」
マクラ博士「誰が考えたのだ!?」
いれ「ゆうくんっていう人です」
マクラ博士「その者が、一人で?」
マリン「いろんな人に手伝ってもらってると思いますけど、中心になって作ってるのはゆうくんです」
博士は目を見開いた。
マクラ博士「……素晴らしい!」
そして、突然立ち上がった。
マクラ博士「ぜひ会ってみたい!!」
マリン「ええっ!?」
その声を聞きつけ、まくらA〜YとZが集まってきた。
まくらA「博士ー! どうしたの?」
まくらB「何か面白いこと?」
まくらC「新しい研究!?」
マクラ博士「うむ! 実に興味深い話を聞いた!」
まくらD「なになに?」
マクラ博士「列車という乗り物だ!」
まくらE「れっしゃ?」
まくらF「何それ?」
マリンはもう一度説明した。
たくさんの人を乗せること。
線路の上を走ること。
遠くの街まで移動できるようにすること。
そして、まだ完成していないこと。
話を聞き終える頃には、まくらたちの目も輝いていた。
まくらG「えっ! みんなで乗れるの!?」
マリン「完成すれば、たぶん!」
まくらH「じゃあ、私たち全員で乗れるかな!?」
まくらI「乗りたい!」
まくらJ「絶対乗りたい!」
まくらK「Zちゃんも一緒に!」
まくらL「もちろん!」
まくらM「みんなで旅行しよう!」
まくらN「楽しそう!」
まくらO「窓から景色見たい!」
まくらP「お菓子持っていこう!」
まくらQ「Zちゃんの席は真ん中!」
まくらR「いや、窓際!」
まくらS「みんなで囲もう!」
まくらT「それじゃ景色見えないよ!」
まくらU「じゃあ交代制!」
まくらV「いいね!」
まくらW「どこまで行けるのかな?」
まくらX「遠くの街!」
まくらY「世界中!」
まくらZは姉たちを見渡した。
まくらZ「……まだ完成していないそうです」
まくらA「じゃあ、完成したら!」
まくらB「みんなで!」
まくらC「乗ろうね!!」
姉たちが一斉に頷く。
Zは少しだけ沈黙した。
そして。
まくらZ「……はい。楽しみです」
その一言に、姉たちが歓声を上げた。
マクラ博士はその様子を見ながら、深く頷いた。
マクラ博士「……よし」
そして、マリンへ向き直る。
マクラ博士「そのソルティモという街へ、私も行こう」
マリン「……え?」
マクラ博士「その列車というものを、この目で見てみたい」
博士の表情は真剣だった。
マクラ博士「まだ完成していないのなら、なおさらだ。何か手伝えることがあるかもしれん」
マリンは目を丸くした。
目の前にいるのは、人型ゴーレムを生み出した技術者。
まくらAからZまで、二十六体ものゴーレムを製作した人物だ。
その博士が、ゆうくんの列車作りに興味を持っている。
マリン「……本当に来てくれるんですか?」
マクラ博士「もちろんだとも!」
博士は力強く頷いた。
マクラ博士「未知の技術を知る機会を逃すわけにはいかん!」
その時、近くで話を聞いていたかつとしが口を開いた。
かつとし「……ソルティモに行くのか?」
マリン「あ、はい!」
かつとし「俺もちょうど、次の行き先を考えてたところなんだ」
かつとしは少し考えた。
かつとし「……面白そうだな。俺も一緒に行っていいか?」
マリン「もちろん!」
すると、まきおも顔を上げた。
まきお「……俺も行ってみようかな」
その隣にいたユウナギが、静かに頷く。
ユウナギ「……水の都か。興味はある」
カゲツも杯を置いた。
カゲツ「……しばらく旅をするつもりだった。同行してもいい」
マリンは嬉しそうに笑った。
マリン「じゃあ、みんなで行こう!」
いれ「……結構な人数になったな」
博士は満足そうに頷いた。
マクラ博士「賑やかな旅になりそうだ!」
その言葉に、まくらたちが一斉に手を上げた。
まくらA「私たちも!」
まくらB「行く!」
まくらC「列車見たい!」
まくらD「Zちゃんと一緒に!」
まくらE「旅行だー!」
マクラ博士は少しだけ考えた。
マクラ博士「……うむ。全員で行こう!」
歓声が上がった。
こうして、グラディアの宴会の片隅で。
まだ誰も完成形を見たことのない乗り物に、大勢の者たちが興味を抱いた。
ゆうくんの列車。
それは、まだ走っていない。
だが、その夢は少しずつ、別の人々へと広がり始めていた。
夕方。
広場には、少しずつ灯りがともり始めていた。
空は赤く染まり、遠くの建物には長い影が伸びている。
宴会は、ますます盛り上がっていた。
ある机では、かつとしとまきおが大会の話をしている。
かつとし「いやぁ、やっぱり本戦は強い奴ばっかだったな」
まきお「分かる。予選とは全然違った」
その隣では、ユウナギとカゲツが静かに杯を交わしていた。
ユウナギ「……次は、もっと上へ行きたいな」
カゲツ「……ああ」
少し離れた場所では、ゴツタが大きな皿を抱えていた。
ゴツタ「……この肉、うまいな」
その言葉に、近くの冒険者が笑う。
「お前、ずっと食ってないか?」
ゴツタ「……うまいからな」
それだけ言って、再び肉を口へ運んだ。
その近くでは、ゆうゆうがメイビスと話していた。
ゆうゆう「……次は、絶対勝つからな」
メイビス「うん。楽しみにしてる」
メイビスは穏やかに笑った。
大会では、勝つ者がいれば負ける者もいる。
だが、今日だけは違った。
勝った者も、負けた者も。
強い者も、まだ未熟な者も。
同じ場所で、同じ料理を囲んでいる。
そこには、試合中のような緊張感はなかった。
広場の端では、るいひろがスペースと話していた。
るいひろ「……そういえば、お前も大会出てたんだよな?」
スペース「ああ」
るいひろ「誰に負けたんだ?」
スペース「レックウザ」
るいひろ「……ああ」
るいひろは少しだけ考えた。
るいひろ「……それは、相手が悪かったな」
スペース「だろ?」
すると、近くから声がした。
レックウザ「聞こえてるぞー!」
スペースが振り返る。
スペース「お前、なんでそんなところにいるんだよ!」
レックウザ「肉取りに来ただけ!」
るいひろが笑った。
るいひろ「……でも、あの【龍化】はすごかったな」
スペース「……大会で使われなくてよかった」
レックウザ「使えるわけないだろ! 闘技場壊れるって!」
その言葉に、全員が笑った。
その頃。
銀の羊の机では、ある問題が発生していた。
むっちゃん「……ねえ」
ねこ「……」
全員が、目の前の皿を見つめている。
そこには、ぴりからしが用意した真っ赤な料理があった。
ぴりからし「……誰も食べないの?」
ざるそば「……お前が食べろよ」
ぴりからし「俺はもう食べた」
むっちゃん「……本当に?」
ぴりからし「本当に!」
ねこが静かに首を横へ振った。
ねこ「……信用できない」
ぴりからし「ひどい!」
すると、そこへあぶらメンタルが通りかかった。
あぶらメンタル「おっ、うまそうな肉!」
ざるそば「……待て」
だが、遅かった。
あぶらメンタルは皿から肉を一切れ取り、勢いよく口へ放り込んだ。
あぶらメンタル「んぐっ……」
数秒の沈黙。
そして。
あぶらメンタル「かっっっっらぁぁぁぁぁ!!!」
広場に絶叫が響いた。
周囲の人々が一斉に振り返る。
あぶらメンタルは涙目になりながら、必死に飲み物を探した。
あぶらメンタル「水!! 水くれ!!」
近くにいたマリンが、慌てて水の入った杯を差し出した。
マリン「ちょ、ちょっと待って!」
あぶらメンタルはそれを一気に飲み干した。
あぶらメンタル「……はぁ……はぁ……」
そして、ぴりからしを睨む。
あぶらメンタル「お前!! 何入れた!?」
ぴりからし「……香辛料?」
あぶらメンタル「どんだけ!?」
ざるそばが深いため息をついた。
ざるそば「……だから止めたんだ」
その様子を見ていたまおーが、大笑いしていた。
まおー「はははは!! 何やってんだよ!!」
あぶらメンタル「笑ってないで助けろ!!」
まおー「いやぁ、最高だな!」
七つ影と銀の羊。
普段は別々に活動している二つの集団だったが、今日は同じ机を囲み、くだらないことで大騒ぎしていた。
その少し後。
ディーナとスペースは、広場の端で静かに話していた。
ディーナ「……そういえば、あの子はどう?」
スペースが顔を上げる。
スペース「……雫のこと?」
ディーナ「ええ」
スペースは小さく息を吐いた。
スペース「……まだ、目を覚ましてないらしい」
ディーナの表情が曇る。
雫。
嵐龍がグラディアへ襲来する前。
スペースとディーナは、意識を失っていた少女を助けていた。
その少女が、雫だった。
何があったのか。
なぜ倒れていたのか。
詳しい事情は、まだ分かっていない。
ただ、彼女が何かに怯えていたことだけは、二人の記憶に残っていた。
ディーナ「……治療院には、ちゃんとお願いしてあるんでしょう?」
スペース「ああ。治療師たちが診てくれてる」
スペースは少しだけ遠くを見つめた。
スペース「……早く、目を覚ましてくれるといいんだけどな」
ディーナは静かに頷いた。
ディーナ「……そうね」
その時、広場の中央から大きな笑い声が響いた。
あぶらメンタルが、また何かをやらかしたらしい。
スペースは小さく笑った。
スペース「……あいつら、ほんと元気だな」
ディーナ「ふふ。そうね」
だが、二人はまだ知らなかった。
その少女が、間もなくこの宴会の空気を一変させることになるとは。
夜。
広場には無数の魔導灯がともり、昼間とは違う賑やかさに包まれていた。
音楽が流れ、人々が歌い、あちらこちらで笑い声が上がっている。
maroは相変わらず舞台の上にいた。
maro「さあああ!! 宴会もいよいよ終盤戦!!」
その声に、誰かが叫ぶ。
「まだ実況してるのかよ!!」
maro「もちろんだぁぁぁ!!」
笑い声が起こる。
すると、maroは広場を見渡し、少しだけ声の調子を変えた。
maro「……皆様」
人々の視線が舞台へ向く。
maro「本日は、本当にありがとうございました」
広場が静かになる。
maro「大闘技祭は、これにて正式に閉幕となります」
その言葉に、少しだけ寂しそうな表情を浮かべる者もいた。
長い大会だった。
予選から始まり、世界各地の強者たちが集まった。
数々の試合が行われ、多くの者が夢を追いかけた。
そして最後には、誰も予想しなかった災厄が訪れた。
だが。
maro「この大会で生まれた出会いは、ここで終わりではありません!」
maroは力強く言った。
maro「またいつか、この街で! 皆様と再会できる日を楽しみにしております!!」
大きな拍手が起こった。
ハイドラグーンが静かに杯を掲げる。
yukiも、それに応える。
けい、せきりゅう、ゆかマキ、ディーナ。
さくらもち、カズキ、るいひろ。
そして、数多くの冒険者たち。
それぞれが、同じ空を見上げた。
嵐龍が現れたあの日。
空は暗く、恐ろしい風が吹き荒れていた。
だが今は違う。
夜空には、無数の星が輝いている。
カズキはその光景を見つめながら、小さく息を吐いた。
カズキ「……終わったんだね」
隣にいたさくらもちが頷く。
さくらもち「……はい」
るいひろ「……まあ、またどこかで会えるだろ」
カズキは笑った。
カズキ「……そうだね」
その時だった。
広場の入口。
人々の間を縫うように、一人の少女が歩いていた。
足取りはおぼつかない。
顔色も悪く、肩で息をしている。
それでも、少女は歩みを止めなかった。
何度も立ち止まりそうになりながら、必死に前へ進んでいた。
やがて、少女は広場の中央付近までたどり着く。
そして、小さく声を上げた。
雫「……お願い……」
周囲の喧騒に、その声はかき消された。
少女は唇を噛んだ。
目の前には、大勢の冒険者たちがいる。
強い人たち。
大会で戦った人たち。
嵐龍を倒した人たち。
ここなら。
ここなら、きっと。
雫「……お願い、します……!」
少しだけ大きな声。
近くにいた冒険者が振り返る。
「……ん?」
その時。
スペース「…………え?」
広場の端にいたスペースが、少女の姿に気づいた。
手にしていた杯が止まる。
スペース「……おい」
隣にいたディーナが顔を上げる。
ディーナ「どうしたの?」
スペースは、広場の中央を指さした。
スペース「……あれ」
ディーナが視線を向ける。
そして、目を見開いた。
ディーナ「……雫!?」
次の瞬間、二人は駆け出していた。
スペース「おい! 何やってんだ!?」
ディーナ「雫! まだ動いちゃだめでしょう!」
少女――雫は、二人の顔を見ると、少しだけ安心したように表情を緩めた。
雫「……あ……」
スペースが慌てて身体を支える。
スペース「大丈夫か!? 治療院にいたんじゃないのか!?」
雫は小さく頷いた。
雫「……目が、覚めて……」
ディーナ「……だったら、ちゃんと休んでいないと」
ディーナは心配そうに雫の顔を覗き込む。
だが、雫は首を横に振った。
雫「……だめ……」
ディーナ「……え?」
雫「……ここに……強い人が……たくさんいるって……」
スペースとディーナが顔を見合わせた。
雫「……だから……来たの……」
雫の声は震えていた。
だが、その目には強い意志が宿っている。
スペース「……雫」
その時、近くにいたカズキたちも異変に気づいた。
カズキ「……何かあったんですか?」
スペースが振り返る。
スペース「……いや、ちょっと……」
だが、雫はカズキの声を聞くと、顔を上げた。
その向こうには、大勢の冒険者たちがいた。
ハイドラグーン。
yuki。
けい。
SHIN。
そして、数々の強者たち。
雫は震える足で、もう一歩前へ進んだ。
雫「……お願い……」
その声に、近くの会話が止まる。
雫「……お願い、します……!」
少しずつ、周囲の視線が集まっていく。
雫は必死に声を張り上げた。
雫「……誰か……!」
その瞬間。
広場の空気が変わった。
さっきまで笑っていた冒険者たちが、次々と振り返る。
maroも舞台の上で言葉を止めた。
雫は涙を浮かべながら、叫んだ。
雫「お願いです!!」
静まり返った広場に、その声が響く。
雫「誰か……お兄ちゃんを助けてください!!」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
スペースが雫の肩を支える。
ディーナが静かに尋ねた。
ディーナ「……雫。お兄さんは、どこにいるの?」
雫は唇を震わせた。
そして、かすれた声で答える。
雫「……ダンジョン……」
ディーナの表情が変わる。
雫「……ダンジョンの中に……」
雫は震える手を握りしめた。
そして、最後の力を振り絞るように叫んだ。
雫「零を……お兄ちゃんを、助けてください!!」
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