ウチらの恋は盛れるフィルターじゃなくて
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
今どきJKギャルのアリスとめるのちょっとさわやかででも甘っずっぱい恋の始まりの物語
本文
「ねえ、聞いてる? 私のニューネイル、今回のガチで過去イチすごくない?」
渋谷のセンター街から一本入った、ネオンが可愛い韓国っぽカフェ。 テカテカに輝くロングスカルプを目の前でチラつかせながら、アリスがスマホを机にドンと置いた。
「え、マジ見せて! ……やば、かわいすぎ! ストーンの置き方天才じゃん」 「でしょ? 推し活遠征あるから気合い入れたわけよ。でさ、さっきの話なんだけどさ……」
アリスが恋バナの続きを始めようとしたその瞬間、隣の席から「ゴトッ」と大きめの物音がした。 「あ、すみっ……」 低くて、少し掠れた声。
振り返ると、そこには黒のオーバーサイズパーカーを着た男子が座っていた。目の前には、派手にひっくり返ったアイスカフェラテ。白いテーブルの上に、ミルクの海が広がっている。 「うわっ、びしょ濡れじゃん! 大丈夫!?」 めるは反射的にバッグから、お気に入りのブランドのフリル付きウェットティッシュを取り出して差し出した。
「あ……ありがとうございます」 顔を上げたその男子を見て、めるは「あ」と声が漏れた。 同じクラスの――蓮(れん)だ。 学校ではいつも前髪で目が隠れていて、授業が終わったら一目散に帰る。クラスの陽キャグループとは無縁の、「ザ・陰キャ」って感じの男子。
「あ、蓮じゃん。マジびびったー。服、大丈夫?」 「うん……平気。ごめん、なんか騒がしくして」 蓮は赤くなった耳を隠すように、パーカーのフードを深く被り直した。
(え、待って。近くで見ると、なんか……) めるは心の中でちょっと驚いた。いつもは猫背で小さくなっているイメージだったけど、こうして間近で見ると背が高いし、手も綺麗。しかも、つけてる香水が、なんかほんのりいい匂い――甘すぎない、ウッディ系のすっきりした香り。
「これ、拭きなよ。せっかくの服汚れたら萎えるっしょ」 めるが差し出したティッシュを受け取る蓮の手が、少しだけ震えていた。 「……ありがとう、めるさん」 「さん付けやめてよ、めるでいいし。つーか、なに飲んでたの?」 「あ、えっと……限定の、塩キャラメルラテ……」 照れ臭そうに呟く蓮のトレイを見ると、そこにはなんと、めちゃくちゃガーリーな限定ドリンクが乗っていた。
アリスがすかさず、スマホをいじる手を止めてニヤニヤしながら割って入る。 「え、男子一人でこのカフェ来ちゃう系? しかもそのドリンク、女子の間でバズってるやつじゃん!」 「……っ! 別に、友達に頼まれて調べ物ついでに……いや、その……」 蓮は顔を真っ赤にして、しどろもどろになっている。耳まで真っ赤だ。
その様子があまりにもピュアで、めるは思わずフッと笑ってしまった。 「いいじゃん、それ美味しいよね! ウチらもそれ飲んでるし」 「……うん。美味しい、けど……」 蓮はうつむいたまま、蚊の鳴くような声で言った。 「……こういう店、場違いだったかなって思って」
その一言に、めるの胸の奥がキュッと鳴った。 学校では地味に見えるけど、本当は流行りのものも気になるし、新しい場所にも来てみたい。でも、周りの目がちょっと怖い。そういうの、なんとなく分かっちゃったから。
「全然場違いとかなくない? カフェに男も女も関係なくね?」 めるはスマホをパッと手に取り、カメラを起動した。 「ほら、アリスも入って! みんなで写真撮ろ! 蓮もこっち向いて、ピース!」 「えっ、ちょ、める!? 私すっぴん風メイクなんだけど!」と慌てるアリス。 「え、無理、俺こういうの――」と固まる蓮。
だけど、パシャリとシャッター音が響いたとき、画面に映っていたのは、ネオンの光の中でちょっと引きつりつつも、どこか楽しそうな蓮の姿だった。
「ほら、見て。エモくない?」 めるが画面を見せると、蓮は恥ずかしそうに目を細め、それから、ほんの少しだけ口角を上げた。
「……うん。案外、悪くないかも」
数日後。 学校の廊下。いつものように友達とギャルピースをしながら話していると、前から前髪を少し上げて、いつもよりちょっとすっきりした表情の蓮が歩いてきた。
すれ違いざま、蓮は小さく手を挙げて、ボソッと言った。 「……次の限定フラペチーノ、新作出るらしいよ」 「マジ? どこ情報それ!」 めるが振り返ると、蓮は照れくさそうに背中を向けたまま、フッと笑って歩幅を速めた。
スマホの画面越しじゃない、リアルな毎日のなかで。 ちょっとした「可愛い」と
「好き」の芽が、うちらのペースで、ゆっくり育ち始めている――かもしれない。
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