勇者召喚されたが、チートスキルがしょぼすぎてハズれだと言われたのに案外効くスキルだった件
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
サラリーマンのタナカ。 なぜか異世界に召喚されてしまった。 チートスキルはまさかの…
本文
光が収まったとき、そこは豪華絢爛な大聖堂だった。
床には巨大な魔法陣が描かれ、金ぴかのローブをまとった老人が、杖を片手に震えながらこちらを見つめている。周囲には、フルプレートアーマーを着た屈強な聖騎士たちがずらりと並んでいた。
「おお……! 召喚の儀式が成功したぞ! 見よ、この神々しいお姿を!」
老人の言葉に、私は思わず手元の缶コーヒー(微糖)を見下ろした。 私はさっきまで、残業帰りの夜道で自動販売機にお金を投入し、ガコンと出てきたばかりの缶コーヒーを受け取ろうとした瞬間、謎のまばゆい光に包まれたのだ。
「あの、ここどこですか? 私、明日も朝から会議なんですけど……」 「静まりなさい、異世界の勇者よ! 我が王国リラリアは、今や魔王軍の侵略によって滅亡の危機に瀕している! どうか、私たちの世界を救ってくだされ!」
王様っぽいつづらの老人が、地面に額をすりつけそうな勢いで懇願してくる。 いや、勝手に連れてきておいてそれは都合が良すぎないか? と思いつつ、私の頭の中に突如として機械的な電子音が響いた。
【システムメッセージ:固有スキル『全館放送マイク(Lv.MAX)』が解放されました】
「……は?」
頭の中に、謎のステータス画面が浮かび上がる。 剣でも魔法でもなく、『全館放送マイク』。 なんだそれは。私はスーパーの店長でもなければ、アパレルの店員でもない、ただのしがない中間管理職のサラリーマンだぞ。
王様が期待に満ちた目を向けてくる。「勇者様、あなたに宿りし最強のチートスキルは何でございますか? さあ、我らにその神業を見せてくだされ!」
私は引きつった笑顔で答えるしかなかった。 「……なんか、スーパーの店内放送みたいなやつです」
「スーパーの、てんないほうそう……?」 老王の顔が、乾いた雑巾のように歪んだ。 側近の魔法使いがすかさず水晶玉を使い、私のステータスを鑑定する。
【スキル名:全館放送マイク】
効果: あらゆる音響設備を無視して、一定範囲内の全生物の脳内および空間に、自分の声を「超クリアな店員ボイス」で強制的に響かせることができる。音量は自由自在。BGMの強制再生も可能。
「なんだこれは……! 剣も魔法も使えない、ただの拡声器の落ちこぼれではないか!」 「ハズレだ! 勇者召喚の失敗だ!」 聖騎士たちが一斉にざわめき出す。おいおい、こっちは被害者だぞ。今すぐ元の自販機の前に送り返してくれ。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……!!!
大聖堂の巨大なステンドグラスが、凄まじい衝撃音とともに粉々に砕け散った。 舞い散る色ガラスの破片の中、天井を突き破って現れたのは、二メートルを超える巨体に全身を黒い鎧で包んだ鬼神――魔王軍四天王が一人、『破壊公グルガンド』だった。
「グワハハハハハッ!! 人間の王よ、今日こそこの都を血の海に沈めてくれるわ!」
「ひっ……! 四天王だと……!?」 王様が情けない悲鳴を上げて玉座の陰に隠れる。聖騎士たちは恐怖で足を震わせ、誰も剣を抜くことができない。
グルガンドは巨大な両刃の斧を地面に突き立て、冷酷に笑った。 「命が惜しければ、全財産を置いて今すぐ立ち去れ! さもなくば、一匹残らずミンチにしてくれる!」
絶望的な沈黙が広がる。誰もが死を覚悟したその瞬間、私の頭の中で、なぜか『全館放送マイク』のスイッチが勝手にカチリと入った。
体が勝手に動き、私の喉から、異様なまでに澄み切った、あの懐かしいメロディが響き渡った。
「ピンポンパンポーン♪」
大聖堂の静寂を切り裂く、あまりにも平和なチャイムの音。 グルガンドが「……あん?」と動きを止めた。聖騎士たちもポカンと口を開けている。
私は抗おうとしたが、スキルが勝手に声を紡ぎ出す。私の意思とは無関係に、デパートの店員ばりの超丁寧で爽やかなトーンが、空間全体に響き渡った。
『お客様にお知らせいたします。只今より、地下二階・生鮮コーナーにて、国産牛モモ肉のタイムセールを開始いたします』
「なっ……なんだと……?」とグルガンドが混乱する。
『お一家族様二パック限りの、大変お買い得なお値段となっております。今夜のすき焼きに、ぜひいかがでしょうか〜』
「すき焼きだと……? なんだその魅力的な響きは……!」
『なお、本日のお惣菜コーナーでは、サクサクの特製コロッケが全品半額となっております。数に限りがございますので、お求めのお客様はお早めにお近くのスタッフまでお声がけくださいませ』
「コロッケが……半額……だと……?」 グルガンドの巨体が、なぜか微かに震え始めた。 彼は魔王軍きっての戦闘狂として知られていたが、同時に「大の肉好き・揚げ物好き」というプライベートの顔を持っていたのだ。もちろん、そんな設定は誰も知らない。
『また、店内にお忘れ物のないようご注意ください。特に、魔王軍の皆様。東側の駐輪場にハザードランプを点けっぱなしで放置されているドラゴンは、レッカー移動の対象となりますので、速やかに移動をお願いします』
「俺のワイバーンがレッカー移動されるだと!? おい、誰だハザード点けっぱなしにしたやつは――って、俺は何を真面目に返事をしてるんだ!!」
グルガンドが頭を抱えて絶叫した。
「おかしいぞ……! この声を聞くと、なぜか脳裏に夕方のスーパーの情景が浮かび、早く買いに行かないと売り切れてしまうという焦燥感に駆られる……!」 聖騎士の一人が頭を抱えて蹲った。敵味方関係なく、全員の脳内に「今日の夕飯は何にしよう」という強い主婦(主夫)の魂が芽生えてしまっている。
スキルはまだ終わらない。私の意思とは無関係に、トドメの定番BGMが流れ出した。
――タ〜ラ〜リ〜、ラ〜リ〜ラ〜♪(蛍の光)
「ま、待て! もう閉店の時間なのか!? まだコロッケを買っていないのに!!」 グルガンドは慌てふためき、持っていた巨大な斧を放り投げると、自分のワイバーンを探して大慌てで窓から駆け出していった。「くそっ、今日の特売を逃したら一生の不覚だ……! また来るぞ人間のども!!」
轟音とともに、魔王軍の幹部は一目散に逃げ帰っていった。
……シーン。
大聖堂には、風の音だけが戻ってきた。 王様も、聖騎士たちも、ぽかんと口を開けたまま私を見つめている。
「……いまのは一体、何の魔法だ……?」 老王が震える声で尋ねた。
私は缶コーヒーのプルタブをプシュッと開け、やれやれと息をつきながら答えた。 「さあ。でも……とりあえず、今夜の夕飯は肉にしませんか?」
こうして、剣も魔法も使えないサラリーマン・タナカは、異世界の魔王軍を
『夕方のタイムセールアナウンス』で完全撃退し、なぜか王国軍の最高戦力
(兼・お買い物アドバイザー)として迎え入れられることになったのだった。
おしまい。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。