ヒャクパー

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/24 📝 2,399文字 ✅ 全年齢

あらすじ

感想文と判定AIの話。

本文

 〔人間が書いた確率:百パーセント〕

 返ってきた紙のいちばん上に、そう印刷されていた。

 読書週間の感想文は、今年からタブレットで書いて出すことになった。出した感想文は、判定AIの「ミキワメ」が全部読む。AIに書かせたものかどうかを見分けるためだ。去年、六年生の感想文の半分がAIそっくりだったらしくて、校長先生が朝会で怒っていた。

 クラスの三十人のうち、百パーセントはぼく一人だった。

「門脇かどわき、百だって。すげえ」

 後ろの席の能勢のせが、ぼくの紙をのぞきこんで大きな声を出した。

「おれ九十四。航平こうへいだけ百。純度百パーセントの人間」 「なにそれ、牛乳みたい」

 みんなが笑った。ぼくも笑うしかなかった。

 紙の下のほうには、判定の材料が細かく並んでいた。

 〔変換ミス:十四か所〕  〔主語と述語のずれ:九か所〕  〔同じ言葉のくり返し:「すごく」二十一回〕

 つまり、百パーセントというのは、それだけ下手だという意味だった。

 その日から、ぼくのあだ名は「ヒャクパー」になった。

 給食のとき、能勢が牛乳びんを持ち上げて「ヒャクパーに乾杯」と言う。休み時間には、女子まで「ヒャクパー、これ読める?」と漢字ドリルを見せてくる。悪気がないのは分かっていた。でも、そう呼ばれるたびに、感想文のことを言われている気がした。

 ぼくが選んだ本は、『マントのオオカミ』だった。寒がりのオオカミが、村の女の子から赤いマントを借りる話だ。オオカミはマントのおかげで冬を越すけれど、春になると、ぼろぼろのマントを洗って、黙って女の子の家の前に置いて森へ帰っていく。それで終わり。オオカミは最後まで、一言もしゃべらない。

 帰り道、ぼくはタブレットを開いて、自分の感想文を読み返した。

〈オオカミがマントを返すとこで、ぼくはすごく木持ちがすごくなった〉

 木持ち。

 自分で書いたのに、顔が熱くなった。

 担任の久住くずみ先生は、出し直しをしてもいいと言った。締め切りは金曜日。ぼくは、ちゃんとした感想文を書くことにした。

 図書室で『上手な感想文の書き方』を借りて、使えそうな言葉をノートに写した。「心を打たれた」「深く考えさせられた」「作者が伝えたかったことは」。変換ミスは一つずつ直して、「すごく」は全部消した。文が長くなりすぎたところは、二つに切った。

 夜、机に向かうと、窓の外で風が鳴った。お母さんが「そろそろ寝なさい」と何度も言いに来た。ぼくはそのたびに「あと一行」と答えて、ノートの言葉をタブレットに打ちこんだ。

〈作者が伝えたかったことは、思いやりの大切さだと思います。ぼくは、オオカミの行動に深く考えさせられました〉

 三日かけて書き直した感想文は、自分で読んでもうっとりするくらい、きれいだった。オオカミがどうしてマントを返したのかも、ちゃんと「思いやり」という言葉で説明できていた。

 金曜日の朝、出し直した感想文の紙が返ってきた。

 〔人間が書いた確率:六十八パーセント〕

「うわ、ヒャクパーが六十八になった」

 能勢の声に、教室がしんとした。誰かが小さく「AI使ったんじゃね」と言った。

 使っていない。全部自分で書いた。でも、そう言っても信じてもらえる気がしなかった。証拠は、六十八という数字のほうにしかない。

 放課後、久住先生に呼ばれた。

「門脇くん。これ、自分で書いた?」 「……書きました」 「うん。先生も、そうだと思う」

 先生はそう言ってくれたけれど、紙の上の数字は変わらなかった。

 ぼくは、どっちが本当のぼくなのか、分からなくなった。下手な百パーセントと、上手な六十八パーセント。

 その夜、部屋でタブレットを開いた。

 判定の紙には、いちばん下に小さく〔理由をくわしく見る〕というボタンがある。前は、ミスの一覧を見たくなくて押さなかった。

 ぼくは一枚目の、百パーセントのほうを開いて、ボタンを押した。

 変換ミス、主語のずれ、すごくが二十一回。知っている一覧が流れたあと、最後に一行だけ、色の違う字が出た。

 〔追加の理由:この書き手は、四百字目を書いたあと、十二分間、一文字も書いていません〕  〔AIは、途中で止まりません〕

 ぼくは画面を見つめた。

 十二分。

 思い出した。オオカミがマントを返す場面まで書いたところで、ぼくは手を止めたのだ。どうしてオオカミがマントを返したのか、うまく書けなかった。だから本を開いて、最後の三ページをもう一回読んだ。もう一回読んで、もう一回読んだ。三回目で、鼻の奥がつんとした。

 それから書いたのが、あの「木持ち」の文だった。

 ぼくは二枚目の、六十八パーセントのほうも開いた。理由の一番下を見る。

 〔追加の理由:この書き手は、一度も止まっていません〕

 当たり前だ。ノートに写した言葉を、順番に打っただけなんだから。

 ぼくは二枚目を閉じた。

 月曜日、ぼくは一枚目の感想文を、もう一度出し直した。

 直したのは、変換ミスの十四か所だけ。「木持ち」は「気持ち」にした。「すごく」は二十一回のまま残した。数えてみたら、本当にすごかったところに全部ついていたから。

 最後に、一文だけ書き足した。

〈ぼくは、オオカミがマントを返すところを、三回読みました。三回とも、同じところで鼻がつんとしました。どうしてなのかは、まだうまく書けません〉

 書き足す前に、ぼくはまた手を止めた。時計を見たら、十分くらいたっていた。

 次の日の給食の前に、紙が返ってきた。能勢がまたのぞきこむ。

 〔人間が書いた確率:百パーセント〕

「おかえり、ヒャクパー」

 能勢が言った。ぼくは、牛乳びんを持ち上げた。

「乾杯」

 みんなが笑った。今度は、ぼくもちゃんと笑えた。

 紙のいちばん下に、色の違う字がまた一行出ていた。

 〔追加の理由:この書き手は、まだ書けないことを、書けないと書いています〕

ジャンル・タグ

,

作品統計

👁️ 閲覧数: 1 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

作者ページを見る