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ハロウィンの約束(トト)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/26 📚 シリーズ: ハロウィンの約束(トト) 📝 8,144文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

ミリアは瞳を閉じて、今この瞬間が永遠に続くことを強く願った。

本文

# ハロウィンの約束

## 第一部

## 第1章 オレンジ色の街

秋の風が石畳の街路を撫でていく。エルドリア王国の国境近く、交易の要所として栄えるこの街は、今まさにハロウィンの熱気に包まれていた。

「わあ、見て見てロウエン! どの家も飾り付けが素敵!」

栗色のショートボブを揺らして、ミリアは目を輝かせた。癒しの魔術師として騎士団に所属する彼女は、普段は団服を着ているが、今日は街歩きにふさわしい軽装だ。

「ああ。王都ヴァルクロスとはまた違った賑わいだな」

黒髪の若き騎士、ロウエンが穏やかに答える。精悍な顔つきには柔らかな笑みが浮かんでいた。腰の剣は任務中でなくとも決して手放さない。それが彼の流儀だった。

通りの両脇には、かぼちゃのランタンが無数に並んでいる。まだ昼間だというのに、その中にはもう蝋燭を灯しているものもあった。オレンジ色の温かな光が、秋の午後の陽射しと溶け合っている。

軒先には魔女の帽子や黒猫の飾り、骸骨のぬいぐるみ、こうもりの切り絵が吊るされ、まるで街全体が巨大な舞台装置のようだ。パン屋の窓には、黒とオレンジのアイシングで飾られたクッキーが並び、肉屋の看板には「ハロウィン特別! 悪魔風スパイシーソーセージ」の文字が躍っている。

「ミリア、あそこの露店を見てみろ」

ロウエンが指差した先には、仮装用の衣装や小道具を売る屋台が並んでいた。吸血鬼のマント、狼男の爪、幽霊のシーツ、そして――

「まあ! 可愛い魔女の帽子!」

ミリアは小走りに露店へと向かった。黒いフェルトに紫のリボンがあしらわれた、つばの広い三角帽子。手に取ってかぶってみると、ちょうどいい具合に頭にフィットした。

「お嬢さん、よくお似合いだ。癒しの魔術師には魔女の帽子がぴったりだね」

露店の老人が笑う。ミリアははにかんで、帽子を購入した。銀貨三枚。少し高いが、ハロウィンの思い出には値する。

「似合ってるぞ、ミリア」

「本当? ありがとう!」

## 第2章 癒しの光と甘い香り

二人が街を歩いていると、路地の方から子供の泣き声が聞こえてきた。

「うわああん!痛いよぅ!」

「大変!」

ミリアは迷わず路地へと駆け込んだ。

「ミリア、待て!」

ロウエンも後を追った。

路地の奥、積み上げられた木箱の脇に、小さな女の子が座り込んで泣いていた。五歳くらいだろうか。金色の巻き毛に、水色のワンピース。そして右膝から血が流れている。

「大丈夫?」

ミリアは優しく声をかけながら膝をついた。女の子は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

「うわああん!」

「大丈夫よ、すぐに治してあげるから」

ミリアの手が柔らかな光を帯び始めた。癒しの魔術——彼女の得意とする回復魔法だ。温かな光が女の子の傷を包み込んでいく。

傷口がみるみる塞がっていく。血は止まり、赤く腫れていた皮膚が元通りの健康な色に戻っていく。

「わあ…!」

女の子の瞳が驚きに見開かれた。痛みが消えた膝を、信じられないという様子で触っている。

「ほら、もう大丈夫」

「すごい! 魔法!?」

女の子は飛び跳ねて喜んだ。さっきまでの涙はどこへやら、目を輝かせてミリアの周りをぐるぐると回る。

「ええ、魔法よ。あなた、お名前は?」

「わたし、リリ! ねえねえ、もう一回! もう一回魔法見せて!」

リリはミリアの手を掴んだ。子供特有の、躊躇のない信頼。ミリアの心が温かくなる。

「お嬢ちゃん、お母さんは?」

ロウエンが尋ねた。

「ママはパン屋さんだよ!」

「ねえ! 一緒に遊ぼ! ハロウィンの飾り、いっぱいだよ!」

「いいわよ。でも、先にママのところに行きましょう」

「うん! あそこのお店、すごいんだよ!」

リリはミリアの手を引っ張って歩き出した。ロウエンとミリアは顔を見合わせて微笑む。

三人は街の広場へと向かった。広場の中央には巨大なかぼちゃのオブジェが鎮座し、その周りを色とりどりの屋台が囲んでいる。

「わあ、リンゴ飴だ!」

「あっちはキャンディケイン!」

「見て見て、魔女のクッキー!」

リリははしゃぎながら、あちこちを指差す。ミリアは女の子の手を優しく握りしめた。

三人は広場の屋台を巡り始めた。

「これ、パンプキンパイだって! 食べたい!」

「こっちはアップルサイダー!」

「わあ、ゴーストのマシュマロ!」

リリの興奮は止まらない。ミリアとロウエンは微笑ましく見守った。

屋台の一つで、ミリアは「魔女の指」と呼ばれるクッキーを購入した。アーモンドを爪に見立てた、細長いクッキーだ。見た目は不気味だが、バターの香りが食欲をそそる。

「はい、どうぞ」

「ありがとう!」

リリが両手でクッキーを受け取る。一口齧ると、目を丸くした。

「おいしい!」

## 第3章 骸骨の仮面

「トリック・オア・トリート!」

突然、背後から声がかかった。三人は振り向いてギョッとした。そこには不気味な人物が立っていた。

全身を黒いローブで覆い、顔には骸骨の仮面をかぶっている。手には大きな鎌を持っていた。まさに死神の仮装だ。

「こ、怖いよぅ…」

リリがミリアの後ろに隠れた。

「何者だ。おかしな真似をすると承知しないぞ!」

ロウエンは反射的に剣の柄に手をかけた。

「リリ? 大丈夫よ、ただの仮装だから」

死神仮装の人物は骸骨の仮面を持ち上げた。その下から現れたのは、まだあどけなさの残る顔立ち。大きな瞳に、いたずらっぽい笑み。背格好からすると少女かもしれない。

「ハハ、ごめんごめん。お菓子をあげるから機嫌直してよ」

死神少女――いや、少女は小さな袋からカラフルな飴玉を取り出して、リリに差し出した。

「わあ! ありがとう!」

リリの目が輝く。子供の機嫌は実に単純だ。リリは喜んで飴を受け取った。

「ボクの名前はトト。よろしくね」

トトは自分も飴玉を口に放り込んだ。

「ちょっと君たちに興味があってさ」

「あのね! ミリアはね、魔法が使えるんだよ! すごいでしょ!?」

リリが得意げに言う。まるで自分のことのように。

「へえ、すごいねえ。それで君は…騎士?」

「ああ。俺とミリアは王国騎士団『銀狼の牙』所属だ」

「ふうん、強そうだね。理想の騎士さまって感じだ?」

トトは意味ありげにミリアの方を見た。

「君たちも夕方には広場に行くんでしょ? それじゃ、またね。トリック・オア・トリート!」

「トリック・オア・トリートだよ!」リリは元気よく答えた。

トトは去っていった。

「一体何だったんだアイツは…」

「でも、悪い子じゃないみたい」

## 第4章 温かな家

しばらく街を散策した後、三人はリリの家へと向かった。石畳の路地を抜けると、小さなパン屋が見えてくる。店の看板には「エルサのパン工房」と書かれていた。

扉を開けると、甘い香りが漂ってくる。焼きたてのパン、シナモン、バニラ…そしてかぼちゃのスパイス。

「ただいま!」

リリが元気よく店に入る。

「リリ! おかえりなさ――」

奥から現れた女性が、娘の後ろにいる二人を見て目を丸くした。

「あら、お客様かしら?」

「いえ、リリちゃんが転んで怪我をしていたので治療したんです」

ミリアが説明すると、エルサは深々と頭を下げた。

「まあ! それはそれは…本当にありがとうございます」

「ママ! ミリアの魔法凄いんだよ!」

「そう、良かったわね」

エルサは娘の頭を撫でた。

「あのね、ママ! パン食べたい!」

「はいはい、今お昼を用意しますからね」

「本当にお世話になりました。皆さんも召し上がってくださいね」

エルサは棚からパンの詰め合わせを取り出した。ハロウィン特別仕様の、かぼちゃの形をした甘いパンや、黒ごまを使った真っ黒なパン、オレンジ色のアイシングで飾られたロールパンなどが入っている。

「ママのパン、すっごく美味しいよ! はやく食べよう?」

リリが嬉しそうに跳ねる。

「ありがとうございます。大切にいただきます」

店の奥で少し休憩をさせてもらうことになった。小さなテーブルに、焼きたてのパンと温かいお茶。

「美味しい!」

ミリアが目を輝かせた。

「パパがね、もうすぐ帰ってくるんだよ!」

リリが突然言った。

「素敵ね! パパはどんなお仕事をしてるのかしら?」

「ええ。今日は夫が帰ってくる日なんです」

「夫は隊商の護衛をしていまして。遠い国まで交易に出ているんです。でも、ハロウィンに必ず帰ってくると手紙が来て」

「パパが一番強いんだよ! すごいでしょ!?」

リリが胸を張る。

「俺だって、結構強いぞ」

「ロウエン…」

「パパの方が強いよ! みんな言ってるよ! パパが一番強いって!」

リリが勢いよく話すあまり、手に持っていたクッキーの破片がぽろりと落ちた。

「もう、リリったら。ちゃんと座って食べなきゃダメでしょう」

「えへへ…」

リリは舌を出して笑った。

「すみません…失礼なことを言って…」

「いいんです。ロウエン、リリのパパが一番よね?」

「ああ、まあ…そうだな。リリのパパの方が強いかもな」

ロウエンも自分が少し大人げなかったと認め、照れ臭そうに笑った。

「あの、もしよろしければ…夕方からのハロウィン祭りも、リリと一緒に回っていただけませんか?」

「もちろんです」

ミリアはロウエンを見た。ロウエンは頷く。

「喜んで」

「やったー! みんなと一緒にお祭り行ける!」

リリが飛び跳ねた。

## 第5章 仮面の夜

夕方が近づいてきた。西日が石畳の街路をオレンジ色に染める。この時間がハロウィンには一番似合う。

「さあ、行きましょう!」

エルサとリリが店を閉めて出てきた。リリは魔女の衣装を着ている。黒いドレスに紫のマント、そして――

「リリ、魔女の帽子よ」

ミリアは自分が買った魔女の帽子をリリに被せてあげた。少し大きめだが、それがまた可愛らしい。

「似合う?」

「とっても似合うわ!」

「やったー!」

リリは嬉しそうにくるりと回った。

街は完全にハロウィンモードに入っていた。家々の窓にはかぼちゃのランタンが灯り、オレンジ色の光が通りを照らしている。大人たちも仮装をしている人が多い。吸血鬼、狼男、魔女、骸骨…幻想と現実の境界が曖昧になる夜。

広場には特設ステージが設けられ、そこでは音楽隊が軽快な曲を奏でていた。フィドル、フルート、太鼓。人々は手拍子をし、踊り、笑う。

「トリック・オア・トリート!」

子供たちの声が至る所から聞こえてくる。小さな魔女や幽霊、骸骨に扮した子供たちが、家々を回ってお菓子をもらっている。

「ミリア! あっちの家に行こう!」

リリが手を引っ張る。

「はいはい、わかったわ」

ミリア、リリ、そしてエルサの三人で最初の家を訪れた。ロウエンは少し離れたところから見守っている。

「トリック・オア・トリート!」

リリが元気よく叫ぶ。

「まあ、可愛い魔女さん!」

扉を開けた老婆が笑顔でキャンディの袋を差し出した。

「ありがとうございます!」

リリは丁寧にお辞儀をしてキャンディを受け取った。

次の家では、かぼちゃの形をしたクッキー。その次では、チョコレートバー。リリのバスケットはあっという間にお菓子でいっぱいになった。

「すごいでしょ!」

リリが誇らしげにバスケットを見せる。ミリアは微笑んだ。

広場に戻ると、リリの友達らしい子供たちが駆け寄ってきた。

「リリ! 一緒に回ろう!」

「うん!」

子供たちの輪にミリアも入れてもらった。小さな魔女、幽霊、こうもり、黒猫…様々な仮装をした子供たちが、ミリアの周りに集まる。

「お姉さん、魔女なの?」

「本物の魔女?」

「魔法使える?」

質問攻めだ。ミリアは笑いながら答えた。

「ええ、魔法が使えるわよ。癒しの魔法だけどね」

「すごーい!」

「見せて見せて!」

「うーん…じゃあこれならどう?」

ミリアは手のひらに小さな光球を浮かべた。淡い緑色の光が、子供たちの顔を照らす。

「わあ…!」

「きれい!」

「触っていい?」

「どうぞ」

子供たちが恐る恐る光球に手を伸ばす。触れると、ほんのり温かい。

「ふわふわしてる!」

「お日様みたい!」

子供たちの歓声。ミリアの心が満たされていく。これだ。これが彼女が魔術師になった理由。人を癒し、笑顔にすること。

広場には大きな焚き火が起こされ、その周りで人々が輪になって踊っている。古代ケルトのサウィン祭を再現したものだろう。炎が夜空に向かって揺らめき、火の粉が舞い上がる。

屋台では様々な料理が売られていた。

「悪魔のローストチキン」――スパイシーなソースがたっぷりかかった、真っ赤なチキン。

「魔女のシチュー」――かぼちゃとキノコ、根菜がたっぷり入った、濃厚なクリームシチュー。

「ゴーストパン」――真っ白な生地に黒ごまで目と口が描かれた、幽霊の形のパン。

「吸血鬼のブラッドワイン」――ザクロとベリーで作った、深紅の甘いワイン。

「骸骨クッキー」――アイシングで骨格が描かれた、人型のジンジャークッキー。

トトは様々な屋台を巡り、お菓子を買い集めていた。両手いっぱいの飴玉、チョコレート、クッキー。

「トト、そんなに食べて大丈夫?」

ミリアが心配そうに尋ねる。

「大丈夫大丈夫。ボクはお菓子がエネルギー源なんだ」

トトは仮面を少し持ち上げて、飴玉を口に放り込んだ。

その時だった。

屈強な男が広場にやってきた。日焼けした肌、鍛え上げられた筋肉、そして腰には立派な剣。旅装束は埃にまみれ、長旅の疲労が滲んでいる。

トトはその男の顔をじっと見つめた。

「ふ~ん…」

トトは小さく呟いた。

「おじさんも戻って来たんだね」

誰に言うでもなく、独り言のように。その声には、何か不思議な響きがあった。

## 第6章 帰ってきた約束

「パパ!!」

リリの叫び声。

時が止まったように感じた。リリは全速力で走り出す。バスケットからお菓子がこぼれ落ちるのも構わず。

「パパ! パパ!!」

男が振り向く。その顔に驚きと、そして深い愛情が浮かんだ。

「リリ!」

男は膝をついて、走ってくる娘を両腕で受け止めた。

「パパ! パパ! 会いたかった! 会いたかったよ!」

リリは父親の胸に顔を埋めて泣いた。

「ああ、俺もだ。ずっと会いたかったぞ」

男――マルクは娘を抱きしめた。その腕は、何があっても守り抜くという強い意志に満ちていた。

「マルク…」

エルサが近づいてくる。目には涙が溢れていた。

「エルサ…ただいま」

「おかえりなさい」

二人は抱き合った。言葉はいらない。ただそこにいること、生きて会えたこと。それだけで十分だった。

ミリアは少し離れたところから、その光景を見守っていた。胸が熱くなる。こういう瞬間のために、人は生きているのかもしれない。

「パパ! あのね、あのね! 今日すごかったんだよ!」

リリは涙を拭いながら、興奮気味に話し始めた。

「ミリアがね、魔法使えるの! 本物の魔法! それでね、わたしの怪我を治してくれたの! すごいでしょ!?」

「そうか。それは素晴らしいな」

マルクはミリアの方を見て、深々と頭を下げた。

「娘が世話になりました。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。リリちゃんと過ごせて楽しかったです」

「それでね! ロウエンはね、強い騎士だよ!」

「ほう、騎士殿か」

マルクはロウエンを見た。同じ戦士としての視線。ロウエンも頷き返す。

「それでね、トトはね…えっと…」

「死神だよ」

トトが仮面を被り直しながら答えた。マルクは一瞬、トトを見つめた。何か感じるものがあったようだが、すぐに笑顔に戻った。

「変わった友達だな」

「でしょ!? トトはね、お菓子をいっぱい持ってるんだよ!」

リリは父親の手を引っ張った。

「ねえねえ、パパも一緒にお祭り見よう! かぼちゃのランタンとか、焚き火とか、すごいんだよ!」

「ああ、見よう。今夜はずっと一緒だ」

マルクがそう言うと、リリの顔が輝いた。

「やったー!」

家族三人は、焚き火の方へと歩いていった。ミリア、ロウエン、トトも少し離れてついていく。

焚き火の周りでは、老若男女が輪になって踊っていた。古い民謡に合わせて、手を繋ぎ、足を踏み鳴らす。マルクとエルサも輪に加わった。リリは両親の間で、嬉しそうに跳ねている。

「パパ! もっと高く!」

マルクはリリの両手を掴んで、ぐるりと振り回した。リリのはしゃぐ声が夜空に響く。

エルサは夫の横顔を見つめていた。その目には、喜びと同時に、何か言いたげなものがあった。

踊りが一段落すると、一家は広場の隅の長椅子に座った。ミリアたちも近くのベンチに腰を下ろす。

「パパ! あのね、今日ね――」

リリは止まることなく話し続けた。魔法を見たこと、お菓子をもらったこと、友達と遊んだこと。マルクは一つ一つに相槌を打ち、時には笑い、時には驚いた表情を見せた。

「それでね! あのね!」

リリの興奮はピークに達している。言葉が追いつかないほどだ。

「落ち着いて、リリ。ゆっくりでいいから」

エルサが優しく諭す。

「だって! だって伝えたいことがいっぱいなんだもん!」

リリは手にしていたゴーストパンを一口齧った。

「もう…」

エルサが苦笑しながらハンカチで拭き取った。

「えへへ…」

リリは舌を出して笑う。マルクも笑った。その笑顔には疲労の色が濃かったが、同時に深い愛情も滲んでいた。

「明日はゆっくり休んでくださいね?」

エルサが言った。

「いや…夜が明ける前に出発するつもりだ。美味しい仕事は早い者勝ちだからな」

マルクの言葉に、エルサの顔が悲しみに歪んだ。

「そんな…」

その声は、心底悲しそうだった。

「やだやだ!」

リリが突然叫んだ。

「明日は無いよ! パパはずっと家にいるの! ずっとずっと!」

リリは父親の腕にしがみついた。

「リリ…」

マルクは妻と娘を抱きしめた。

言葉が続かない。ただ涙だけが流れる。

沈黙が降りた。焚き火の爆ぜる音だけが響く。

やがてマルクが口を開いた。

「…そうだな。明日のことは、また明日考えよう」

「え…?」

エルサが顔を上げた。

「今日は特別な日だ。ハロウィンだ。家族と過ごす日だ。明日のことは…明日考えればいい」

マルクは無理に笑顔を作った。だがその目は、複雑な感情で揺れていた。

「本当!? パパ、ずっと一緒!?」

リリの顔が輝く。

「ああ。今日はいっぱい遊ぼう、な?」

「やったー! パパ! お話聞いて!? 今日ね、すごかったんだよ! それでね!」

リリは再び興奮して話し始めた。

祭りは深夜まで続いた。リリは父親の背中で、すっかり眠りこけている。

「本当にありがとうございました」

エルサがミリアたちに深々と頭を下げた。

「いえ、こちらこそ楽しい時間をありがとうございました」

「また遊びに来てください。リリも喜びます」

「喜んで」

ミリアは微笑んだ。

マルクも頭を下げた。

「本当に世話になった。礼の言葉もない」

「いえ、リリちゃんが元気でいてくれるだけで十分です」

家族は家の中へと消えていった。扉が閉まる音。それから、かすかに聞こえる会話の声。

## 第7章 満月の願い

ミリアとロウエンは、しばらくその場に立っていた。

「じゃあ、ボクもそろそろ行くよ」

トトは手を振って、夜の闇へと消えていった。死神の仮装は、暗闇に溶け込んでいく。

「私たちも宿に戻ろうか」

ロウエンが言った。

「…少しだけ、夜空を見ていたいの」

ミリアは広場の方へと歩いた。焚き火はまだ燃えている。その傍らのベンチに座る。

ロウエンも隣に座った。二人は並んで夜空を見上げる。

満月が雲の間から顔を覗かせていた。ハロウィンの月。死者が蘇るという、境界の夜の月。

焚き火の爆ぜる音。遠くから聞こえる、祭りの余韻の音楽。

「今日は…楽しかった」

ミリアが言った。

「ああ」

「リリちゃんの笑顔。エルサさんの優しさ。マルクさんの家族への愛。みんな、必死に生きている」

「そうだな」

「私たちも…そうよね。騎士団で、毎日任務をこなして、人々を守って…」

「ああ」

「でも、時々思うの。こういう日常の温かさを、私たち自身は持てているのかって」

ミリアはロウエンを見た。彼も彼女を見返す。

二人の手が、自然と繋がった。

「俺たちは戦いの中で生きている。剣を振るい、人を守り、時には傷つき…でも、こういう穏やかな時間が、本当に大切なものなんだと思う」

「そうね…」

二人は再び夜空を見上げた。

星々が瞬いている。遥か彼方の光。

ミリアは瞳を閉じた。

今この瞬間が、永遠に続けばいい。

ロウエンの温かい手。焚き火の熱。秋の風。祭りの余韻。

全てが愛おしかった。

そして彼女は強く願った。

この温かさが、明日も、明後日も、ずっとずっと続きますように。

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冥界焔つむぎ

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