【74番外】休日もネカセが気になるの表紙画像

【74番外】休日もネカセが気になる

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/26 📚 シリーズ: 時環遊技場 📝 4,145文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。

本文

西暦三二〇〇年頃。未来都市の一角にある住宅区では、休日の午前中から空中車が忙しなく行き交っていた。高層ビルの間を縫うように走る車もあれば、古風なデザインをした車体でゆったりと空を流れていくものもある。

その住宅区の片隅に、少々時代錯誤なガレージがあった。

中に収まっているのは、シルバーのボディが美しい一台の空中車。流線型の未来的なフォルムとは一線を画す、どこか懐かしいクラシックな外観だ。丸みを帯びたフェンダーに、控えめなクローム装飾。見ようによっては、二十一世紀初頭の自動車がそのまま空を飛べるようになったかのようだった。

その愛車の横で、時環遊技場の店主は工具箱を広げていた。

「さて……もう一度、確認してみましょうか」

先ほどから何度目になるだろう。店主は浮上制御ユニットのカバーを開き、内部の接続端子を一つずつ調べていた。

最近、どうにも機体の姿勢が安定しない。地上では問題ないのだが、浮上して一定の高度に達すると、機首がわずかに下がってしまうのである。

危険というほどではない。しかし、気に入っている愛車だからこそ、ほんの少しの違和感も放っておく気にはなれなかった。

制御ユニットの診断画面には、各種センサーの数値が並んでいる。推進出力、姿勢制御、重心補正。どれも正常範囲内。それなのに、実際に浮上させると微妙に前傾する。

「数値上は問題ないんですがねえ……」

店主は腕を組み、車体を斜め下から眺めた。

前が下がる。後ろが浮く。重心の位置と、浮上装置の出力バランス。それに機体の傾きが加わると、空中での挙動はどう変化するのか。

そこまで考えたところで、店主の脳裏に、まったく別の光景が浮かんだ。

パチンコ台の盤面。ガラス越しに見える釘の列。打ち出された玉が、釘に弾かれながら落ちていく。

そして、盤面全体のわずかな傾斜。

「……ネカセ?」

口から出た言葉に、店主自身が少しだけ黙り込んだ。

いやいや、空中車の姿勢制御とパチンコ台のネカセは別の話である。そもそも、車体の前傾を直すのに釘の角度を考えても仕方がない。

それでも、一度頭に浮かんでしまうと止まらなかった。

「いや、しかし……傾きによって挙動が変わるという点では……」

店主は工具を置き、ガレージの壁に取り付けてある整備用モニターを起動した。そこに映し出された機体の姿勢データを眺めながら、何やら真剣に考え込んでいる。

休日の午前中。愛車の整備をしているはずの男の頭の中では、いつの間にかパチンコ台のシミュレーションが始まっていた。

そのとき、ガレージの入口から明るい声が響いた。

「店主〜! 何やってるんですかー?」

顔を上げると、RB-4176とCL-2083が並んで立っていた。二人とも私服姿で、RB-4176の手には食べ歩きの途中で買ったらしい包みがある。どうやら近くの飲食店を巡った帰りらしい。

「おや、お二人とも。こんにちは」

「こんにちは! ……って、うわ、店主の車、かっこいいっすね!」

CL-2083はガレージに入るなり、車体の周りをぐるりと回った。

「これ、前から思ってたんですけど、昔の自動車みたいなデザインですよね。未来の車なのに、なんか逆に新鮮!」

「ありがとうございます。こういう形が好きなものでして」

「へえ〜。店主、こういうの自分で整備するんすね?」

「簡単な整備くらいは。最近、少し調子が悪いんですよ」

店主が事情を説明すると、RB-4176は興味深そうに車体を見上げた。

「浮上すると前が下がる? へえ、制御系の異常かな。俺、仕事でインフラ設備の保守をやってるんですけど、こういうのってセンサーの誤差とか、制御装置の補正がずれてたりするんですよね」

「なるほど。そういう可能性もありますね」

「ちょっと見ていいですか?」

「ええ、どうぞ」

RB-4176は工具箱の横にしゃがみ込み、診断画面を覗き込んだ。CL-2083もその隣に陣取り、二人で数値を確認し始める。

「うーん、センサー値は正常っぽいですね」

「じゃあ、浮上装置の出力が左右……じゃなくて前後でずれてるとか?」

「それも考えられますね。ただ、出力値は揃っているんです」

店主が画面を操作すると、機体の姿勢変化を記録したグラフが表示された。

浮上開始直後は正常。しかし、高度が一定に達すると、機首側の補正値がわずかに変動している。

「ん? なんだこれ。高度が上がると前だけ補正が入ってる?」

「ええ。そこが気になっているんです」

「じゃあ、ネカセじゃないっすか!?」

CL-2083が勢いよく言い放った。

店主の手が止まった。

「……はい?」

「いや、だから前が下がるんでしょ? だったらネカセが……」

「CL、それパチンコ台の話じゃん!」

RB-4176が即座に突っ込んだ。

「わかってるって! たとえ話、たとえ話!」

「いや、でも……」

CL-2083は車体の前方に回り込み、少し離れた位置から眺めた。

「これ、後ろをちょっと上げたら直ったりしないんすか?」

「それでは根本的な解決になりませんねえ」

店主は苦笑したものの、視線は車体から離れなかった。

「ただ、姿勢の変化を見ながら調整する、という考え方自体は悪くないかもしれません」

「ほら! 店主もそう言ってる!」

「いや、絶対いまパチンコのこと考えてたでしょ!」

RB-4176の指摘に、店主は一瞬だけ言葉を詰まらせた。

「……そんなことはありませんよ」

「今の間、絶対なんか考えてましたよね!?」

「気のせいですよ」

丁寧な口調のまま、店主は診断画面に向き直った。

もっとも、その頭の中では、盤面の傾きによって玉の軌道がどう変化するかという問題が、まだしっかりと居座っていたのだが。

それから三人は、浮上制御ユニットの配線を調べ、センサーの取り付け位置を確認し、車体下部の点検まで始めた。RB-4176は仕事柄、配線や制御系統の確認に慣れている。CL-2083はといえば、工具を渡したり照明を当てたりしながら、思いついたことを次々と口にしていた。

「店主、このカバー外していいっすか?」

「そちらは固定ボルトを先に外してください」

「あっ、これですね。はいはい!」

「CL、そっちの工具、サイズ違う!」

「えっ、マジ!? あ、ほんとだ!」

ガレージには工具の音と三人の声が響き、いつしか休日の整備作業は、ちょっとした共同プロジェクトの様相を呈していた。

やがて、RB-4176が制御ユニットの奥にある小さな部品を指差した。

「店主、これじゃないですか? 姿勢補正の応答遅延が出てる。ここの接点、ちょっと焼けてますよ」

「おや……本当ですね」

店主は部品を取り外し、端子を確認した。経年劣化による接触不良。大きな故障ではないが、補正のタイミングがわずかに遅れる原因としては十分考えられる。

「なるほど。これなら説明がつきますね」

「交換部品、あります?」

「予備があったはずです。少々お待ちください」

店主が棚から交換用の部品を取り出すと、CL-2083は感心したように声を上げた。

「うわ、ちゃんと持ってるんだ! さすが店主!」

「こういうものは、いつ必要になるかわかりませんからね」

「パチンコ台の部品も、こんな感じでいっぱい持ってるんすか?」

「……まあ、必要なものはある程度」

「今、ちょっと答えるまでに間がありましたよね!?」

「気のせいですよ」

またしても、店主は穏やかに笑ってごまかした。

部品を交換し、配線を戻し、カバーを取り付ける。最後に診断システムを再起動すると、画面には正常な数値が並んだ。

「よし。では、試してみましょうか」

三人はガレージの外へ出た。店主が操作端末を手に取ると、空中車は低い駆動音とともにゆっくりと浮上する。車体の下部に淡い光が走り、タイヤが地面から離れた。

数メートルほど浮かび上がったところで、車体は静止した。

機首は下がらない。前後の姿勢も安定している。

「おおっ! 直ったじゃないですか!」

CL-2083が歓声を上げ、RB-4176も満足げにうなずいた。

「やっぱり接点の不良でしたね。補正の応答が遅れてたんだ」

「おかげさまで助かりました。お二人とも、ありがとうございます」

店主は車体をゆっくりと着地させた。クラシックなシルバーのボディが、午後の日差しを受けて鈍く輝く。

「いや〜、よかったよかった! じゃあ店主、これからどこか行くんですか?」

「そうですねえ。せっかくですから、少し走らせてみようかと」

「いいっすね! ドライブ!」

CL-2083は楽しそうに車体を眺めていたが、ふと思い出したように店主を振り返った。

「そういえば店主、さっきネカセがどうとか言ってませんでした?」

「……言っていましたか?」

「言ってましたよ! 『ネカセか?』って!」

RB-4176が笑いながら付け加える。

「店主、車の修理してる間もパチンコのこと考えてたんでしょ?」

店主は工具を片付けながら、少し困ったように微笑んだ。

「いやあ……物事の仕組みを考えるのが好きなだけですよ」

「それ、パチンコのこと考えてる人が言うセリフじゃないっすか!」

三人の笑い声がガレージに響いた。

その後、RB-4176とCL-2083は近くの飲食店へ向かうため、手を振って帰っていった。店主は二人を見送ると、ガレージの中へ戻り、工具を棚に収めていく。

愛車の整備は無事に完了した。これで休日の予定はひとまず終了。あとはのんびりとドライブでも楽しめばいい。

……本来なら、そうなるはずだった。

店主はふと、壁に掛けられた時計を見た。まだ時間は十分にある。

「さて……」

何気なく端末を手に取り、時環遊技場の営業記録を確認する。昨日の稼働状況、各台のデータ、気になっていた台の履歴。

そこまで開いたところで、店主の指が止まった。

「そういえば、あの台……」

先日から少し気になっていた台がある。玉の動きが、どうにも想定と違う。釘の配置だけでは説明しきれないような、微妙な挙動。

店主はしばらく画面を眺め、それからガレージの奥に目を向けた。

「……明日、ネカセを確認してみましょうか」

休日の午後。愛車の修理を終えた男は、結局いつもの仕事へと意識を引き戻されていた。

ガレージの外では、修理を終えた空中車が、次のドライブを待つように静かに輝いている。

店主の休日は、まだ終わりそうになかった。

ジャンル・タグ

,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

蘇轍

ぱちんこは、「遊ぶための機械」でありながら、「機械そのものを眺めるための機械」でもある。

👥 フォロワー: 1人

作者ページを見る