異世界に転生したら、まさかの「卵生」人間でした
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
暗闇を破り、生まれた部屋に満ちていたのは無数の卵と赤ん坊の泣き声。そして、彼らを優しく抱き上げる少女のような「母親たち」。 本能のままミルクを飲み、眠りに落ちるまでのひとときを描いた、異色の異世界転生短編小説。
本文
カタリ、と硬いものが擦れ合う音で目を覚ました。
暗闇の中、身動きが取れない。全身がぬるりとした温かい液体に包まれている。息を吸おうと口を開くと、喉の奥まで満たされた膜のようなものが破れ、一気に冷たい空気となじみのない匂いが肺に流れ込んできた。
(……え?)
状況を理解する前に、自分が閉じ込められていた「壁」が内側からパリパリと亀裂を立てて砕けた。 白く滑らかな破片を押しのけて外へ這い出そうとした自分の手を見て、息を飲んだ。小さく、丸みを帯びた、しわくちゃの皮膚。どう見ても赤ん坊の手だ。
異世界転生——その概念が脳裏をよぎる。しかし、記憶の整理すら許されないほど、強烈な感覚が全身を支配した。
「う、あ……っ!」
周りを見渡せば、広大な部屋の中に無数の白い卵が並んでいた。そして、そのあちこちで自分と同じように卵を割って生まれてくる赤ん坊たちの姿。部屋中には、生まれたばかりの赤ん坊たちの甲高い泣き声が蜂の巣を突いたように響き渡っている。見た目はどこからどう見ても普通の人間そのものだ。だが、卵から生まれている。自分も含めて。
戸惑う暇もなく、バタバタと忙しない足音が近づいてきた。
視界を遮るように影が落ちる。見上げると、そこにはひとりの女性が立っていた。 驚いたのはその若さだ。どう見ても十五、六歳程度にしか見えない少女のような身なりをしている。だが、その手つきは手慣れており、泣き叫ぶ周囲の赤ん坊たちを手際よく抱き上げていく。
(お母さん……なのか……?)
彼女たちは皆、一様に柔らかい眼差しを浮かべ、胸元をくつろげて赤ん坊たちを抱き寄せていた。そこかしこで、生まれてすぐの赤ちゃんたちが彼女たちの胸に吸い付いている。
(あ、あんなに若いのに、みんな母親なんだろうか……?)
呆然としていると、自分を見下ろしていた若い女性が、優しく目を細めて両手を伸ばしてきた。 ぬくもりのある腕が背中と頭をしっかりとおさめ、そっと持ち上げられる。
その瞬間、腹の底から突き上げてきたのは、生まれて初めて経験する猛烈な「空腹感」だった。
(お腹が……減った……! 死にそうだ……!)
前世の記憶や理性的思考なんて、波に飲まれるように一瞬で吹き飛んだ。脳を支配するのは、生存するための純粋な本能だけだ。
女性が胸元にそっと寄せてくれると、甘く香ばしい、温かなミルクの匂いが鼻腔をくすぐった。吸い寄せられるように口をつけ、夢中で食らいつく。
コクのある温かい液体が喉を通り、空っぽだった胃袋へと流れ込んでいく。美味いとか不味いとかではない。生命が満たされていく感覚そのものだった。ごくごく、と喉を鳴らしながら、夢中でミルクを飲み続ける。
女性の手が、頭をそっと撫でてくれる感覚が伝わってきた。
「……ぁ……」
ひとしきり飲み終え、空腹感が満たされると、急激な満足感と安らぎが全身を包み込んだ。 それと同時に、赤ん坊の小さな体には耐えきれないほどの強い眠気が押し寄せてくる。
(……だめだ、目が……開かない……)
重くなる瞼に抗う術もなく、意識はゆっくりとまどろみの奥へと沈んでいく。
大勢の赤ん坊の泣き声と、優しく抱きかかえる女性たちの温もり。 奇妙で、けれどどこか温かい未知の世界で、自分は深い眠りについた。
作品統計
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