たった一つのキットカット
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ちょっとゾクッとするお菓子のお話。もしこれが現実だったら作者も怖いです。
本文
「あ〜あ。宿題めんどくせえな〜」
俺、修は何も書いていない計算ドリルを部屋の隅にバサッと投げて椅子にもたれかかりながらそうつぶやいた。
「ったくなんで宿題なんかしなきゃいけないんだよ。学校だけでもめんどいのに〜。もういいや、ゲームしよ。」
俺が机の上にあるゲーム機に手を伸ばそうとしたとき廊下から大きな声が聞こえた。
「修〜?お母さんね、買い物でお肉買い忘れちゃったからもう一回お買い物行ってくるわね〜!」
あ〜はいはいそんなに叫ばなくても聞こえてるっつうの、めんどくせーな。今からゲームしようと思ってるのにわざわざ答えなきゃなんて。
「ちょっと〜?修聞いてるの〜?」
ゲッ!だんだん声が近づいてきてる。
「あ〜、はいはい聞こえてるからいってらっしゃ~い。」
俺は慌てて返事をした。
俺が宿題サボってゲームしてることなんてバレちゃいけねえからな。
「わかった。それじゃあすぐに帰ってくるからね。」
あぶね〜。ドアの真ん前にいたみたいだな。でもだんだん足音も遠ざかってるような気がする。
ようし、もうだいじょうぶ...
ピコンッ
「修?今ゲーム機の起動音がなった気がするんだけど気のせいかしら?」
うげえええええ!?なんでいまので気づいたんだよ。ああああ、足音近づいてきてるじゃんか〜。終わった、どうせ文句言われるんだろうな。
「修〜?入るわよ。」
母さんがドアをガチャっと開けると部屋の中をみてギョッとした。
「ちょっと修!なによこの散らかしようは!?食べかけのお菓子は机の上においたまま、宿題はてきとうに投げつけられてあるし、ランドセルはランチョウや手紙も出さずに床にほっぽったまま。それなのにゲームをしようと思ってるの!?まずは片付けるわよ。ほらあなたも手伝いなさい。」
「へいへ〜い」
あ〜あ、結局片付ける羽目になっちまった。それがめんどくさいから片付けなかったのに。三十分ぐらい母さんと片付けをしてゴミを片付け終わると母さんが口を開いた。
「い〜い?修。お母さんはね、ゲームすること自体には反対しないわ。でもねゲームとか好きなことをするのはやることが終わってから。ゲームをご褒美にしたほうが、宿題も進むと思わない?」
母さんは笑顔でそういった。
普段ならこんなことを言われると『思わん!』と即答する俺だが今日は母さんをブチギレさせたばかりだし、こういう事言うのはやめとくか....
俺が悩んでる前でずっと俺の前に立ってた母さんはふと時計の方を向いて
「ああっ!今丁度スーパーのセールが始まる頃じゃない!修っごめん。行ってくるわね―!」
「いってらっしゃ~い」
玄関の扉と鍵がガチャと閉まる音がした。
よおおおっしゃああああああ!うるさいやつがいなくなったぞ〜。これで好きなだけお菓子食べ放題!ゲームし放題!最高だあああ!
「さ〜て、なに食べよっかなあ。」
冷蔵庫の中をてきとうに探っていると、突然見たことも来たこともないような夢の国のような場所に俺は立っていた。
「へ?ここどこ?だれかー?俺の家は?家から見える学校とスーパーは?」
あたりを見渡せば見渡すほど知らない場所だ。虹がふわふわと浮いていて、絵文字みたいな形の星や月があちこちに流れていっている。俺が立ってる地面はなんとピンク色の雲の上だ!?
どうしよう、知ってるものが一つもない。もしかしたら建物だけが消えてるのかと思ったけど、それならスーパーの中の人もいるはず。なのに誰もいない。この場所にいるのは俺だけ?
「いっ嫌だ!俺一人だけじゃ生きていけないよ。どうすればいいんだよぉ。」
泣きそうになったのなんていつぶりだろう、怖い。誰か―――
「助けてくれえええ!」
「君、助けてほしいの?」
声がした方を見るとそいつをみたこともないようなゲームに出てくるような見た目のなにかだった。
頭に星がついていて顔は雲みたいな形してて、体は......虹色だ。
「は?何だお前?」
「ごめんね。ホントは君は招かれたお客様なんだけど、正常な人間化を確かめるためにテストしてたんだ。」
「何いってんだ?」
さっぱり意味がわからない。正常な人間ってどういうことだ?俺は一体どこに来ちまったんだ。
「それじゃあ、改めてようこそ!ここはお菓子の国。お菓子がいっぱいあってお菓子になって生活できる場所だよ!いわゆる夢の国ってやつさ!」
「えー?俺にとっての夢の国はゲームの国なんだけど。」
「まあまあ、そう言わずに君は.....ふむ。過去の君のお菓子への行いを見るに君はお菓子になる街かな。さあ、僕についておいで!」
えー!?こいつが来たからこの世界からの脱出方法とかを教えてもらえると思ったのに〜。でも、脱出ゲームみたいで面白いかもな。もしかしたらこれは夢とか、最新のゲームの機能とかかもしれない。よーしそうなったら思いっきり楽しんで元の世界に帰ってやる!
「なあなあ、そういえばお前の名前ってなんなんだ?」
街に向かっている途中でふと気になって俺を招待したとか言ってたやつの名前を聞いてみた。
「う〜ん、特にないけどまあ案内人とでも呼んでくれればいいかな?」
「なにそれw変な名前だな。」
「そう?あ、ほらついたよ。ここが君のこれから住む街。お菓子になる街さ!」
そいつ...案内人が大きく腕を広げた。俺が街の方に目を向けると、信じられないような光景が目に入ってきた。
「何だこれ!?お菓子が..動いてる!?」
そればかりじゃない、喋ったり笑ったりしてる。笑い声がこっちにも聞こえてくる。
あっ、あそこの商店街の角でキャラメルとチョコレートが話をしているのが少しだけ聞こえてくる。
「ねえねえ、あれって人間じゃない?」
「本当!人間ね!またお友だちが増えるわね。」
なんかよくわからないことを言ってるな〜。まあこれからあいつらが言ってたみたいにお菓子と仲良くしてみるのもいいかな。
「ねえねえ君が一番好きなお菓子はなにかな?」
案内人がそう聞いてきた。
「俺?うーん、強いて言うならキットカットかなあ。チョコの味とあのサクサク感がうまいんだよ〜。」
「オッケー。キットカットだね!」
案内人が名簿のようなものを出して何かをチョコペンで書いていた。
「それじゃあ楽しんでね!.....残り少ない人生を」
それだけ言って案内人はどこかへ去っていった。
「あいつ、最後なんて言ってたんだ?」
気になるけどまあいっか!お菓子の街なんて楽しそうだしなあ。
そう考えていたら、飴玉が俺の近くにやって来た。
「うふふ、うふふ。久しぶりのお客さん、仲間が増えるね嬉しいね。そらそら腕をみてご覧♪」
何だこいつ変なこと言ってるな、まあ言われたとおりに腕を見てみるか...そう思って自分の腕に目を向けると、なんと俺の腕がキットカットになっている!?
「えっ!?はっ!?なんで?」
「うふふ、うふふ。そのうち君は僕らと同じ、お菓子になって生きていく。ほらほら笑って笑顔になって♪」
俺....お菓子になっちまうのか?嫌だ、そんなの。絶対に嫌だ!
「うふふ、うふふ。そんな怖い顔しちゃダメダメ、お菓子になれる、幸せさ!」
そいつは大きく両腕を広げた笑っている。だけど俺は...そんなの
「冗談じゃねええええええ!」
怖くなってその場から逃げ出した。
「はあ、はあ、はあ。ここまで逃げれば大丈夫だろ...。」
商店街の先の住宅地を超えた場所のマシュマロの山のふもとらへんまで逃げてきてもう体力が限界だ。しばらく休もう。そう思ったとき後ろから不気味な声がした。
「あらあら、もうすぐお友だちになれますよ。人間さんにお菓子を大切にする人間さんに食べてもらえるなんて嬉しくないですか?私の子ども、あなたに食べてもらえるって喜んでたのに結局食べられないまま捨てられてしまって.....。我が子の恨み晴らすべし!」
そう言ってマカロンが俺に襲いかかってきた。
「嫌だああ!もう勘弁してくれええ!」
「可哀想だね?可哀想だよ。助からないの?助からないよ。お菓子になって楽しく過ごそう?過ごすんだよ。食べられちゃうの?食べられるよ。でもそれが幸せ。お菓子になれば幸せなんだ。」
そう言っていつの間にかメロンパンまでもが俺の傍に近寄ってくる、汗が頬を撫でて体をつたった瞬間、俺の体が溶け出した。
「あらあら、キットカットさんは溶けてしまうから暑苦しくするのはやめましょうか。」
そう言ってマカロンが俺から離れた。
「なっちゃったね?なっちゃったよ。自由のきかないからだ。自分の思い通りにならない体。これから君はお菓子になるよ。さようなら、さようなら人間さんにさようなら。」
「あはは。」
「うふふ。」
「お菓子になるね。なっちゃうねえ。」
俺の周りにお菓子が集まってくる!?その中には俺の好きなブラックサンダーやポッキーまであった。やがて大量のお菓子たちが俺を囲うように集まった。
その中で笑っているお菓子たちを収めてメロンパンが出てきて俺に語りかけ始めた。
「怖いね?怖いよ。今までの思い出消し去ってお菓子で生きていかなきゃなんて。辛いね?辛いよ。君はどうして反対するの?ああそうか、思い出したよ。僕らはみんな人間さ。この世のお菓子はすべて僕らでできている。この世のお菓子は人間がこうなった姿。僕らはお菓子を大切にしなかっただから報いを受けたんだ。嫌だと思ってもこうするのが正解だとこの体では思ってしまう。君のおかげで思い出しても君が消えればこの記憶は消える。ありがとう、さようなら。」
は?信じられない....。俺が今まで食べてきたお菓子。それが全部人間だったのか?じゃあ俺もまさか...。はは、まさかな。だってこれはゲームなんだから。
言い終わるとメロンパンは後ろを向いて俺の周りに集まっているお菓子たちに大きく腕を広げて叫んだ。
「みんな!キットカットの門出だよ。唄を歌おう!」
♪子どもを食べたマカロンさん 辛くなって悲しくなって自分もお菓子になったのにな~んにも変わらない
半分消えたブラックサンダー 記憶も体も心さえ、全て半分消えちゃった
親戚皆食べられた、可哀想なポッキーさん 自分の家族いないのにそれでもお菓子で居続ける
新たな仲間、キットカット これから君は自由になる。人間さんにさようなら♪
お菓子たちが歌い終わると再びメロンパンが俺の方を向いた。
「君にお迎えがきたみたい。ありがとう、僕に人間の頃の記憶を思い出させてくれて。」
メロンパンがそう言って笑うと、俺はいつの間にか自分の家のリビングの机の上にいた。
(あれ?ここ、俺の家だよな?ってことは帰ってこれたんだ!良かった〜。でもやけにリアルな脱出ゲームだったな。今度友達にも紹介しよ。)
そんな事を考えていたら玄関のドアがガチャッと開く音がした。
「ただいま〜。修、すぐに夕飯作るから待っててね〜。」
(はーい。)
あれ?今俺確かに返事したよな?
「修〜?いないの?」
母さんがそういいながらリビングの部屋に入ってきた。
「あら修ったら、あれだけ言ったのに机の上にキットカットを出しっぱなしにして、まあもったいないし食べちゃいましょうか。」
(え!?嘘だろ!?俺ほんとにキットカットになっちまったのか!?待ってくれよ母さん俺だよ!修だよ!)
そう叫んでるのに母さんにはまるで聞こえていない。そのまま母さんの手が伸びてきて、俺をつまんで口に運んでいった。
カリッカリッ。静かなリビングの中に一人の女がキットカットを頬張る音だけが響いた。
「あ〜、美味しかった。それじゃあそろそろ冷蔵庫に食材をしまいましょうか。」
女はそう言って冷蔵庫を開いて首をかしげた。
「あれ?変ねえ。あの人と私の夕食と明日の朝食の分の食材はちゃんとあるのになんで私買い足しに行ったのかしら。でもどうしましょうこれじゃあ食材が入らないわ。あ、そうだ。空き部屋に腐りにくい物をおいておけばいいわね。」
女はそう言って空き部屋の方に向かっていった。空き部屋の中を見た女は再び首を傾げた。
「変ねえ?空き部屋だったはずなのに子供服に教科書、おまけにランドセルやゲーム機までおいてあるわ。あの人と私の間に子どもなんていないのに」
―――完―――