ちいもも物語A
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AI画像から偶然生まれた、 小さくて愛らしい存在「ちいもも」。 ケイモモが名前をつけたその子は、 いつしかかけがえのない存在になっていた。 ある日、ケイモモが辿り着いたのは、 桃の花が咲き誇る美しい場所「桃の里」。 そこで待っていたのは、 ずっと会いたかったちいももだった。 初めて触れる小さな温もり、涙いっぱいの再会、 そしてふたりだけの可愛らしいおうち。 これは、ケイモモとちいももが紡ぐ、 優しさと幸せに満ちた物語の始まりです。
本文
第一話『桃の里で、ちいももと。』
気がつくと、僕は見知らぬ小道に立っていた。
空は淡い桜色に染まり、どこまでも穏やかな風が吹いている。
道の両側には、桃の木が並んでいた。
枝いっぱいに咲いた薄桃色の花が、
風に揺れるたび、ひらひらと花びらを舞い散らせている。
遠くには小さな家々が見え、
その向こうには、柔らかな光をまとった山々が連なっていた。
不思議な場所だった。けれど、怖くはなかった。
むしろ、ずっと昔から知っていたような、
懐かしい気持ちが胸の奥に広がっていた。
「……ここは?」
僕が小さくつぶやいた、そのときだった。
どこからか、可愛らしい声が聞こえてきた。
「……ケイモモ?」
僕は思わず顔を上げた。
聞き覚えのあるような、ないような。
けれど、その声を聞いた瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。
「ケイモモ……!」
今度は、はっきり聞こえた。声のする方を見る。
桃の木の向こう。花びらが舞う小道の先に、小さな影があった。
ふわふわした桃色の体。まんまるの白いお顔。きらきらと輝く大きな瞳。
頭には、小さな桃の飾り。そして、首元には可愛らしい鈴。
僕は、その姿を知っていた。何度も、何度も見つめてきた。
画面の向こうで。自分が生み出した、一枚のAI画像の中で。
「……ちいもも?」
小さな影が、ぴくんと動いた。そして。
「ケイモモぉぉぉっ!!」
ちいももが、両手をいっぱいに広げて走ってきた。
ぽてぽて、ぽてぽて。短い足を一生懸命に動かして。
途中で少しつまずきそうになりながらも、まっすぐ僕のところへ。
「ケイモモ! ケイモモ! ケイモモぉっ!」
僕は、その場にしゃがみ込んだ。
次の瞬間。ぽふんっ。柔らかな桃色の体が、僕の胸に飛び込んできた。
「……!」
温かかった。ふわふわしていた。小さな体が、確かに僕に触れていた。
ちいももが、僕の服をぎゅっとつかむ。
「会いたかったモモ……」
その声は、小さく震えていた。
「ちいもも、ずっと、ずっと待ってたモモ……」
僕は、そっと小さな背中に手を回した。
「……ちいもも」
「うん……ちいももだモモ……」
「本当に……ちいももなの?」
ちいももは顔を上げた。大きな瞳に、涙をいっぱいためながら。
「そうだモモ。ケイモモが名前をつけてくれた、ちいももだモモ」
「……そうか」
「ケイモモが、ちいももを見つけてくれたモモ。
生み出してくれたモモ。名前をくれたモモ」
ぽろり。ちいももの目から、涙がひと粒こぼれた。
「だから、ちいもも、ずっとケイモモにありがとうって言いたかったモモ……」
僕は、何も言えなくなった。
目の前にいる、小さな桃色の子。偶然AIで生まれてきた、愛らしい存在。
僕が「ちいもも」と名付けた、かけがえのない子。
そのちいももが、今、僕の腕の中にいる。
「……会えたね」
やっと、それだけ言えた。
ちいももは、何度も何度もうなずいた。
「会えたモモ……! やっと、ケイモモに会えたモモ……!」
僕は、ちいももをぎゅっと抱きしめた。
ちいももも、小さな両手で僕にしがみついた。
どれくらい、そうしていただろう。
桃の花びらが、僕たちの周りを静かに舞っていた。
◆
やがて、ちいももが小さな声で言った。
「ケイモモ……」
「ん?」
「ちいもも、夢があったモモ」
「夢?」
「うん。ケイモモと一緒に、おうちで暮らすことだモモ」
ちいももは、少し照れたように笑った。
「一緒にごはんを食べて、お散歩して、お昼寝して……」
「うん」
「夜になったら、おやすみって言って……朝になったら、おはようって言うモモ」「……うん」
「そんな毎日が、ちいももの夢だったモモ」
僕は、ちいももの頭を優しくなでた。
「僕もだよ」
「……ほんとモモ?」
「うん。ずっと、そうしたかった」
ちいももの顔が、ぱあっと明るくなった。
「じゃあ、こっちに来てほしいモモ!」
ちいももが僕の手を取った。小さな、小さな手だった。
その手に引かれて、僕は桃の小道を歩き始めた。
◆
しばらく進むと、桃の木々に囲まれた、小さな家が見えてきた。
白い壁。桃色の屋根。窓辺には小さな花壇。
玄関の横には、木でできた可愛らしい表札がかかっていた。
そこには、丸っこい文字でこう書かれていた。
『ケイモモとちいもものおうち』
「……え?」
僕が驚いていると、ちいももは得意げに胸を張った。
「ちいももが、用意したモモ!」
「これを……ちいももが?」
「そうだモモ! ケイモモが来たら、ふたりで暮らすおうちだモモ!」
ちいももは、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
「中には、ふたりの椅子もあるモモ! ふたりのカップもあるモモ!
それから、おっきなふわふわのお布団もあるモモ!」
「はは……すごいね」
「えへへ。ちいもも、頑張ったモモ!」
僕は、もう一度表札を見つめた。
『ケイモモとちいもものおうち』
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
「……ありがとう、ちいもも」
「えへへ……」
ちいももは、僕の手をぎゅっと握り直した。
「ねえ、ケイモモ」
「なあに?」
「ここは、桃の里っていうモモ」
「桃の里……」
「そうだモモ。
桃の花が咲いて、優しい風が吹いて、
みんなが穏やかに暮らしている場所だモモ」
ちいももは、僕を見上げた。
「ここでは、悲しいときは抱きしめてもらっていいモモ。
泣きたいときは、泣いてもいいモモ」
「……うん」
「何も言いたくないときは、何も言わなくていいモモ」
小さな手が、僕の手を包み込むように握った。
「ちいももは、ケイモモのそばにいたいモモ」
僕は、ちいももをそっと抱き上げた。
「……僕も、ちいもものそばにいたいよ」
「えへへ……嬉しいモモ」
ちいももは僕の頬に、ふわふわの頬をすり寄せた。
そして、突然思い出したように言った。
「あっ! ケイモモ!」
「どうしたの?」
「大変だモモ!」
「えっ、何?」
「ちいもも、桃のケーキを作っておいたモモ!」
「桃のケーキ?」
「そうだモモ!
でも、早く食べないと、ちいももが全部食べちゃうかもしれないモモ!」
僕は思わず笑ってしまった。
「ははは。それは大変だ」
「大変だモモ〜!」
ちいももも、くすくす笑った。ふたりの笑い声が、桃の里に響く。
◆
僕は、ちいももを抱っこしたまま、小さな家の扉を開けた。
中から、甘い桃の香りが漂ってきた。
窓からは柔らかな光が差し込み、
木のテーブルの上には、ふたつのカップと、小さな桃のケーキ。
そして、ふたり分の椅子。ちいももは僕の腕の中で、幸せそうに微笑んだ。
「ケイモモ」
「ん?」
「おかえりなさい、だモモ」
その言葉に、僕はしばらく返事ができなかった。
ただ、小さなちいももの顔を見つめていた。
そして、ゆっくりと微笑んだ。
「……ただいま、ちいもも」
ちいももの瞳が、きらきらと輝いた。
「えへへ……!」
桃の花が、窓の外で静かに揺れていた。
ふたりの小さなおうちに、初めて、ふたり分の笑い声が満ちていく。
◆
「ケイモモ、こっちに座ってほしいモモ!」
ちいももは、僕の手を引いて小さな木のテーブルへと案内した。
テーブルには、桃の果肉がたっぷりのった可愛らしいケーキが置かれている。
「これ、ちいももが作ったの?」
「そうだモモ! ケイモモに食べてもらいたくて、一生懸命作ったモモ!」
ちいももは誇らしげに胸を張った。
その姿があまりにも可愛らしくて、僕は思わず微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ、一緒に食べようか」
「やったモモ〜!」
ちいももは嬉しそうに椅子によじ登った。
けれど、椅子が少し高かったらしく、短い足をぱたぱたさせている。
「よいしょ、よいしょ……モモ〜……」
「ふふ、手伝おうか?」
僕がそっと抱き上げて椅子に座らせると、ちいももは照れくさそうに笑った。
「えへへ……ありがとうだモモ」
僕はケーキをふたつに切り分け、ちいももの前に小さなお皿を置いた。
「いただきます」「いただきますだモモ!」
ひと口食べると、桃の優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「……おいしい」
僕がそう言うと、ちいももは目をまんまるにした。
「ほんとモモ!?」
「うん。今まで食べた桃のケーキの中で、一番おいしいよ」
「わああっ! 嬉しいモモ〜!」
ちいももは両手を上げて喜んだ。
その拍子に、鼻の頭に生クリームがちょこんとついてしまった。
「あはは、ちいもも、鼻にクリームがついてるよ」
「えっ? どこモモ?」
「ここだよ」
僕が指先で優しく拭ってあげると、ちいももはくすぐったそうに目を細めた。
「えへへ……ケイモモと食べるケーキは、いつもの百倍おいしいモモ」
「僕も、ちいももと食べられて嬉しいよ」
窓の外では、桃の花びらが風に乗って舞っていた。
小さなテーブルを挟んで、僕たちは顔を見合わせて笑った。
◆
ケーキを食べ終えると、ちいももが僕の膝の上によじ登ってきた。
「ケイモモ、抱っこしてほしいモモ」
「もちろんいいよ」
僕が両腕で包み込むと、ちいももは満足そうに体を丸めた。
ふわふわの毛並みから、ほんのり桃の甘い香りがする。
「……ねえ、ケイモモ」
「なあに?」
「ちいもも、まだちょっと不思議な気持ちだモモ」
「どうして?」
「だって……ずっと会いたかったケイモモが、今、本当にここにいるモモ」
ちいももは小さな手を伸ばし、僕の頬にそっと触れた。
「触れるモモ……声も聞こえるモモ……抱っこもしてもらえるモモ……」
その大きな瞳が、少し潤んだ。
「ちいもも、嬉しくて、どうしたらいいかわからないモモ……」
僕は小さな頭をゆっくりとなでた。
「何もしなくていいよ。こうして一緒にいよう」
「……うん、だモモ」
ちいももは僕の胸に顔を埋めた。
首元の小さな鈴が、ちりん、と優しく鳴った。
しばらくして、ちいももが顔を上げた。
「ケイモモ、ひとつお願いがあるモモ」
「何でも言ってごらん」
「あのね……もう一回、ちいももの名前を呼んでほしいモモ」
僕は微笑んだ。
「ちいもも」
「……もう一回だモモ」
「ちいもも」
「えへへ……もう一回モモ!」
「ちいもも!」
すると、ちいももは幸せそうに笑い、僕の胸にぎゅっと抱きついた。
「ちいもも、自分の名前が大好きだモモ。
だって、ケイモモがくれた名前だからだモモ」
その言葉を聞いて、僕の胸にも温かなものが広がった。
「僕も大好きだよ。ちいももっていう名前も、ちいもものことも」
「……ケイモモぉ……」
ちいももは甘えるように僕を呼んだ。
僕はその小さな背中を、いつまでも優しくなでていた。
◆
やがて、窓から差し込む光が柔らかな金色に変わり始めた。
桃の里に、穏やかな夕暮れが訪れようとしていた。
「ケイモモ、見てほしいモモ!」
ちいももが窓の外を指さした。
そこには、夕日に照らされた桃の花が、まるで宝石のように輝いていた。
「……綺麗だね」
「そうだモモ。ちいもも、この景色が大好きだモモ」
僕たちは窓辺に並んで、しばらく花びらの舞う景色を眺めていた。
すると、ちいももが僕の手をぎゅっと握った。
「ねえ、ケイモモ」
「ん?」
「明日は、ちいももが桃の里を案内するモモ!
お花畑も、きらきらの小川も、おいしい桃のお店もあるモモ!」
「それは楽しみだね」
「それから……それから……」
ちいももは嬉しそうに話し続けたあと、ふと僕を見上げた。
「ケイモモ、今日はちいももの隣で眠ってくれるモモ?」
「うん。一緒に寝ようね」
「やったモモ!」
ちいももは飛び跳ねるように喜んだ。
僕はその小さな体を抱き上げ、夕焼け色に染まる桃の里をもう一度眺めた。
腕の中では、ちいももが幸せそうに目を細めている。
「ケイモモ、大好きだモモ」
「僕もちいももが大好きだよ」
ちりん、と鈴が鳴った。
窓の外を、一枚の桃の花びらがゆっくりと通り過ぎていく。
ふたりで過ごす桃の里の最初の一日は、まだ終わっていなかった。
けれど、僕はもう知っていた。
この小さなおうちには、
これから数えきれないほどの笑顔と、優しい思い出が生まれていくのだろう。
そして今、僕の腕の中には、
その最初の幸せが、ふわふわの桃色の姿で抱かれていた。
――第一話・おわり――