佐々木に恋する私
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
佐々木くんに恋する私の物語。
本文
高校2年生の秋、ひまりの頭の中は同じ図書委員の佐々木くんのことで一杯でした。
佐々木くんは、いつも少し大きめの制服を着て、静かに小説を読んでいる男の子。ひまりは彼の、本をめくる綺麗な指先や、時折見せる穏やかな笑顔に、数ヶ月前から密かに恋をしていました。しかし、内気なひまりは、本の貸出業務で「返却日は○日です」と事務的な会話を交わすのが精一杯でした。
そんなある日の放課後、図書室の閉館作業中に大チャンスが訪れます。
佐々木くんがカウンターに忘れていったペンケース。その横に、コロンと小さな白い消しゴムが落ちていたのです。
「あ、佐々木くんの消しゴム……」
ひまりは胸をトントンと高鳴らせながら、それを拾い上げました。普通なら「忘れてるよ」と翌日返せばいいだけの話です。でも、恋する乙女の脳内は大忙し。
(これをただ返すだけじゃもったいない! 何か、こう……会話が弾むようなキッカケにできないかな!?)
ひまりの「消しゴム・ミッション」が始まりました。
作戦①:可愛いカバーをつけて返す?
「これ、私の予備のカバーなんだけど、サイズぴったりだったから付けておいたよ!」……いや、男の子の消しゴムに勝手にファンシーなカバーをつけるのは重すぎる、と却下。
作戦②:裏に小さくメッセージを書く?
「いつも応援してます」……いやいや、ホラーすぎる! 怖がられてしまう、と却下。
作戦③:お礼のメッセージカードを添える?
「消しゴム、預かっていました」……これが一番自然だけど、あと一歩、彼との距離を縮めたい!
悩みに悩んだひまりは、ある小さな、けれど勇気のいる工夫をすることにしました。
翌日の放課後、再び図書室の当番がやってきました。
カウンターで本を整理していると、佐々木くんが申し訳なさそうな顔で近づいてきます。
「あの、ひまりさん。昨日、俺ここに消しゴム忘れてなかったかな……?」
心臓が跳ね上がります。ひまりは努めて冷静を装い、ポケットから大切にしまっていた消しゴムを取り出しました。
「うん、これだよね? 預かってたよ」
「あ、それ! よかった、お気に入りだったんだ。ありがとう」
ほっとした表情で消しゴムを受け取ろうとする佐々木くん。しかし、彼は消しゴムを手に取った瞬間、不思議そうな顔をして動きを止めました。
ひまりが仕掛けた小さな工夫。それは、消しゴムの紙ケースの隙間に、小さなウサギのイラストを描いた付箋を、ほんの少しだけハミ出すように挟んでおいたことでした。
「……これ、何?」
佐々木くんがその付箋をそっと引き抜きます。そこには、ひまりの丁寧な文字でこう書かれていました。
『いつも静かに本を読んでる佐々木くんの横顔、素敵だなと思ってます。今度、おすすめの本を教えてください! ひまり』
文字でなら、一番伝えたかった言葉が言える。それがひまりの出した答えでした。
図書室に沈黙が流れます。ひまりは恥ずかしさのあまり、耳まで真っ赤にして俯いてしまいました。(やっぱり、変に思われたかな……)と後悔が押し寄せたその時。
「……ふふっ」
頭上から、小さく優しい笑い声が聞こえました。
驚いて顔を上げると、佐々木くんが消しゴムと付箋を大切そうにポケットにしまいながら、今まで見たこともないくらい嬉しそうに、顔を赤くして笑っていました。
「びっくりした。でも、すごく嬉しい」
佐々木くんはひまりの目を真っ直ぐに見つめ返します。
「おすすめの本、今から選んでもいい? 俺も、ひまりさんとずっと話してみたかったんだ」
窓から差し込む夕日が、赤くなる二人の横顔を優しく照らしていました。ひまりの小さなミッションは、大成功で幕を閉じたのです。