薔薇の庭園と冷たい眼差し
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
アルバルト王国 貴族たちが多く住むとても華やかなこの王国 でもその裏にはたくさんの闇がある そんな王国で暮らす少年少女のちょっとした暮らしを描く日記 どうぞ最後までご覧ください
本文
きらびやかなシャンデリアが夜会服を彩り、ワルツの調べが天井高くへと溶けていく。 アルバルト王国――この美しくも残酷な世界は、いくつかの絶対的なルールによって支配されている。
王家を頂点とし、その下には絶対的な権力を持つ「三大公爵家」が君臨する。 トップに君臨するのは、圧倒的な財力と武力を誇るローズマリー公爵家。 そしてNo.2には、古くからの伝統と格式を守り抜くオーカー公爵家。
彼らは国の中心であり、誰もが羨むエリートたち。 けれど、煌びやかな仮面の下には、嫉妬と打算、そして隠しきれない澱(おり)のような感情が渦巻いている。 例えば、身分の壁。そして、愛とは名ばかりの政略結婚の数々――。
物語は、そんな「華やかなる檻(おり)」の中で、静かに、しかし確実に狂い始める歯車から幕を開ける。
ローズマリー公爵家の庭園には、いま最も美しい薔薇が咲き誇っている。 その中心に佇む少女――ユノ・ローズマリー(16歳)の姿は、まるで絵画のようだった。
腰下まで流れ落ちるゆるふわの薄金髪が夜風に揺れ、ローズクウォーツのように透き通った瞳が、寂しそうに遠くを見つめている。 王国三大公爵家のトップ、ローズマリー公爵家の長女。 誰もが振り返るほどの誰もが振り返るほどの美しさを持ちながら、彼女の周囲には奇妙なほど人がいなかった。
(……今日も、誰も近づいてこないわね)
ユノは内心で小さく息をつく。 高嶺の花すぎるのか、あるいはただ単に「友達が全くいない」のか。気付けば、彼女のまわりにはいつも冷たい静寂だけが寄り添っていた。
「相変わらず、一人でぼんやりしているんだね、ユノ」
ふと、温かい声とともにふわりと優しい影が落ちた。 振り返ると、そこにはゆるふわのセンターパートの黒髪に、レッドダイヤモンドのような鮮やかな瞳をした青年が立っていた。 ユノの兄であり、ローズマリー公爵家の次期当主であるアル・ローズマリー(17歳)だ。
「お兄様……」
「風邪をひいたらどうするの。ほら、温かい紅茶を持ってきたよ」
いつもニコニコと柔らかく、周囲の貴族令嬢たちからは黄色い声を浴びせられるほどの人気者。そして妹であるユノには、世界で一番甘い。 アルの優しさに触れ、ユノの胸にわずかな温もりが灯る。
しかし、その穏やかな空気は、遠くから飛んできた鋭い視線によって一瞬で切り裂かれた。
「……あれは、レオン様?」
会場の隅、ひときわ高い位置から冷ややかな眼差しを投げかけている少年がいた。 アルバルト王国王太子、レオン・アルバルト(17歳)。 ストレートのセンターパートの金髪に、サファイアのように冷たく美しい瞳。彼は周囲の人間に対して徹底的に冷たく、近づく者すべてを凍らせるようなオーラをまとっている。
現在、レオンの隣には――王太子妃候補として懸命に微笑むアリス・ロナート(17歳)の姿があった。 ロナート子爵家の三女であるアリスは、肩下までのストレートの茶髪にイエロートルマリンの瞳を持つ、愛らしい少女だ。 「レオン様が大好き」と周囲に公言し、いつも優しく穏やかに振る舞っている彼女のまわりには、たくさんの友達が集まっている。
――だが、アリスがレオンの横で見せる完璧な笑顔の裏で、その視線の先にある人物を捉えたとき、瞳の奥がわずかに歪んだ。
(……また、ユノがあの人の近くに……本当に、ユノ・ローズマリーなんて大嫌い)
誰も気づかないような一瞬の冷酷なきらめきを隠し、アリスは再び甘い笑みをレオンに向けた。 しかし、当のレオンはアリスの好意などどこ吹く風とばかりに、そっけない態度を崩さない。彼の関心は、ごく一握りの存在――親友であるアルと、シリルにしか向いていなかった。
(アリスとの婚約……そろそろ、本気で破棄するべきか)
レオンはグラスを傾けながら、冷ややかに思考を巡らせる。彼の頭にあるのは、どうすればこの退屈な婚約を終わらせられるか、それだけだった。
「おいおい、レオン。そんな怖い顔してると、可愛い可愛い婚約者殿が泣いちゃうぜ?」
気だるげで、どこか軽やかな声が響いた。 ふわふわとした薄紫の髪に、アメジストのような神秘的な瞳。 アルバルト王国三大公爵家No.2、オーカー公爵家の長男で次期当主――シリル・ウォーカー(16歳)だ。
レオンとアルの親友であるシリルは、普段から他人に無関心で飄々としている。 だが、その軽薄そうな態度の裏には、決して他人に見せない重い十字架があった。 シリルの母親は平民出身。その血を引く彼は、純血を重んじる他の貴族たちから、 いつだって冷たい偏見の視線に晒されてきた。
だからこそ、彼はすべてを斜に構えて笑ってみせる。 ……そして、もう一つ。シリルには、周囲がざわつくような大きな秘密があった。
「……で、たまには俺の自慢の『婚約者様』に挨拶でもしたら?」
シリルがふと視線を向けた先――そこには、静かに佇むユノの姿があった。 そう、シリル・ウォーカーの許嫁こそが、他でもないユノ・ローズマリーなのだ。
冷たい視線、秘められた悪意、複雑すぎる血筋と、行き場のない恋心。 波乱の予感を孕んだこの物語は、まだ始まったばかり――。