お菓子コンテスト〜その片隅で
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「主役になれなくても、ぼくたちにはぼくたちの出番がある。」
本文
会場の熱気は、ドアを三つ隔てたこちら側までビンビンと伝わってきた。
「見ろよ、あっちの特設ステージ。『新商品・チョコレートパイ極み』のタワーが組まれてるぜ」 「ポテトチップスうすしお味の演説もすごかったわね。『我々こそが国民の主食!』だって」 「カントリーマアムさんも『外はサクッ、中もしっとり』の二刀流で無双してるらしいよ」
コンテスト会場の隅っこ、半開きになったダンボールの陰。 まばたきをするほどに影の薄いお菓子たちが、ひっそりとパイプ椅子を並べて座っていた。
「まあまあ、あちらさんは“主役に選ばれし者”ですからねぇ」
赤い箱の隙間からひょっこりと顔を出したのは、酸っぱい匂いを漂わせた酢昆布の「酢昆布さん」だ。真っ赤なパッケージの中で、いつも通りシワシワの体を折りたたんでいる。
「私たちみたいな、地味で、渋くて、ちょっと引っ込み思案なのが割り込める空気じゃありませんよ。ほら、そこの板ガムくんもそう思うでしょう?」
話を振られたのは、銀紙に包まれた長方形の「板ガムくん」だ。最近はボトル入りの粒ガムや強力タブレットに押され、すっかり棚の最下段が定位置になっている。
「……まあね。最近の子は『噛んだ後に包み紙に包んで捨てる』なんて手間すら嫌がるからさ。僕なんか、噛むことすら省略される時代に生きてるんだよ。でもさ、たまに遠足のしおりの端っこに名前を見つけると、ちょっとキュンとしちゃうんだよね」
「分かるわぁ」と相槌を打ったのは、チープなプラスチックの箱に入った「食玩のラムネちゃん」だ。 彼女のメインはあくまでパッケージに付属している「喋る恐竜のおもちゃ」や「変身スティック」であり、ラムネ自体は「清涼菓子」という免罪符のような扱いを受けがちだった。
「私なんて、子供たちに開けられた瞬間、おもちゃだけ奪われて机の端に置かれたりするのよ? でもね、そのあと勉強に疲れたお兄ちゃんが、ふと思い出したように私を口に放り込んで『あ、案外うまいじゃん』って呟くあの瞬間が、私のグランドフィナーレなの」
「味わい深いですなぁ……」と酢昆布さんがしみじみと頷く。「お酒のおつまみを切らしたお父さんが、台所の奥で見つけて『おっ、これがあったか』と渋い顔でしゃぶってくれる、あの『地味な敗者復活戦』こそが、我々の真骨頂ですよ」
3人は顔を見合わせ、ふっと微笑んだ。
華やかなステージの方からは、勝者のファンファーレと盛大な拍手が聞こえてくる。どうやら「サクサク食感と濃厚チョコの王道コンビ」がグランプリを勝ち取ったらしい。
「決まったみたいね」 「うん。めでたし、めでたしだね」
板ガムくんは銀紙の端を少しだけ直して、背もたれに深くもたれかかった。 酢昆布さんは特有のツンとした香りをほんのり漂わせ、ラムネちゃんは箱の中でカラカラと可愛らしい音を立てる。
彼らは覇権を争うつもりなどサラサラなかった。 ただ、世界中のどこかで、ふと寂しくなった誰かや、口寂しくなった誰かが、棚の隅から自分たちを見つけてくれるその一瞬を知っている。
主役にはなれなくても、誰かの記憶の片隅にちゃんと居場所がある。 だから今日も、コンテストの喧騒を遠くに聞きながら、彼らはのんびりと出番を待っているのだ。