バイト先の予測シフト

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/5 📝 2,334文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとバイトのシフトの話。

本文

 十二月のシフト表が出たのは、十一月最初の水曜日だった。

 バックヤードの壁のモニターに、スタッフ全員の名前と、ひと月分のマス目が並ぶ。去年からこの店では、シフト管理AIの「クミテ」が勤務を組んでいる。希望の入力と売上の予測から、誰が何時に入るかを自動で決めるのだ。

 自分の行を指でたどって、手が止まった。

 平日は、いつもより多いくらいに埋まっている。なのに、土曜日のマスだけが四つとも白かった。

 〔柘植つげ:休〕

「店長、これ、間違ってないですか」

 事務机でおにぎりの発注をしていた丹羽にわ店長が、眼鏡を押し上げて画面を見た。

「間違ってないんじゃないか。クミテが組んだんだから」 「俺、土曜は全部入れるって希望出してます」 「出してたな」

 店長はそれだけ言って、また発注の画面に戻った。

 柘植周吾しゅうご、高校二年。この店で働きはじめて、もうすぐ一年半になる。土曜日は朝から夕方まで入れる、いちばん稼げる日だった。それが、十二月は一日もない。

 七月まで、俺はバスケ部にいた。

 辞めたのは、夏休みの前だ。母さんの勤めていた工場が、春に閉まった。新しい仕事はすぐ見つかったけれど、給料は前より少ない。誰にも言われていないのに、俺は退部届を出して、土曜のシフトを増やした。自分の携帯代と、来年の修学旅行の積立くらいは、自分で払おうと思った。

 それから今日まで、休みの希望を一度も出していない。

 帰りに、レジ横の掲示板の前で足を止めた。地域のお知らせにまじって、一枚のポスターが貼ってある。

 〈市民バスケットボール大会 十二月・毎週土曜日開催〉

 九月の終わりに貼られてから、何度もここで足が止まった。

 一度だけ、そのポスターの前で陸斗りくとに会ったことがある。部活帰りのジャージ姿で、肉まんを二つ買いに来たのだ。レジ越しに目が合って、あいつは何か言いかけた。俺は「温めますか」とだけ聞いた。陸斗は「……いい」と言って、冷たいままの肉まんを持って出ていった。

 自動ドアが閉まる音が、やけに大きく聞こえた。

 次の日、俺は大学生の笹倉ささくらさんに頼んで、シフトを交換してもらうことにした。笹倉さんの十二月の土曜と、俺の平日の夜を入れ替える。笹倉さんは「卒論があるから、むしろ助かる」と笑ってくれた。

 ところが、スマホのアプリで申請すると、すぐに返事が来た。

 〔この交換は承認できません〕

 理由の欄は空っぽだった。二回目も、三回目も同じだった。

「おまえ、クミテに嫌われてんじゃないの」

 笹倉さんは冗談のつもりだったと思う。でも俺は笑えなかった。

 その夜、自分の部屋で、アプリの問い合わせ欄に打ちこんだ。

 〔土曜に働かせてください。理由を教えてください〕

 しばらくして、返事が届いた。

 〔柘植さんの勤務記録と、店内での行動記録から判断しました〕  〔詳しい理由は、店長に開示してあります〕

 行動記録。防犯と品出しのために、店の天井にはカメラがいくつも付いている。俺が何を見ていたかも、全部覚えているということだ。

 あのポスターの前で足を止めていたことも。

 顔が熱くなった。勝手に人の気持ちを決めるな、と思った。バスケがしたいなんて、一度も言っていない。言わないと決めたのだ。

 土曜の朝、俺はシフトがないのに店へ行った。

 バックヤードの扉を開けると、店長がもう来ていた。俺が口を開く前に、店長は事務机のモニターをこちらに向けた。

「先に見せとくよ。クミテが俺に出してきたやつ」

 画面には、短い報告が並んでいた。

 〔柘植周吾さん:七月十四日以降、休日の希望入力ゼロ〕  〔連続して休みのない週:十六週〕  〔休憩中に最も長く立ち止まる場所:レジ横の掲示板〕

 そして、いちばん下に一行。

 〔判断:休みの希望の出し方を、忘れているように見えます〕

 俺はしばらく、その一行から目を離せなかった。

「おまえさ」

 店長が、紙コップのコーヒーを机に置いた。湯気が、蛍光灯の光の中でゆっくり揺れた。

「バスケ、やりたいなら言えよ。うちは別に、おまえ一人いなくても回るんだから」 「……でも、土曜に入らないと、金が足りなくて」 「それも、クミテに聞いてみろ」

 俺はスマホを出して、十二月のシフトを開き直した。表のいちばん下に、今まで気づかなかった数字があった。

 〔十二月の総勤務時間:七十二時間(十一月と同じ)〕

 土曜の八時間ずつが、平日の夕方に少しずつ振り分けられていた。月曜も、水曜も、木曜も、いつもより一時間ずつ長い。数えると、ぴったり同じだった。

 クミテは、俺の休みを作るのに、俺の給料を一円も減らしていなかった。

「交換を止めたのも、そういうことだと思うぞ」

 店長は、また発注の画面に戻りながら言った。

「笹倉と替わったら、おまえ、平日の夜までぎゅうぎゅうになるだろ」

 店を出ると、十一月の風が首もとに入ってきた。

 スマホで、ずっと開けなかった名前を探した。バスケ部で同じポジションだった、岸部きしべ陸斗。夏から、一度も連絡していない。

 〔市民大会、まだメンバー募集してる?〕

 送ってから、指が少し震えているのに気づいた。返事は、三十秒で来た。

 〔おせーよ。五人ギリギリで、ずっと待ってた〕  〔十二月、全部の土曜な〕

 俺は自動ドアの前で、声を出さずに笑った。

 もう一度だけ店に戻って、スポーツドリンクを一本、レジに置いた。店長がバーコードを読み取ると、レジのモニターに小さな文字が出た。

 〔本日の柘植さん:お客様〕

「なんだそれ」

 店長が吹き出した。俺も、つられて笑った。

 帰り道、掲示板の前は通らなかった。もう、あのポスターを眺めている必要はなかった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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